報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「JR宇都宮線……は正式名称ではない」 2

2018-06-13 19:06:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日13:45.天候:晴 JR上野駅]

 稲生達を乗せた黒塗りタクシーがJR上野駅のタクシー乗り場に到着した。
 稲生が料金を払う役は、既にイリーナ組の中では鉄板となっている。

 稲生:「うーん……」

 最後にタクシーを降りた稲生は、駅本屋を見上げた。

 イリーナ:「どうしたの?」
 稲生:「先生。この駅舎の外観に、見覚えは無いですか?」
 イリーナ:「さあ……?」

 イリーナは首を傾げた。
 一般に、JR北海道の小樽駅の駅舎もこのJR上野駅の駅舎をモデルにしたとされているが……。
 他にも南満州鉄道時代から営業している中国鉄路総公司(旧称、中華人民共和国鉄道部。略称、CR。パチンコじゃないヨ)の大連駅も上野駅をモチーフにしたそうで、こちらは現存している。
 現存していない、更に3つ目の『上野駅』は……。

 稲生:「先生は樺太真岡駅を御存知ですか?」
 イリーナ:「さあ……知らないわ。何県にあるの、それ?
 マリア:(また始まった……。日本人とロシア人の北方領土争い

 マリアは溜め息をついた。
 そして、マリアは稲生の肩を持った。

 マリア:「師匠、勇太はサハリン州のホルムスク・ユージヌイ駅のことを言っているのです」
 イリーナ:「サハリンか。それなら行ったことがあるけど、あんまり覚えてないねぇ……」
 マリア:「……だってさ」
 稲生:「そうですか。つまらないことを聞いて、申し訳ありませんでした」
 イリーナ:「中国の大連駅なら行ったことあるよ。確かに外観だけは、この駅に似てるね」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「Huh!?」
 イリーナ:「あれ?そんなに驚くことかね?」
 稲生:「いや、驚きますよ」
 マリア:「東アジア魔道団の拠点国の1つでしょう?」
 イリーナ:「ああ、いや。最近の話じゃないよ。文化大革命の前の話」
 マリア:「何でそんな時期に、そんな所へ?」
 イリーナ:「ダンテ先生からお使い頼まれちゃったのよ。まあ、色々ね……」

 毛沢東とでも会ったのだろうか。
 尚、旧・真岡駅だったホルムスク・ユージヌイ駅だが、現在は日本統治時代と比べるとかなりうら寂れたローカル駅となり、上野駅を模した駅舎も長い間使われなくなり、1992年に解体されたという。
 但し、転んでもただでは起きないのが日本人というもので、解体工事直前、とある日本人旅行者が廃墟化した駅舎に潜入し、放置されていた日本当地時代の資料の数々を持ち出し、見事日本国内へ回収したというGJな話もある。
 その資料は現在、JR東海が保有しているという。

 稲生:「それじゃ、キップ買ってきます」

 稲生は多くの人々で賑わう中、ズラリと並んだ自動券売機に向かって行った。

 マリア:「時々勇太、師匠に対して日本の領土問題を持ち出す時があるから、ヒヤッとしますね」
 イリーナ:「まあ、気持ちは分かる」
 マリア:「やはり師匠達、ロシア人魔道師が何かした……」

 マリアの唇をイリーナの人差し指が制止した。

 イリーナ:「それ以上は無言よ、マリア」
 マリア:「チッ……。(イングランドの『魔法使い』ではなく、ロシアの『魔道師』が蔓延るようになったのは師匠達のせいか……!)」
 イリーナ:「ここは、いい所ね。“魔の者”も、入り込めやしない……。その眷属にだけ注意していればいいんですもの……」

 しばらくして稲生が戻って来た。

 稲生:「お待たせしました。大宮までの乗車券とグリーン券です」
 イリーナ:「スゥパスィーバ。それじゃ、案内よろしくね」
 稲生:「はい、こっちです」

 稲生は自動券売機と同じく、自動改札機がズラッと並ぶ中央改札口へ向かった。
 そして改札口を通ると、そのまま真っ直ぐ低いホームへ進む。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。15番線に停車中の列車は、14時8分発、普通、小金井行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 グリーン券を片手に、4号車と5号車のグリーン車へ向かうが……。

 マリア:「ん?」

 ホームにあるNEWDAYSの前を通った時、マリアのローブのポケットからミク人形とハク人形が顔を覗かせた。

 マリア:「え?……ああ、そうか」
 稲生:「ん?何ですか?」
 マリア:「このコ達、アイス食べたいって」
 稲生:「そうですか。それじゃ、買ってきましょう。普通列車のグリーン車じゃ、アイスまでは売ってませんから」
 マリア:「そうか」

