[7月5日17:30.東京都千代田区丸の内 丸の内中央ビル2F・スタバJR東京駅日本橋口店 視点:稲生勇太]
JR東京駅で最も北部に位置する出入口。
JRバスなどの高速バスの到着ターミナルがあり、駅構内入ってすぐの広場は団体ツアーの待ち合わせ場所として使用されている。
もっとも、このコロナ禍においては、かつて団体客でごった返していた頃の面影は全くと言って良いほど見当たらない。
そんな広場やバスターミナルを見下ろす位置に構えているスタバ。
そこに稲生とマリアはいた。
地下街でのショッピングを終え、イリーナを待つべく、ここで時間を潰している。
ここから霞ケ関まで向かう高級車に乗ったのだが、到着もここだと知らされていたからだ。
外はあいにくの雨。
未だ梅雨が続いていることを物語っている。
この雨で新型コロナウィルスを洗い流してもらいたいものだが、実際に屋外の壁や地面に付着したウィルスは雨で洗い流せるらしい。
しかしその自然の力を持ってしても、未だにウィルスの猛威は収束の兆しを見せることはない。
稲生:「今のナレーション、先生の名前が出て来なかったら、まるで、とある探偵さんの日記みたい。バイオハザードと戦うヤツ」
マリア:「収束するか、その兆しが見えた所で続きを始めたかったんだけど、なかなかそうならないから、始めるに始められないらしいよ?」
雲羽:「あ~、早くコロナ終わってくんねぇかなぁ……。愛原学、書けねーよ……」
AD:「シッ!カントクの声が入ってしまいます」
雲羽:「こんなんで、本当に“バイオハザード8”出せるんかね?」
AD:「知りませんよ!」
マリア:「久しぶりにショッピングしたら疲れた……」
稲生:「マリア、楽しそうだったね」
マリア:「そりゃもう。いつもは屋敷で引きこもりだからねぇ……」
稲生:「今すぐ使わない物は後で送れるから便利だ。どうせ届けに来るの、エレーナに決まってるだろうけど」
マリア:「リリィにも手伝わせるかもね」
稲生:「あー、そうかも」
リリィもホウキ乗りになるらしく、エレーナの指導を受けてホウキを乗りこなす訓練をしているそうだ。
地下街は東京駅一番街だけでなく、八重洲地下街にも向かった。
マリアは自分の服(主に室内着)の他、新しい下着も購入した。
さすがにそういう女性下着店にまで稲生は入って行けなかったが、マリアと入れ替わりに入って来た日本人女性と思われる客が、普通に彼氏らしき男性を連れて入ったのには驚いた。
稲生が買い物したのはスマホ関係。
充電器とかスマホカバーとかSDカードとか。
あと、これはマリアの提案なのだが、ヘアーサロンにも行った。
稲生:「すっかり忘れてたけど、おかげでサッパリした」
マリア:「魔道士になると、髪の伸びも遅くなるから、ついつい忘れがちになるんだよね」
稲生:「そういえばそうだ」
マリア:「で、気が付いた時には結構伸びてたりとか」
稲生:「確かに」
マリア:「魔道士の中には、魔獣に対し、スポット契約の報酬に自分の伸びた髪の毛を切って渡すというのもあるみたいだよ」
稲生:「そうなんだ」
マリア:「中には魔道士の血肉を欲しがる魔獣とかいる。でもそんな要求、真に受けてたら、命がいくつあっても足りないからね。自分の血をコーヒーカップ半分の量とか、さっきみたいに髪の毛とか、そういう所で妥協してもらう交渉とかするよね」
稲生:「なるほど……。! そ、そういえば……」
稲生はかつて一緒に暮らしていた妖狐の威吹を思い出した。
稲生:「あいつも最初は僕を食べる気満々だったんだよなぁ……。『霊力の高い人間の血肉を食らえば、その分、自分の妖力向上に繋がる』とか言って」
マリア:「妖怪の考えることは、洋の東西を問わないみたいだね」
稲生:「そうみたいだ」
そんなことを話していると、ロータリーに黒塗りのセンチュリーが止まった。
リアガラスがスモークではなく、白いレースのカーテンであることから、政治家の車っぽい。
稲生:「先生が到着されたみたい」
マリア:「よし。早速行こう」
稲生とマリアは飲んだコーヒーの紙コップや、スイーツの皿を片付けると、階段を急いで下りた。
上がるのにはエスカレーターがあるが、下るのは階段しか無い。
議員秘書:「どうぞ、先生」
イリーナ:「ありがとう」
助手席に乗っていた議員秘書が先に降りて、後ろから降りたイリーナに傘を差し出す。
日本橋口には屋根が無いので、雨の日はバスやタクシー、ハイヤーを降りたら急いで駅講内にダッシュしないといけない。
稲生:「先生、お疲れさまです」
マリア:「仕事は終わりですか?」
イリーナ:「やっと終わったよォ……。久しぶりに働いたねぇ……」
