[7月8日23:00.天候:晴 東京都渋谷区 バスタ新宿]
未だ復旧の目を見ない埼京線を尻目に、稲生達はそれでごった返すホームに降り立った。
埼京線も湘南新宿ラインも、本来は貨物線だった所を走っている。
山手貨物線と言い、そこに設けられたホームには立ち往生している埼京線の電車がいた。
もちろん、冥鉄の電車が紛れ込んでいるということはない。
混乱するホームからコンコースに上がると、途中でトイレ休憩。
バスタ新宿のトイレは増設はされたものの、未だに女子トイレが混雑するという話を聞いたからだ。
それならまだ駅のトイレの方がマシというもの。
稲生:「やっぱり夜行便に乗る人達でいっぱいですね」
稲生の言の通り、バスタ新宿内は夜行便を待つ利用者達でごった返していた。
イリーナ:「人間嫌いの種族なら、一思いに薙ぎ払いたくなる光景だねぇ……」
稲生:「しないでくださいよ」
イリーナ:「うんうん、大丈夫」
稲生は発車案内板を見た。
これとて、ゆっくり見れるほどの空間があるわけではない。
稲生:「C7番乗り場ですね」
基本、アルファベット毎に方面が決まっているという。
信州方面はCであるらしい。
但し、2号車以降はあぶれることもある為、旧来の26番乗り場(新宿西口)から出ることもある。
向かう途中、自動販売機でペットボトルの飲み物を買う。
稲生:「定番ですね」
マリア:「そうだな」
水とお茶。
最近はようやくコンビニもオープンした。
Cエリアの方は長蛇の列ができていた。
稲生達が乗るのは全席指定であり、そこの発車票を見ると、『空席×』の表示が出ていた。
つまり、満席ということである。
稲生:「埼京線、やっと運転再開見込みが出てきましたね。もう日付が変わってからですよ。ヒドいもんだ」
マリア:「よほどの事故だったのかな。あまり見たくないけど」
稲生:「そうですねぇ……」
因みにバスタ新宿内にはWi-Fiが飛んでいる。
稲生もそれに接続して、タダ回線でネットをやっているわけだが。
稲生:「あれ?別のWi-Fi飛んできた?」
係員:「23時5分発、白馬行きの到着です!乗車券を準備してお待ちください!」
稲生:「おっ、来た来た」
入線してきたバスを見て、稲生は別のWi-Fiが飛んできた理由を知った。
これから乗るバスに、それが仕掛けられていたのだ。
(オリジナルWi-Fiを搭載したアルピコ交通バス。写真は“バスターミナルなブログ”様より拝借。先方より掲載許可を受けています)
ドアが開いて、乗客名簿を持った運転手が降りて来た。
夜行便であるが、ワンマン運転であるらしい。
そんなに長い距離を走るわけでもなく、それだけ途中休憩を長めに取っているからなのか。
係員:「お荷物、お預かりしましょうか?」
稲生:「お願いします」
稲生が係員にキャリーバッグを渡そうとすると、箱乗りしていたミク人形とハク人形が飛び降り、マリアの肩に飛び移った。
係員:「ん?」
稲生:「あ、いや、ちょっとしたオモチャでして……」
係員:「あ、そうですか」
運転手:「乗車券を拝見します」
イリーナ:「ダー!」
イリーナはピッと運転手の帽子を指さした。
運転手:「えっ?」
イリーナ:「帽子にズッポシ!」
運転手が帽子を取ると、その中にイリーナの乗車券が入っていた。
運転手:「ええっ!?」
マリア:「師匠、遊ばないでくださいよ。後ろ、つっかえてるんだから……」
マリアは呆れて師匠のお茶目ぶりをたしなめた。
運転手:「稲生様、9のBです」
稲生:「はい」
稲生達はバスに乗り込んだ。
指定された後ろの席に向かう。
稲生:「どうですか、先生?寝れそうですか?」
イリーナ:「バッチリ!」
稲生:「先生が爆睡できるのなら安心ですね」
マリア:「といって、埼京線の事故を予知できなかったじゃないか」
イリーナ:「事故っても、復旧まで寝れるという意味だったんだね」
マリア:「何ですか、それ……」
バスは夜行便であっても4列シートだ。
