報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京駅からワンスターホテルへ」

2020-07-06 19:13:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日11:18.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN!”イントロ)♪♪ まもなく終点、東京です。【中略】お降りの時は、お足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔Ladies & Gentleman.We will soon be arriving at Tokyo,Terminal a few minutes...〕
〔「到着ホームは18番線。降り口は右側です。お降りの際、電車とホームの間が広く空いている所がございます。お足元にご注意ください。また、網棚の上、座席の上、座席の下など、お忘れ物なさいませんよう、よくお確かめください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました」〕

 稲生:「そろそろ先生を起こしに行きますか」
 マリア:「うん。もう起きてるといいけどね」

 マリアは人形達をバッグの中にしまうと、席を立った。
 そして2人とも、10号車のグリーン車に移動する。

 乗客:「先生、ありがとうございました」
 イリーナ:「いいえ」

 到着直前まで商売をしていたようだ。

 稲生:「先生、そろそろ降りる頃ですが……」
 イリーナ:「そうね。全く。仕事三昧だったよぉ……」
 マリア:「たったの1時間じゃないですか。どれくらい稼いだんですか?」

 イリーナはローブの内側を見せた。

 イリーナ:「現金は受け取らない主義」

 殆どがクレジットカード会社発行のギフト券。
 まるで札束のように纏められている。
 イリーナが現金を受け取らない理由は不明だ。
 そして、実際あまりギフト券を利用している所は見たことがない。

〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕

 第9ホームと呼ばれる18番線に到着する。
 因みに東海道新幹線で、このホームにだけ立ち食いそば屋がある。
 16号車寄りの方だ。
 今回、魔道士はスルー。
 なかなか味は良いらしい。
 ワンスターホテルに向かう為、八重洲側の改札口を出る。
 元々東海道新幹線乗り場に、直で出入りできるのは八重洲側しか無い。
 JR東日本が丸の内口側を管理し、JR東海が八重洲口側を管理している……とも限らないんだな、これが。
 とにかく、東京駅はJR東日本とJR東海の管轄が複雑に入り混じった駅なのである。
 旧国鉄時代に東北新幹線用ホームとして整備された第7ホーム(14番線と15番線)は、民営化前に東海道新幹線用ホームに転用されている。
 一部の情報で、『東北新幹線との相互乗り入れの為に整備された』とあるが、これはデマである。
 東海道新幹線の本数が激増し、それに対応する為に転用しただけに過ぎない。
 その為、民営化されても防災管理上の権利が複雑に絡み合っている場所なのだ。
 このホームの下は特に!

 稲生:「この改札口(八重洲中央南口)から出れば、タクシー乗り場はすぐそこです」
 イリーナ:「慣れたものだねぇ……」
 稲生:「ただの雑学です」

 自動改札口を出る。

 稲生:「東京も雨だ」
 イリーナ:「ツユだからしょうがないね」
 稲生:「確かに……」

 駅の外に出てタクシー乗り場に行く。
 乗り込んだのは最近よく見るジャパンタクシー。
 これなら、後ろに3人並んで乗っても特に狭くない。
 そもそも稲生やマリア自体、体の大きい方ではないので。

 稲生:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」

 真ん中に乗った稲生が行き先を告げた。

 運転手:「はい……」

 運転手がナビでワンスターホテルを検索する。
 一応、カーナビで検索できるホテルのようである。

 運転手:「では、ナビ通りに行きますので」
 稲生:「お願いします」

 タクシーが走り出した。
 通りに出る時の信号待ちで、前後をJRバスに挟まれる。

 イリーナ:「はい、これ。お小遣い」

 イリーナがローブの中から、稲生とマリアにギフト券を渡した。
 新幹線の中で稼いだものだろう。
 札束のように纏められたギフト券の中から、稲生は1万円分を受け取った。

 稲生:「ありがとうございます」
 マリア:「Thank you so much.」

 月の小遣いは定額制であるが、イリーナに多額の臨時収入が入ると、このように分け前をくれることもある。
 それ以外の衣食住については、師匠が面倒を見るというのがダンテ一門の掟である。

