報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京へ出発」

2020-07-05 21:14:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日07:00.静岡県富士宮市 富士宮富士急ホテル 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 ベッドに内蔵されているアラームが鳴り響く。

 マリア:「n...」

 マリアは手を伸ばしてアラームを止めた。

 マリア:(何か……久しぶりに長い時間寝た気がする……)

 隣のベッドのイリーナを見ると、アラームが鳴ったにも関わらず、全く起きる様子が無かった。

 マリア:(師匠は……まあ、後で起こそう)

 マリアは欠伸をしながらバスルームに向かった。
 今度は朝の身支度を始める。

 マリア:(ここからどうするんだろう?屋敷に帰るのか?それとも、もう1度魔界に行くんだろうか……?)

 魔界に行くとなると、マリアはそろそろ億劫になってきた。
 元々は課題を達成しに行ったはずなのに、いつの間にか戦争に巻き込まれてしまったのだ。
 それでも魔界を拠点としているのなら、立ち向かわないといけないだろう。
 しかし、イリーナ組は人間界を拠点としている。
 大師匠ダンテから命令されたのならまだしも、そこまで首を突っ込まなくても良いではないかと思った。
 こんな風に思ってしまうのも、“怠惰の悪魔”ベルフェゴールと契約しているからだろうか。
 悪魔としては戦争で死んだ人間の魂を食らうことができて、さぞかしウハウハなのだろうが。

 マリア:「?」

 トイレや洗顔等を済ませ、再び客室に戻ると、ライティングデスクの上に置かれたイリーナの水晶玉が光っているのが分かった。
 ケータイと同じ、『着信あり』の意味である。

 マリア:「何だ何だ?」

 マリアが水晶玉に手を翳すと、水晶玉に映ったのはアナスタシア。

 アナスタシア:「イリーナ、また寝てるのね!まあ、いいわ。魔界から速報よ。アルカディア国防軍がミッドガードに一斉攻撃を開始したわ。もちろん、侵略じゃなく、アルカディアシティを半壊滅させられた報復よ。向こうは大統領が死んで統帥権が曖昧になってるから、応戦もできないかもね。それと……」
 マリア:「アルカディア……半分壊滅しちゃったんだ……」

[同日08:00.同ホテル1Fレストラン 視点:稲生勇太]

 稲生:「おはよう、マリア。体の具合、どう?」
 マリア:「おかげさまで、もうバッチリ。悪かったね。たっぷり寝かせてもらって」
 稲生:「いやいや、いいんだよ。元気になって良かった。……先生は?」
 マリア:「師匠はいつもの通り、『あと5分』を1時間弱繰り返していたので放っておいた」
 稲生:「あはは……」

 稲生は乾いた笑いを浮かべた。

 稲生:「とにかく、朝食にしよう。マリア、お腹空いたでしょ?」
 マリア:「早く食べたい。こういうホテルは食べ放題でしょ?」
 稲生:「……だったんだけど、コロナ禍の影響で定食形式になったみたい」
 マリア:「マジか」

 それでもマリアにとっては、十分な量だったと思われる。
 まあ、腹八分目と言うし……。

 マリア:「確か、チェックアウトは9時半くらいだっけ?」
 稲生:「そう。藤谷班長が車で新富士駅まで送ってくれるって」
 マリア:「あー、何かそんな話を聞いたことがあるような気がする。何か……夢の中で聞いたような感覚なんだ」
 稲生:「そうなの?」
 マリア:「いや、夜中に1度目が覚めたから、そのせいだと思うけどね」
 稲生:「そうなんだ。で、新富士駅から新幹線で東京まで行くよ。その後で、ワンスターホテルだって」
 マリア:「やっぱり魔界に行くのか?」
 稲生:「分かんないね。エレーナの他に、アリスも泊まってるみたいだから」
 マリア:「アリスが?」
 稲生:「まあ、エレーナのことだから、何か報酬をもらう約束でもしてたんじゃないの?」
 マリア:「あいつなら有り得るけどね」
 稲生:「アルカディアシティで爆撃機と戦ったのはエレーナ達なわけだから、先生が直接状況を聞きたいんだってさ」
 マリア:「なるほど。情報の内容次第では、魔界に行くわけか……」
 稲生:「どうしたの?魔界に行きたくないみたいだね?」
 マリア:「うん、何かもう魔界はお腹いっぱい」
 稲生:「しっかりしてよ。僕は威吹のことが心配なんだ」
 マリア:「あー、そうか……」

 マリアはアナスタシアのメッセージを稲生に言うかどうか迷った。
 しかし、やはり言うのはやめた。
 言ったら余計に稲生は不安がるだろうし、何としてでも魔界に行こうとするだろう。

[同日09:30.同ホテル→藤谷の車 視点:稲生勇太]

 さすがに9時ぐらいに、マリアはイリーナを起こした。
 どのような感じで起こしたのかは、【お察しください】。

 フロント係:「ご利用ありがとうございました」
 イリーナ:「どうも、お世話さま」

 チェックアウトの手続きをする。

 藤谷:「それじゃ、車回してきたんで、どうぞ」

 藤谷の先導でホテルの外に出る。
 ホテルの外では、藤谷のベンツGクラスが止まっていた。

 稲生:「お邪魔しまーす」

 稲生は助手席に乗り込んだ。
 イリーナとマリアはリアシートに乗り込む。

 藤谷:「それじゃ、出発します」
 イリーナ:「よろしくね。それじゃ、着いたら起こして」
 マリア:「師匠、せっかく久しぶりに富士山が見えるのに……」
 イリーナ:「あー、残念ね。今日はこれから雨よ」

 確かに外は曇っている。

 イリーナ:「日本は今、雨期だからね」
 稲生:「梅雨って言うんですよ、先生」

 車が走り出して、まずは国道139号線に向かった。
 そこに出て、あとはバイパスの西富士道路に出れば富士市はすぐだ。

 イリーナ:「今日は雨が強く降るから、もしも工事があるのなら、十分気をつけてね」
 藤谷:「さすが先生ですね。ありがとうございます」

 赤信号で止まると、藤谷は助手席に座っている稲生に聞いた。

 藤谷:「新幹線の時間、何時だ?」
 稲生:「10時13分発の“こだま”706号です」
 藤谷:「余裕だな。何だ?それは新型の車両か?確か、N700……」
 稲生:「Sですね。N700S」
 藤谷:「ああ、そう。それ」
 稲生:「いや、多分“こだま”には充当されないんじゃないですか。暫くの間は」
 藤谷:「そうか。そいつァ残念だったな」
 稲生:「いえいえ。N700Aに当たれば御の字ですよ」
 藤谷:「よく分からんが、まあ大聖人様に御祈念しといてくれ」
 稲生:「はい」

 そんなことを話していると、イリーナの予言通り、フロントガラスに雨粒が当たり始めた。
コメント
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