それでも補助席が廃止されてる分、横幅とシートピッチは少し拡大されているのだが。
JRバス関東の“楽座シート”に相当するグレードだろう。
で、座席の上に何か置いてあった。
毛布とかではない。
稲生:「アルカディアタイムス日本語版だ」
マリア:「私のは英語版だな」
もちろん、これを置いたのはこのバス会社の者ではないだろう。
勝手に配達される所は、某顕正新聞と同じだ。
新聞を取って座席に座ると、稲生は新聞を広げてみた。
『冥界鉄道公社総裁、辞任へ!』『労使関係悪化の責任を取り』『「全て私の不徳の致すところ。……でも退職金はがっぽり受け取れて功徳〜〜〜〜〜!!」』
稲生:「ふわぁ……」
稲生が新聞を読んでいる間に、バスはいつの間にか出発した。
イリーナの隣の席にはまだ誰も座っていないところを見ると、途中のバス停から乗って来るのか、或いは……埼京線の事故で乗り遅れた者の所か。
稲生:「何だかこの総裁、沖【修羅河童】さんに似てる」
『会見の席でのらりくらりと質問を交わす総裁と、質問を続けるアルカディアタイムスのマイケル記者』
マリア:「ま、ダメ総裁ってことだったんだろう」
稲生:「後任は誰になるんでしょうね?」
マリア:「書いてないな」
『後任人事については未定であり、決定するまでは暫定的に副総裁が代行する見込み』
ペラッと新聞を捲ると、大師匠ダンテのコメントが載っていた。
『無制御列車問題については門内の愛弟子も巻き込まれたものであり、厳重に抗議したところである。後任総裁にあっては、しっかりとした鉄道経営を行ってもらいたいものである』
稲生:「巻き込まれた弟子って、僕のこと?」
マリア:「他にいないだろ?」
稲生:「それもそうですね」
稲生とマリアは笑った。
因みにイリーナはロシア語版の新聞を顔の上に乗せて、アイマスク代わりにしていたという。
[同日同時刻 冥界鉄道公社・本社会議室]
副総裁:「今回の件、上手く行ったな。よくやったぞ、山根君?」
山根:「いえ、チョイ役でしたから。それにしても、別世界の人間をも巻き込んだあの劇、よく考え付きましたね」
副総裁:「はははは!元々そのアイディアを言い出したのはキミじゃないか。子供の考えるアイディアも、素直に採用してみるものだ」
山根:「ただの独り言だったのに……」
副総裁:「いや、いい!ほんと、素晴らしいぞ!」
山根幸太郎は、何故か見た目は小学校高学年でありながら、冥界鉄道公社乗員の制服を着ていた。
山根:「あの電車の車掌は僕でした。でも、あれに乗った人達は、こんな子供がまさかとは思ったでしょう」
副総裁:「キミはうちに就職してから、もう50年も経つ大ベテランじゃないか。50年前、鉄道員への夢を持ったまま事故で死んだ少年を採用してみたら、こんなに立派になった。素晴らしいことだよ」
山根:「次の総裁さんは、ちゃんとした人だといいですね?」
副総裁:「あんな修羅河童に権力持たせちゃイカンよ。退職金だけは払ってやって、厄介払いした後は改革に乗り出すぞ。まずは修羅河童が余計なことをしやがった点を修復する所からだ」
山根:「はい!」
山根は制帽を被ると、ピッと副総裁に敬礼して退室した。
未だ復旧の目を見ない埼京線を尻目に、稲生達はそれでごった返すホームに降り立った。
埼京線も湘南新宿ラインも、本来は貨物線だった所を走っている。
山手貨物線と言い、そこに設けられたホームには立ち往生している埼京線の電車がいた。
もちろん、冥鉄の電車が紛れ込んでいるということはない。
混乱するホームからコンコースに上がると、途中でトイレ休憩。
バスタ新宿のトイレは増設はされたものの、未だに女子トイレが混雑するという話を聞いたからだ。
それならまだ駅のトイレの方がマシというもの。
稲生:「やっぱり夜行便に乗る人達でいっぱいですね」
稲生の言の通り、バスタ新宿内は夜行便を待つ利用者達でごった返していた。