議員秘書:「本日はありがとうございました。どうかお気をつけて」
イリーナ:「見送り、ありがとう」
駅構内に入る。
マリア:「報酬とか、相当稼いだんじゃないですか?」
イリーナ:「内緒よ。それより、買い物は済んだ?」
マリア:「はい。おかげさまで」
マリアはイリーナにゴールドカードを返却した。
イリーナ:「髪を切ったのね。うん、特に大きく髪形は変えず、毛先を揃えてカットしてきれいにしたってところか」
マリア:「勇太が、この髪形が好きなので」
イリーナ:「そうかい?私もプラチナかブランドに染めようかねぇ……」
マリア:「ジンジャーは御嫌いですか?」
白人と一口に言っても、マリアのようなブロンドもいれば、エレーナのようなイエローもいるし、イリーナのような赤毛もいれば、アナスタシアのような黒髪もいる。
で、この中で一番コンプレックスを抱きやすいのは赤毛だという。
実際、“赤毛のアン”でも、主人公が自らの赤毛に対してコンプレックスを抱いている発言がある。
で、その赤毛の女性に対して、『ジンジャー』というあだ名が付くのも、それが理由だ。
稲生:「僕は先生の赤毛、素敵だと思います」
イリーナ:「おお~!勇太君がそう言うなら、このままでいいかね!」
マリア:「勇太の発言でキャンセルするなら、迷わないで……」
マリアはイリーナに苦言を呈そうとしたが、ふとあることに気が付いてそれを引っ込めた。
マリア:(私も髪形を変えようかどうか悩んだ時、勇太が『このままでいい』と言ってきて、何故かそうしなくちゃって思ったんだ。何だろう、これ……?)
稲生:「先生、そろそろ乗り場に行きましょう」
イリーナ:「あー、そうだね。案内よろしく」
稲生:「はい、こっちです」
3人の魔道士は八重洲北口改札に向かった。
日本橋口にも改札口はあるが、東海道新幹線はともかく、それ以外の新幹線乗り場にはホームへ上がるのに階段しか無い為、イリーナに気を使ってのことだった。
ベルフェゴール:「少しサービスしてるのかい?アスモ」
アスモデウス:「あの契約者、稲生勇太ってコ、素晴らしいわよ。もうそろそろ『言霊』を発するだけで、女の言う事を聞かせるくらいの力を持ってる。これは将来面白いことになりそうよ」
英国紳士の姿に化けた悪魔ベルフェゴールと、キャバ嬢の姿に化けている悪魔アスモデウスは、そんなことを話しながら魔道士達の後ろを歩て行った。
JR東京駅で最も北部に位置する出入口。
JRバスなどの高速バスの到着ターミナルがあり、駅構内入ってすぐの広場は団体ツアーの待ち合わせ場所として使用されている。
もっとも、このコロナ禍においては、かつて団体客でごった返していた頃の面影は全くと言って良いほど見当たらない。
そんな広場やバスターミナルを見下ろす位置に構えているスタバ。
そこに稲生とマリアはいた。
地下街でのショッピングを終え、イリーナを待つべく、ここで時間を潰している。
ここから霞ケ関まで向かう高級車に乗ったのだが、到着もここだと知らされていたからだ。
外はあいにくの雨。
未だ梅雨が続いていることを物語っている。
この雨で新型コロナウィルスを洗い流してもらいたいものだが、実際に屋外の壁や地面に付着したウィルスは雨で洗い流せるらしい。
しかしその自然の力を持ってしても、未だにウィルスの猛威は収束の兆しを見せることはない。
稲生:「今のナレーション、先生の名前が出て来なかったら、まるで、とある探偵さんの日記みたい。バイオハザードと戦うヤツ」
マリア:「収束するか、その兆しが見えた所で続きを始めたかったんだけど、なかなかそうならないから、始めるに始められないらしいよ?」
雲羽:「あ~、早くコロナ終わってくんねぇかなぁ……。愛原学、書けねーよ……」
AD:「シッ!カントクの声が入ってしまいます」
雲羽:「こんなんで、本当に“バイオハザード8”出せるんかね?」
AD:「知りませんよ!」
マリア:「久しぶりにショッピングしたら疲れた……」
稲生:「マリア、楽しそうだったね」
マリア:「そりゃもう。いつもは屋敷で引きこもりだからねぇ……」
稲生:「今すぐ使わない物は後で送れるから便利だ。どうせ届けに来るの、エレーナに決まってるだろうけど」
マリア:「リリィにも手伝わせるかもね」
稲生:「あー、そうかも」
リリィもホウキ乗りになるらしく、エレーナの指導を受けてホウキを乗りこなす訓練をしているそうだ。
地下街は東京駅一番街だけでなく、八重洲地下街にも向かった。
マリアは自分の服(主に室内着)の他、新しい下着も購入した。
さすがにそういう女性下着店にまで稲生は入って行けなかったが、マリアと入れ替わりに入って来た日本人女性と思われる客が、普通に彼氏らしき男性を連れて入ったのには驚いた。
