報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「快速“ムーンライト信州”81号」

2014-10-10 20:10:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月10日22:40.JR大宮駅西口→埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]

 大宮駅西口のバスプールに、1台の中型バスが到着する。
 本来なら系統番号の所に『新都11』という系統番号が書かれているところ、今は『終バス』と表示されていた。
「この前来た時は凄い大雨だったけども……」
 1番後ろの席に座る威吹は訝しげな顔をしている。
「今日は大丈夫か……」
「まあ、台風19号は後で来るけどね。それまでに到着できれば問題無い」

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、大宮駅西口です」〕

 プシュー、ガタッ……。

「うん。月は……見えないや」
「空は曇ってる」
 バスを降りて、そんなことを話す2人。
 大きなバッグを持って、階段を登る。
「本当に大丈夫なのかい?奴らの目的は、キミを奴らの仲間にすることだ。大事な話ってのも、きっとそれだよ」
「それなら僕だけが呼ばれるはずさ。マリアさん達からしてみれば、威吹はくっついて来てるだけだって」
「悪かったな」

 2人は週末でごった返する駅構内に入った。
 幸い埼京線は西口から1番近い路線(と言っても地下深く)なので、改札口に入ってしまえば少しの距離で済む。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、22時47分発、各駅停車、大崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 大宮駅に到着する電車は混雑していたが、これから都内へ向かう方の電車は空いていた。
 空いている緑色の座席に座った。

〔この電車は埼京線、各駅停車、大崎行きです〕

 ユタは服のポケットの中から、1枚のキップを出した。
 それは指定席券。『ムーンライト信州 81号』と書かれている。新宿から白馬まで。
「これに乗るのも2回目だ」
「しかし、下りしか無いとは……」
「そうなんだよね。上りはどうやって回送してるんだろう?」
「冥界鉄道公社は、そもそも下り列車しか運転しないという話だが……」
 だから生きたまま乗り込むと、そのままあの世に連れて行かれるとされる。
 終電が出たにも関わらず、次の電車がやってきて、尚且つそれがやたら古めかしい電車だったら要注意だ。
「189系も相当古いからねぇ……。まあ、151系か181系電車が来たら要注意だ」

[同日22:50.JR埼京線2222K 10号車内 ユタ&威吹]

 ♪♪(発車メロディ)♪♪。
〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ガタッ……ピンポーンピンポーンピンポーン♪……バン。

「ユタ、夜行列車の時間は何時だい?」
 威吹が聞いて来た。
「23時54分」
 威吹は懐から懐中時計を出す。
「この電車の新宿到着は?」
「23時30分になってるね」
「少し早くないか?」
「いいんだよ。もしかしたら、遅延するかもしれないんだからね」
「ふーむ……」

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、大崎行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 

 威吹はユタの真意を測ろうとして断念した。
 元々鉄道好きなユタのことだ。
 多少の遅延発生など気にならないよう、余裕を持って到着したいという言葉に偽りは無いだろうが、そもそも電車を見たいというのもあるかもしれない。
 マリアに会いたいというのもあるだろうが、それならわざわざ夜行列車でなくても良いはずだ。
 表向きは時間を有効に使いたい、特急“スーパーあずさ”より運賃の掛からない(特急料金不要の)夜行快速の方が安いということだが、やっぱり夜行バスの台頭で縮小傾向にある夜行列車に乗りたいというのもあるだろう。
 威吹はドアの上にあるモニタを見た。
 こんな夜遅い電車でも、元気に左のモニタでは広告やらニュースを流している。

 

『デモ隊の特別警備に当たる作者』
『映像はその前に点呼を受ける様子』
『「警備員もまた実態は派遣労働者と変わらず」と作者』

 実は顕正会が2013年9月11日に本部会館の家宅捜索を受けた際も、このモニタに映し出されたというトリビア。
 埼京線と京浜東北線では、良い宣伝になったかどうかは【お察しください】。

[同日23:30.JR新宿駅 ユタ&威吹]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく新宿、新宿です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。新宿を出ますと渋谷、恵比寿、終点大崎の順に止まります。……」〕

