報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「年度末」

2022-04-18 20:02:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月22日10:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 春雨がサーッと降る中、善場主任が事務所にやってきた。
 私と主任は、応接室に入った。

 リサ:「えーっ?わたしがお茶持って行くの?」
 高橋:「事務所にいるだけじゃなくて、たまに手伝いやがれ」
 リサ:「掃除とかしてるよ?」
 高橋:「それ以外だ」

 という会話が部屋の外から聞こえたが。

 リサ:「失礼しまーす。お茶でーす」
 愛原:「ああ、ありがとう」

 カップにワンポイント付いている場合、それを相手に見せるようにして置くのがマナーである。
 ……おお、リサ、ちゃんとできてるじゃないか。

 善場:「……リサ、ちょっと」
 リサ:「はいっ?」
 善場:「何か、お茶の中にあなたの寄生虫が入ってない?」
 寄生虫:「ドモ」m(__)m
 愛原:「うわ、気持ち悪い!」

 見た目は芋虫。
 これが変化して毛虫のようになったり、ミミズのようになったり、クマバエみたいになったりするのだそうだ。

 リサ:「あっ、ごめんなさい。これ、先生の分でした」
 愛原:「俺のかよ!?」
 善場:「直ちに入れ直してきなさい。今度は、何も入れないように。分かった?」
 リサ:「は、はい」

 リサ、慌てて寄生虫入りのお茶を下げた。

 愛原:「油断も隙も無い」
 善場:「全く。リサくらいの存在になると、寄生虫で殺人とかもできるのだから、気を付けてもらいたいですね」
 愛原:「やっぱりできますか」
 善場:「ええ。関西地方では、リサ・トレヴァー『3番』がそれをやりましたから」
 愛原:「『3番』。確か、栗原蓮華さんに首を刎ねられて死んだんでしたっけ」
 善場:「栗原家は行動が早いのです。……早過ぎて私達の手配が追い付かず、蓮華さんは一時期殺人容疑で警察に拘束されましたね」
 愛原:「そういうことがあったんですか!」
 善場:「日本版リサ・トレヴァーは、皆して一応、見た目は人間ですから」
 愛原:「あー、まあ確かに」
 善場:「恐らく『2番』のリサの寄生虫も、『3番』と似たようなものになるのではないでしょうか」
 愛原:「どういうものなんですか?」
 善場:「ある時はイジメ被害者の男子生徒に、『イジメに対抗できる力を与える』と称して寄生虫に寄生させ、クリーチャーに変化させて校内連続殺人事件を起こさせました」
 愛原:「うわ……」
 善場:「寄生虫のサンプルが『2番』のそれと似ているので、こちらのリサも同じようなことができるのではないでしょうか」
 愛原:「今からリサに言って、禁止させますね」

 そしてリサ、再びお茶を持ってくる。

 リサ:「今度は何も入ってませーん」
 善場:「本当ね?『0番』の私は誤魔化せないからね?」
 リサ:「分かってまーす」

 善場主任は元日本版リサ・トレヴァー『12番』。
 但し、表向きは人間に戻れている。
 それにしては新たに『0番』という番号を与えられ、観察対象のままである。

 善場:「今度は大丈夫のようね」
 リサ:「もちろんです」
 善場:「それでリサ」
 リサ:「何ですか?」
 善場:「さっきの寄生虫、どうやって出したのかやってみせて」
 リサ:「いいんですか?」
 善場:「ええ」

 リサは口を膨らませた後、モゴモゴと動かした。
 そして……。

 リサ:「あん……」

 口を開けて、舌を指さした。
 すると、先ほどの寄生虫が舌の上に乗っかっていた。
 そして、それを掌の上に出す。

 リサ:「こんな感じです」
 善場:「なるほどね。『3番』と同じだわ。もういいから、その寄生虫は処分しなさい」
 リサ:「はーい。……『3番』は死んだんですよね?」
 善場:「あなたの怖い鬼斬り先輩が首を刎ねて殺したそうよ?あなたも気をつけてね」
 愛原:「その寄生虫を悪用して、それがバレたらという意味だぞ?」
 リサ:「分かってまーす」

 リサは冷や汗をかきながら退室した。
 どうやら、あの寄生虫を何がしかに使っているのは事実のようだ。
 こっちのリサは頭がいいから、私達にバレるような悪用はしていないだろうが。

 善場:「愛原所長は、今のようなリサに慕われている関係でいてください。恐らくその間は、リサも悪さをしないでしょう。そうしたら、所長に嫌われて会えなくなることを自覚しているようですから」
 愛原:「分かりました」
 善場:「それで、今後の予定です。まずは斉藤絵恋さん達のことですが……」
 愛原:「やはり引っ越すようですね。斉藤元社長が『容疑者』となった今、近所の目が厳しいらしいですから」
 善場:「そういうものです」
 愛原:「母方の実家に行くそうで」
 善場:「それはどこですか?」
 愛原:「沖縄だそうで」
 善場:「沖縄!これはまた遠いですね」
 愛原:「斉藤……容疑者が社長になってからは、時間が取れずに何年も帰省できなかったそうですから、却っていい機会なのかもしれません」
 善場:「それに、沖縄にも東京中央学園の姉妹校がありますから、そこに編入も可能でしょう」
 愛原:「沖縄にもあるんですか!」
 善場:「沖縄中央学園といって、那覇市内にあるんですよ。確か、モノレールのどこかの駅から近いはずです」
 愛原:「東京中央学園もそうですけど、交通至便な所に学校を造りたがりますね」
 善場:「大抵の私私立校はそうじゃないでしょうか。逆に、環境重視の為に交通不便な場所に造る場合もありますが、東京中央学園系は前者のようですね」

