報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富士宮 富士の南を 突き抜けて」

2020-07-03 19:40:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日16:44.静岡県富士宮市 JR富士宮駅前→富士宮富士急ホテル 視点:稲生勇太]

 運転手:「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮駅前です」

 稲生とマリアを乗せた上りの最終バスは、無事に駅前ロータリーに到着した。
 乗客は数えるほどしか乗っていない。

 稲生:「マリア、着いたよ」
 マリア:「ん……」

 マリアは疲れているのか、一緒に座った1番後ろの席で寝落ちしていた。
 稲生に起こされて、一緒に席を立つ。

 稲生:「大人2人お願いします」
 運転手:「はい」

 稲生はICカードで運賃を支払った。

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「どうも」

 稲生はマリアの手を取ってバスを降りた。
 イリーナが待つホテルは、同じロータリー沿いである。

 稲生:「マリア、頑張って。もう少しでホテルだから」
 マリア:「Year...」

 ホテルに着くと、エントランスロビーにはイリーナと藤谷がいた。

 イリーナ:「やあやあ、無事で良かったよ」
 稲生:「先生こそ、御無事で何よりです。でも、マリアさんがちょっと疲れてて……」
 イリーナ:「ああ、分かってるよ。本当はこのまま東京に向かっても良かったんだけど、やっぱり明日向かうさね」
 稲生:「東京ですか」
 イリーナ:「ワンスターホテルさ。ちょうどキミ達がこの町に落ちた時くらいに、エレーナとアリスもそこへ逃げ込んだみたいなんだよ」
 稲生:「おー、エレーナも無事でしたか」
 イリーナ:「一応ね。アタシ達がハリアーとファントムと戦っていた時、あのコ達は何をしていたのか気になるだろ?」
 稲生:「確かに気になりますね」
 イリーナ:「アルカディアシティがどうなったのかも分からないし」
 稲生:「あっ!」
 イリーナ:「勇太君、できれば威吹君と交信してみてくれるかい?せめてサウスエンドくらいは無事であって欲しいものだ」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「まあ、まずはチェックインしよう。勇太君、一緒に来て」
 稲生:「はい」

 勇太がイリーナと一緒にフロントに向かっている間、マリアはロビーのソファに座った。

 藤谷:「大丈夫ですかい?顔色が悪いですぜ?」
 マリア:「大丈夫……ジャナイ」

 マリアは首を横に振った。
 自動通訳魔法具が作動しなくなり、マリアは自分で日本語を話さなくてはならなかった。

 イリーナ:「マリア、行くわよ」

 しばらくして、チェックインの手続きが終わった稲生とイリーナが戻ってくる。
 マリアは最後の気力を振り絞って立ち上がった。
 稲生が支えてあげる。

 藤谷:「また、夕飯の時間になったら迎えに来ます」
 イリーナ:「ええ、分かったわ。よろしくね」

 稲生はマリアの手を取りながら、イリーナは藤谷に軽く手を振りながらエレベーターに乗り込んだ。

 稲生:「アルカディアは壊滅しちゃったんでしょうか?」
 イリーナ:「何も情報が入って来ないのよ。『ベタン』という攻撃魔法があってね。局地的に高重力を発生させて敵を押し潰す魔法なんだけど、それを人工的に、しかも広範囲で起こす兵器をミッドガードは開発したみたいなの。爆弾という形でね。7番街を壊滅させたのもそれ。また、それを使われたみたい」
 稲生:「うー……何てことを……」

 エレベーターが稲生達の宿泊フロアに到着する。

 イリーナ:「ここに泊まることになった以上、今夜はゆっくりしましょう。アタシも疲れたわ。夕食は藤谷さんが奢ってくれるみたい」
 稲生:「まさか、ここで藤谷班長が登場するとは……」
 イリーナ:「ほら、マリア。こっちへいらっしゃい」
 マリア:「はい……」
 イリーナ:「あ、そうそう。もし勇太君に余裕があるのなら、後で富士宮駅まで行って来てくれない?」
 稲生:「と、仰いますと?」
 イリーナ:「明日、東京までの新幹線のチケットを買って来て欲しいの」
 稲生:「あ、はい。分かりました。ついでに、身延線の時刻も確認し……」
 イリーナ:「その必要は無いわ。どうやら藤谷さんが明日、新富士駅まで送ってくれるみたいよ」
 稲生:「明日も仕事でしょうに、いいのかなぁ……?」
 イリーナ:「藤谷さんは会社じゃ偉い人なんでしょ?それくらいできる権利を持っているのかもね」
 稲生:「まあ、確かに……」

