報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「機上の空論」

2016-06-08 15:52:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月25日11:20.天候:晴 全日空173便777系300番台B777-300機内]

 ビジネスクラスに着席する敷島達。
「これだって、かなり広いじゃないか。十分だぞ?」
 と、敷島。
 搭乗時にファーストクラスの中を通ってやってきたので、それでも差はあるのが分かる。
 ではあるが、離陸前にやってみたのだが、ファーストクラス同様、シートをフルフラットにすることができた。
「おーい、アリス。聞いてるか?」
 敷島とアリスは中央の席に座った。
 エコノミークラス系が中央の席は4人掛けなのに対し、ファーストクラスとビジネスクラスは2人分である。
 それでも、隣に座るアリスに話し掛けるには、身を乗り出さなければならないほどだった。
「うるさいわね。いいから早くシートベルトしなさいよ」
 ファーストクラスの中を通ってきただけに、それがお預け状態になったアリスは御不満のようである。
「もっとボーカロイドが売れるようになったら、ファーストクラスで旅行させてやるよ」
 と、敷島。
 これで喜んでくれるかと思ったが、
「アタシがサンダーバード作って、自分で乗るわよ」
 と、返された。
「いや、だからさ、サンダーバードよりターミネーターの方が売れるって」
 敷島夫婦の会話に、通路を挟んで窓側に座る平賀は、
(奇しくも“ターミネーター”やるみたいだ……)
 と、機内映画のパンフレットを見てそう思った。

 こうして、飛行機は10分ほど遅れてヒューストンの空港を離陸した。
「やっと日本に帰れるぜ……」
 機外カメラの映像と、これからのフライトプランのお知らせがモニタに映し出される。
 それを見ながら呟くと、
「敷島さん、またハイジャックは勘弁ですよ?」
 と、平賀にからかわれた。
「私のせいじゃないですよ。ま、ヤング・ホーク団が壊滅したことだし、他のテロ組織が警戒してくれたみたいですけど?」
「ま、『不死身の敷島』さんと一緒なら、何が起きても大丈夫な気がします。『テロリストを泣かせる男』ですもんね」
「ヤング・ホーク団は誰1人泣いてませんでしたから」
 もっとも、あの墜落劇の最中、生き残れたことに対する大泣きはしていた。
 で、何故か敷島が『神の化身』『神の御使い』だとされて、拝まれた。
「ジャックの爺さんは、完全にボスの地位から失脚したっぽいですがね」
 敷島は皮肉るような笑みを浮かべた。

 12時台になって最初の食事が運ばれてくる。
 最初にスッチーCAが和食がいいか洋食がいいかを聞いて来る。
 メンバー全員が和食を希望した。
「アリス。お前だけ洋食頼むかと思ったが……」
 敷島が声を掛けると、
「アタシも日本食食べたい」
 とだけ答えた。
 アリスは手持ちのノートPCで、ロイド研究に関するレポを書いていたようだ。
 もちろん英文であるが、扱いを間違えると、マルチタイプが優秀なロイドなだけに、人間をナメることがあるという観察についてであったようだ。
 これは平賀も同様であり、今後の傾向と対策について学会(SGではない)で発表する予定とのこと。
 もっとも、前期型のシンディだって人間を見下す行動をしていたことがあるが、あれはウィルス感染による制御不能状態の為とされている。
 制御不能に陥った前期型シンディは、ついに製作者のドクター・ウィリーまでも惨殺してしまう。
 実際に起きた事件なだけに、対策は必要だった。
 実はエミリーとシンディを2機稼働させている理由は、どちらかが制御不能で暴走状態になった場合、止める役を必要とする為という理由もある。
 その為、2機同時に一括制御にはしていない。
 使役する人間をオーナーとユーザーに分散させているのも、人間側の悪意を阻止する為である。
 このように、日本では二重三重の対策は取っているのだが、研究者達からすれば、まだ不十分であるという。
「おっ、来た来た」
 エコノミークラス系だと機内食はトレーに乗せられて1度に運ばれるが、ビジネスクラスはちゃんとした食器で運ばれる。
 ファーストクラスだと、完全にコース料理になるようだ。
「久しぶりに和食食べたなぁ……」
 敷島はズズズと味噌汁を啜った。
「日本の航空会社で良かったわね」
 と、アリス。
「おっ、確かに」
 ヒューストン〜成田間を飛ぶ航空会社は、他にアメリカン航空もある。
「確かに行きのプレミアム・エコノミーより、ランクが上だな」
 敷島は久しぶりの和食を平らげた。
「シンディ達は先に到着するんでしたよね?」
 敷島は席を立って、トイレに行きがてら、平賀とは反対側の窓側席に座る鳥柴に聞いた。
「はい。ご希望通り、敷島エージェンシーさんの事務所宛で全て送りました」
 と、鳥柴。
「ありがとうございます」
 フェデックスの伝票を持っていたことから、往路と同じ会社に依頼したようである。
 それとも、デイライトが専属契約でもしているのだろうか。
 尚、ビジネスクラス・ファーストクラス用のトイレはウォッシュレットである。

