報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「雨の東京駅」

2020-07-16 20:15:09 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月5日17:30.東京都千代田区丸の内 丸の内中央ビル2F・スタバJR東京駅日本橋口店 視点:稲生勇太]

 JR東京駅で最も北部に位置する出入口。
 JRバスなどの高速バスの到着ターミナルがあり、駅構内入ってすぐの広場は団体ツアーの待ち合わせ場所として使用されている。
 もっとも、このコロナ禍においては、かつて団体客でごった返していた頃の面影は全くと言って良いほど見当たらない。
 そんな広場やバスターミナルを見下ろす位置に構えているスタバ。
 そこに稲生とマリアはいた。
 地下街でのショッピングを終え、イリーナを待つべく、ここで時間を潰している。
 ここから霞ケ関まで向かう高級車に乗ったのだが、到着もここだと知らされていたからだ。
 外はあいにくの雨。
 未だ梅雨が続いていることを物語っている。
 この雨で新型コロナウィルスを洗い流してもらいたいものだが、実際に屋外の壁や地面に付着したウィルスは雨で洗い流せるらしい。
 しかしその自然の力を持ってしても、未だにウィルスの猛威は収束の兆しを見せることはない。

 稲生:「今のナレーション、先生の名前が出て来なかったら、まるで、とある探偵さんの日記みたい。バイオハザードと戦うヤツ」
 マリア:「収束するか、その兆しが見えた所で続きを始めたかったんだけど、なかなかそうならないから、始めるに始められないらしいよ?」

 雲羽:「あ~、早くコロナ終わってくんねぇかなぁ……。愛原学、書けねーよ……」
 AD:「シッ!カントクの声が入ってしまいます」
 雲羽:「こんなんで、本当に“バイオハザード8”出せるんかね?」
 AD:「知りませんよ!」

 マリア:「久しぶりにショッピングしたら疲れた……」
 稲生:「マリア、楽しそうだったね」
 マリア:「そりゃもう。いつもは屋敷で引きこもりだからねぇ……」
 稲生:「今すぐ使わない物は後で送れるから便利だ。どうせ届けに来るの、エレーナに決まってるだろうけど」
 マリア:「リリィにも手伝わせるかもね」
 稲生:「あー、そうかも」

 リリィもホウキ乗りになるらしく、エレーナの指導を受けてホウキを乗りこなす訓練をしているそうだ。
 地下街は東京駅一番街だけでなく、八重洲地下街にも向かった。
 マリアは自分の服(主に室内着)の他、新しい下着も購入した。
 さすがにそういう女性下着店にまで稲生は入って行けなかったが、マリアと入れ替わりに入って来た日本人女性と思われる客が、普通に彼氏らしき男性を連れて入ったのには驚いた。
 稲生が買い物したのはスマホ関係。
 充電器とかスマホカバーとかSDカードとか。
 あと、これはマリアの提案なのだが、ヘアーサロンにも行った。

 稲生:「すっかり忘れてたけど、おかげでサッパリした」
 マリア:「魔道士になると、髪の伸びも遅くなるから、ついつい忘れがちになるんだよね」
 稲生:「そういえばそうだ」
 マリア:「で、気が付いた時には結構伸びてたりとか」
 稲生:「確かに」
 マリア:「魔道士の中には、魔獣に対し、スポット契約の報酬に自分の伸びた髪の毛を切って渡すというのもあるみたいだよ」
 稲生:「そうなんだ」
 マリア:「中には魔道士の血肉を欲しがる魔獣とかいる。でもそんな要求、真に受けてたら、命がいくつあっても足りないからね。自分の血をコーヒーカップ半分の量とか、さっきみたいに髪の毛とか、そういう所で妥協してもらう交渉とかするよね」
 稲生:「なるほど……。! そ、そういえば……」

 稲生はかつて一緒に暮らしていた妖狐の威吹を思い出した。

 稲生:「あいつも最初は僕を食べる気満々だったんだよなぁ……。『霊力の高い人間の血肉を食らえば、その分、自分の妖力向上に繋がる』とか言って」
 マリア:「妖怪の考えることは、洋の東西を問わないみたいだね」
 稲生:「そうみたいだ」

