報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「熱海温泉」 4

2022-04-14 20:17:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月19日21:00.天候:曇 場所不明(とある会場) とある船舶(医療船?)]
(ここの項目は三人称です)

 高野:「斉藤さん、消灯の時間ですよ」

 まるで病院の処置室のような場所に斉藤秀樹はいた。

 秀樹:「まるで入院患者だな」
 高野:「そうですよ。斉藤さんは、御自分で『全治1ヶ月だ』と仰ったではありませんか。“青いアンブレラ”も鬼ではありませんから、病院から連れ出して『ハイ、さようなら』なんてマネはしませんよ」
 秀樹:「救急車のような物に乗せられて、また別の病院に行くかと思ったら、まさか船とはな。これは病院船かね?」
 高野:「そうですね。似たようなものです」
 秀樹:「私はケガが治るまで、ここにいなくてはならないのだね?」
 高野:「はい、そうしてください。ここにいる限り、斉藤さんの安全は保障します。ですが、私達の指示に従えない場合は【お察しください】」
 秀樹:「分かった。これから消灯時刻のようだが、明日の起床時刻は?」
 高野:「6時半となっております」
 秀樹:「6時半か。……壁に時計はあるな」
 高野:「はい」
 秀樹:「トイレは自由に行っていいんだろ?」
 高野:「そうですね。廊下を出てすぐの所にありますから。ただ、みだりに船内を歩かないでください。警備兵も乗船してますので……」
 秀樹:「分かった。気を付けよう」

 秀樹は先にトイレに行くことにした。
 まるで、船内は海に浮かぶ診療所といった感じだった。
 そりゃ病院船なんだから、当たり前と思うだろう。
 しかし、傷病兵を輸送する為の軍艦としての病院船とは違うような気がした。
 受付や待合室ロビーの造りを見ると、離島を回る巡回診療船のような気がした。
 これが日本の船なのか、或いはロシアの船なのかは分からない。
 船内にあるはずの案内板は全て取り外され、非常口や身障者マークのピクトグラムしか無かったからだ。
 トイレの丸窓から外を見ると、真っ暗であったが、少なくとも海の上であることは分かった。

 秀樹:「これからどうなるのやら……」

 トイレから出て廊下を歩くと、高野の言う通り、武装した警備兵と出くわした。

 警備兵:「!」

 警備兵は持っていたショットガンを秀樹に向ける。
 秀樹は両手を挙げた。

 秀樹:「トイレに行ってただけだ。すぐに戻るよ」

 どうやら日本語が通じるのか、或いは両手を挙げたのが功を奏したのか、警備兵は銃を下ろした。
 そして、松葉杖で歩きながらも処置室に戻った。

 秀樹:「なるほど。警戒は厳重のようだ」

 室内の洗面所で水を飲む。
 コップもあったから、飲用可能だろう。
 実際飲んでみたが、変な味はしなかった。

 秀樹:「まあいい」

 秀樹はベッドに横になると、布団に潜り込んだ。
 少なくとも、ケガが治るまでは、すぐに殺すわけではないらしい。

[3月20日07:00.天候:晴 静岡県熱海市 KKRホテル熱海・客室フロア→レストラン]
(ここから愛原視点の一人称です)

 枕元のスマホがアラームを鳴らす。

 愛原:「もう朝か……。高橋、起きろ」
 高橋:「うっス……」

 私はアラームを止めて起き上がった。

 高橋:「朝風呂行くんスか?」
 愛原:「今日は昼風呂に入るんだから、朝はいいだろう。それより顔を洗って、朝飯食いに行くぞ」
 高橋:「うス」

 私はテレビを点けた。
 朝の情報番組では、相変わらずロシアのウクライナ侵攻について報道していた。
 たまに全国のニュースが流れるが、どうもウラジオストクに連れて行かれた日本人達の今後の雲行きが怪しいらしい。
 ロシア政府が非友好国に指定した日本にそっぽを向いているせいで、日本人乗客達のケガが治っても、本当に帰国できるかどうか不明とのことだ。
 このまま日本人達が人質に取られる恐れがあると、評論家が言っている。
 で、斉藤元社長の行方については、未だに不明のままだ。
 “青いアンブレラ”も、知らぬ存ぜぬを繰り返しているらしい。
 どうやらBSAAもそうだが、“青いアンブレラ”も一枚岩ではないようだ。

 高橋:「先生、浴衣のままでいいんでしたっけ?」
 愛原:「どっちでもいいと思うよ。まあ、どうせここではもう風呂には入らないから、俺は私服に着替えるけど」
 高橋:「じゃあ、俺もそうします」

