報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「春休み旅行前夜と当日」

2022-04-09 20:25:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月18日20:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 愛原:「明日は晴れるみたいだから、天気は明日に期待だな」
 リサ:「確かに。わたしは雨でもいいけど、先生達が大変だもんね」
 愛原:「最強のリサ・トレヴァーは雨でも平気ってか」
 リサ:「うん」
 愛原:「明日は思いっ切り楽しんでくれな?特に、絵恋さんとの思い出作りは大切だから」
 リサ:「サイトー、やっぱり転校しちゃうの?」
 愛原:「少しは気づいてたか?」
 リサ:「学校ではそういう噂だから。サイトーはそんなこと言ってないけど……」
 愛原:「まあ、言い難いさ。自分の責任で転校せざるを得ないのなら自業自得だが、父親の不祥事で地域や学校に居られなくなり、転出しなくてはならないんだから」
 リサ:「サイトーはどこに転校するの?」
 愛原:「まだ言えない。ただ、外国ではないが、どこか遠い地方ということにはなりそうだ。絵恋さんのお母さんのツテを使うんじゃないかな?」
 リサ:「そう、なんだ」
 愛原:「宿泊先のホテルは絵恋さんと2人一緒の部屋にしたから、存分ガールズトークを楽しんで」
 リサ:「分かった」

[現地時間3月19日02:00.天候:雨 ロシア連邦ウラジオストク市 某総合病院]
(ここは三人称です)

 雨の中、病院の建物の外側敷地内を巡回するのは……ただの警備員ではないようだ。
 警察官?あるいは軍人?のような者達が巡回している。

 警備隊員A:「そっちはどうだった?」
 警備隊員B:「ああ、異常無しだ」
 警備隊員A:「日本人達が収容されてから、こちとら残業続きだぜ。カンベンしてほしいよな?」
 警備隊員B:「それじゃ、代わりにウクライナに行くか?」
 警備隊員A:「カンベンしてくれよ」
 警備隊員B:「日本人は1人も脱走させるなって命令だけど、まさか上は日本人達のケガが治っても、この国から出さない気か?」
 警備隊員A:「さぁなァ……。上の考えてることなんか……」

 と、そこへ無線連絡が入る。

 警備隊長:「こら!何をサボッてるんだ!日本人を脱走させたら、ウクライナ行きだぞ!」
 警備隊員A:「さ、サーセン!」
 警備隊員B:「じゅ、巡回を再開するであります!」
 警備隊員A:「オマエ、向こうを見てきてくれ。俺はそっちを見て来る」
 警備隊員B:「ああ、分かった」

 警備隊員Aは警備隊員Bとは反対方向に歩いた。
 すると、背後から何かが倒れる音がした。
 それが人だというのは、それまでの勤務経験からしてすぐに分かった。

 警備隊員A:「どうした?」

 警備隊員Aが駆け寄ると、警備隊員Bは倒れた音がしたはずの場所にいなかった。

 警備隊員A:「B、どうした!?どこに行った!?」

 すると警備隊員Aの背中に、何かが刺さった。
 それは麻酔針であった。

 警備隊員A:「うっ……!」

 警備隊員達が倒れた後、飛び交う無線。

 特殊部隊員A:「館外の巡回員を始末した。これで館内に突入できる」
 特殊部隊員B:「こちらも守衛所を制圧した」
 HQ:「了解。館内への突入を許可する!」

 特殊部隊員達は複数個所から院内に突入した。

 HQ:「狙うは大日本製薬社長の斉藤秀樹だ!敵戦闘員以外の殺傷は固く禁ずる!」

 特殊部隊員達はヘルメットの下にガスマスクを着けていた。
 各病室には催眠ガスのボンベを投げ込んで行く。
 これで患者や職員達は眠らされ、余計なパニックを起こさずに済む。
 ただ尤も、皆が寝ている間に重篤患者の容体が急変したり、妊婦が産気づいた場合は【お察しください】。
 まあ、前者はそもそも意識不明の重体者なわけだから、院内で特殊部隊員が騒いでも気づくことはないだろうが。

 特殊部隊員C:「この病室だ!」

 特殊部隊員達が個室に突入する。
 そこには包帯でグルグル巻きにされた男性患者が横たわっていた。

 特殊部隊員D:「重傷患者を装っているとの情報だ。実際はほぼ軽傷だ!」
 特殊部隊員E:「確認させてもらう!」

 特殊部隊員達は、患者の包帯を引き剥がした。
 その下の皮膚は、全く傷が無い物だった。
 顔も隠すように包帯が全体に巻かれていたが、その下の顔も包帯など要らない程度の軽傷であった。

 特殊部隊員D:「斉藤秀樹だな!?」
 特殊部隊員E:「我々と同行してもらおう!」
 斉藤秀樹:「お、オマエ達、何者だ?」
 高野芽衣子:「斉藤社長、いえ、元社長、お久しぶりですねぇ……」