 まだ発車まで時間がある。
 稲生とマリアは、人形達の為にカップアイスを購入した。
 そして、5号車の2階席へと上がった。

 イリーナ:「じゃ、アタシゃ寝るから、着いたら起こしてね」

 とのテンプレートな台詞を言うと、イリーナはローブのフードを被り、座席のリクライニングを倒した。

 ハク人形:「おいしーね」
 ミク人形:「おいしーね」
 マリア:「そりゃ良かった」

 マリアは座席のテーブルを出して、そこに人形を置いた。
 人形達は器用にカップアイスをパクパク食べる。

 稲生:「“アルカディア・タイムス”が置いてあることは無いですね」
 マリア:「そう言えばそうだね。ま、私達に関係のある記事が出た時だけしか置かれないだろう」
 稲生:「なるほど」

 屋敷では定期購読をしているが如く、配達されるのだが。

[同日14:08.天候:晴 JR宇都宮線543M電車5号車内]

 発車時刻が迫り、ホームに発車ベルが響き渡る。

〔15番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 2点チャイムを3回鳴らして開閉するのは、グリーン車も同じ。
 低いホームをゆっくりとした速度で発車した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は宇都宮線、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車はグリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 低いホームから高い線路へ移動する際、グリーン車の2階席が少し大きく揺れる。
 これは2階席の方が重心が高い為だ。
 もっとも、車端部の平屋席は台車の外側にあるので、もっと揺れる。

 ミク人形:「おっとっと!」
 ハク人形:「おっとっと!」

 車体が左右に揺れる度に、カップアイスが右に動いたり、左に動いたりとせわしない。
 人形達はそのカップを追って、右に動いたり、左に動いたり……。

 稲生:「日暮里辺りに来ると線形も良くなるから、それまでの辛抱だよ」

 実際、電車は鶯谷駅の大カーブを越えると、一気に加速を始める。

 稲生:「あ、すいません。この人のです」

 グリーンアテンダントが回ってきたので、稲生はすかさずイリーナの分のグリーン券を渡した。

 アテンダント:「かしこまりました」

 それと稲生とマリアのグリーン券も渡す。
 アテンダントは改札印を押すと、まとめて稲生に返した。

 稲生:「後でデザートでも買いますか?」
 マリア:「いいの?」
 稲生:「ええ。アイスはさすがにムリですが、人形達が美味しそうに食べているのを見て、僕も甘い物が食べたくなりましたよ」
 マリア:「そ、そう?じゃあ、私も……」
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“大魔道師の弟子” 「威吹との別れ」

2018-06-13 15:26:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日13:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生達を乗せたタクシーがワンスターホテルの前に到着する。

 稲生:「すいません、カードで払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 稲生が料金を払っている間、威吹達は先に降りた。
 そして、トランクの中に入れていた荷物を取り出した。

 運転手:「はい、ありがとうございましたー」
 稲生:「どうもー」

 荷物と言っても、威吹の土産物くらいしか無いが。

 オーナー:「いらっしゃ……あ、これはこれは!」

 ホテルの中に入ると、オーナーがフロントにいた。

 イリーナ:「こんにちは。ちょっと地下の魔法陣を使わせてもらえる?」
 オーナー:「あ、はい。どうぞどうぞ」

 オーナーはエレベーターのスイッチ鍵を持って来ると、これで地下階への不停止機能を解除した。

 稲生:「エレーナは寝てるんですか?」
 オーナー:「いいえ。先ほど鈴木さんが来られて、一緒にホウキで空を飛んでますよ」
 稲生:「マジですか!?」
 マリア:(ははーん、後でカネ取る気だな……。あの守銭奴め)
 イリーナ:「鈴木君の目からアタシ達を逸らす為に、彼を連れ出してくれたのかもしれないわね」
 稲生:「あ、なるほど」

 稲生はポンと手を叩いた。
 だがそれでも、マリアは半信半疑だった。

 マリア:「そうですかね……」
 威吹:「いいのか?鈴木殿とやらは、普通の人間なのだろう?」
 稲生:「エレーナ的にはOKみたい。不思議な魔法を披露することで、鈴木君から見物料というか、体験料をせしめようって魂胆だよ。鈴木君の実家、凄い金持ちだから」
 威吹:「ユタの家よりも金持ちなのか?」
 稲生:「全然全然!だって鈴木君のお父さん、国会議員だもん」
 イリーナ:「ほお。それは知らなかったわねぇ……」