 朝の支度が変わる頃、7時半くらいになる。
 私は隣の部屋に内線電話を掛けてみた。

 リサ:「もしもし?」
 愛原:「おはよう、リサ。どうだ?もう準備はできたか?」
 リサ:「今、準備してるとこ」
 愛原:「絵恋さんの具合、どうだ?もう落ち着いたか?」
 リサ:「うん。昨夜思いっ切り泣いたら、少しスッキリしたみたい」
 愛原:「そうか。それじゃ、朝食、一緒に行くか?」
 リサ:「うん、もうすぐ終わるから待ってて」

 電話の後でリサ達の方から部屋にやってきた。

 愛原:「おはよう。絵恋さん、昨日は悪かったな?」
 絵恋:「いえ、何も無かったですから」
 愛原:「そうか」
 リサ:(『それなら今日は、お詫びに先生が……オマエに浣腸してやろう!』『きゃあーっ!』『いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか』)( ̄m ̄〃)
 高橋:「リサ、オマエなにニヤニヤしてんだ?」
 リサ:「何でもなーい!」

 エレベーターに乗り込み、1階のレストランに向かう。

 スタッフ:「いらっしゃいませ。おはようございます」
 愛原:「4名です」
 スタッフ:「4名様ですね。こちらへどうぞ」

 席に案内された後、朝食券をスタッフに渡した。

 リサ:「食べ放題じゃないの?」
 愛原:「コロナ対策で、バイキング形式じゃなく、定食形式らしいな」
 リサ:「うう……マジか」
 愛原:「これから行くスパは、10時にオープンだから、それに合わせて着くように行こう。最寄りのバス停からバスに乗れば、そこに行けるから」
 リサ:「分かった」
 愛原:「土産は……駅前とかで見繕えるだろう」
 高橋:「誰に買って行くんスか?」
 愛原:「善場主任に決まってるだろ!誰のおかげで、こんなリゾートホテルに泊まれたと思ってんだ!」
 高橋:「さ、サーセン」

 高橋もたまに間の抜けることがあるな……と、私もかw
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“私立探偵 愛原学” 「熱海温泉」 3

2022-04-14 14:40:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月19日20:00.天候:晴 静岡県熱海市 KKRホテル熱海・客室フロア(愛原と高橋の部屋)]

 部屋に戻ってまったり過ごしていた私達に、電話が掛かって来た。
 私のスマホで、それは善場主任からだった。

 愛原:「はい、もしもし?」
 善場:「お疲れ様です。善場です。今、熱海のホテルですね?」
 愛原:「そうです」

 私はテレビの音量を下げると、窓際の椅子に移動した。

 善場:「どうですか、熱海は?楽しんで頂けてますか?」
 愛原:「はい、おかげさまで」
 善場:「今日はこのままホテルに宿泊ですね?」
 愛原:「そうです。明日は市内の別の所を回って、温泉に入ろうかと思います」
 善場:「さすが愛原所長は温泉好きですね」
 愛原:「いや、ハハハ……」
 善場:「面白い所に連れて行ってあげるといいですよ」
 愛原:「この時期にプールに入って泳げるなんて、なかなか無いことだと思うので、明日は温泉とプール施設が一緒になっている所へ行こうと思います」
 善場:「なるほど。レジャー重視といったところでしょうか」
 愛原:「2人もアクティブに動くことが好きですから、そういう所の方がいいんじゃないかと」
 善場:「それはいいですね。帰京は夕方といったところでしょうか」
 愛原:「その予定です。各駅停車の鈍行で、ゆっくり帰ろうかと。熱海始発なので、余裕で着席できますし」
 善場:「そうですか。分かりました」
 愛原:「斉藤元社長の情報、あれから無いですか?」
 善場:「無いですね。情報筋の話では、“青いアンブレラ”の医療施設で療養中と言われていますが、それがどこなのかは分かりません」
 愛原:「そうなんですか」

 “青いアンブレラ”は民間軍事会社。
 さしものBSAAも、民間施設まで全て網羅しているわけではないらしい。
 それでもバイオテロの鎮圧に特化した組織なのだから、医療関係には詳しいと思ったが……。

 善場:「愛原所長も、“青いアンブレラ”からの連絡は無いのでしょうか?」
 愛原:「高野君ですか?無いですね」
 善場:「“青いアンブレラ”は、BSAAとは敵対関係には無いですが、協力関係にあるわけでもありません。いえ、ルーマニアの一件で、敵対関係に傾いたかも……といったところです」
 愛原:「それは欧州本部との軋轢であって、こっちのアジア側は違うでしょう?」
 善場:「……と、言われていますけどね。私は信じていません。特に、拘置所から脱獄してそのままという高野がいる所は……」
 愛原:「善場主任は高野君の事が嫌いなんですね」
 善場:「ストレートに仰いますね」
 愛原:「すいません」
 善場:「いえ、いいんですよ。エイダ・ウォンに似ているような気がして仕方が無いのです」
 愛原:「本人もそれを気にしていて、否定はしていますね」
 善場:「私は関係があるように思います」
 愛原:「血縁か何か?」
 善場:「……かもしれませんし」
 愛原:「いずれまた、彼女とどこかで会うのかもしれませんね。その時に話してくれれば良いと思います」
 善場:「その展開はとても期待できそうにないですね。あ、そうそう。それと、もう1つ」
 愛原:「何ですか?」
 善場:「“青いアンブレラ”が、日本にも進出しようとしているんですよ」
 愛原:「でも、日本じゃ軍事会社なんて認められないでしょ?」
 善場:「警備業法に基づく警備会社としての事業申請です」
 愛原:「警備会社を作るの!?」
 善場:「もちろん、公安委としては却下するようですが……」
 愛原:「でもまあ、欠格事由にはならないんじゃないですか?民間軍事会社は、別に反社組織でも半グレでもないんだし」
 善場:「私は公安委の人間ではないので、どういう判断をしたのかは分かりません。が、私が公安委の人間であっても却下するでしょうね」

