報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「橘丸」 出港前

2020-07-31 20:09:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日22:15.天候:曇 東京都港区海岸 竹芝客船ターミナル→東海汽船 橘丸船内]

 改札が始まり、私達乗客は係員の案内でタラップへ向かった。
 途中で係員が乗船券の改札をしている。
 半券をちぎって、残りの券を渡してくる。
 いわゆる、『モギリ』である。

 斉藤:「荷物を載せてるのね」

 タラップからはコンテナを積み込むシーンを見られる。

 愛原:「これは貨客船だからね。乗客も貨物も一緒に運ぶ船なんだよ」

 貨物船であっても、12名以下なら乗客を乗せても良いことになっているが、今の時代はあまり一般的ではない。
 但し、2017年、アメリカのルイジアナ州の片田舎で起きたバイオハザード事件は、貨物船でBOWエヴリンの運搬中にそれが暴走したのが発端らしい。
 バイオテロ組織は、貨物船に便乗した乗客を装っていたという。
 リサもそうだがエヴリンもまた、完全に人間の少女に化けたBOW。
 私達がこうしてリサを貨客船に乗せようとしているのと同様、彼らも貨物船に便乗したというわけだ。

 リサ:「うっ……!」

 その時だった。
 クレーンがコンテナを船に積み込むところを見ていたリサが、突然呻いて頭を抱え、ふらついた。

 愛原:「リサ!?」
 リサ:「うぅう……」

 どうやら何かフラッシュバックが起き、それで激しい頭痛を起こしたらしい。
 リサはエヴリンと違い、元人間。
 非人道的な改造実験を受けた際、人間だった頃の記憶の殆どを失ってしまった。
 だが、失われたはずの記憶とリンクするような所があると、こうしてフラッシュバックを起こすのである。

 愛原:「大丈夫か、リサ?」
 リサ:「……大丈夫……問題無い……」
 斉藤:「リサさん?」
 リサ:「早く乗ろう」

 私達は係員に乗船券を渡し、部屋番号の書かれた半券を返された。

 係員:「船内の案内所で鍵をもらってください」
 愛原:「あ、はい」

 タラップを渡って船の中に入る。
 船内は明るくてきれいだ。

 愛原:「えーと……案内所はあそこか。ちょっと待ってて」
 斉藤:「はい」

 私が案内所に行くと、他にも特1等の乗客や特等の乗客が鍵を受け取っていた。
 特等の乗客は老夫婦で、もしかしたらこの人達が先に予約してしまった為、斉藤社長は特等を押さえることができなかったのかもしれない。
 だけど、それで結構。
 本来なら2等か特2等で十分なくらいなのに、特1等とは……。

 船員:「お客様のお部屋は5階になります」
 愛原:「分かりました」

 このフロアは4階になる。
 なので、ワンフロア上だ。

 愛原:「お待たせ。それじゃ、上に行こう」
 リサ:「はーい!」

 さっきまでのフラッシュバックはどこへやら。
 リサと斉藤さんはバタバタと階段を上って行った。

 愛原:「こらこら!鍵が無いと入れないぞ!」

 私は先に上に上がったリサ達をたしなめる。

 リサ:「先生!早く、早くぅ!」

 リサは階段の手すりに掴まりながら、階段の途中でしゃがみこんだ。
 その際、裾の短いスカートの中が見えてしまう。
 薄いピンク色のショーツが見えた。
 リサのヤツ、オーバーパンツ穿いてないのか?
 あれほど高野君に穿くよう言われてたのに……。

 愛原:「リサ、立って!見えてる」
 リサ:「はーい……。サイトーも先生にパンツ見せてあげて」
 斉藤:「うん。……って、ええっ?!」
 愛原:「こらっ!」
 斉藤:「『見せパン』穿いてますけど、いいですか?」
 愛原:「斉藤さんも真に受けない!」

 斉藤さんはちゃんとオーバーパンツ穿いてるんだな。
 今日日の女の子はそれが普通なんだろう。
 穿いておらず、パンチラ上等なのはAVとかエロコンテンツ限定なのが現実と思われる。

 愛原:「リサ、高野君に怒られるぞ」
 リサ:「高野さん、今日いないし」
 愛原:「そういう問題じゃない!」

 学校に行く時はちゃんと穿いていくのに……。
 といっても、体操着として穿くスパッツであるが。
 私が中学生の頃まで、女子はブルマーだったが、今は全廃されてスパッツになっている。
 体育の時とかは、その方が着替えも楽だろう。
 しかしリサのヤツ、あまり重ね穿きは好きではないのか、学校から帰って来ると、制服より先にスパッツを先に脱いでしまうのだ。
 ……と思ったら、斉藤さんちに遊びに行く時は、私服用のオーバーパンツを穿いて行くんだよなぁ。
 まあ、BOWになって感覚が人間とは違うようになってしまったから、何かあるんだろうな。

 愛原:「えーと……ここか」

 気を取り直して船室に向かう。
 途中で1等船客以上の者しか入ることを許されないエリアに入る為の自動ドアを通り抜けた。
 1等以上を上級船客、特2等以下を下級船客と分けているらしい。
 私達はもちろん前者だ。

