報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「東京は曇り」

2016-05-06 10:57:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]

 敷島は社長室で雑誌の取材を受けていた。
「私も最初は、ロボットにエンターテイメントなんかできるのかという疑問はありましたね。ですが、最初はミク……初音ミクしかいなかったわけですけども(※)、彼女と接して行くうちに、もしかしたらというのがありました。そのカンは当たっていたということが、今証明されているわけです」

 ※初音ミクよりMEIKOとKAITOの方が製造時期は早いが、ボーカロイドとしての稼働は初音ミクの方が早いという設定。

「なるほど。JARA財団解散後、ボーカロイド専門の芸能事務所を立ち上げようと思われたのも、当然の結果だというわけですね」
「はい、そうです。それまでは財団主導で行われていたボカロのアイドル活動ですが、財団崩壊に伴い、それが一切できなくなる恐れがありました。私もこのまま彼女達を腐らせてしまうのは惜しい。何とかしたいと思ったわけです」
「他の芸能事務所などから引き取り手があったようですが、それを選択しなかったのは何故ですか?」
「あいにくと、同業他社の人達はボカロの価値を分かっていないようでした。その価値を高めてやるのは、私しかいないという自負がありましたね」
「なるほど……。他に理由は?」
 記者が手帳にメモ書きをしながら、敷島に質問していく。
「ボカロも、精密機械の塊であることは事実です。当然、細かいメンテナンスが必要なわけです。幸い私には、身内に専門家がいますし、そのツテで今ではデイライトさんがボカロの整備に当たってくれています。果たして、同業他社にはそういったことができるのかという疑問もありました。恐らく故障を連発させて、最悪、廃棄処分にしていたかもしれません」
「分かりました。敷島社長の、いわゆるオシメンは初音ミクさんのようですが、これにはどういった拘りが?」
「そうですね……」

 敷島が記者とやり取りをしている中、社長室のドアの前に固まる者達がいた。
 それは鏡音リン・レン、それにMEGAbyte達である。
「社長さん、さすがに場慣れした感じですね」
 と、結月ゆかり。
「ボクだったら、まだ“緊張”して体温が上がっちゃうなぁ……」
「後でリンもさりげなくアピールするチャンスだねぃ」
「ちょ、ちょっと未夢、押さないでくれる?」
「私も取材、受けてみたいわぁ……」
 すると後ろから、
「コラッ!何やってんの、あんた達!?」
 お茶のお代わりを持って来たシンディに激しく叱責されてしまった。

「すいません、うちのボカロが……」
「いやいや。本当に、人間と間違えるくらいの豊かな感情ですね」
 敷島、慌てて記者達に謝る。
 ボカロ達はシンディの叱責に、蜘蛛の子を散らすかのように逃げて行った。
「それでは次の質問ですが、そのデイライト・コーポレーションさんとの関係についてお聞きします」
「はい」
「先日、アメリカよりアルバート・F・スノーウェル氏が敷島社長を訪ねて来られたとのことですが、敷島社長としてはアメリカ側との関係をどうお考えですか?」
 記者がこんな質問をしたのは、デイライト・コーポレーションのアメリカ本体には、そもそも人間そっくりのロボットを造ろうという発想など無く、ましてやボーカロイドのような存在など微塵も考えられなかったからである。
 デイライト・ジャパン(日本法人)はその辺、もう少し頭が柔らかいのか、最初はボカロとは何ぞや?という探究心から、整備を引き受けたといった感じだったが、ロボット未来科学館まで作ってしまうくらいだから、十分理解してくれたのだろう。
「先日、埼玉のロボット未来科学館を視察されたんですが、一笑に付してしまわれたとのことです」
「それは一体、どういう意味で?」
「『ロボットにエンターテイメント性は必要無い。本当に日本は平和である』とのことでした」
「それは……皮肉ですか?」
「どうですかねぇ……。とにかく、アメリカさんからはあまり、ボカロの人気はけして大きくないようですね。皮肉を言われたわけではないですけど、せっかく日本は平和な国なんですから、アメリカには無いエンターテイメント性を重視していきますよ」

 敷島はエレベーターホールまで記者とカメラマンを見送った。
 そして、また社長室に戻る。
 ドアの前にシンディが待っていて、
「ごめんなさいね。アタシがちょっと目を離した隙に、リン達が……」
「いや、いいさ。記者さん達も笑ってくれたよ。それより、明日は都議さんが来るから、失礼の無いように」
「ええ。明日はリン達も1日中仕事が入ってるから、今日みたいなことは無いと思うわ」
 社長室に入る2人。
「それにしても、アタシを連れて霞ケ関回りをしていたら、都議会議員に目を付けられるなんてね」
「この国は、国会議員よりも官僚の方が力があるからな。クジラを釣ろうとしてマグロが釣れたな」
「そうね。(社長の例え、たまにイミフな所があるなぁ……)」
 要は力のある官僚にマルチタイプを売り込もうとしていた敷島だったが、全くそれに乗ろうする者はおらず、国会議員ですら乗ってこなかった。
 が、ようやくその下の都議会議員の1人が興味を示してくれたらしい。
「アタシ、売られちゃうの?」
 シンディが聞いて来た。
「いや、お前自身を売るわけじゃない。お前をベースにした、新しいマルチタイプだ。アルエットともまた違うタイプの……。要は、そのデータベースを売るということだな」
 と言いつつも、実はこんなことがあった。
 アルバートがロボット未来科学館を視察し、それを一笑に付した後、シンディを引き取りたいと言った。
 その時、オーナーであるアリスも同行していたのだが、

「確かに私はシンディのオーナーだけども、こっちの法人の財産でもあるわ。私の一存では決められないの。日本法人にも尋ねて下さらない?」

 と、暗に断った。
 もちろん、日本法人は日本法人で、断りを入れるだろう。
 例えそれが、アメリカ本体の幹部社員の頼みであっても。
 アルバートはそれ以上食い付いて来ることもなく、程なくしてアメリカに帰って行った。
「ま、日本は日本で独自のことをやるまでだ。それが、デイライトさん全ての方針でもあるわけだからな」
 他にも、先進国などに現地法人を作って活動しているデイライト・コーポレーション。
 それぞれ、国の実情に合わせたロボット開発を行っている。
 その為、本来アルバートの発言はルール違反ということになる。
 データベースなどを融通するのは構わないが……。
「そうね」

 だが、事件は程なくして発生する。

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