 電車がゆっくりと新宿駅に入線する。
 元々が貨物線だったこともあり、線形は良くなく、後から取って付けたホームも狭い。

「9番線だから、特急ホームだな」
 ユタは電車を降りて、取りあえず中央線乗り場に向かいながら言った。
 途中に発車票があり、中央快速線のオレンジ色や中央・総武線の黄色と違って、青色で表示してある中央本線特急乗り場の案内板に、『快速 23:54 ムーンライト信州81号 白馬』と書かれていた。
 その前にトイレに行ったり、自販機で飲み物やら買ったり……。
「酒のいいヤツ1つ頼む」
 と、威吹。
「マジですか?」
「マジです。……ていうかユタは寝酒いいのかい?」
「いや、僕はいいよ」
 ユタはしょうがないので、ワンカップ大吟醸を買い求めた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。9番線に停車中の列車は、23時54分発、快速“ムーンライト信州”81号、白馬行きです。発車まで、しばらくお待ちください。……〕

 ホームに行くと6両編成の特急型の車両が停車していた。
 緑色の帯が目立つ『あさま色』と呼ばれる塗装で、その名の通り、元々は高崎線を走っていた特急“あさま”号で使用されていた車両である。
 特急として運行する際は座席の頭部分に白いカバーが付けられるのだろうが、臨時快速とあってはカバーは無い。
「ここだな」
 中間車である。
 臨時列車では、なかなか指名買いもできない。
 窓口では指名買いもできるのだろうが、そこまでする必要は無いと思っている。
 やはり客層は若者が多いかと思いきや、青春18きっぷの期間ではない(秋の乗り放題パスは販売している)せいか、年配者の姿も見受けられた。

〔「ご案内致します。この電車は23時54分発、中央本線臨時快速“ムーンライト信州”81号、大糸線直通の白馬行きです。6両編成全部の車両が指定席です。お手持ちの指定席券をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕

 荷物を棚の上に置くと、網ポケットの中や窓の桟にペットボトルなどを置く。
 威吹は早速、ワンカップを開けていた。
 夜なので、窓ガラスに2人の姿がよく映る。
 今では暗闇でボウッと光る威吹の金色の瞳には慣れたが、昔は怖かったものだ。
「着いたら迎えが来るという件はどうなんだ?」
 威吹が聞いた。
「迎えの車が来るってよ」
 ユタは意外そうに答えた。
「タクシーか?だったら、駅前から……」
「いや、違う。ちゃんとした迎えの車だそうだ」
「あいつら、自動車を運転できるのか?」
 威吹は訝しげに首を傾げた。
「いや、だったら『迎えを寄越す』なんて言い方しないじゃない?」
「それもそうか」
「そもそもあの人達、車自体持ってないし」
「謎だな」
「魔道師さん達だから、何でもありなんだろうさ」

 そんなことを話している間に、列車は定刻通りに発車した。
 車掌の放送では、座席はもう満席ということだが、空席が目立っている所を見ると、途中から乗って来るらしい。
 実際、停車駅は快速と言えども、昼間の“あずさ”と大して変わらない。
「どれ、改札終わったら歯磨きして寝よ」
「照明って、どの辺で消えてたっけ?」
「八王子過ぎたらじゃなかった?」
「だっけ?」
 メチャ込みの中央・総武線の乗客から見れば、正に異空間に見えることだろう。
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“アンドロイドマスター” 「実験の結果」

2014-10-09 20:37:37 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月9日12:00.東京・汐留のテレビ局(って、バレバレじゃん) 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]

 敷島はプロデューサーとして、スタジオセットの裏にいた。
 3人は情報番組にゲストとして呼ばれている。
(地方局もいいけど、こういうキー局に出られるなんていいなぁ……)
 敷島はうんうんと頷く。
「……それでは歌ってもらいましょう。初音ミク、鏡音リン・レンで……」
 歌の時間もある。

「お疲れさまでしたー」
 3人の出演が終わり、スタジオを出る。
「よし。じゃあ出る準備したら、次の現場に行くぞ」
「はーい」
「たかおさん、本部の方はどんな感じですか?」
「実験は今のところ順調らしいな。だけど、どの曲がダメでどれがいいのかも分からないらしい」
「んー?」
「クラシックがダメってわけじゃないんだよ。比較的、ヒーリング系のものが危険らしいな」
「んじゃあ、リン達の歌なら大丈夫だよね。何たって、元気が出る歌ばっかりなんだから」
「そうだな。今のところ、ボカロ曲で危険なものは検出されていないらしい」
「おお~!」
「まあ、昔の旧ソ連製だからな。当たり前と言えば当たり前だが……」

