報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「御講に参加しよう」

2018-06-08 19:07:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日07:50.天候:晴 JR大宮駅]

 稲生達は大宮駅までやってきた。
 イリーナも一緒だということで、父親の宗一郎がタクシーを手配したからである。

 イリーナ:「アタシの魔法なら、ルゥ・ラで一気にお寺まで行けるのにねぇ……」
 マリア:「大騒ぎになるから、やめてください。鈴木の例もありますから」
 稲生:「確かに……」

 西口に着けてもらうと、そこからエスカレーターで2階に上がる。

 威吹:「本当に付いて来る気か?」
 イリーナ:「もちろん、都内の他の場所に行くだけだよ。終わったら連絡して。そこで待ってるから」
 稲生:「分かりました」

 稲生の御講が終わったら、そのままワンスターホテルに行くことになっており、威吹はそこから魔界に帰ることになる。
 威吹の両手には、土産物が一杯詰まった荷物があった。
 これがトランクだったりすると、江戸時代というよりは明治か大正時代といった感じなのだが、風呂敷包みな辺りがやはり江戸時代の妖怪であることを物語っている。

 稲生:「池袋駅のコインロッカーにでも入れておこう。どうせ帰り際、また池袋駅に寄るからね」
 威吹:「その手があるか」

 威吹は大きく頷いた。

[同日07:59.天候:晴 JR埼京線742K電車10号車内]

 埼京線を走るJR車両、E233系のクハ車には4人席がある。
 これは衝突事故の際、運転士を保護する為に運転室を広く取った結果、客室が狭くなったものである。

〔「お待たせ致しました。7時59分発、埼京線、各駅停車、新宿行き、まもなく発車致します」〕

 女性車掌の放送が車内に響いた。
 JR東日本が運転士保護の為、運転室を広く取る設計をする頃、まだ女性乗務員は少なかった。
 地下のホームに、発車メロディが鳴り響く。
 地上の在来線ホームが発車メロディになっても、地下の埼京線ホームはしばらくの間、発車ベルだったということを覚えている者はどのくらいいるのだろうか。

 稲生:「威吹にとっては、しばらく人間界の風景が見られなくなるから、目に焼き付いておいた方がいいかもね」
 威吹:「それもそうだな。もっとも、今はまだ地下だが」

 電車が走り出す。
 なぁに、どうせ地上にはすぐに出る。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 放送が車内に響いている間、電車は一気に坂を駆け登って地上に出た。
 もっとも、ロングシートの通勤電車では、なかなか外を見るのは難しいか。
 特に東日本の電車においては、ガラス代の節約の為か、戸袋窓を廃止してしまうケースが多々見られる(東武鉄道のように、最初から設ける気ゼロの鉄道会社もある。昭和30年代から運転されている8000系が好例)。

 稲生:「そういえば、先生」
 イリーナ:「なぁに?」
 稲生:「あのカルト教団のことですけど、僕が大原班長と一緒に彼らを追った時、彼らは晴海まで逃げました。あの辺に、本部があるのかもしれません」
 イリーナ:「ええ。もう調査済みよ」
 稲生:「おっ、さすがですねぇ……。もしかして、潰しに掛かるとか?」
 イリーナ:「いや。向こうから売って来たケンカは買うけど、アタシはこっちからケンカを売るつもりはないよ。ただ、ヤツらの状況は把握しておく必要があるけどね」
 稲生:「さすがです」

 この時、威吹はピンと来るものがあった。

 威吹:(おおかた、コイツらが手を下さなくても、他の血気盛んな魔女達が手を下すことを期待している……ということか)

 稲生:「そうだ。今のうちに、ツイートしておこう」

 稲生はスマホを取り出した。

 稲生:「『埼京線なう』と」
 マリア:「それは何か意味あるの?」
 稲生:「他の法華講員達に、僕がちゃんと向かっていることをアピールする為です。……って、それだけなんで、あんまり意味無いですか」
 イリーナ:「アタシが修行していた頃は魔法だったものが、今は魔法じゃなくなってるねぇ……」
 稲生:「えっ、何です?」
 イリーナ:「大したことじゃないよ。……ま、寝るから着いたら起こしてね」
 稲生:「僕達、途中で降りますけど?」

[同日08:45.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗・正証寺]

 稲生:「やっぱり僕達が降りる時、先生はすっかり寝てたね」
 威吹:「相変わらず、ぶっ飛んだ魔女だ」

 電車は新宿止まりで、稲生達が降りた池袋の次だから、イリーナとマリアは新宿で降りるのだろう。
 作者でさえバスタ新宿に行く以外はほぼ高い確率で迷子になる新宿駅をあの2人が歩いて大丈夫なのかと、稲生は少し心配になった。