 そんなことを話していると、ロータリーに黒塗りのセンチュリーが止まった。
 リアガラスがスモークではなく、白いレースのカーテンであることから、政治家の車っぽい。

 稲生:「先生が到着されたみたい」
 マリア:「よし。早速行こう」

 稲生とマリアは飲んだコーヒーの紙コップや、スイーツの皿を片付けると、階段を急いで下りた。
 上がるのにはエスカレーターがあるが、下るのは階段しか無い。

 議員秘書:「どうぞ、先生」
 イリーナ:「ありがとう」

 助手席に乗っていた議員秘書が先に降りて、後ろから降りたイリーナに傘を差し出す。
 日本橋口には屋根が無いので、雨の日はバスやタクシー、ハイヤーを降りたら急いで駅講内にダッシュしないといけない。

 稲生:「先生、お疲れさまです」
 マリア:「仕事は終わりですか?」
 イリーナ:「やっと終わったよォ……。久しぶりに働いたねぇ……」
 議員秘書:「本日はありがとうございました。どうかお気をつけて」
 イリーナ:「見送り、ありがとう」

 駅構内に入る。

 マリア:「報酬とか、相当稼いだんじゃないですか?」
 イリーナ:「内緒よ。それより、買い物は済んだ?」
 マリア:「はい。おかげさまで」

 マリアはイリーナにゴールドカードを返却した。

 イリーナ:「髪を切ったのね。うん、特に大きく髪形は変えず、毛先を揃えてカットしてきれいにしたってところか」
 マリア:「勇太が、この髪形が好きなので」
 イリーナ:「そうかい?私もプラチナかブランドに染めようかねぇ……」
 マリア:「ジンジャーは御嫌いですか?」

 白人と一口に言っても、マリアのようなブロンドもいれば、エレーナのようなイエローもいるし、イリーナのような赤毛もいれば、アナスタシアのような黒髪もいる。
 で、この中で一番コンプレックスを抱きやすいのは赤毛だという。
 実際、“赤毛のアン”でも、主人公が自らの赤毛に対してコンプレックスを抱いている発言がある。
 で、その赤毛の女性に対して、『ジンジャー』というあだ名が付くのも、それが理由だ。

 稲生:「僕は先生の赤毛、素敵だと思います」
 イリーナ:「おお~!勇太君がそう言うなら、このままでいいかね!」
 マリア:「勇太の発言でキャンセルするなら、迷わないで……」

 マリアはイリーナに苦言を呈そうとしたが、ふとあることに気が付いてそれを引っ込めた。

 マリア:(私も髪形を変えようかどうか悩んだ時、勇太が『このままでいい』と言ってきて、何故かそうしなくちゃって思ったんだ。何だろう、これ……?)
 稲生:「先生、そろそろ乗り場に行きましょう」
 イリーナ:「あー、そうだね。案内よろしく」
 稲生:「はい、こっちです」

 3人の魔道士は八重洲北口改札に向かった。
 日本橋口にも改札口はあるが、東海道新幹線はともかく、それ以外の新幹線乗り場にはホームへ上がるのに階段しか無い為、イリーナに気を使ってのことだった。

 ベルフェゴール:「少しサービスしてるのかい?アスモ」
 アスモデウス:「あの契約者、稲生勇太ってコ、素晴らしいわよ。もうそろそろ『言霊』を発するだけで、女の言う事を聞かせるくらいの力を持ってる。これは将来面白いことになりそうよ」

 英国紳士の姿に化けた悪魔ベルフェゴールと、キャバ嬢の姿に化けている悪魔アスモデウスは、そんなことを話しながら魔道士達の後ろを歩て行った。
コメント (8)
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“大魔道師の弟子” 「イリーナの仕事」

2020-07-16 15:29:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月5日10:30.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