[同日15:00.財団本部 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]

「よし。今度は夕方からボーカロイド劇場でのミニライブだからな、それまでちょっと休憩だ」
「はい」
 敷島達が本部に戻る。
 すると、まだ実験が行われていた。
「あっ、これ!KAITOっとの持ち歌じゃん!」
「ボク達が後ろでコーラスしてるヤツだね」
「かーごめ♪かーごめ♪カゴの中の鳥は♪」
「赤い月が空高く舞い上がる♪これは神の啓示か♪はたまた仏の智慧か♪」
「KAITOの歌も、結構激しいのが多いからな。それをピアノ、フルート、ヴァイオリンで演奏するんだからよくやるわ」
 敷島は半分呆れた顔をした。
 しかも同じ曲で、楽器を変えてやるらしい。
 エミリーの場合は鍵盤楽器担当なので、ピアノだけでなく、チェンバロだったり、オルガンだったり……。
 シンディはフルートだけでなく、ピッコロやオーボエも吹かせている。
 で、キールはヴァイオリンだけでなく、チェロやコントラバスもだ。

「今度はルカ姉とMEIKOりんの歌だね。月の明るい夜は♪1人空を見上げ~♪」
「あの空の彼方へ♪飛んで行ける日を夢見てー♪」
「おっ、いいな。今度その歌、リンとレンのカバー曲としてリリースしてみるか」
 敷島、ここで商売っ気が出る。
「ちょっと!いま実験中なんだからね、ボーカロイドの売り込みは外でやって!」
 アリスが旦那に文句を言った。
「怒られちったねー」
「ごめんなさい、博士」
 リンは舌をペロッと出し、レンは素直に謝った。
「どうやらお呼びではないようだな。休憩したら、すぐ現場に行こう」
「宿泊先のホテルは?」
「劇場近くのホテルだよ」
「おおっ!温泉付きの!」
「お前ら、水風呂しか入らんだろう」
「博士と一緒だと、変な耐久実験させられますから」
「はははっ!そうだな」

[同日18:00.東京・秋葉原 ボーカロイド劇場 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]

 ミクがソロで歌う。
 ボーカロイドの中でも随一の人気を誇るミクは、ステージに出るだけで大歓声だ。
 入口に置かれたファンからのプレゼントやファンレター入れの箱は、いつもミクが真っ先に一杯になる。
「みくみく、凄いね……」
「何だか、圧倒されちゃうよね」
 ステージ袖で見ているリンとレンは、ファンの大歓声を浴びて歌うミクに羨望の眼差しを向けていた。
 歌い終えて、ミクがステージ裏に戻って来る。
「お疲れさん!」
「さすがみくみく!」
「ありがとうございます!」
「よし!次はリンとレンだ。スタンバイしてくれ」
「はい!」

[同日20:00.同場所 同メンバー]

「ありがとうございまーす!」
「みんなー!どうもありがとー!」
 ボーカロイド達のライブが終わる。
 控え室に戻ると、アリスとエミリー、シンディがいた。
「おっ、いたのか」
「タカオの仕事は終わった?」
「ああ。今日のところはな。そっちはどうだ?」
「ええ。何曲か危ない曲が分かったわ。それ以外は大丈夫だと思う。ボカロ曲は特にね」
「それは良かった」
 敷島はホッとした。
「危険な曲はどうして危険なんだ?」
「いや、まだ分かんない。どういうメカニズムなのかはね。もしかしたら、脳科学の分野に入るかもしれない」
「ええっ!?」
「音楽を聴いて脳幹が停止するなんて、そんなのアタシ達の分野じゃないよ」
「確かに……」
「“アヴェ・マリア”を演奏させると、特殊な波長が検出されるのよ。それと同じものが検出された曲が、危険な曲だと思う」
「へえ……」
 敷島はバッグを取り出した。
「まあ、とにかく今日のところはホテルに入って休もう。実験は明日もあるんだろ?」
「そう」
「いずれはあの3人に演奏会でもやらせてみたいな。あ、もちろん、安全な曲でな」
「んでー、リン達が歌う」
 リンが右手を大きく挙げて言った。
「それじゃ、どっちがメインか分からんだろー?」
「えーっ!だってボカロ曲でしょう?」
「ボカロ曲以外でも、安全が確認されたクラシック曲ならいいの」
「ふふふっ!」