イリーナ:「人間嫌いの種族なら、一思いに薙ぎ払いたくなる光景だねぇ……」
稲生:「しないでくださいよ」
イリーナ:「うんうん、大丈夫」
稲生は発車案内板を見た。
これとて、ゆっくり見れるほどの空間があるわけではない。
稲生:「C7番乗り場ですね」
基本、アルファベット毎に方面が決まっているという。
信州方面はCであるらしい。
但し、2号車以降はあぶれることもある為、旧来の26番乗り場(新宿西口)から出ることもある。
向かう途中、自動販売機でペットボトルの飲み物を買う。
稲生:「定番ですね」
マリア:「そうだな」
水とお茶。
最近はようやくコンビニもオープンした。
Cエリアの方は長蛇の列ができていた。
稲生達が乗るのは全席指定であり、そこの発車票を見ると、『空席×』の表示が出ていた。
つまり、満席ということである。
稲生:「埼京線、やっと運転再開見込みが出てきましたね。もう日付が変わってからですよ。ヒドいもんだ」
マリア:「よほどの事故だったのかな。あまり見たくないけど」
稲生:「そうですねぇ……」
因みにバスタ新宿内にはWi-Fiが飛んでいる。
稲生もそれに接続して、タダ回線でネットをやっているわけだが。
稲生:「あれ?別のWi-Fi飛んできた?」
係員:「23時5分発、白馬行きの到着です!乗車券を準備してお待ちください!」
稲生:「おっ、来た来た」
入線してきたバスを見て、稲生は別のWi-Fiが飛んできた理由を知った。
これから乗るバスに、それが仕掛けられていたのだ。
(オリジナルWi-Fiを搭載したアルピコ交通バス。写真は“バスターミナルなブログ”様より拝借。先方より掲載許可を受けています)
ドアが開いて、乗客名簿を持った運転手が降りて来た。
夜行便であるが、ワンマン運転であるらしい。
そんなに長い距離を走るわけでもなく、それだけ途中休憩を長めに取っているからなのか。
係員:「お荷物、お預かりしましょうか?」
稲生:「お願いします」
稲生が係員にキャリーバッグを渡そうとすると、箱乗りしていたミク人形とハク人形が飛び降り、マリアの肩に飛び移った。
係員:「ん?」
稲生:「あ、いや、ちょっとしたオモチャでして……」
係員:「あ、そうですか」
運転手:「乗車券を拝見します」
イリーナ:「ダー!」
イリーナはピッと運転手の帽子を指さした。
運転手:「えっ?」
イリーナ:「帽子にズッポシ!」
運転手が帽子を取ると、その中にイリーナの乗車券が入っていた。
運転手:「ええっ!?」
マリア:「師匠、遊ばないでくださいよ。後ろ、つっかえてるんだから……」
マリアは呆れて師匠のお茶目ぶりをたしなめた。
運転手:「稲生様、9のBです」
稲生:「はい」
稲生達はバスに乗り込んだ。
指定された後ろの席に向かう。
稲生:「どうですか、先生?寝れそうですか?」
イリーナ:「バッチリ!」
稲生:「先生が爆睡できるのなら安心ですね」
マリア:「といって、埼京線の事故を予知できなかったじゃないか」
イリーナ:「事故っても、復旧まで寝れるという意味だったんだね」
マリア:「何ですか、それ……」
バスは夜行便であっても4列シートだ。
それでも補助席が廃止されてる分、横幅とシートピッチは少し拡大されているのだが。
JRバス関東の“楽座シート”に相当するグレードだろう。
で、座席の上に何か置いてあった。
毛布とかではない。
稲生:「アルカディアタイムス日本語版だ」
マリア:「私のは英語版だな」
もちろん、これを置いたのはこのバス会社の者ではないだろう。
勝手に配達される所は、某顕正新聞と同じだ。
新聞を取って座席に座ると、稲生は新聞を広げてみた。
『冥界鉄道公社総裁、辞任へ!』『労使関係悪化の責任を取り』『「全て私の不徳の致すところ。……でも退職金はがっぽり受け取れて功徳〜〜〜〜〜!!」』
稲生:「ふわぁ……」
稲生が新聞を読んでいる間に、バスはいつの間にか出発した。