 成田までは約14時間掛かる。
 この間、睡眠の時間があるわけだが、ビジネスクラスではファーストクラスと同様、座席をフラットにすることができる。
 アメニティとしてはブランケットやピローの貸し出しがある。
 他にも細かいものがあるのだが、それについては【webで確認!】。
 敷島はアイマスクに耳栓まで着けて仮眠モードに入ったのだが、ここで変な夢を見た。
 南里研究所時代に起きた事故のことである。
 マルチタイプの暴走というと、直近ではジャニスとルディ、その前では前期型のシンディが挙げられるが、エミリーは一切暴走しなかったのかというと、そうではない。
 緊急離脱用の超小型ジェットエンジンを開発した南里は、早速それをエミリーのブーツに取り付け、その実験を行っていた。
 当時、研究所の事務員兼ボーカロイド・プロデューサーだった敷島は、それを見学するに留まっていた。
 この時の季節は夏。
 その為、ゲリラ豪雨が発生しやすい季節であった。
 鉄腕アトムがそんな雷雨でも平気で飛行するシーンがあった為、エミリーが実際それが可能なのかの実験を行っていたところ、結果的には失敗した。
 落雷を受けたエミリーは、ボディの損傷自体はそれでも小さかったものの、内部のデータやプログラムがメチャクチャになってしまった。
 敷島を『寵愛されるべき存在』として、フランケンシュタインの怪物の如く追い回し、それは南里の停止命令をも無視するほどであった。
 当時、緊急停止装置はエミリーの体内にあったものの、落雷の衝撃で遠隔での操作が効かない状態になっていた。
 エミリーに組みつかれたら命が無いのは当時から知られていた。
 最終的には、平賀が仕掛けた高圧電流のトラップに追い込んでやっと停止させたほどだ。
 この時、メイドロイドの七海も参加していたが、エミリーを取り押さえる際、抵抗されて右腕を引きちぎられた。
 しかし夢の内容は逃げきれずに、エミリーに組み付かれてしまうというもの。
「わあーっ!」
 慌てて飛び起きる敷島。
「お客様、どうなさいました!?」
 CAが急いでやってくる。
「……あ、いや、何でもないです」
「大丈夫ですか」
 通路を挟んだ隣にいる平賀は、
「敷島さんが見る悪い夢というのは、アリスに直接マシンガンで蜂の巣にされるという内容ですか?」
 と、聞いた。
「い、いや!……暴走したエミリーに組み付かれる夢です」
「それは怖いですね。昔の、あの事件のヤツですか?」
「はい」
 それ以来、ロイド達には『落雷の恐怖』という感情をインストールさせた。
 雷注意報が発令された場合には空を飛ばない。
 警報発令の際は、なるべく屋内に待避するというもの。
「ちょっと、トイレ行ってきます」
 敷島はトイレに向かった。
(シンディの銃口を直接掴める男、かつてはマルチタイプに殺されかけた経験があるってか……)
 エミリーが敷島のユーザー登録が解除になっても尚、敷島の命令を聞こうとするのは、そういった負い目を感じているからとされている。

(ボツネタでは、まだ敷島達と敵対していた頃のアリスがエミリーを暴走させて敷島達を襲わせるシーンもあった)

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