 本来なら『特殊部隊員F』とクレジットされる者が、ヘルメットとマスクを外した。
 その下には、斉藤秀樹も見覚えのある顔があった。

 秀樹:「た、高野芽衣子……いや、『エイダ・ウォン』か?」
 高野:「私は高野芽衣子ですよ。エイダ・ウォン氏みたいな、有名人ではありません」

 高野は再びマスクとヘルメットを着用した。

 秀樹:「まさかBSAAではなく、“青いアンブレラ”の御出座しとは……」

[日本時間08:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 愛原:「おはよう」

 私はいつもより、少しゆっくりめに起きた。

 高橋:「おはようございます。先生、大変なことが起きましたよ」
 愛原:「何が?」
 高橋:「テレビを観てください」
 愛原:「んん?」

 テレビを観ると、朝の情報バラエティをやっていた。
 しかし、速報が流れていた。
 またロシアとあったから、ウクライナとの戦闘で何か進展でもあったのかと思ったが違った。

〔「何度もお伝えしておりますように、今日現地時間の午前2時頃、ロシア極東部に位置するウラジオストク市内の病院に、謎の戦闘部隊が侵入する事件がありました。この病院には、日本でハイジャック事件に巻き込まれ、その後、ウラジオストク郊外に墜落した飛行機の日本人乗客達が収容されており、そこに入院していた斉藤秀樹容疑者が連れ去られました」〕

 愛原:「ええっ!?」

 因みに斉藤社長に対する逮捕状は昨日出た。
 昨日の夕方のニュースで報道されていた。
 なので、肩書も『元社長』から『容疑者』となった。

〔「戦闘部隊はロシア軍でもなければ、ウクライナ軍でもなく、所属は不明です。ただ、目撃者によりますと、隊員達は英語を話していたことから、西側諸国のどこかの部隊ではないかとみて、現地当局では確認を急いでいます」〕

 愛原:「斉藤社長、連れ去られたの!?」
 高橋:「すると……どこだ?ヴェルトロ?」
 愛原:「マジか!ヴェルトロが斉藤社長を助けに来たのか!?」
 高橋:「白井と斉藤社長は繋がっていたわけですよね?で、白井はヴェルトロと繋がってました。白井を通して、斉藤社長もヴェルトロと繋がっていて、『救助』されたのかもしれません」
 愛原:「マジかよ!」

 日本で逮捕状が出たことで、ヴェルトロが動いたというわけか……。
 と、私はこの時そう思っていた。
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“私立探偵 愛原学” 「旅行前日の注意事項」

2022-04-09 16:07:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月18日12:30.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 リサ:「ただいま」
 愛原:「おう、お帰り。修了式はどうだった?」
 リサ:「別に普通。でも、ちゃんとサイトーも来た」
 愛原:「そうか。お昼あるから、そっちで食べな」
 リサ:「うん」
 愛原:「午後からは善場主任が来るから」
 リサ:「ほお……」
 愛原:「ん?てか、絵恋さんは一緒じゃなかったのか?」
 リサ:「サイトーは実家の方に帰った。上野から宇都宮線で」
 愛原:「そうなのか。でも、出発は明日だぞ?」
 リサ:「うん。明日、サイトーは大宮から直接来るって」
 愛原:「ふーん……そうなのか」

 春休みだから、殆ど実家の方にいるのかもしれないと、普通は思うだろう。
 だが、私は真相を知っている。
 それをリサには伝えていないだけだ。

[同日13:00.天候:晴 愛原学探偵事務所]

 善場:「失礼します」

 13時ピッタリに善場主任が来た。

 善場:「無事、修了式は終わったようね。成績は?」
 リサ:「はい」

 リサは修了証を差し出した。

 善場:「フム。だいたい、上々の成績のようね」
 リサ:「赤点は1回も取ってない」
 善場:「それは良かった。だけど、音楽と美術の成績が中の下というのは、どういうことかしら?」
 リサ:「うーんとね……。『女ジャイアン現る!』とか、新聞部の新聞に書かれたことがある」
 愛原:「リサ、昔から音痴ですからねぇ……」
 善場:「う……!BSAAの報告によると、某国では歌を歌うBOWを開発しようとしたバイオテロ組織があったようです。もし完成していれば、その歌を聴くだけで、聴いた人間の脳幹を停止させる『Operation Hatsune Miku』が計画されていたようです」

 日本の偉大な発明、初音ミクを汚してんじゃねぇーっ!
 どこの悪の組織だ!?