 東京駅に到着した稲生達は東京駅の構内に入った。
 そして、そのままJR東海の『JR全線きっぷ売り場』に向かおうとした。
 実はJR東日本の“みどりの窓口”よりも近い所にあり、機能的にはJR東海版“みどりの窓口”(というか、まんまそれ)なので、そこでもJR東日本のキップは買えるからだ。
 しかしそこで、稲生達は思わぬ歓迎を受けた。

 政治家秘書:「イリーナ先生の御一行様ですね!?」

 30代ほどのスーツを着た男が前に現れた。
 名刺を両手に、恭しくロシア語で挨拶してくる。
 男は、とある政権与党に所属する国会議員の秘書を名乗った。

 政治家秘書:「先生の御噂はかねがね伺っております!」

 男は自分が秘書を務める国会議員から、是非ともイリーナと会いたい旨を伝えるよう命令されてここに来たことを申し出た。

 イリーナ:「英語で結構」
 秘書:「で、では!?」
 イリーナ:「あなたの『先生』はどこにいらっしゃるの?」
 マリア:「師匠、私達はこれから……」
 イリーナ:「ついでにちょっと稼いでから帰りましょうよ」
 稲生:(プラチナカード使い過ぎた?まさかね……)
 秘書:「ありがとうございます!日本橋口に車を待たせてありますので、ご案内させて頂きます!」
 イリーナ:「このコ達もいい?私の弟子なんだけど……」
 秘書:「はい、もちろんです!」

 イリーナ達を待ち構えていた以上、稲生やマリアも同行していることは把握済みなのだろう。

 稲生:「先生、もう一泊されるんですか?それとも、夕方の新幹線とか?」
 イリーナ:「夕方の新幹線でいいわ」
 稲生:「分かりました」

 稲生はスマホを取り出した。

 マリア:「勇太、歩きスマホはダメだよ」
 稲生:「おっと、そうでした。先に帰りの新幹線を予約したいんですけど、いいですか?」
 秘書:「後で私共の方で御用意させて頂きます」
 イリーナ:「グランクラス以外でお願いね」
 秘書:「グランクラス以外ですか」
 イリーナ:「ファーストクラスは、私の先生が乗るの」
 秘書:「あの大先生も御来日で!?」
 イリーナ:「コロナ禍でそんなのムリに決まってるじゃない」
 秘書:「し、失礼しました!」
 稲生:(大師匠様ならそんなの関係無いと思うけど……)

 因みにイリーナ、マリア、エレーナは国籍がそれぞれ違う為、いかに永住者の資格を持っているにせよ、一度帰国してしまったら、コロナ禍が終わるまで再入国できない。
 もちろん帰国する理由が無いので、そのまま滞在している。

 イリーナ:「まずは報酬の話からさせてもらうわね」
 秘書:「それはうちの先生に……」
 イリーナ:「分かってる」
 稲生:(こういう恩を売り付けて、マリアの永住権を確保したのかな?)

[同日12:00.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

 タクシーが赤レンガ造りの外観で有名な東京駅丸の内口に到着する。
 そこから降りて来たのは稲生とマリアだけ。
 タクシーチケットで料金を払う。
 霞ケ関から乗って来たので、大した額の料金ではなかった。

 マリア:「私達の出る幕、無かったね」
 稲生:「議員会館に行ったまでは良かったんだけどね」

 タクシーを降りて、東京駅構内へ入る。
 イリーナの噂を聞きつけた他の議員からも依頼が殺到し、稲生達はしばらくその対応に忙殺された。
 このコロナ禍、どのような政策を取れば良いのかの内容が殆どだったが、中にはまだ立場的には一般人に近い稲生が聞いてはダメな政治の闇について占って欲しいという依頼もあった。
 そして、午後には総理官邸や都庁にまで行かないといけなくなり、さすがに稲生とマリアは離脱することにした。

 稲生:「総理官邸って、なに?こっちの安倍総理だよね?向こうの安倍総理じゃなくて」
 マリア:「いや、そりゃそうでしょ」
 稲生:「僕達はちょっとこの辺りで時間でも潰してましょ。幸い、八重洲地下街とか営業再開したみたいなんで」
 マリア:「師匠から借りたカードで、ちょっとした買い物ならできるしね」
 稲生:「そうそう」
 マリア:「その前にランチにしたい」
 稲生:「何にしようかな?何が食べたい?」
 マリア:「今のうちに日本食にしたら?明日から、また食べられなくなるよ?」
 稲生:「あー、そうか」