 イリーナの目が一瞬光ったような気がした。

 マリア:「それより、早く行きましょう。エレーナ達が戻って来る前に」
 イリーナ:「それもそうね」

 稲生達はエレベーターで地下階に下りた。
 表向きは機械室や倉庫のあるフロアということになっていて、実際は確かに大部分がそうなっているのだが、ボイラー技士室があった部屋を改造して、そこをエレーナが自室として住んでいる。
 もちろん今では専属のボイラー技士は存在しない為、単なる倉庫の代わりにされていたのだが、そこを改装してエレーナが住むようになった。
 その部屋の前を通り過ぎて、1番奥にその魔法陣はあった。

 イリーナ:「これだわ。よし、それじゃ威吹君は魔法陣の中に入って」
 威吹:「うむ。なるべく時差が無いように頼む」
 イリーナ:「分かってるわ」
 稲生:「威吹、ありがとうね。助かったよ」
 威吹:「いやいや、ユタとは長い付き合いだから。もしこれからも困ったことがあったら、何でも相談するといい。ボクにできることだったら、何でも手伝うよ」
 稲生:「ありがとう」
 イリーナ:「ハペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。・・・・・・・・・・・・・・・」

 イリーナが魔法の詠唱を行い、稲生には判別不能な言葉を喋る。
 恐らく、ラテン語なのであろうが。
 魔法陣が光り出し、威吹の体が包まれる。

 イリーナ:「・・・・・!ルゥ・ラ!」

 最後の呪文を唱えると、威吹が完全に白い光に包まれ、そして消えた。

 稲生:「先生、これで威吹は魔界に帰ったんですね?」
 イリーナ:「ええ、そうよ」

 イリーナは大きく頷いた。

 イリーナ:「時間の調整が大変だったけどね」
 稲生:「えっ、そうなんですか?」
 マリア:「あー、あの時計がそうだったんですか」
 稲生:「えっ?」

 稲生には見えなかったが、マリアには見えていた。
 魔法陣の周りを何個か歪んだ形の大きな懐中時計が、グルグルと回っていたのだそうだ。
 稲生には魔法陣から浮かび上がった白い光にしか見えなかったが、マリアには光る大きな時計に見えたらしい。

 イリーナ:「これがクロックワーカーの力の1つよ」
 マリア:「異世界と行き来する際、時間軸をズラさないようにする力ですか……」

 マリアは溜め息をついた。
 それは『自分には難しくて、とてもマスターできるのかどうか不安でしょうがない』というものであったが、稲生はそんな溜め息すら出ないほどであった。

 1階に戻ろうとエレベーターのボタンを押すと、エレベーターが5階から下りて来る所だった。
 それが1階で止まり、しばらくしてから地下階に下りて来た。
 そのエレベーターには誰も乗っていない。
 つまり、誰かが5階から乗って1階で降りたのだ。
 それが誰なのかというと……。

(BGM:https://www.youtube.com/watch?v=ad9vpaf2bVk「恋色マスタースパーク」→https://www.youtube.com/watch?v=tljasHkSDUc「メイガスナイト」)

 稲生:「ああ、やっぱりエレーナと鈴木君だったか」

 1階に戻って来た稲生達。
 エレベーターを降りた先にある小さなロビー。
 そこにエレーナと鈴木がいた。

 鈴木:「稲生先輩達!?どうしてここに?」
 イリーナ:「エレーナに会いに来たんだよ。エレーナ、このホテルに住み込みで働いてるでしょ?直接部屋に行ってみたんだけど、いなかったからね、戻って来た」
 鈴木:「エレーナの部屋に行って来たんですか!?俺も行きたい!」
 エレーナ:「ダメ!」
 鈴木:「どんな部屋でしたか!?」
 イリーナ:「いや、部屋の中までは見てないよ。マリアなら入ったことあるでしょ?」
 マリア:「ええ」
 鈴木:「どんな部屋!?」
 マリア:「あー……」

 マリアはチラッとエレーナを見た。
 エレーナはギロッとマリアを睨みつけている。

 エレーナ:(言ったらコロス!)
 マリア:「……本人から直接聞いたら?」
 鈴木:「そんなぁ!」
 稲生:「大丈夫。鈴木君なら、きっとエレーナを堕とすことができるから、その時に部屋に入れてもらいなよ」
 マリア:「良かったな、エレーナ?やっと処女を捨てることができるぞ?」

 マリア、嗜虐的な笑みを浮かべてポンとエレーナの肩を叩いた。

 エレーナ:「オマエらなぁ…!!」
 オーナー:「あの、お迎えのタクシーが到着してるんですけど……?」
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