 善場:「計画が始動する前にBSAAがアジトに突入し、その組織は壊滅することになりましたが」
 愛原:「それは良かった」
 善場:「もしかしたら、リサの歌声にもそのような兆候が現れているのかもしれません。一度、詳しく検査した方がいいかもしませんね」
 リサ:「えー?研究所ヤダー」
 善場:「美術は?」
 リサ:「人物画のテストを提出したら、再提出食らった!あの先生、芸術が分かってない!」
 善場:「そういうのは美大に行ってから発揮しなさい。高校までは、美術の基本を勉強する所よ」
 愛原:「そんなにヘタな絵を描いたのか?」
 リサ:「これ」

 リサは自分のスマホの画像を見せた。

 高橋:「うわ、何だこれ!?気持ち悪!」
 リサ:「タイトル!『もしもサイトーがゾンビになったら』」
 善場:「……ええ。私が教師でも、これは再提出させます」
 リサ:「風景画もあるよ。タイトル!『私が見た研究所』」

 研究所内を這いつくばる、四つん這いの化け物。
 リッカーか何かだろうか?

 リサ:「あとは『イケメンタイラント』」
 愛原:「どこがイケメンだ。のっぺりした顔じゃないか」
 善場:「……要は美的センスが人外であることが評価され、低い評定を付けられたのですね」

 それでも筆記試験は及第点で、授業にはちゃんと出席し、課題の提出も一応ちゃんとしていたということで、お情けで進級できるギリギリの成績にはしてもらえたようだ。

 リサ:「あとは『トイレの花子さん』」

 絵心自体は悪くないんだがなぁ……。
 『トイレの花子さん』に至っては、白い仮面さえ着けていなければ、普通の旧制服を着た女子生徒の人物画になっていただろう。

 愛原:「美術の成績が悪かった原因についても、研究所で調査しますか?」
 善場:「いえ、今の画像で大体分かりましたので、そこまでする必要は無いでしょう。歌唱能力についてのみ、調査することになるかもしれません」
 愛原:「なるほど」
 善場:「それより、今日は例の物を持って来ました」

 善場主任は鞄の中から封筒を取り出した。

 高橋:「おっ、『例のブツ』か?」
 愛原:「いいから、オマエはお茶をお出ししろ」
 高橋:「サーセン」

 封筒の中身は宿泊券だった。

 リサ:「おー!やっぱり熱海!」
 愛原:「行き先自体は昨日教えただろ」
 リサ:「うん!」

 善場主任の表向きの所属は、NPO法人デイライトだが、その実、日本政府直轄の某諜報機関である。
 つまり、国家公務員というわけだ。
 そんな国家公務員に対し、福利厚生等を行う組織がある。
 国家公務員共済組合連合会、通称KKRである。
 これは病院などの運営の他、宿泊施設の運営も行っている。
 善場主任は自分のツテを使い、そういう所を見つけて来たのだろう。

 善場:「リサの管理規定がある関係上、あまり遠方を御紹介するわけには参りません。ましてや今、東北方面は地震の影響で交通機関にも影響が出ている状態です。そこで、違う方向で御紹介させて頂くことになりました」
 愛原:「それが熱海というわけですか。ありがとうございます。でも、本当によろしいのですか?」
 善場:「愛原所長方におかれましては、私共の業務遂行に多大なるご協力を頂けました。そしてついに、黒幕が斉藤元社長であることも判明しました。愛原所長方が内偵をして下さったおかげです」
 愛原:「内偵と言っても、私達は大した調査はしていませんよ?」
 善場:「そんなことはありませんよ」

 しかし、善場主任は少し口元を歪めた。
 恐らく、私達が大した調査はしていないことが狙いだったのだろう。

 高橋:「でもよ、場所的にここでいいのか?」
 善場:「何がですか?」
 高橋:「ほら、リサを無条件で移動させていいのは関東地方までだろ?熱海ってのは静岡県だから、関東は抜けることになるんじゃねぇのか?」
 善場:「ああ、そういうことですか。具体的には、必ずしも関東地方内に収まる必要は無いんですよ」
 高橋:「どういうことだ?」

 善場主任は手持ちのタブレットを取り出した。
 そして、まずはJR東日本の『電車特定区間』を表示した。
 いわゆる『E電』と呼ばれる区域で、民営化までは『国電』と呼ばれていた所だ。

 高橋:「これが何だってんだ?」
 善場:「当初、申請無しでリサが移動できる範囲はここまででした」
 高橋:「そうなのかよ!?」
 善場:「具体的には中学生までですね。で、幸いにもリサは大きな暴走をすることはありませんでした。そこで高校に上がってからは……」

 今度は『東京近郊区間』を表示した。
 全部が全部というわけではないが、前者が通勤電車でしか行けない所までだったのに対し、今度は中距離電車で行ける距離にまで範囲が拡大された。
 『電車特定区間』だと熱海は範囲外であるが、『東京近郊区間』なら熱海はバッチリ入っている。

 善場:「このように拡大されました」
 高橋:「マジか!」
 善場:「もしもこのまま行ければ、高校在学中に『東京近郊区間』から『JR東日本全域』にまで拡大されるかもしれません」

 いずれにせよ、東海道新幹線はJR東海だから、申請しないと乗れないか。

 愛原:「でも、やっぱり電車は先頭車か最後尾なんですよね?」
 善場:「そうです。あくまでも無申請で良いというだけで、監視が付くことには変わりはありませんので」

 やはり、そう甘くはないか。
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