イリーナの隣の席にはまだ誰も座っていないところを見ると、途中のバス停から乗って来るのか、或いは……埼京線の事故で乗り遅れた者の所か。
稲生:「何だかこの総裁、沖【修羅河童】さんに似てる」
『会見の席でのらりくらりと質問を交わす総裁と、質問を続けるアルカディアタイムスのマイケル記者』
マリア:「ま、ダメ総裁ってことだったんだろう」
稲生:「後任は誰になるんでしょうね?」
マリア:「書いてないな」
『後任人事については未定であり、決定するまでは暫定的に副総裁が代行する見込み』
ペラッと新聞を捲ると、大師匠ダンテのコメントが載っていた。
『無制御列車問題については門内の愛弟子も巻き込まれたものであり、厳重に抗議したところである。後任総裁にあっては、しっかりとした鉄道経営を行ってもらいたいものである』
稲生:「巻き込まれた弟子って、僕のこと?」
マリア:「他にいないだろ?」
稲生:「それもそうですね」
稲生とマリアは笑った。
因みにイリーナはロシア語版の新聞を顔の上に乗せて、アイマスク代わりにしていたという。
[同日同時刻 冥界鉄道公社・本社会議室]
副総裁:「今回の件、上手く行ったな。よくやったぞ、山根君?」
山根:「いえ、チョイ役でしたから。それにしても、別世界の人間をも巻き込んだあの劇、よく考え付きましたね」
副総裁:「はははは!元々そのアイディアを言い出したのはキミじゃないか。子供の考えるアイディアも、素直に採用してみるものだ」
山根:「ただの独り言だったのに……」
副総裁:「いや、いい!ほんと、素晴らしいぞ!」
山根幸太郎は、何故か見た目は小学校高学年でありながら、冥界鉄道公社乗員の制服を着ていた。
山根:「あの電車の車掌は僕でした。でも、あれに乗った人達は、こんな子供がまさかとは思ったでしょう」
副総裁:「キミはうちに就職してから、もう50年も経つ大ベテランじゃないか。50年前、鉄道員への夢を持ったまま事故で死んだ少年を採用してみたら、こんなに立派になった。素晴らしいことだよ」
山根:「次の総裁さんは、ちゃんとした人だといいですね?」
副総裁:「あんな修羅河童に権力持たせちゃイカンよ。退職金だけは払ってやって、厄介払いした後は改革に乗り出すぞ。まずは修羅河童が余計なことをしやがった点を修復する所からだ」
山根:「はい!」
山根は制帽を被ると、ピッと副総裁に敬礼して退室した。
あと、改めまして“バスターミナルなブログ”の管理人様、写真を拝借させて頂き、ありがとうございました。
“大魔道師の弟子”は一旦ここで終了です。
次回は“Gynoid Multitype Sisters”の続きとなります。
愛原達や稲生と違い、生死の境を彷徨っている状態で冥鉄電車に乗り込んだ敷島がその後どうなったのかからスタートします。
……山根のこと、すっかり忘れていたことは内緒で。
お疲れ様です。
ゴシゴシ(-_\)(/_-)三( ゚Д゚) ス、スゲー!
起用して頂き、有難うございます!
かなり嬉しいもんですねw
小説に僅かながらでも、出演させて頂く機会
なんて滅多にないからなぁ~。
それと、正解を選ぶ事が出来て良かったです!
やっぱあれですね、関東の交通事情(鉄道)に
詳しくなきゃ難しいですかね?
某ブログにおけるマイケルさんの質問攻めがヒントになりましてね。
で、大沢さんが浅井会長と河童さんは同じメンタリティーだと仰いました。
つまり、権力を与えてはいけない人間というわけです。
それを痛烈に皮肉ったのが、ここの話なんですよ。
他にも自己愛さんが過去にいましたが、いや本当に権力を与えてはいけない部類ですよ。
本当に死者が出る恐れがあります。
>関東の交通事情(鉄道)に詳しくなきゃ難しいですかね?
いや、そんなことないですよ。
私だって関東私鉄ネタ出されたら、半分くらい答えられませんもん。
JRと東武鉄道など、埼玉の鉄道ネタが良い所です。
あと、バスネタですか。
それくらいです。