 愛原:「ここが今宵の牙城だよ」
 リサ:「わぁ!」
 斉藤:「リサさん、どこで寝る!?」
 リサ:「先生はどこで寝る!?」
 愛原:「そうだなぁ……」

 そこで私はふと気づいた。
 要はここ、4人用個室じゃないか。
 男の私が一緒に寝泊まりしていい場所か?
 この前の研修センターだって、男女別だったというのに。

 愛原:「やっぱ俺、2等で寝るわ。多分、まだ席空いてる」
 霧崎:「は?」
 リサ:「えーっ!?何で何でー!?」
 愛原:「いや、キミ達はここでいいよ。しかし、男の俺がキミ達と同じ部屋で寝るのは……」

 一応、ベッドにカーテンは付いている。
 この前の研修センターの2段ベッドもそうだったが。

 愛原:「ねぇ、霧崎さん?こんなオッサンが同じ部屋なんて気持ち悪いよな?」
 霧崎:「私は一介のメイドです。御嬢様の御意向に従います」
 斉藤:「わ、私はリサさんの御意向に従います」
 リサ:「私は先生と一緒の部屋がいい。だから問題無い。サイトーもいいよね?」
 斉藤:「り、リサさんの御意向に従います」
 霧崎:「私は御嬢様の御意向に従います」
 リサ:「じゃ、決まりってことで」

 リサはニヤリと笑った。
 完全に人間の姿をした第0形態のはずだが、何故か口元に牙が覗いたように見えた。
 お、おかしいな?
 引率者は私のはずなのに、いつの間にかリサに主導権を奪われた感がしてしょうがない。
 さすがは大ボスも張った上級BOWリサ・トレヴァーの日本モデル改良版。

 愛原:「お、俺は上段でいいよ」
 リサ:「じゃ、私も上段」
 斉藤:「わ、私も!」
 愛原:「狭い狭い!」
 霧崎:「御嬢様方は下段へどうぞ」
 愛原:「ほら!メイドさんもそう言ってるぞ!」
 リサ:「私、下で寝る。先生の下」
 斉藤:「わ、私もリサさんと同じ……」
 霧崎:「御嬢様はそちらのベッドでお休みください。後々、旦那様への報告が大変なことになりますので」
 斉藤:Σ(゚Д゚) 「わ、分かったわよ。そっちで寝るわよ……」

 父親の存在が出ると、斉藤さんはおとなしく従った。
 私には柔和な斉藤社長だが、会社や家庭ではとても厳格な人物として振る舞っているらしい。
 そうこうしているうちに、船が揺れ始めた。
 どうやら出港したようである。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「竹芝客船ターミナル」

2020-07-31 16:07:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日21:30.天候:雨 東京都港区海岸 ゆりかもめ竹芝駅→東京港竹芝桟橋]

〔まもなく竹芝、竹芝。川崎重工東京本社前です。お出口は、左側です〕

 私達を乗せた“ゆりかもめ”は、無事に竹芝駅に到着した。
 この辺りまで来ると、帰宅ラッシュで混んでいる。

〔竹芝、竹芝。2番線は、新橋行きです〕

 電車を降りて、エスカレーターに向かう。

 愛原:「レインボーブリッジ、どうだった?」
 リサ:「あのスピードなら、ネメシスに追い付かれそう」
 愛原:「そこなんだ!」

 “ゆりかもめ”の最高時速は60キロ。
 レインボーブリッジは道路としても線形良いので、下層部を走る一般道でも、自動車はもっと高速で走る。
 その為、高橋曰く、『サツのボーナス商戦っス』とのこと。
 つまり、スピード違反の取り締まりをしやすいので、警察官も手柄を立てやすく、それがボーナスに反映されているという嫌味だろうか。
 さすがは元暴走族だ。

 愛原:「ネメシスってそんなに足が速いんだ」
 リサ:「タイラント君がそう言ってた」
 愛原:「まあ、日本にはいないと思うけど、もし襲って来たら、リサよろしくな?」
 リサ:「ん、任せて!八つ裂き、肉塊、塵芥にする!」
 愛原:「う、うん。実に頼もしい」

 駅を出て竹芝客船ターミナルに向かう。

 愛原:「それじゃ、乗船券を買ってくる」

 私は予約番号の書かれたメモ帳を手に、窓口に向かった。
 すぐには窓口に行けず、先客が終わるのを待つ必要があった。
 窓口の上には、これから乗る客船、橘丸の案内があった。
 2等船室はもちろん、1等船室でさえカーペットで雑魚寝のようだぞ?
 まあ、1等の方が定員も少なくて、1人当たりのスペースは広く取られているんだろうけど。
 果たして斉藤社長は、どこのクラスを予約してくれたんだろう?
 まさか、禿頭……もとい、特等なんてことは無いよな?
 写真で見る限り、シティホテルのツインルームみたいな部屋だぞ?

