報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鬼の棲む宿」

2024-04-30 11:36:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日13時00分 天候:晴 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 車は県道からホテルの正門へと入った。
 藤野の研修センターみたいに、鉄扉が堅く閉ざされているということはない。
 敷地内に入ってから、運転手がクラクションを3回ほど鳴らす。
 そして、ロータリーをゆっくり旋回しているうちに、正面玄関からぞろぞろと従業員が出て来た。

 運転手「着きました。お疲れ様でした」
 愛原「ありがとう」

 そして車は、正面エントランスの前に止まる。

 上野利恵「お待ちしておりました。愛原先生!」

 上野利恵が外から、ハイエースのスライドドアを開ける。

 利恵「東京から遠路遥々ようこそお越しくださいました」
 愛原「い、いや、大した距離じゃない。新幹線で1時間ちょいだし……」
 利恵「さあ、どうぞ。中へお入りください」
 愛原「う、うむ……」

 何回か来ているホテルだが、ここまでの大歓迎は初めてかもしれない。

 愛原「あー、それより、昼食がまだなんだが……」
 利恵「それはそれは、お腹が空かれましたことでしょう。あちらのレストランにて、御昼食を御用意してございます」

 このホテルには2つのレストランがあり、1つは最上階にある展望レストラン。
 主に宿泊客の朝夕食会場としての用途である。
 また、イベントホールとしての用途もあるらしい。
 もう1つは、日帰り入浴客などが利用する1階のレストラン。
 ロビーと隣接しているので、カフェラウンジとしての用途もある。

 利恵「チェックインは後ほどということで、まずは御昼食をどうぞ」
 愛原「あ、ああ、済まない」

 私が緊張しているのは、利恵達がただ単に私を招待しただけではないと想定しているからだ。
 リサがいれば、彼女達に睨みを利かすことくらい造作も無いことだが、今はいないので。
 私の血液や老廃物で良かったら、病気にならない程度であげても良いのだが……。
 レストランに行くと、『愛原学探偵事務所御一行様』と書かれた札が置かれており、そこに松花堂弁当と瓶ビールが置かれていた。

 愛原「ええと……」
 利恵「どうかなさいましたか?」
 愛原「これ、料金は如何ほどになりますのやろ?」
 利恵「私共から、愛原先生へのおもてなしです。どうぞ、御自由に召し上がってください」
 愛原「しかし、昼食までは招待プランに入っていないだろう?」
 利恵「今しがた入れました。どうぞ、御自由に」
 高橋「せ、先生。『タダより高い物は無い』と言いますが……」
 愛原「そ、そうだな」

 私を妖艶な目で見つめる利恵の目、瞳が赤く光っている。
 これは……鬼の女が獲物を物色する目である。
 たまに、リサもそういう目をすることがある。

 愛原「因みに今日って、満月だったっけ?」
 利恵「いえ、半月くらいだったかと思いますが」

 妖力が最大限になる満月じゃないのに、これか……。

 パール「頂きますか?」
 愛原「覚悟を決めて頂こう」
 高橋「先生がそのように仰るのならば」

 ビールは普通の味だったし、松花堂弁当も美味かった。
 『鬼の秘薬』が入っていないか、凄く気になったが、特に変わった味はしなかった。

[同日14時00分 天候:晴 同ホテル1階フロント→7階客室]

 昼食を食べた後、14時からチェックインできるらしい。
 私はフロントに行った後、宿泊者カードにペンを走らせた。

 利恵「ありがとうございます。それでは、お部屋までご案内致しますね」
 上野凛「愛原先生、いらっしゃいませ!」
 愛原「おー、凛ちゃんか。お世話になるよ」

 副支配人兼女将の利恵と同様、凛もまた仲居の着物を着ていた。
 妹の理子はまだ見かけないが、この姉妹は『元祖半鬼』ともいうべき存在で、本当に鬼の母親と人間の父親の間にできたハーフである。
 エレベーターに乗り込んで、7階の客室に向かう。

 利恵「こちらでございます」

 高橋とパールは、ツインの洋室だった。
 私はというと、1人部屋のシングルルームみたいな部屋……かと思いきや!

 凛「こちらです、先生」
 愛原「これは……1人で泊まるには広くないか?」

 4人布団を並べても、まだ余裕がある部屋だった。
 恐らく、高橋達が泊まるツインルームよりも広いだろう。

 凛「母が、『愛原先生の為に』と。こちらで、『愛原先生をおもてなしさせて頂くのだ』と。『その為には、部屋は広い方が良い』とのことです」
 愛原「それはありがたいことだが、その『おもてなし』は1泊で終わるるのかい?」
 凛「春休み目一杯使うことになるかもしれませんねw」
 愛原「……それ、リサの前でも言えるか?」
 凛「あっ……!」
 利恵「何かございましたか、愛原先生?」
 愛原「あ、いや、1人で使う部屋の割には、結構広いなと思って」
 利恵「この広い空間で、惰眠の限りを貪り尽くして頂きたく存じます」
 愛原「寝てていいの!?……いや、せっかく温泉に来たんだからさ、温泉に入りたいよ」
 利恵「それもそうですね」
 愛原「浴衣はそこにあるんだっけ?」
 利恵「さようでございます。タオルとかも、そちらに」
 愛原「そうか。高橋達誘って、大浴場に行こう。ちょっと、浴衣に着替えようかな」
 利恵「どうぞどうぞ」
 愛原「こういうのはな、着替えてナンボだろ」
 利恵「そうですね。お寛ぎになってください」
 愛原「その前に、夕食って何時からだっけ?」
 利恵「夕方6時からとなっております」
 愛原「18時か。まだまだ時間あるな」
 利恵「はい。ごゆっくりお寛ぎくださいませ。御夕食はお疲れの先生の為に、『精の付く特製料理』を御用意させて頂きます。夜には『スペシャルイベント』もございますので、何卒宜しくお願い致します」
 愛原「う、うん。キミ達にとって、むしろそれが目的だろうね。良かったねー。まだリサが目を覚ましていなくて」
 利恵「さようで……」
 凛「リサ先輩がいたら、できないもんねー」
 利恵「凛。後で、理子も呼んで来なさい」
 凛「理子も!?理子はまだ中学生だよ!?」
 利恵「4月から高校生です。関係ありません。鬼の女の『元服』は『初潮が来たら』です。『初潮=処女卒業』です。それを何ですか、あなた達は!」
 凛「そんなこと言ったって……」
 愛原「いや、ちょっと2人とも!今、ヤベェ話してるから、ちょっと黙っててくれ!」
 利恵「も、申し訳ございません!ハードボイルド探偵の愛原先生には……西村寿行作品のような『おもてなし』が必要という情報を得まして……」
 愛原「その情報、どっから仕入れて来たァ!?」

 規制が緩々だった半世紀前の名作家である。
 エロ本はその頃から販売に規制がされつつも、小説に関しては手つかずだった。
 その為、うっかり読んでしまった中高生の性癖が飴細工の如く、ねじ曲がったことは言うまでもない。

 利恵「リサ姉様からです」
 凛「リサ先輩からです」
 愛原「やっぱり!」

 リサの部屋から、私が隠し持っていた西村寿行先生の作品が見つかったことから、リサが怪しいと思ったのだが、実際その通りだったようだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「探偵... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「鬼の... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事