報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探偵の富士旅情」 竹取飛翔

2020-01-12 10:21:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日11:06.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達を乗せた“こだま”号は、やっとこさ下車駅に近づいた。
 本当なら1時間も掛からないだろうに、通過線のある駅では必ず後続の“のぞみ”や“ひかり”に追い抜かれていたからな、これでは1時間掛かるのは当たり前だ。

〔「……新富士駅では、2本の列車の通過待ちがあり、5分ほど停車致します。……」〕

 前駅の三島駅でも追い抜きをしたのにまたもや追い抜きがあり、しかも今度は2本とは、本当に東海道新幹線の本数の多さには恐れ入る。

 高橋:「先生、お荷物お持ちします」
 愛原:「こりゃすまんな」
 高橋:「いえ、弟子として当然です。どこかの魔女にも言ってやりたいですよ」
 愛原:「……何の話だ」
 リサ:「おー、富士山が大きい」
 絵恋:「ねぇ、知ってる?富士山って、どうして富士山って言うのかって」
 リサ:「知らない」
 絵恋:「かぐや姫が登場する竹取物語からネーミングされたんだって」
 リサ:「かぐや姫。知ってる!南こうせつとか……」
 絵恋:「み、南……?誰それ?」

 リサ!そっちの“かぐや姫”じゃないし、アラフォーの私の親世代のユニットをどうして現役JCのリサが知っているのか。

 高野:「リサちゃん、随分古いアーティストを知ってるのね?」
 リサ:「研究所で教わった!」

 日本アンブレラ研究員の趣味かーい!

〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車ありがとうございました〕

 列車がホームのある下り副線ホームに停車し、ドアが開いた。
 と、同時に後続の“のぞみ”だか“ひかり”だかが轟音を伴って通過線を通過していく。
 先行列車が停車してすぐの通過だ。
 こんな芸術的な運行管理ができるのは、世界広しと言えど日本くらいではないか。

 高橋:「先生、次の乗り換え先は?」
 愛原:「おっ、少し急いだ方がいいな。今度はバスに乗り換えるんだが、確かそんなに待ち時間は無かったはずだ」
 高野:「ですって。急ぎましょう」
 絵恋:「はい」
 絵恋:「分かった」

 私達が急ぎ足でエスカレーターに乗る頃、また更に次の速達列車が通過して行った。

[同日11:15.天候:晴 同市→富士急静岡バス“ゆりかご”]

 愛原:「あのバスだな」

 新富士駅の北口、富士山口と言うようだが、そこから出るとバスロータリーがあった。
 そこに中型のワンステップバスが止まっていた。
 オレンジ色のLEDタイプの行き先表示には、富士駅南口と出ている。
 乗り込んでみると、車内には数えるほどの乗客しか乗っていなかった。
 後ろの座席に座ると、すぐにバスが走り出した。

〔……次は下横割、下横割でございます〕

 絵恋:「月に帰ってしまったかぐや姫を追って、帝……当時の天皇陛下が部下に命じて、あの富士山の頂上で、かぐや姫からもらった贈り物を燃やしてしまったの。その贈り物というのが、蓬莱の玉。つまり、不老不死の薬ね。それを燃やして、煙がモクモク上がったその山を『不治の山』、転じて富士山と呼ぶようになったそうよ」
 リサ:「さすがサイトー、物知り」

 リサが絵恋さんの両手を握る。

 絵恋:「も、萌えへへへ……。ま、まあね……」

 絵恋さんは顔を赤らめて、照れるやらデレるやら。
 しかし、水を差すようで悪いが、絵恋さんの説明は半分ハズレである。
 確かにそれもあるのだが、本当はもっと別に理由がある。
 帝が直接燃やしたわけではなく、家来達が燃やした。
 帝の家来と言えば、侍である。
 その侍達が大勢、帝の命令を受けて、当時月に最も近いと思われた山の頂でもって蓬莱の玉を燃やした。
 侍という漢字は『士』とも書く。
 それが大勢、つまり沢山……それを漢字一文字で表すと『富』。
 士が大勢(富)登った山だから、『富士山』なのだと。
 え?大勢をいきなり『富』という漢字にすぐ当てはめるのは苦しいだろうって?
 そこで、不治の薬が出てくる。
 『士が大勢登り、頂上で不治の薬を燃やした山』という由来を込めて富士山と……。
 ん?竹取物語って実話?

[同日11:22.天候:晴 同市 JR富士駅]

 バスは無事に富士駅南口に到着した。
 ここでもPasmoが使えるのだから便利だ。

 愛原:「えーと、ここから富士宮に向かう電車は……」
 高橋:「先生、11時38分です」

 高橋がスマホ片手に検索してくれた。

 愛原:「おっ、比較的すぐだな」

 ローカル線だと往々にして電車の本数が少なく、待たされるということも多々あるのだが。
 私達は駅構内に入った。

 愛原:「今は便利になったもんだ」

 自動改札機もまたPasmoで通過する。

 高橋:「1番線ですね」
 愛原:「そうか」

 

 身延線のホームに行くと、2両編成の電車が停車していた。
 どうやら、ワンマン運転らしい。
 ローカル線に行くと、短編成ワンマン列車を多く見かける。
 駅名看板や電車の様子など、JR東日本の管内ではなくなったことを教えてくれる。

 

 ドアの横は2人用の横向き席だが、それ以外は4人用のボックスシートである。
 私達はそこに座った。

 愛原:「そっちの席は富士山が見えるよ」
 絵恋:「本当ですか?」
 愛原:「ああ」
 高橋:「先生はいいんですか?」
 愛原:「俺は駅でも見てるよ」
 高野:「殊勝ですね」

 本当の慰安旅行なら、缶ビール片手にってところだが、今は仕事だからな。
 ま、夕食の時くらいはいいだろうが。

 発車の時間になると、ワンマン列車らしく、駅の放送ではなく、車両から運転士が放送した。
 そして、2両編成のローカル列車は定刻通りに発車した。

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