 沖縄都市モノレールは比較的新しい鉄道のはずで、学園の方が先にあったはずだが、たまたま近くを通ったのだろうか。
 それとも、誘致したのだろうか。

 愛原:「一応、絵恋さんが寂しがるので、空港まではリサを見送りに行かせたいと、絵恋さんのお母さんには伝えております」
 善場:「それがいいでしょうね。しかし、斉藤容疑者が行方不明ですから、埼玉の家には記者が張り込んでいるようですね」

 これもまた絵恋さんが駅からタクシーで帰る理由の1つなのだ。

 愛原:「あ、そうだ、善場主任。これ、熱海のお土産です」
 善場:「ああ、これはどうもわざわざ、ありがとうございます」

 贈賄容疑の現行犯にならないかと思ったが、主任は受け取ってくれた。
 もちろん中身が現金だったり、有価証券だったりした場合は別だろうが。
 あくまでも社会通念上、許される範囲内でならOKらしい。
 旅行に行って、そのお土産というのは確かに社会通念上、許される範囲だろう。

 愛原:「多分、実際に飛行機に乗る前日辺りにはもう移動しておいた方が、マスコミを撒くことはできるかもしれませんね」
 善場:「その辺はお任せします」
 愛原:「警察とかには言わなくていいんでしょうか?」
 善場:「あくまでも容疑は斉藤秀樹元社長1人だけですし、日本に入国した形跡も無い以上、残った家族が疑われることはないでしょう。彼の国外逃亡を手伝ったわけでもないですしね」
 愛原:「なるほど。分かりました」
 善場:「あとは、上野姉妹が上京してくる件についてですか」
 愛原:「卒業旅行ですね。2泊3日でディズニーリゾートにでも連れて行きますか」
 善場:「あの、予算は全て愛原所長持ちですよ?」
 愛原:「あ、そうか」
 善場:「これはデイライトとしては単なる監視・観察対象というだけで、何も卒業旅行はデイライトが依頼するわけではないですから」
 愛原:「それもそうですね」

 私は苦笑した。
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“私立探偵 愛原学” 「東海道本線1640E列車の旅」

2022-04-18 12:30:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日16:06.天候:晴 静岡県熱海市 JR熱海駅→東海道本線1640E列車5号車内]

〔「5番線に停車中の電車は、16時6分発、東海道本線、上野東京ライン回り、宇都宮線直通の普通列車、小金井行きです。まもなく発車致します。ご利用のお客様は、車内でお待ちください」〕

 私達はグリーン券を手に、5号車のグリーン車に乗り込んだ。
 荷物もあったので、帰りは2階席では無く、連結器に近い平屋席に乗り込んだ(2階席と1階席には荷棚が無いが、平屋席には荷棚がある)。

〔この電車は東海道本線、上野東京ライン、宇都宮線直通、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕

 ホームから発車メロディが微かに聞こえてくる。
 メロディは他の駅でも聴ける汎用的なものであった。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 合成の、発音が少しおかしい自動放送が流れる。
 それでも電車は、定刻通りに発車した。
 グリーン車に乗っていると気付かないが、実はこの電車、たったの10両である。
 平日ダイヤは15両で運転するのかもしれないが、三連休でも乗客の多い線区でこれは混みやすいと思う。
 多分、普通車は混んでいるはずだ。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東海道本線、上野東京ライン、宇都宮線直通、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、湯河原です〕

 車内の自動放送は合成ではなく、ちゃんとした声優さんを使っているので、発音もイントネーションも不自然な所は無い(が、山手線では外国語の音声が何回も交換されていることは【禁則事項です】。明らかに一時期は外国人声優がテンション低い喋りだったり、駅名の部分の発音がおかしかったりと【禁則事項です】)。
 英語放送の後は、車掌の肉声放送が流れる。

〔「……電車は短い10両編成です。【中略】座席は譲り合ってお掛けくださいますよう、御協力をお願い致します。次は湯河原、湯河原です」〕

 湯河原も温泉地だし、途中に小田原という箱根への入口があることから、もっと混むんじゃないか、この電車。
 グリーン車は、まだそこまでではないが、多分途中でグリーン車すらも満席になると思われる。
 まあ、これが本来のコロナ前の姿ではあったのだが(但し、やっぱり外国人観光客の姿が少ないという点は高評【バキューン】)。