 稲生:(まあ、タカシマヤタイムズスクウェア辺りなら簡単に行けるか……。って、この時間、まだ開いてない!)
 藤谷:「はーい!御講に参加の方はこちらー!」

 三門に行くと、藤谷が率先して案内役の任務に就いていた。

 稲生:「藤谷班長、おはようございます」
 藤谷:「おおっ、稲生君!おはよう!威吹君もおはよう!」
 威吹:「おはようでござる」
 藤谷:「ささ、稲生君、この参加票を書いてね」
 稲生:「はい」

 作者が脱会した頃の顕正会では、日曜勤行参加時、特に何か参加票を書くということはなかった。
 今はどうしているのだろうか。

 藤谷:「威吹君はこっちの入信願書を書いてね」
 威吹:「おい、さりげなく勧誘すんな」

 尚、日蓮正宗では、受誡できるのは人間のみであり、妖狐や鬼族などの妖怪は仏敵である為、受誡は認められない。
 その仏敵たる妖狐が、今や信徒の護衛をやっている皮肉。

 藤谷:「ちっ!」
 稲生:「班長、誓願達成率が下がっているのが読者の皆さんにバレるからやめてください」
 藤谷:「また“フェイク”と創価新報に書かれちまう……」
 稲生:「うちは絶対に書かれないから大丈夫です」
 威吹:「じゃ、ユタ。ボクは外で待ってるから」
 稲生:「ああ、悪いね」

 威吹は稲生が本堂に入って行くのを見届けると、自分は三門の外に出た。

 威吹:「うむ。今日はさしもの切支丹共も、静かに祈りを捧げているようだな」

 三門前の路地は、参詣にやってくる信徒達の姿しか今のところ無かった。
コメント (1)
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“魔女エレーナの日常” 「5月12日→5月13日」

2018-06-08 10:11:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日21:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル1F]

 エレーナ:「はぁ……」

 誰もいないロビー。
 フロントのデスクに突っ伏すような形で、エレーナは溜め息を吐いていた。
 このくらいの時間でもチェック・インの宿泊客とか来るだろうに、エレーナは何をやっているのだろうか。
 と、そこへエントランスの自動ドアが開いた。

 宿泊客:「ふぅーっ、やっと着いた!急に降って来るなんて……!」

 1人のスーツを着た出張のビジネスマンと思しき男性客。
 しかし、エレーナは顔を上げようともしない。
 代わりに接客を行うのは……。

 マモン:「いらっしゃいませ。お足元が悪い中、ご利用ありがとうございます」

 エレーナの契約悪魔、キリスト教における7つの大罪の悪魔の一柱、強欲の悪魔マモンであった。
 青色のブレザーに身を包み、その立ち居振る舞いは、まるで高級ホテルのフロントマンのようである。

 マモン:「どうぞ。このタオルをお使いください」
 宿泊客:「おおっ!サービスいいね!……ったく!今日は絶対降らないって言ってたのに……!」
 マモン:「今夜は大気の状態が不安定のようでございますね。それでは小野瀬様、本日より2泊のご利用ということで、こちらのシートに御記入願います」

 マモンは仕事しようとしないエレーナを横目に、それを代行する。

 宿泊客:「はい、これでいい?」
 マモン:「ありがとうございます。それでは宿泊料金は前払い精算でお願いしておりまして、シングルAを2泊のご利用で……」
 宿泊客:「帰り際に領収証出してください」
 マモン:「かしこまりました。それでは、こちらがルームキーでございます。お部屋は4階の401号室になります。ごゆっくりどうぞ」

 マモンが接客を終えると、奥からオーナーが出て来た。

 オーナー:「エレーナ、いい加減にしてくれ。一体、何があったんだ?夕食から戻って来てから、何だか変だぞ?」
 マモン:「501号室の鈴木様に、愛の告白をされたようですよ」
 オーナー:「何だ、そんなことか……」
 エレーナ:「そんなことって……」