 何か、感情論のような気がする。
 高野君の逮捕だって、あんまり大した理由じゃないんだよ。
 善場主任の機関が、“青いアンブレラ”を嫌ったが故の行動ではなかったのかと思う。
 ま、外国もそうだけど、日本でもお上に逆らうとどうなるかの見せしめは行われているので、その一環だろう。

 電話を切った私は、隣のリサ達の部屋に向かった。

 愛原:「ちょっといいかな?」
 リサ:「はい、どうぞー」

 浴衣姿のリサがドアを開けてくれた。
 中に入ると、ベッドの上に上半身だけ起こすような形で乗っている絵恋さんもいた。
 彼女もまた浴衣姿だった。

 愛原:「明日のことなんだけど、もう一回プールに入る気はないか?といってもこのホテルじゃなく、温泉も一緒になっている所へ行こうって話なんだけど……」

 よく見ると、室内には昼間彼女達が着た水着が干されていた。
 このホテルにはコインランドリーは無いので、室内の洗面所かシャワーで洗ったのだろう。

 愛原:「この市内にあって、ここからバスで行ける所だよ」
 リサ:「わたしは行く。先生が連れて行ってくれる所なら、どこでも」
 絵恋:「私もリサさんとなら、どこにでも行きます」
 愛原:「そうか。2人でプールで遊べる機会、今日で最後だなんて寂しいもんな。明日、もう一回楽しもう。何なら、一日中遊んでたっていいぞ」
 リサ:「なるほど。それは……」
 絵恋:「うぅぅ……」

 すると、何と絵恋さんが泣き出してしまった。

 愛原:「うおっ!?わ、悪い!ゴメン!!」
 リサ:「大丈夫。先生は悪くない」

 リサは絵恋さんのベッドの上に乗ると、肩を叩いて慰めた。

 絵恋:「ひっく……うう……」
 リサ:「先生。ここは、わたしに任せて」
 愛原:「わ、悪いな!ホント、泣かせるつもりはなかったんだ!」
 リサ:「分かってるよ」
 愛原:「明日は7時半から、同じレストランで朝食だから」
 リサ:「分かった」

 私は急いでリサ達の部屋を出た。
 気丈に振る舞っていた絵恋さんだったが、さすがに別れの感情は時折抑えられなくなるようだ。
 慌てて戻って来た私に、高橋は茶を入れてくれていた。

 高橋:「お帰りなさい。どうしました?まさかリサ達、また体操服にブルマで迫って来たんじゃ?」
 愛原:「いや、その方がまだ良かったよ」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「明日で最後って言ったら、絵恋さんに泣かれちゃって……」
 高橋:「あー、それは大変でしたねぇ……。どうぞ、お茶入れたんで」
 愛原:「ああ、悪いな」

 私がアツアツの湯呑みを持って、お茶を一口飲んだ時だった。
 また、私のスマホが着信音を鳴らす。
 また、善場主任だろうか。
 しかし、画面を見ると、善場主任でもリサでもなかった。

 愛原:「上野凛さんだよ」
 高橋:「ええ?」
 愛原:「もしもし?」
 上野凛:「愛原先生、こんばんは」
 愛原:「ああ、こんばんは。どうしたの?」
 凛:「私と妹の卒業旅行で、都内を案内して下さるそうで、ありがとうございます」
 愛原:「えっ?俺、何も聞いてないぞ!?何だ?善場主任から聞いたのか?」
 凛:「いえ。“青いアンブレラ”の人からですけど……」
 愛原:「“青いアンブレラ”!?」
 凛:「はい。そこの女の人からの電話です」
 愛原:「その女の人、高野って名乗ってなかったか?」
 凛:「あ、はい。そうです。昔、愛原先生と一緒にお仕事をなさっていた方だそうですね。愛原先生なら、喜んで引き受けて下さるので、期待していいということでした」
 愛原:「あ、そうなの……」

 高野くーーーーーーん!!

 高橋:「アネゴは一体、何考えてんスかねぇ……」

 高橋も火の点いていないタバコを咥えながら、ポカーンとしていた。
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