報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「下今市駅にて」

2020-11-15 16:03:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日14:45.天候:晴 栃木県日光市今市 東武鉄道下今市駅]

〔「まもなく下今市、下今市です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お乗り換えの御案内を申し上げます。上今市方面、各駅停車の東武日光行きは、向かい側1番線から14時55分発です。新藤原方面、野岩(やがん)鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きは、3番線から15時14分発です。お乗り換えの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。下今市を出ますと、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に停車致します」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 都内から鉄道で東北地方に行こうとすると、恐らく私達は一番マイナーなルートを進んでいる。
 ここへ来て、ようやく南端とはいえ東北地方の一地域である会津の名前が出てきた。
 関東地方のようで、東北地方のようでもある。
 東北地方のようで、関東地方かもしれない。
 私達がこれから行く霧生市は、そういう所にある。
 かつては高速バス一本で行けたあの町も、壊滅してからは運行されなくなり、その町の1番近くまで行く鉄道で今向かっている。

 愛原:「よし。ここで乗り換えだ」

 私達は荷棚から荷物を降ろした。
 他にも日光へ向かう乗客達が降りる準備をしている。
 そして、列車がホームに入線すると、確かに向かい側に4両編成の普通列車が停車していた。
 2ドアで、赤いモケットのボックスシートが並んでいるのが分かる。
 私達が乗り換える普通列車も、あれと同じタイプなのだろう。

〔「下今市、下今市です。東武日光行きは、1番線から発車致します。2番線の電車は14時46分発、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです」〕

 電車が到着してドアが開くと、私達はホームに降り立った。
 確かに、乗客の3分の1くらいは向かい側の普通列車に乗り換えて行く。
 リクライニングシートからボックスシートという、また違う旅情を味わいながら日光に向かうのも良いだろう。
 実際、鉄道で日光へ行こうとすると、どうしてもこの東武線利用の方がメジャーになってくる。
 東武日光線は比較的開けた場所を通っているのに対し、JR日光線は鬱蒼とした山林の中を走るのだという。

 高橋:「先生。やっぱ30分もあるせいか、向こうに電車いないっスよ」
 愛原:「だろうな。だけど、その無駄が旅心あるってものじゃないか」
 高橋:「さすが先生です。……おい、どうした、リサ?早く行くぞ」
 リサ:「ちょっと待って」

 リサが今まで乗って来た電車の中を覗き込むように見ている。
 東武線直通用の電車だから、珍しいのかな?
 デラックスさは同区間を走行する東武スペーシアと比べると、どうしても劣る感じはするのだが。

〔「2番線、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行き、まもなく発車致します」〕

 一番後ろの車両から、車掌が笛を吹く音が聞こえて来た。
 そして、すぐにドアが閉まる。
 電車が走り出すが、スーッと加速はしない。
 少し走り出すだけで、すぐ加速を止めてしまった。
 まるで、路面電車が出て行くみたいだ。
 それもそのはず。
 東武日光線の方が本線よろしく、緩やかな左カーブを描いているのに対し、東武鬼怒川線は支線であるかのように、急な右カーブを描いている。
 まるで東武浅草駅を出発した後のようだ。
 その為、厳しい速度制限が掛かっているのである。
 実際、出て行く時もやたら車輪がレールの急カーブに軋む音を響かせていた。
 電車が出て行く方を見ると、東武日光線がそのまま複線なのに対し、東武鬼怒川線は単線になっている。
 日光と鬼怒川、今やどちらも北関東のメジャーな観光地として双肩する場所に向かう鉄道だが、その路線は成り立ちの違いだけで、こうも格差が出るようである。

 愛原:「リサ、もういいか?早く行こう」
 リサ:「う、うん……」

 だが、リサは何故か緊張した顔になっていた。

 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「ねえ、先生。“エブリン”って知ってる?」
 愛原:「エブリン?あれかな?2017年、アメリカのルイジアナ州で暴れた新型BOWのことか?」
 高橋:「先生、あれっスよ。あれのサンプルが群馬の田舎に何故かあって、それで俺達、痛い目見たじゃないですか」
 愛原:「真っ先にやられたのはオマエだけどな」
 高橋:「大変申し訳ありません!」
 リサ:「もしかしたらね、これからリサ・トレヴァーじゃなく、そのエブリンが襲ってくるかもしれないから気をつけて」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「群馬で先生がブッ殺してくれたんじゃなかったでしたっけ?」
 愛原:「そのはずだ。でも、アメリカのは10歳くらいの女の子の姿をしてたって話だぞ?」
 リサ:「うん。その姿をしてた……。さっきの電車の中……」
 愛原:「なにいっ!?」
 リサ:「出て行く時、乗ってないかどうか見てたんだけど、見えなかった」
 愛原:「じゃあ、気のせいじゃないのか?」
 リサ:「うん……」
 高橋:「後ろの車両に、家族連れとか、何か小学生の団体みたいなのが乗ってましたけどね」
 愛原:「遠足の帰りか何かだろう。とにかく、敵はリサ・トレヴァーだけという先入観は確かに危険だ。タイラントやネメシスなど、いきなり襲ってくるヤツもいるわけだからな。油断はしないに越したことはない」
 高橋:「了解です」

 私達は乗り換え先の電車が来る3番線に移動した。
 跨線橋に上がる。
 リサが先にパタパタと上がって行く。
 そういえばリサ、電車のトイレに行った時にスカートの裾を上げたらしい。
 何かあったのだろうか。

 
(旧・駅名板。写真はウィキペディアより)

 愛原:「乗り換え先の電車なんだけど、たった2両編成らしいぞ」
 高橋:「ますます田舎っぽいですね」
 愛原:「旅心満載だな」
 リサ:「善場さん達とは一緒に行くの?」
 愛原:「ああ。問題無いそうだ。先に俺達が乗って、席を確保しててあげよう」
 リサ:「分かった」
 高橋:「先生、ちょっと俺、便所行ってきます」
 愛原:「ああ。行ってこい」
 リサ:「先生、売店で駅弁売ってるって」
 愛原:「また食うのかよ」
 リサ:「これも『1番』に勝つ為だよ」
 愛原:「しょうがないな」

 私達は3番線・4番線ホームに、高橋は改札口近くのトイレに向かった。
 

 

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