 ようやくエレーナが顔を上げた。

 マモン:「私がアスモデウス(色欲の悪魔)でしたら、すぐにその仲を取り持ってあげる所ですが、そうではありません。如何に悪魔でも、越権行為はタブーとされていますので、私にはこれ以上は……」
 エレーナ:「余計なことはしなくていいからっ!」
 オーナー:「悪い人じゃなさそうだけどね、キミは嫌いかい?」
 エレーナ:「好きとか嫌いとか、そういうんじゃないんですよぉ……」
 クロ:「あの男がエレーナのことが好きだということは、もう前々から分かっていたことだニャー」
 マモン:「何でしたら、私からアスモデウスに頼んでみてあげましょうか?あいつはまだ正式な契約者がいないので、ヒマを持て余しているはずです。……ので、2つ返事でOKしてくれるかと」
 オーナー:「告白されて、エレーナは何と答えた?」
 エレーナ:「『急に言われても困る』とだけ言っておきました……」
 マモン:「別に、急ってわけでもないですよね」
 オーナー:「まあ、恋人になってくれというのは、ちょっと拙速かもしれないね。最近の結婚相談所では、『真剣交際』の前に『普通交際』というのがあってだね……」
 エレーナ:「何ですか、それ?」
 オーナー:「つまり、『まずはお友達から始めましょう』という意味だ」
 エレーナ:「あー……」
 マモン:「でも、それって遠回しのお断わり……」
 オーナー:「シッ!」
 エレーナ:「そうか。『まずはお友達』かぁ……」
 オーナー:「その方が、そんなに気が重くないだろう?」
 エレーナ:「確かに……」
 マモン:「でも、関係がこじれたらどうしますか?その最悪パターンがストーカー殺人事件ですね。昔、よくレヴィアタン(嫉妬の悪魔)がやってましたよ。今でも常套手段じゃないかな。あいつが人間の血と魂を欲した時……」
 エレーナ:「アンナに頼んで呪殺してもらう……」
 オーナー:「おい!」
 クロ:「おい!」
 マモン:「さすがは、私の契約者だ。やっぱり、魔女はかくあるべきですね」

 オーナーとクロが激しく突っ込み、マモンだけがうんうんと頷いていた。

 オーナー:(これじゃ、キリスト教の“魔女狩り”が無くなるわけがない)

[5月13日07:50.天候:晴 同ホテル1Fフロント]

 鈴木:「お世話になりました」

 鈴木はフロントにやってくると、ルームキーを差し出した。

 エレーナ:「はい、ありがとうございます」
 鈴木:「あのレストラン、モーニングはやっぱり普通だったね」
 エレーナ:「あくまでも、魔法料理はディナータイムとパブタイムだけだから」

 モーニングタイムは鈴木の言う通り、他のホテルのレストランでもやっているバイキング。
 ランチタイムはロシア料理店と化す。
 もちろん、ディナータイムの時も表向きはロシア料理店となっているのだが……。

 鈴木:「昨日の返事なんだけど……」
 エレーナ:「あ、あれは、あの……」
 鈴木:「また泊まりに来てもいいかな?」
 エレーナ:「は、はい!お待ちしてます!」

 鈴木はチェックアウトすると、森下駅に向かった。

 鈴木:(マリアさんよりもウブだな。稲生先輩の言う通り、『自称、年下』というのは本当かな。白人は早熟で、例え日本人と歳が同じでも、どうしても年上に見えてしまうって言うからな……)

[同日08:02.天候:晴 都営地下鉄森下駅・新宿線ホーム]

〔まもなく1番ホームに、各駅停車、橋本行きが10両編成で到着します。白線の内側で、お待ちください。この電車は、新宿から京王線内快速となりますので、停車駅にご注意ください〕

 鈴木はスマホを取り出すと、それでツイッターを見てみた。

 鈴木:(やっぱりな……)

 稲生のツイッター、『埼京線なう』と書いてある。

 鈴木:(埼玉からだと大変だな)

 電車が轟音を立てて、進入してくる。
 日曜日なので平日のこの時間帯と比べれば、随分と余裕のある電車内だった。

〔1番線の電車は、各駅停車、橋本行きです。森下、森下。大江戸線は、お乗り換えです〕

 鈴木は電車に乗り込んだ。
 鉄ヲタの稲生はどうしても先頭車または最後尾狙いだが、そういう趣味の無い鈴木は中間車である。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 都営地下鉄が所有する車両のドアチャイムはJRのそれとよく似た音なのだが、鈴木は気にしない。
 電車は中間車ならよく聞こえるインバータの音をトンネル内に響かせて発車した。

〔この電車は、各駅停車、橋本行きです。次は浜町、浜町。お出口は、右側です〕
〔This is a local train bound for Hashiomto.The next station is Hamacho.〕
〔「本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は京王線直通、快速の大沢……失礼しました。橋本行きでございます。新宿から先の京王線内は快速となりますので、京王線ご利用のお客様は停車駅にご注意ください。次は浜町、浜町。お出口は、右側です」〕

 鈴木はレストランで撮影した自分とエレーナのツーショット写真と、エレーナ本人の写真をスマホに保存していた。

 鈴木:(こういうコと知り合えるなんて……ほんと、顕正会から移って来て良かったなぁ!)

 鈴木のニヤけた顔が、電車の進行方向左側のドアの窓に、いつまでも映っていた。
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