 劇場からホテルまでは同じ秋葉原界隈ということもあって、歩いて向かう。
 その時、キールが連絡してきた。
{「情報の共有としての連絡なんですが、少し十条博士の体調がよろしくないようです。もし具合が悪いようなら、博士は来られないかもしれません」}
 とのことだった。
「まあ、御年80代だもんな。無理はできんよ。十条理事には、お大事になさるように伝えてくれ」
 連絡を受けた敷島は、キールにそう言った。
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“アンドロイドマスター” 「東京へ」

2014-10-09 15:23:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月9日06:30.JR仙台駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫、アリス・シキシマ、初音ミク、鏡音リン・レン、エミリー、シンディ]

〔14番線に停車中の電車は、6時36分発、“はやぶさ”2号、東京行きです。……〕

 大きな欠伸をしてホームを歩くアリス。
「ほら、寝るならせめて座席に座ってからだ」
 敷島は自分の嫁の背中を押しながら言った。
「徹夜は得意なのに……朝の早起きはVery hard……」
「あー、そうかい」
「アリス博士も充電したら元気になるんじゃない?」
 鏡音リンがいたずらっぽく言った。
「あー、それでそうなるなら、是非そうしてやりたいくらいだ。てか十条理事、『端っこのいい車両ぢゃよ』って、つい10号車の“グランクラス”だと思ったら、そうじゃなくて、1号車じゃんよ」
 定員の少ない1号車に乗り込む敷島達。
「高速バスにされるところを“はやぶさ”まで格上げされたんだから、いいと思いなさい」
 シンディは文句の多い敷島を窘めた。
 敷島に辛辣な物言いをするアンドロイドは、マルチタイプではシンディ、ボーカロイドではMEIKOか。
「へーへー。アリス、お前は窓側だ」
「Year...」
 するとアリス、ポーチの中から取り出すは、アイマスクに耳栓。
 そして、リクライニング全倒。
「朝飯食わなくていいのか?」
「zzz...」
「早っ、寝入り早っ!」
 敷島は改めてびっくりした。
「凄いヤツと結婚しちゃったな……」
 敷島はアリスの横の通路側に座る。
「たかおさん、駅弁買ってきましょうか?」
 と、ミクが言った。
 ボーカロイド年少組は、3人席に座らせている。
「いいよ。お前達はアリスを見張っててくれ。こいつ、意外と寝相が悪……」
「ううーん……」
「何だ?」
「……牛タン弁当買ってきて……」
「お前、寝るのか食うのかどっちかにしろよ!」

 列車は定刻通りに発車した。

[同日07:00.東北新幹線“はやぶさ”2号1号車内 敷島]

 敷島は手持ちのPCを出していた。
 アリスは弁当を食べ終わった後で、また寝入ってしまった。
 PCでボーカロイド達のスケジュールをチェックしている。
(よしよし。KAITOのヤツ、撮影現場に到着したな)
 KAITOからその旨の信号が送られて来た。
 もし仮にアクシデントがあって、予定通りに現場に着けない場合も、そういった信号が送られて来る手筈になっている。
「ねえ、プロデューサー」
「ん?」
 敷島の後ろの席に座るシンディが、上から覗き込んできた。
 上を向くと、シンディの巨乳で顔が見えない。
「普通にこっち来いよ。で、何だ?」
「アタシ達、楽器持って来てないけどいいの?」
「向こうで用意するってさ。もしかしたら、こっちで使ってる楽器のせいかもしれないだろ?」
「そーかなー?」
「研究者は色んなこと考えて大変なこった。俺は事務職だから、もっと気軽にやらせてもらおう」
「ふーん……。これは要らなかったわね」
 シンディはコスチュームの中から、犬用の首輪とロープを出した。
「要らねーよ!てか、持って来んなよ」
 ノースリープから突き出た白い二の腕には、ボーカロイドと同じくナンバリングが施されている。
 ボーカロイドが英数字なのに対し、マルチタイプはローマ数字だ。
 エミリーの右腕には『Ⅰ』と赤字でプリントされ、シンディには『Ⅲ』と印字されている。
 派生型のキールには、何もペイントされていない。
 恐らくオリジナルの5号機の方のキールには、『Ⅴ』と書かれていたのだろうが。