 係員:「いらっしゃいませ」
 愛原:「すいません。今日乗船で予約した者ですが……」

 窓口が空き、そこに向かう。
 私は予約番号を見せながら言った。

 係員:「特1等4名様で御予約の愛原様ですね」

 特1等!?
 私は窓口の運賃表を見た。
 それは特等の次に高い等級であった。

 係員:「それでは運賃の方が……」
 愛原:「す、すいません。カードで……」
 係員:「はい、ありがとうございます」

 う、うん、クレカが使えて良かった。
 因みに購入したのは片道だけ。
 往路はどういった形になるか、高橋と合流しないことには分からないからだ。
 八丈島なら、これから乗る船だけでなく、飛行機もある。
 しっかり領収証をもらって、後で斉藤社長に請求しないと……。

 係員:「それではこちらの乗船票に必要事項を記入してください」

 航空チケットのようなものが出されたと思ったら、半券部分に何か記入しないといけないらしい。
 そこは航空チケットと違うか。

 愛原:「ん?リサと斉藤さんは?」
 霧崎:「お手洗いに行かれました」

 ロビーのベンチに霧崎さんが1人でいた。
 どうやら、荷物の見張りで残っているらしい。

 愛原:「乗船票に名前とか、書かないとダメらしいんだ」
 霧崎:「それでは私が御嬢様の分まで記入します」
 愛原:「ああ、頼むよ」

 斉藤さんが絡めば楚々としたメイドさんなのだが、それ以外だとシリアルキラーの様相を見せる。
 記入台で私は自分のとリサのを記入した。
 それにしても……。
 本来は、連休前の夜なのだから、もっとターミナルは賑わってもいいはずだ。
 しかし、今はこんなものなのかといったほどに空いている。
 伊豆諸島は夏場が観光シーズンのはずだが、コロナ禍で海水浴場がオープンできないというのが大きいらしい。
 ガラガラというわけではないのだが、しかし思ったよりも空いている。
 私はつい、コロナ禍前のバスタ新宿みたいな感じを想像していただけに、そこは肩透かしといった感じである。

 リサ:「先生」
 愛原:「ああ、リサ。これ、乗船券な。船に乗る時に、係員にこの乗船券を渡すことになるから、これは1人ずつ持とう」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「父はどこのクラスを予約しましたか?」
 愛原:「特1等だそうだ」
 斉藤:「ああ。あの2段ベッドの部屋ですね」

 斉藤さんは窓口の上の写真を指さした。
 確かに写真で見る限り、2段ベッドが左右に設置されていて、奥にテレビや椅子やテーブルが設置されているようだ。

 斉藤:「特等じゃなくて申し訳ないです。父がケチったんですね。後で言っておきます」
 愛原:「いや、いいよ!俺なんか2等でいいくらいだったのに!」

 もし今回の目的が、ただ単に高橋を追い掛けるというだけだったら、そうしていただろう。
 奮発しても、まるでブルートレインのB寝台車みたいな構造の特2等といったところか。

 愛原:「それに、写真で見る限り、特等は2人部屋っぽいよ。俺達、4人だしな」
 斉藤:「それもそうですね」
 リサ:「先生、あそこでちょっと買い物してきていい?」

 リサはターミナルに併設されているヤマザキショップを指さした。
 バスタ新宿にあるのはファミマだが、ここはヤマザキショップらしい。

 愛原:「ああ、いいよ」

 他にも伊豆諸島のお土産なども扱ったアンテナショップもあるようだ。

 愛原:「霧崎さん、ちょっと俺もトイレに行って来る」
 霧崎:「どうぞ」

 私はトイレに向かった。
 表向きは用足しであるが、他にもある。

 木村:「もしもし?」
 愛原:「ああ、木村君?さっきメッセージくれたよね?」
 木村:「あ、はい!」

 高橋の友人の木村に電話した。

 愛原:「何か情報が?」
 木村:「はい。マサのヤツ、八丈島から別の島に渡ったらしいっス」
 愛原:「それは青ヶ島かい?」
 木村:「いえ、違います」
 愛原:「違う?八丈島から、青ヶ島以外に何かあったっけ?八丈小島か?」
 木村:「いえ、それとは全く違う別の島です」

 私は木村君から初めて聞く島の名前を聞いた。

 木村:「俺達も信じられなかったんスけど、どうネットとかで調べても、消去法的にその島しかないんス」
 愛原:「そうなのか」
 木村:「センセー、探偵じゃないスか。その辺はセンセーの御力で調べてもらって……」
 愛原:「分かったよ。ありがとう」

 私は電話を切った。
 幸い離島なら、港を押さえれば大丈夫だ。
 八丈島には空港もあるが、無名な小島に空港があるとは思えない。
 つまり、高橋は八丈島のどこかの港からその島に船で渡ったのだ。
 これまた幸いなことに、コロナ禍で、そもそも観光客自体が少ない。
 ましてや、高橋が渡った島は観光地ではないだろう。
 そこで聞き込み調査でもすれば、すぐに見つかると思った。
 それにしても高橋、マジで一体何から逃げてるんだろうなぁ……?
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