稲生が買い物したのはスマホ関係。
充電器とかスマホカバーとかSDカードとか。
あと、これはマリアの提案なのだが、ヘアーサロンにも行った。
稲生:「すっかり忘れてたけど、おかげでサッパリした」
マリア:「魔道士になると、髪の伸びも遅くなるから、ついつい忘れがちになるんだよね」
稲生:「そういえばそうだ」
マリア:「で、気が付いた時には結構伸びてたりとか」
稲生:「確かに」
マリア:「魔道士の中には、魔獣に対し、スポット契約の報酬に自分の伸びた髪の毛を切って渡すというのもあるみたいだよ」
稲生:「そうなんだ」
マリア:「中には魔道士の血肉を欲しがる魔獣とかいる。でもそんな要求、真に受けてたら、命がいくつあっても足りないからね。自分の血をコーヒーカップ半分の量とか、さっきみたいに髪の毛とか、そういう所で妥協してもらう交渉とかするよね」
稲生:「なるほど……。! そ、そういえば……」
稲生はかつて一緒に暮らしていた妖狐の威吹を思い出した。
稲生:「あいつも最初は僕を食べる気満々だったんだよなぁ……。『霊力の高い人間の血肉を食らえば、その分、自分の妖力向上に繋がる』とか言って」
マリア:「妖怪の考えることは、洋の東西を問わないみたいだね」
稲生:「そうみたいだ」
そんなことを話していると、ロータリーに黒塗りのセンチュリーが止まった。
リアガラスがスモークではなく、白いレースのカーテンであることから、政治家の車っぽい。
稲生:「先生が到着されたみたい」
マリア:「よし。早速行こう」
稲生とマリアは飲んだコーヒーの紙コップや、スイーツの皿を片付けると、階段を急いで下りた。
上がるのにはエスカレーターがあるが、下るのは階段しか無い。
議員秘書:「どうぞ、先生」
イリーナ:「ありがとう」
助手席に乗っていた議員秘書が先に降りて、後ろから降りたイリーナに傘を差し出す。
日本橋口には屋根が無いので、雨の日はバスやタクシー、ハイヤーを降りたら急いで駅講内にダッシュしないといけない。
稲生:「先生、お疲れさまです」
マリア:「仕事は終わりですか?」
イリーナ:「やっと終わったよォ……。久しぶりに働いたねぇ……」
議員秘書:「本日はありがとうございました。どうかお気をつけて」
イリーナ:「見送り、ありがとう」
駅構内に入る。
マリア:「報酬とか、相当稼いだんじゃないですか?」
イリーナ:「内緒よ。それより、買い物は済んだ?」
マリア:「はい。おかげさまで」
マリアはイリーナにゴールドカードを返却した。
イリーナ:「髪を切ったのね。うん、特に大きく髪形は変えず、毛先を揃えてカットしてきれいにしたってところか」
マリア:「勇太が、この髪形が好きなので」
イリーナ:「そうかい?私もプラチナかブランドに染めようかねぇ……」
マリア:「ジンジャーは御嫌いですか?」
白人と一口に言っても、マリアのようなブロンドもいれば、エレーナのようなイエローもいるし、イリーナのような赤毛もいれば、アナスタシアのような黒髪もいる。
で、この中で一番コンプレックスを抱きやすいのは赤毛だという。
実際、“赤毛のアン”でも、主人公が自らの赤毛に対してコンプレックスを抱いている発言がある。
で、その赤毛の女性に対して、『ジンジャー』というあだ名が付くのも、それが理由だ。
稲生:「僕は先生の赤毛、素敵だと思います」
イリーナ:「おお~!勇太君がそう言うなら、このままでいいかね!」
マリア:「勇太の発言でキャンセルするなら、迷わないで……」
マリアはイリーナに苦言を呈そうとしたが、ふとあることに気が付いてそれを引っ込めた。
マリア:(私も髪形を変えようかどうか悩んだ時、勇太が『このままでいい』と言ってきて、何故かそうしなくちゃって思ったんだ。何だろう、これ……?)
稲生:「先生、そろそろ乗り場に行きましょう」
イリーナ:「あー、そうだね。案内よろしく」
稲生:「はい、こっちです」
3人の魔道士は八重洲北口改札に向かった。
日本橋口にも改札口はあるが、東海道新幹線はともかく、それ以外の新幹線乗り場にはホームへ上がるのに階段しか無い為、イリーナに気を使ってのことだった。
ベルフェゴール:「少しサービスしてるのかい?アスモ」
アスモデウス:「あの契約者、稲生勇太ってコ、素晴らしいわよ。もうそろそろ『言霊』を発するだけで、女の言う事を聞かせるくらいの力を持ってる。これは将来面白いことになりそうよ」
英国紳士の姿に化けた悪魔ベルフェゴールと、キャバ嬢の姿に化けている悪魔アスモデウスは、そんなことを話しながら魔道士達の後ろを歩て行った。