[同日11:45.東京都江東区森下 ワンスターホテル 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 タクシーがワンスターホテルの前に到着する。

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 稲生:「はい、大丈夫です。支払いはカードでお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 イリーナのプラチナカードを使う稲生。
 その間、助手席の後ろに乗っていたマリアが降りた。
 先にホテルの中に入る。

 オーナー:「おお、マリアンナさん、いらっしゃい」
 マリア:「エレーナはいますか?」
 オーナー:「エレーナですね。少々お待ちください」

 オーナーは内線電話を掛けた。
 なるほど。
 確かにアルカディアシティ6番街カブキンシタウンの“二星亭”の女将と、顔が似ているような気がする。

 オーナー:「今、エレーナを呼びましたので」
 マリア:「Thank you.ところで、Two Stars Hotelはどこにありますか?」
 オーナー:「ホテル二星ですか?それでしたら……って、どこでそれを?」
 マリア:「私達、Three Stars Innに泊まったんです」
 オーナー:「姉の所に!そうでしたか。ありがとうございます。姉は元気でしたか?」
 マリア:「ええ。それで、姉妹店……というか、兄弟店というか、そういうホテルがもう1つあると聞いたんです」
 オーナー:「兄のホテルですね。後で御紹介させて頂きます」

 そんなことを話していると、稲生とイリーナもホテルに入って来た上、エレーナとアリスもエレベーターで上がって来た。

 エレーナ:「おーっ、やっと再会だぜ!」
 マリア:「アリス?何か、ラフな格好……」

 アリスはこちらの世界の服を着ていた。
 Tシャツにジーンズという姿である。

 エレーナ:「アリスの服、洗濯中なんだぜ。代わりの服を着てるだけだぜ」

 購入したのだろうか。
 まあ、それはどうでもいい。

 イリーナ:「早速、アルカディアシティで何が起きたのか、聞きたいわ」
 エレーナ:「了解です。オーナー、会議室借りますよ?」
 オーナー:「どうぞどうぞ。お支払いは……」
 イリーナ:「……ま、アタシが払うことになりそうだねぃ」
 オーナー:「ご利用ありがとうございます」

 後でオーナーがサービスでお茶を入れに来たという。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「こだま706号」

2020-07-06 09:06:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日10:00.静岡県富士市 JR新富士駅 視点:稲生勇太]

 藤谷の車が駅前ロータリーに入る。

 藤谷:「それじゃ、ここまでで申し訳ないですけど……」
 イリーナ:「いえいえ、とんでもない。助かったよ」
 稲生:「ありがとうございました」
 イリーナ:「ここに、御礼の『儲け話』が書いてあるから、後で読んで」

 イリーナは自分が予知した『儲け話』が書かれたメモを藤谷に渡した。

 藤谷:「あ、こりゃどうもすいませんです」

 藤谷は揉み手をし、照れ笑いにも似た笑みを浮かべてそのメモを受け取った。

 稲生:「それじゃ、班長。ありがとうございました」
 藤谷:「おう。ちゃんとお寺来いよ」
 稲生:「分かりました」

 稲生達は車から降りた。
 時折、ゴーッという音が駅から聞こえてくるのは、通過列車の轟音である。
 駅の中に入る。

 稲生:「10時13分発です。その約5分前に入線してくるので、そろそろといったところですね」
 イリーナ:「そうかい。じゃあ、もう行こうかね」
 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」

 稲生はイリーナにグリーン券の付いたキップを渡した。
 当初は自由席に座る予定の稲生とマリアだったが、なるべくイリーナと離れない方が良いということで指定席にした。
 幸い、隣の普通車指定席が取れた。
 まだ、コロナ禍による影響は大きいのだろうか。
 それとも、元々空いている“こだま”だからか。