[同日09:00.東京都新宿区西新宿 財団本部 敷島、アリス、ミク、リン・レン、エミリー、シンディ、平賀太一]

「おはようございます。朝早くから、ご苦労様です」
 財団本部に到着すると、平賀が出迎えた。
「あっ、おはようございます」
「Hi.」
 アリスは右手を挙げたが、平賀は明らかにスルー。
 師匠である南里から受け継いだエミリーには二言三言何か言ったが、シンディの方は見もしない。
「じゃあ、研究室にどうぞ」
「お邪魔します」
 エレベーターに向かう面々。
「すっかり嫌われちゃいましたね、博士?」
 シンディがこそっとアリスに言った。
「いざとなったら、七海を預かるわよ」
「それはいい考えです。ご命令下さったら、あとは私が……」
「ルイージが惚れ込んでるから、あいつにも協力させるわね」
「お前ら、信頼を勝ち取るくらいの気概が無いのか」
 敷島は2人を窘めた。

 まずは会議室で実験の概要が説明される。
 敷島達が昏倒した“アヴェ・マリア”など、危険と思われる楽曲については、防音室内でエミリー、シンディ、キールが演奏する。
 研究者達はその外で、その曲が演奏されている時、何が発せられているのかを調査するという寸法だ。
(俺は約束通り、ここまで来たんだから、あとはボカロ達連れて行ってもいいな)
 敷島だけはここから立ち去ったという。
 相変わらず、逃げ足は速い。
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“ユタと愉快な仲間たち” ショートストーリー 「人形の館」

2014-10-09 00:21:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月9日15:00.長野県北部の山間部 マリアの屋敷 ミク人形(ミカエラ)]
(ミク人形の1人称です)

 西の方の火山が噴火シた。
 屋敷は遠く離れているカラ特ニ心配無イと大師匠様が仰っていたガ、イリーナ様が大事を取って、前の場所に戻るこトにしタ。
 屋敷ごと引っ越すのは大変そうダ。
 しかも今週末からノ3連休にハ、ご主人様のお気に入りの男がやってくるらしイ。
 私にハ正直、あの男のどこが良いのカ分からなイ。
 特に、連れの銀髪金眼の男。
 廊下で気持ち良ク寝ていた私ヲ勝手に掴んで、壁に叩き付けやがった恨みは忘れなイ。
 御主人様の命令が無かったラ、槍で串刺シにしてやるところだワ。

 だけド……。

「♪♪~」

 あんなニ御機嫌な御主人さまヲ見るのハ、あの男が来る時だけだワ。
 それにしてモ……。

(マリアの周りを見渡すミク人形)

 チょっと作り過ぎじゃなイ?
 あの男……稲生ユウタの人形。
 名前ハ確か、“ユタぐるみ”って言ったっケ。
 サイズも大中小あるワ。
 全部で何十体あるカシラ?

「できた!今までで最高の出来よ!うふふふふふふ!」

 イリーナ様。マリア様も、こんなお顔ヲしてくれるようニなりましたヨ。

「どこに飾ろうかなぁ……」

 私達みたいニ魔法を掛けテ、動かそうとしなイだけマシってものネ。

「ミカエラ。ユウタ君、この家、気に入ってくれるといいね」
「!」
 こうしてハいられなイ!
 こノぬいぐるみのモデルとなっタ男が来るマデニ、掃除を済ませテおかないト!

「ミカエラ~、お茶入れて……って、やっぱいいや」
 御主人様のお屋敷デ寛いでいたイリーナ様ニ、声を掛けられタ。
 だケど私達、フランス人形が忙しく動き回っているのヲ御覧になっテ、空気を読まれたみたイ。
 申し訳アリマセン。

 個人的にハそんなに好きなタイプじゃないけド、御主人様を笑顔ニしてくれル稲生ユウタ氏、移転したばかりのこノ家、気に入っテくれるかしラ?
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“アンドロイドマスター” 「マルチタイプ二重奏」

2014-10-07 20:38:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月7日14:00.宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 敷島孝夫&シンディ]

 敷島のPCには色々な情報が搭載されているわけだが、その中にマルチタイプの情報も入っている。
「うーむ……」
 敷島が見つめるモニタの中には、こういった表があった。

