報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「囚われの鬼娘」

2023-11-30 14:42:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日21時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 リサは1人で遅い夕食を食べていた。
 スマホは取り上げられて、外部と通信が無い。
 しかしテレビだけはあるので、それで番組を観ることはできた。
 手掛かりを求めて色々とチャンネルを回してみたが、テレビ東京は映り、TOKYO MXが映らないことから、東京都やその周辺の県ではなく、更にその外側にある関東地方の県だということは想像できた。
 もちろんテレビば地デジ対応で、番組表も今日の物である。

 リサ「あっ……!」

 その番組表に、『とちぎテレビ』とあった。
 文字通り、栃木県を放送対象区域とする県域テレビ局である。
 地上アナログ放送時代で、1番新しく開局したテレビ局だという。

 リサ「ここは栃木県なんだ!」

 外は雪が積もっていることから、栃木県の山奥に連れて来られたのだと理解したリサだった。

 リサ「先生に助けを呼ばないと!」

 夕食を終えたリサは、8畳間の外に出た。
 しかし、家の窓は閉め切られており、しかもその外側は雨戸が完全に閉められていた。
 室内には電話が無く、玄関に行っても電話は無い。
 当然ながら、玄関扉は堅く閉ざされていた。
 玄関扉は内鍵になっているはずだが、ここの玄関は違った。

 リサ「これ何!?クランクハンドルで開けるの!?」

 よく見ると玄関扉は引き戸ではあるものの、硬い重厚な鉄扉であった。
 それでもリサが本気を出せば、こじ開けられるかもしれないが……。

 リサ「ダメだ。大きな音がして、鬼狩り隊にバレる。どうせなら、タイラント君みたいな力持ちに壊して開けてもらう方がいい」

 当然ながら、都合良く手近に召喚できるタイラントなどいるわけがない。

 リサ「くそ……!」

 ならば窓から脱出しようと思ったが、ガラス扉の錠も鍵穴式になっていて、そこに鍵を通さないと開かない仕組みになっていた。
 また、雨戸も鉄扉である。

 リサ「ガラスを割って、鉄扉をこじ開けることはできるかもしれない……」
 老婆「残念ながら、それはオススメできません」
 リサ「ひゃあっ!?」

 さすがのリサもびっくりした。
 リサもまた気配を隠して、獲物の後ろから襲うのは得意であるが、されるのは慣れていなかった。
 振り向くと、そこにはここでリサの世話係を務めるという老婆がいた。

 リサ「い、いつの間に……!?」
 老婆「全てが終わるまでは、あなた様はここでごゆるりとお過ごし頂きたいのでございます」
 リサ「で、でもせめて、家には電話させてよ!」
 老婆「それはなりませぬ。邪魔が入ってはいけませんので……」
 リサ「邪魔って、わたしの首を刎ねる邪魔?」
 老婆「……お風呂の準備ができてございます。ご案内致しましょう」
 リサ「んー……!」

 リサは食事をした隣の部屋に行くと、そこから寝巻の浴衣を取った。

 リサ「奥日光……。もう隠す気無いでしょ」

 浴衣には『奥日光』の文字が書かれていた。
 どうやら、文字通り、奥日光にいることが分かる。

 リサ「ここは旅館か何か?」
 老婆「それは……ご想像にお任せ致します」
 リサ「違うかな。もしそうなら、わたしを茂みで野ションや野グソさせないもんね」

 リサはあえて下品に言った。
 それでも老婆は腰を低くし、目を閉じるほどに細くしたまま何も表情は変えない。

 老婆「こちらでございます」

 旅館の女将よろしい着物を着ている老婆に誘われ、リサは浴室へと向かった。
 建物自体は『離れ』と呼ばれているだけあって旅館にしては小さく、浴室も人が2人入れるくらいの壺湯があるだけだった。
 それでも温泉の匂いはしており、本物の温泉であるとリサは分かった。

 老婆「どうぞ、ごゆっくりとお過ごしください」
 リサ「う、うん……」

 老婆が出て行くと、リサは脱衣所で服を脱いだ。

 リサ「んん?」

 脱衣所内には白黒の古い写真と、その謂れが説明された看板が立っていた。
 写真には詰襟の学ランのような服を着た若い男達と、着物姿の女性達が写っていた。
 撮影された年を見ると、今から100年くらい前の写真であるようだ。

 『鬼怒川の上流には文字通り、憤怒の如き表情で、近隣の村々を襲う鬼達が暮らしていました。当家では討伐隊を結成し、鬼退治に向かいました。この庵は当時、討伐隊の拠点になっていた場所で、鬼達との戦いに傷ついた隊士達の療養施設にもなっておりました。母屋の方は専用の診療所としても活用され、終戦後は一般の診療所に転用されました』

 という説明が隣にあった。
 写真の男女は、リサと大して年齢層が変わらないように見える。

 リサ「うーん……。写真を見た限りでは、わたし1人で倒せそうな気がするけど……。あっ、こっちの女の子のお肉美味しそう」

 反対側の壁を見ると、それまで鬼狩り隊が倒したという鬼の写真があった。

 リサ「うーん……何か、見た目人間っぽいのもいるけど……。こっちもこっちで、男女比同じくらいなんだねぇ……」

 リサは首を傾げた。

 リサ「うん。わたしの知ってそうなのはいないや」

 リサは一糸まとわぬ姿になると、まずは洗い場に向かった。

 リサ(あれだけ見ると、やっぱり首を刎ねられそうな気がしてならないんだけど……)

[同日22時00分 天候:晴 同庵]

 風呂から出たリサは浴衣に着替えて、寝る準備をした。
 ここで従順なフリをしておけば、向こうも油断して、逃げる隙ができるかもしれないと思った。
 浴衣の下はスポプラ、そして下は一応、黒いプーマのショーツだけにしておいた。
 今日は体育があったので、それで下着はそういうタイプを着けていたのである。
 敷かれていた布団は、フカフカのものだった。
 リネンもクリーニングしたばかりのパリッとアイロンが効いているものである。

 老婆「失礼致します」

 そこへ老婆が入ってきた。

 リサ「なに?」
 老婆「お医者様でございます」
 医師「どうも~」
 リサ「は?何で?わたし、どこも悪くないよ?」
 老婆「ここに来られる際、うちの男達に手荒な真似をされたと伺い、一応お医者様をと」
 リサ「いや、わたしは大丈夫だよ?むしろわたしの爪や噛み付きでケガした人達がいると思うから、そっち看てあげたら?」
 老婆「それでは先生、宜しくお願い致します」
 医師「はい~」
 リサ「って、聞けよ!」
 医師「それでは、診察を始めさせて頂きます~。まずは胸の音から聞かせてください」

 50代くらいの男性医師は、聴診器を手に持った。

 リサ「マジか……」

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