〔「今度の東京行きの電車は、10時13分発、“こだま”706号です。終点東京まで、各駅に停車致します。自由席は……」〕

 ホームに上がると、マリアはホーム上の売店に立ち寄った。
 何を買っているのかというと、ポッキーであった。
 どうやら、朝食だけでは少し足りなかったらしい。

 稲生:「先生は10号車。僕達は11号車です」
 イリーナ:「寝てたら、起こしてちょうだいね」
 稲生:「分かりました」

〔♪♪♪♪。新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、10時13分発、“こだま”706号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、13号車から16号車です。……〕

 新富士駅の前後は線形が良い為、通過列車は最高速度の時速285キロで通過する。
 入線してきた列車はN700系であり、N700Aではなかった。
 “祈りとして叶わざるは無し”……とは限らない。

 イリーナ:「それじゃ、アタシゃそっちへ行くよ」
 稲生:「あ、はい」

 列車が到着し、ドアが開くと、イリーナはグリーン車へ乗って行った。
 稲生達は隣の普通車に乗り込んだが、その直前に轟音を立てて通過列車が通過していった。
 風圧と振動で、こちらの列車も揺れる。

 稲生:「ここですね」
 マリア:「うん」

 指定された2人席に腰かける。
 人形達はいつもの通り、荷棚に乗せた。
 ローブも脱いで、窓の横に付いている収納式のフックに掛ける。
 本当はこれ、『帽子掛け』というらしい。
 エレーナなどのホウキ乗りの魔女みたいに、いつも帽子を被っている者なら重宝するのかもしれない。
 しかしそうでない魔法使いの場合は、ローブを掛けるのに使う。

〔「10時13分発、“こだま”706号、東京行きでございます。只今、通過列車の通過待ちを行っております。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 マリアはテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーを置いた。

 マリア:「一本食べる?」
 稲生:「うん、ありがとう」

 稲生は一瞬ポッキーゲームをしたくなったが、何とか抑え込んだ。

 マリア:「? なに?」
 稲生:「い、いや、何でも無い」

[同日10:13.JR東海道新幹線706A11号車内 視点:稲生勇太]

〔「レピーター点灯です」〕

 東京駅なら発車メロディが流れるが、ここでは普通の発車ベルが鳴り響く。

〔1番線、“こだま”706号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!」〕

 マリアはポッキーを食べていたが、今は荷棚に乗っていた人形達も下りてきて、一緒にポッキーをポリポリ食べている。

 稲生:「“こだま”、車内販売無いからねぇ……」

 人間形態だと凛としたメイドであり、他のメイド人形達のリーダー的存在として働くが、人形形態だとコミカルな動きを見せてくれる。
 そんなのを眺めているうちに、“こだま”706号は発車した。

 乗客A:「こっちだ、こっちだ」
 乗客B:「急げ!」

 後ろの車両に向かって、スーツ姿の男性乗客達が走って行く。
 何のことはない。
 イリーナが乗車していると聞いて、占ってもらおうと思っているのだ。
 イリーナは門内ではヘタレ師匠として通っているが、占いの腕前に関しては文句をつける1期生はいない。
 そんな彼女の占いの見料は【お察しください】。
 特に定額というわけでもなく、イリーナが相手を見て値段を決めることもあるし、向こうの方から言い値を払ってくる場合もある。
 イリーナが持っているプラチナカードだって、とある世界の大物を占いで助けてあげた見料の1つである。
 そんな彼らにとって、弟子である稲生やマリアは歯牙にもかけない存在であろう。
 さっきの男性達も、稲生達には目もくれずに走り去って行った。
 いや、そもそもイリーナに弟子がいることすら知らないのかもしれない。

 マリア:「師匠はどこでも稼げるな」
 稲生:「凄いよねぇ……」
 マリア:「私もまだ予知夢を見る程度だからなぁ……」
 稲生:「それで夢占いとかできるんだから、大したものだと思うよ」
 マリア:「いや、それだって確実ってわけじゃないし。もっと、より確実なものにしないと……。勇太だって、予知夢を見たりしない?」
 稲生:「たまーにね。でも、『たまーに』程度じゃ、占いで生活できないし」
 マリア:「ま、それもそうだ」

 マリアはまた一本ポッキーを齧った。
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