 屋敷では、どうしてもイリーナやマリアの好みに合わせた食事になってしまうので、日本食がなかなか出て来ない。
 たまに稲生専属メイドを買って出ているメイド人形のダニエラが、夜食におにぎりを作ってくれることがあるくらいだ。
 あとはたまに買い出しに行った時、インタスタントの味噌汁を買うとか……。

[同日12:30.東京駅一番街B1F 仙台牛タン炭火焼「杜」 視点:稲生勇太]

 店員:「お待たせしました。2名様のお待ちの稲生様!」
 稲生:「あ、はい」
 店員:「お待たせしました。こちらへどうぞ」

 昼時なので少し混んでいた。
 それでもコロナ禍前は大混雑だったことを考えると、だいぶ空いている。
 で、店内を見ると満席ではない。
 コロナ対策でソーシャルディスタンスが取られていた。
 それでも2人はテーブル席へ案内された。

 マリア:「まさかの牛タンとはね」

 緑色の布マスクを着けていたマリアが笑みを浮かべ、椅子に座ってマスクを外す。

 稲生:「さすがに屋敷ではどうあっても食べれないから」
 マリア:「いいアイディアだね。うん、いいアイディアだ」

 マリアもニッと笑いながら、出された冷水を口に運んだ。

 稲生:「先生に内緒でって思うけど、カードの履歴で分かっちゃうか」
 マリア:「いいんじゃないの?師匠はきっと接待で、これよりもっといい物御馳走されてるよ」
 稲生:「なるほど」

 イリーナがその気になればもう一泊するところなのだろうが、そこまでの気は起きなかったようだ。
 イリーナが1回の占いに掛ける時間は20分前後。
 街角や『占いの館』にいる占い師だと、その時間でだいたい見料5000円くらいが相場。
 しかしイリーナの場合は本当に当たる為、そんな安値ではない。
 いや、依頼料そのものは相場の10倍程度なのだが、それ以外の経費で更にもらう。
 例えば先ほどのタクシー代。
 それと……。

 稲生:「いいのかな?僕達もグリーン車に乗っちゃって……」
 マリア:「その方が師匠を起こしやすいし、だいいち、この場合の費用はクライアントが出してくれてるんでしょ?だったら問題ない。師匠が出すのなら、私達はエコノミークラスに乗らないといけないけどね」

 稲生は秘書から帰りの新幹線のキップをもらった。
 イリーナの依頼通り、グランクラスではなく、グリーン車であったが、それは稲生とマリアの分も含まれていた。
 弟子の身分であれば、師匠より下のランクの席に座らなくてはならないのは常。
 但し、国際線の場合、プレミアムエコノミーが設定されている場合、こちらを充ててくれる場合もある(イリーナ組のように、弟子の一部にマスタークラスがいる場合など)。

 稲生:「この辺、上下関係を感じるね。えーと……何がいいかな。やっぱり定番の定食かな」
 マリア:「仙台に行った時に食べたヤツだね」
 稲生:「そうそう」
 マリア:「どれがお勧めなの?」
 稲生:「僕は味噌味がいいかな。こっちは塩味ね」
 マリア:「分かった。じゃあ、私は塩味」
 稲生:「了解」

 稲生は定食を2つ注文した。

 稲生:「先生はどれくらい稼いで来られるんだろうね」
 マリア:「さあね」
 稲生:「アメリカのトランプ大統領も、占いとか受けてるのかな?」
 マリア:「アメリカを拠点にしている組が依頼を受けたことがあるって言ってたよ」
 稲生:「マジか。もしかして、イギリスも?」
 マリア:「ルーシーから、ベイカー先生がロンドンに何度も足を運んだって聞いた」
 稲生:「このコロナ禍、どんな対策が正解なのか分からないからねぇ……」
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