 稲生はドアを開錠すると、シングルルームの中に入った。
 思わずベッドにダイブしてそのまま寝落ちしたい衝動に駆られたが、何とかそれを抑え込んだ。
 確かに1秒ごとに疲労がどんどん出てくる感覚に襲われている。
 マリアはそれが自分より早かっただけに過ぎない。
 一応荷物を置き、一息ついてから、イリーナとマリアの部屋に向かった。

 稲生:「先生、ちょっと駅まで行ってきます」
 イリーナ:「ああ、うん。よろしくね。これがカード」
 稲生:「マリア……さん、大丈夫ですか?」
 イリーナ:「ベッドに横になるなり、すぐ眠ってしまったわ。もしかしたら、朝まで起きないかもしれないわね」
 稲生:「そうですか」
 イリーナ:「夕食はアタシ達だけで行きましょう。その方が藤谷さんも負担は少ないだろうし」
 稲生:「分かりました」

 部屋の入口からベッドの方を見ると、窓側のベッドにマリアが寝ているようだった。
 クロゼットにはマリアのローブとモスグリーンのスカートが掛けてあり、椅子の上にはマリアが着けていた制服リボンと靴下が無造作に置かれ、魔法の杖が立てかけてある。
 どうやら着替える体力も残っておらず、取りあえずブラウスだけ着た状態で眠ってしまったようだ。
 しばらく見とれていたが、イリーナに目を細めたまま肩を叩かれた。

 イリーナ:「ほーら、早いとこ行きなさい」
 稲生:「あ、はい。行ってきます」

 ふと我に返った稲生は部屋を出た。
 そして、イリーナから預かったプラチナカードを財布にしまうと、再びエレベーターに乗り込んだ。

 稲生:(マリア、寝顔もかわいいな……)

 マリアの寝姿を拝んだだけで、自分のHPとMPが回復したような気がした。
 実際には変わらないのだが、ステータスとして数値化されない気力だけは回復したかもしれない。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「人間界に飛ばされて」 2

2020-07-03 15:25:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月27日02:00.魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ上空 視点:稲生勇太]

 ミッドガード軍のハリアーとファントムを撃墜させることに成功した稲生達は、急いでアルカディアシティに戻った。

 稲生:「ん!?」

 その時、急いで引き返してきたB-29と正面衝突しそうになる。
 ドラゴンのリシーツァがイリーナの命令無く、波動砲を吐いてその敵機を滅却してしまった。
 尚、波動砲と呼んでいるが、もちろんこれは“宇宙戦艦ヤマト”のあれではなく、超電磁砲(レールガン)から放たれるそれに似ている為、便宜的にそう呼称しているだけに過ぎない(レールガンを日本語で書くと超電磁砲だが、波動砲と書かれることもある)。

 イリーナ:「ちょっ……リシーちゃん、今のなに?」
 リシーツァ:「すまん。反射的に攻撃してしまった」
 マリア:「今の飛行機、さっきのB-29ですよね?」
 稲生:「エレーナが追い返したのかな?いや、まさか……」

 ドォォォォォ……ン!

 稲生:「うわっ!?何だ!?」
 イリーナ:「しまった!これは“ベタン”!リシーちゃん!引き返して!!」
 リシーツァ:「しょ、承知!」

 リシーツァが180度向きを変えて、今飛んで来た方向に進路を変える。

 マリア:「お、重い……!」
 稲生:「つ、潰される……!」

 リシーツァの高度が落ちて行く。
 旋回しつつも、水平飛行しているはずなのに。

 イリーナ:「り、リシーちゃん!上昇!上昇して!墜落する!」
 リシーツァ:「な……何だこれは……お、重い!上昇……不可能だ……!」
 イリーナ:「止むを得ないわ!このままだと潰される!人間界へ緊急離脱するわ!」
 マリア:「エレーナのヤツ、迎撃失敗したのか!」

 人間界にドラゴン連れて行くのは大変だと思うが、このままだと稲生達は『落ちてくる空』に圧死させられてしまう。
 イリーナは呪文を唱えた。

 イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!我々を人間界へ緊急離脱させよ!Emergency lu……!」

 ドォォォォォ……ン!