 1号機:エミリー(鍵)
 2号機:ナンシー(打)
 3号機:シンディ(木管)
 4号機:パウエル(弦)
 5号機:キール(金管)
 6号機:アーノルド(指揮)
 7号機:レイチェル(歌)

 これはシンディのメモリーの中から見つけたものだ。
 これでマルチタイプが7機あるというのが分かった。
 名前の横にあるのは、それぞれが対応できる楽器。
 派生型の今稼働しているキールは金管楽器ではなく、弦楽器に取って変えられている。
「なあ、シンディ。この7号機のレイチェルの『歌』って何だ?」
「ああ。私達が演奏して、レイチェルが歌うんだけど、物凄く音痴だからダメだったね」
「音痴?」
「ええ。ここのボカロ達の方が全然上手いよ」
「そりゃ、その為のボーカロイドだからな。音痴ってどのくらいだ?ジャイアン並み?」
「周りの人間の脳幹が停止するくらいよ」
「……そりゃ欠陥じゃなく、そういう仕様だったんじゃないのか」
 敷島は変な顔をした。
「ま、とにかく、お前達が二重奏するだけで俺達が昏睡するくらいだからな」
「うん」
「こりゃ、危険な実験になりそうだ……」
「派生機のキールも呼ぶんでしょう?エミリーに画像を見せてもらったけど、全然似てないわね」
「そうだとも。キールにはバイオリンを弾かせる」
「無難にボカロ曲の方がいいみたいね」
「クラシックもやるみたいだ。俺ゃ知らねーぞ。俺はミク達に付いて行くから」

 ピンッ!(腰の横からロープを出すシンディ)

「だから、そのロープは何なんだ?」
「アリス博士から、首に縄着けてでも連れて来るように言われてるの」
「何だそれ!」
「とにかく、この中で元気に稼働してるの、私とエミリーだけみたいだから」
「そのようだな」
 爆破解体された機が殆どのようだ。

[同日17:00.アリスの研究所・屋上 シンディ]

 屋上で夕闇迫るニュータウンに向かって、フルートを吹くシンディ。
 エミリーがピアノを独奏しても大丈夫なように、シンディもフルートの独奏程度なら影響は無いらしい。
「時報代わりだな」
 敷島は事務室でお茶を啜りながらそう思った。
「……蒼い鳥~♪もし幸せ~♪近くにあっても~♪……」
 知っている歌なのか、ライブハウスに行く準備をしているルカがフルートの音色に合わせて歌う。
「これがマルチタイプ全員にやらせたら、聴いた人間が全員死亡なんて恐ろし過ぎるよ」
 そう思う敷島だった。
 そこへ電話が掛かって来る。
「はい、アリスの研究所です。……おっ、十条先生。どうも、しばらくです」
{「今度の実験のことなんじゃが、本部から行きの足のチケットは届いたかね?」}
「高速バスのチケットなら、明日届くと思いますよ」
{「バカにしてもらっては困る。大事な優秀機揃いじゃぞ。輸送費をケチッてはならん」}
「ヤマトか佐川ですか?」
{「曲がりなりにも人間の形をして、人間と同じ動き、思考をするのじゃから、人間と同じ乗り物に乗せて何の支障がある?」}
「冗談ですよ」
{「本部まで御足労願うのじゃから、ちゃんとした乗り物を用意したわい。あとは稼ぎ手のボーカロイドじゃな」}
「はい」
{「キミも不安がっていると思うが、マルチタイプの知られざる性能を知る為じゃ」}
「十条先生はご存知だったんでしょう?彼女らの協演が死を招くと……」
{「まあな。じゃが、わしだけ知っていてもしょうがない。他の理事達にも知ってもらういいチャンスじゃわい」}
「ボーカロイドに歌わせるわけにも行きませんからね」
{「まあ、とにかく、キミはキミで、キミの仕事をしているといい」}
「いいんですか?」
{「アリス君にはワシから言っておくよ」}
「ありがとうございます。シンディはどうします?」
{「わしはかつて、そのマルチタイプの開発チームにいた者じゃ。心配いらん」}
「よろしくお願いします」
 敷島は電話を切ってホッとしたのだった。

 この時、シンディはあの“アヴェ・マリア”を吹いていた。
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