 アテンダント:「失礼致します。グリーン券はお持ちでいらっしゃいますか?」
 高橋:「あ、はい。あります」

 グリーンアテンダントというと、女性を思い浮かべるが、中には男性アテンダントもいる。
 それは新幹線や特急の車販も同じ。
 で、今回は男性だった。

 高橋:「先生、キップですって」
 愛原:「あ、そう」

 私はがっかりしたように、高橋に自分のグリーン券を渡した。

 高橋:「2人分っス」
 アテンダント:「ありがとうございます」

 高橋と大して歳の変わらぬ男性アテンダントは、青い検札印を押して高橋に返した。

 リサ:「にひひ」

 リサは私が女性アテンダントに目や気を取られる心配が無くなったと、ニヤリと笑った。
 因みに、いつもはリサが窓側に座っているが、今回は通路側に座っている。

 リサ:「サイトー、グリーン券」
 絵恋:「あ、はい」

 リサは絵恋さんからグリーン券を受け取ると、男性アテンダントに渡した。

 アテンダント:「ありがとうございます」

 まあ、男嫌いの絵恋さんとしては、この方が良かったか。

 リサ:「これは記念になる。サイトーと最後の旅行をした記念」
 絵恋:「うん……。そうだね」

 その時、私のスマホにメールが着信した。
 それは善場主任からだった。

 善場:「今、東海道本線の電車内ですね。列車番号と乗車車両を送信してください」

 とのことだった。
 しまった!
 リサを中間車に乗せる場合、善場主任にその旨、送信しないといけないんだった。

 愛原:「すいません。この電車の列車番号は何番ですか?」
 アテンダント:「は?1640Eです」
 愛原:「あ、すいませんね。ありがとう」

 まさか列車番号を乗客に聞かれると思っていなかったのか、アテンダントも少し驚いたようだった。
 いつもなら事前に調べるか、電車のフロント部分に列車番号が表示されているので、それを入力するのだが。

 愛原:「列車番号は1640E。乗車車両は5号車です」

 と、送信すると、

 善場:「了解です。ありがとうございます」

 という返信が来た。
 それにしても、中距離電車の列車番号はMだったと思うが、いつの間に他のアルファベットを使うようになったのだろう?
 上野東京ラインが開通してからか?
 他のアルファベットはD以外、いわゆる『国電』や『ゲタ電』に付けるイメージだったのだが、もしかして中距離電車もそれ扱いになったのだろうか。
 一応、Mは『電車を使用した列車(汽車)』という意味だったはずだが……。
 鉄ヲタでもない人から見れば、何のこっちゃ?と思うかもしれないな。

[同日17:46.天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔次は東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです〕

 この時間辺りから、外は薄暗くなり始める。
 晴れていれば西日が眩しいのかもしれないが、都内に入ったら曇って来たので、そんなことはない。
 西日が眩しくない代わりに、薄暗い。
 夜は一雨でも来るのだろうか。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。到着ホームは7番線。お出口は、右側です。この電車は上野東京ライン、宇都宮線直通の普通列車、小金井行きです。東京で5分ほど停車致します。発車は、17時51分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 電車は軽やかに有楽町駅を通過すると、カーブを曲がって東京駅のホームに入線した。
 かつては東海道本線の普通列車が発車するホームであったが、今は東海道本線からの上野東京ライン下りホームとなっている。

 愛原:「大宮からはどうするの?」
 絵恋:「タクシーで帰ります。母からタクシーチケット、もらってますので」
 愛原:「そうか」

 恐らく斉藤元社長の末路からして、斉藤家は今後、没落する運命にあるだろう。
 金のある今のうちということか。
 そして、そんな絵恋さんも……。

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、上野に止まります〕

 電車がホームに停車する。
 私達は先に電車を降りた。
 東京駅での下車は多かったが、その分乗車も多く、大して空いたわけではない。
 が、それでも高崎線より空いている宇都宮線ということもあり、東海道線内よりは乗客が減っただろうか。
 リサと絵恋さんが残り少ない時間で、別れを告げている。
 本当の最後というわけではないだろうが、残りの時間を大切にしてもらいたい。
 因みに私はというと、善場主任からのメールのやり取りをしなくてはならなかった。
 話があるので、連休明けの火曜日に事務所に来たいということだった。
 私から伺おうと思っていたのだが、主任の方から来てくださるとは助かる。
 そんなやり取りをしているうちに、停車時間の5分はあっという間に過ぎた。
 ホームにけたたましい発車ベルが流れる。
 東海道本線下りホームは発車メロディだが、上野東京ライン下りのホームはベルである。

 高橋:「おい、さっさと戻れ」

 高橋が絵恋さんを車内に促す。
 そして、電車は定刻通りにドアを閉めた。
 まるで機関車牽引の客車列車よろしく、ゆっくりとした発進だったが、その後はスーッと加速していった。

 愛原:「本当の最後というわけではないだろうから、また会えるさ」
 リサ:「そうだね」

 リサは寂しそうな顔はしていたが、特に泣いているという感じはなかった。
 高橋に言わせると、泣きそうな顔をしていたのは絵恋さんの方だった。
 まあ、そうだろう。

 愛原:「よし。ちょうど夕食時だ。何か食べて帰ろうか」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します!」

 私達はコンコースへの階段を下りて、一先ずは改札口へと向かった。
コメント (2)
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