 第2派が襲ってくる。

 稲生:「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
 マリア:「!!!」

 その衝撃で稲生達はリシーツァから振り落とされた。

 イリーナ:「……ra!」

 直後にイリーナの魔法が発動した。

[7月2日15:00.静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺三門裏 視点:稲生勇太]

 作業員:「あの……大丈夫ですか?」
 稲生:「う……」

 稲生は目を覚ました。

 稲生:「こ、ここは……?」

 何だか見覚えのある場所だ。

 作業員:「大石寺の三門の前ですよ。何か物音がしたんで様子を見に来たら、あなたがいたんで……」
 稲生:「そ、そうでしたか。た、大石寺の三門!?」

 周りを見渡すと、そこは三門の裏だった。
 表側が国道側だとすると、稲生が今いる所は境内ということになる。

 作業員:「具合が悪くて倒れたんなら、救急車呼ぶけど……」
 稲生:「あ、いや……大丈夫です。すいませんでした……」

 稲生は起き上がった。
 恐らくここに落ちる時に擦りむいたであろう、小さな傷は体のあちこちにあった。

 稲生:「あの、この近くで女性を見ませんでしたか?外国人の……1人は金髪で、もう1人は赤毛なんですけど……」
 作業員:「いや、見なかったなぁ……」
 稲生:「そうですか……」

 魔法が発動する直前、リシーツァから落ちてしまったので、バラバラに飛ばされたのかもしれない。
 とにかく捜してみることにした。
 スマホを取り出し、これで2人の居場所を検索してみる。
 幸いマリアは同じ境内の、近くにいるようだ。

 稲生:「急ごう」

 しかし、イリーナは近くにいないようだ。
 取りあえず、先にマリアと合流することにした。

 稲生:「しかし、どうして大石寺に?」

 確かに稲生、魔法で飛ばされる直前、心の中で唱題した。
 なので仏法の加護が働いたとは思うが、それにしてもダイレクトで大石寺とは……。
 境内には信徒の姿は全く無かった。
 それもそのはず。
 元々何の行事も無い日であり、しかもまだそれが新型コロナウィルスで中止になっている期間だからだ。

 稲生:「マリアさん!」

 マリアは三門から北に向かい、内事部の近くの東屋にいた。

 マリア:「勇太!」

 マリアが泣きそうな顔をして、勇太にハグしてきた。

 マリア:「ここに飛ばされたから、きっと無事だと思ったけど……良かった……!」
 稲生:「マリア……。キミこそ無事で良かったよ」

 稲生はマリアを抱き返した。
 そして、少し離れる。

 稲生:「あとは先生だ。先生はどこに行ったんだろう?」
 マリア:「まさか、あのドラゴンと一緒に来たんじゃ?」
 稲生:「でも、僕のスマホじゃ検索できないんだ」
 マリア:「ちょっと待って。私が捜してみる」

 マリアが水晶玉を出した時だった。
 稲生のスマホが鳴った。

 稲生:「!? 藤谷班長からだ」

 反射的にスマホを取り出し、画面を見ると藤谷からの着信であった。

 稲生:「も、もしもし!?」
 藤谷:「おーっ、やっと繋がった!今どこにいる?!」
 稲生:「大石寺です!ちょっと、事情があって……」
 藤谷:「大石寺か!やっぱりイリーナ先生の仰った通りだ!」
 稲生:「イリーナ先生、藤谷班長の所にいらっしゃるんですか!?」
 藤谷:「うちの会社、富士宮にも営業所があるのを知ってるだろ?近くにヘリポートもある営業所だよ」
 稲生:「はい、知ってます」
 藤谷:「そこに3日前、落ちて来たんだよ」
 稲生:「3日前ですか!?……えーと、先生お1人で?」
 藤谷:「そうだ。3日後に弟子達が市内に落ちてくるから、しばらく待たせくれって言うから、ホテルを紹介したよ。まさか、営業所の仮眠室に偉い先生を住まわせるわけにはいかないからな」
 稲生:「確かに……」

 そこで稲生はマリアをチラッと見た。

 マリア:「?」

 マリアなら、『師匠はそんなの気にしない』とか言いそうだが、稲生は藤谷の気持ちの方が理解できた。

 稲生:「僕達、すぐに向かいます。どこのホテルですか?……分かりました」

 稲生は藤谷に礼を言うと、電話を切った。

 稲生:「マリアさん、先生の居場所が分かりました。急ぎましょう」
 マリア:「ちょっと待って。……Care lu la」

 マリアは稲生と自分に回復魔法を掛けた。
 これでいくつもの擦り傷が塞がった。

 稲生:「さすがマリア。ありがとう」
 マリア:「どうやって行くの?」
 稲生:「少し歩くけど、向こうの県道からバスが出ている。それで市街地まで行けるよ」

 稲生はマリアの手を取ると、大石寺をあとにした。

 稲生:「お護り頂き、ありがとうございました」

 裏門から出る時、境内の方を向いて御題目を唱えるのは忘れない。
 もちろん、信徒である稲生だけが行った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする