報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家に到着」

2019-06-08 21:05:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅西口]

 稲生勇太とマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットは大宮駅西口のバス停に向かい、そこに停車しているバスに乗り込んだ。

 マリア:「このバス、乗ったことあった?」
 稲生:「いえ、マリアさんは無いと思います。今年度から開業したばかりのバス路線なんで」
 マリア:「ふーん……」

 日野自動車製のポンチョと呼ばれる、コミュニティバスとしては一般的な小型バスである。
 富士宮市内のコミュニティバス“宮バス”でも、使用されているものだ。
 発車の時間になり、バスのエンジンが掛かる。

 運転手:「お待たせしました。時間になりましたので発車します」

 外側に開くスライドドアが閉まると、バスはゆっくり走り出した。
 乗客は稲生達の他、最前列席に老婆と老人が1人ずつ乗っているだけだ。
 前降りタイプのバスだと、どうしても老人などは前方の席に座りたがる。

〔お待たせ致しました。毎度ご乗車ありがとうございます。このバスは与野本町先回り、大宮西口循環線でございます。次はあおぞら保育園、あおぞら保育園でございます〕

 与野本町とは言っているが、けして埼京線の与野本町駅に寄るわけではない。

 稲生:「…………」

 バスは1番後ろの席以外は一人掛け席しかない。
 しょうがないので非常口前の席に前後して座っていて、マリアが稲生の前に座っている。
 ふと気がつくと、マリアから体臭がするのが分かった。
 そういえば徹夜ということは、風呂にも入っていないということだ。
 そして元々体臭の強い人種ということもあってか、それで尚更匂うのだろう。
 マリアは頭を垂れて眠気と戦っているが、稲生はそのフリをしてマリアの頭などの匂いを……と思ったら!

 稲生:「!?」

 稲生のスマホにメール着信が入った。
 急いでポケットから取り出して確認すると、母親からのメールだった。
 何でも威吹から電話があったらしい。
 威吹は電話しかできないことは稲生の両親も知っている。
 だからなるべく早めに電話してあげてという内容の電話だった。

 稲生:(バスの中じゃ電話できないよ、母さん……)

 もちろん母親の佳子はそんなこと知らないので、そういうメールを送って来たのだろう。

 マリア:「何かあった?」

 稲生のメール着信音に気づいたマリアが後ろを振り向いた。

 稲生:「ああ、いや……。母さんからのメールです。威吹から家に電話があったらしくて……」
 マリア:「イブキから?勇太とのファミリア(使い魔)契約を正式にするという決心が付いたか?」
 稲生:「それは本人に聞かないと分かりませんが……」

 稲生は取りあえずその件について了解した旨と、今からバスで家に向かっており、マリアも一緒である旨を返信しておいた。

[同日10:10.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 上落合7丁目バス停→稲生家]

 最寄りのバス停に着き、バスはそこで降りる。

 稲生:「大人2名です」
 運転手:「はい、ありがとうございました」

 稲生は運賃箱に回数券を2枚入れた。

 マリア:「カードは使えないのか?」

 右手にSuicaを持ちながら、マリアは稲生の後にバスを降りた。

 稲生:「このバス、ICカードは使えないんですよ」

 コミュニティバスあるあるであるが、実は“けんちゃんバス”はシステムがそれに近いというだけで、実は自治体絡みのコミュニティバスではない。
 さいたま市も大宮区も中央区も、全く絡んでいない。

 マリア:「ふーん……」

 バスを降りて、あとは徒歩数分で稲生家に辿り着く。

 マリア:「勇太。申し訳無いけど、着いたらすぐにシャワーを浴びたい。汗臭いでしょ?」
 稲生:「僕にとってはいい匂いです」
 マリア:「! わ、私は気になるから、シャワー使いたい」
 稲生:「いいですよ。いつもの2階のシャワーですね」
 マリア:「うん。勇太はお風呂入らないの?」
 稲生:「入りますよ。ていうか、マリアと一緒に入りたい」
 マリア:「あ、あの……。今は……その……勇太のママがいるんでしょ?今はダメだよ」
 稲生:「まあ、今はそうかもしれないけど……。母さんは別に一日中家にいるわけじゃないからね」
 マリア:「分かった。分かったから」

 マリアは白い肌を赤らめて歩みを速めた。
 それから家に着く。

 稲生佳子:「まあまあ。マリアさん、いらっしゃい。またゆっくりしていってね」
 マリア:「はい。またお世話になります」
 佳子:「この前来た時は片言の日本語だったのに、上手くなったわね」
 マリア:「勇太君のおかげです」

 そう。今のマリアは自動通訳魔法を使っていない。
 少なくとも稲生家内においては、なるべくその魔法を使うのはやめることにした。
 その代わり、なるべく日本語が上手くなるように努力した。
 まだ難しい漢字などは無理だが、会話力だけは先に身に付けるようにした。
 ただ、やはり外国語を喋り続けるのはストレスだ。
 稲生家の外では母国語の英語に戻している。

 佳子:「また奥の部屋を使ってください」
 マリア:「はい。ありがとうございます」
 佳子:「勇太、威吹君に早く電話してあげて」
 勇太:「威吹、急ぎだって?」
 佳子:「それは言ってなかったけど、待たせるのは悪いでしょ?」
 勇太:「まあ、確かに……。あ、そうそう。僕とマリアさん、徹夜だったから、ちょっと寝させてもらうよ」
 佳子:「何かあったの?」
 勇太:「色々」

 勇太は一瞬、大石寺三門前での事件のことを言おうとしたが、その後の経緯が複雑なのでそれは止めた。
 マリアは一旦奥の客間に向かった。
 勇太は佳子の質問をはぐらかすと、2階の自室に入る。
 そしてスマホを取り出すと、それで威吹の家に電話した。
 それにしても、魔界から電話が掛かって来るなど、本来はホラーものであろう。
 しかも電話口の相手は狐の妖怪なのだ。
 しかし稲生家において、それはホラーではない。
 そもそも稲生家の人間は勇太以外、威吹が今どこに住んでいるのか知らないし(結婚したことは知っていて、その絡みでどこか遠くの地方に移住したという認識)、そもそも威吹自身が稲生家に害を与える存在ではないからだ。
 勇太が掛けた威吹への電話。
 その内容は何だと思う?

 1:使い魔契約の話。
 2:他愛も無い世間話。
 3:喫緊な話。
 4:そもそも電話が繋がらなかった。
 5:何故か別の所に繋がった。
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“大魔道師の弟子” 「帰宅の途」

2019-06-08 08:03:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日09:27.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅→高崎線3922E電車15号車内]

〔まもなく5番線に、快速“アーバン”、高崎行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、15両です。……〕

 地下鉄からJRに移動する。
 地下から移動するのは大変かもしれないが、実は殆どの場合、エスカレーターで移動できるので、ルート次第ではそんなにキツくない。
 何しろ、地下鉄銀座線自体が地下の浅い所を通っている為、そんなに上下移動があるわけではないからだ。
 これで中距離電車も低いホームから出ていれば楽だったのだろうが、そこまで世の中甘くない。

〔「5番線、ご注意ください。高崎線の快速“アーバン”号、高崎行きが参ります。上野を出ますと赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、鴻巣、熊谷、熊谷から先の各駅に止まります。前5両は途中の籠原止まりです」〕

 中距離電車は山手線などと比べると、接近放送が鳴ってから入線してくるまでブランクがある。
 その為、鳴ってからしばらくしないと電車が来ない。
 ましてや先頭車が来る位置にいたのでは尚更だ。
 上野東京ラインを介して東海道本線の小田原から来た電車だが、1つ手前の東京駅とこの上野駅でかなりの下車がある。
 多くの上野東京ライン開通の恩恵者は、上野で降りたいようだ。
 確かに東京駅での乗り換えはカットされる。

〔「ご乗車ありがとうございました。上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。5番線の電車は9時28分発、高崎線の快速“アーバン”号、高崎行きです」〕

 電車に乗り込むとボックスシートには既に先客がいたが、ドア横の2人席は空いていた。
 そこに座る。
 というか、ボックスシートが空いていても、その2人席が空いていたならそこを選んでいただろう。
 これは大糸線でもそうしている。
 ボックスシートだと、どうしても混んでくると相席になる。
 鉄ヲタの稲生は今更そんなの気にしないのだが、マリアが気にする。
 特に、男性客が来ようものなら……。
 2人席ならそういうこともないので(目の前の立ち客はいいらしい)。

 稲生:「ここまで来たら落ち着くので、何だか寝ちゃいそうですよ」
 マリア:「いざとなったら、人形達に起こしてもらうさ」

 マリアのローブの中からミク人形とハク人形が、ピョコっと顔を出した。
 そうしているうちに、発車メロディがホームから聞こえて来る。

 稲生:「それは頼もしいです。……ああ、因みにアイスクリームの車内販売は普通と快速には無いからね?」
 ミク人形:「ちっ」
 ハク人形:「ちっ」

〔5番線の高崎線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 ドアチャイムが3回鳴って閉扉する。
 基本的に1回または2回鳴動の線区に乗れ慣れている乗客からしたら、ちょっとやかましく聞こえるかもしれない。
 但し、上には上がいるもので、開閉に4回ずつドアチャイムが鳴る所もあったりする(仙台市地下鉄東西線)。
 走り出す時、モーターの付いている車両(モハ)に乗っていたらVVVFインバータの音が車内に響くだろうが、稲生達が乗っているのは運転台だけが付いた車両(クハ)なので音は静かだ。

〔この電車は高崎線、快速“アーバン”、高崎行きです。停車駅は赤羽、浦和、上尾、桶川、鴻巣、熊谷と熊谷からの各駅です。前5両は途中の籠原止まりです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、赤羽です〕

 “アーバン”という名前は付いているが、別に特別な車両で運転するわけではないし、英語放送では案内しない。
 ただ単に『rapid service train』と言うだけだ。
 このrapidという単語だが、英語圏在住の者であっても、分かりにくい表現であったりすることがある。
 イギリスでは『skip stop train(停車駅飛ばし列車)』と表現する。
 多分JRでは漢字を和訳したのだろうが(「快く速い」)、実際の所、JR東日本の快速列車が快く速いかどうかは【お察しください】。
 JR西日本の新快速くらいだったらいいのかもしれないが。

[同日09:52.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 因みに赤羽駅を出発して、少し走ると荒川の鉄橋を渡る。
 その川が東京都と埼玉県の境なのだが、大きな川と河川敷が開けている為、見通しは凄く良い。
 また、北区には超高層建築物が無い為、尚更見通しが良い。
 何が言いたいかというと、進行方向右側の方にはぼんやりとスカイツリーが見えるということだ。
 眠気と戦うマリアの目にスカイツリーが見えると、死んだ仲間達とあの麓(ソラマチ)でショッピングを楽しんだことや、実際に昇った思い出が蘇って涙が浮かんで来たのだった。

〔まもなく大宮、大宮です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。大宮の次は、上尾に止まります〕

 英語放送が鳴っても起きない2人の魔道士に対し、ミク人形とハク人形が起こしに掛かる。
 マリアに対しては揺さぶるだけだが、稲生に対しては丸めた新聞紙(他の乗客が網棚に放置していったヤツ)でバシバシ叩くのだった。
 尚、稲生をこの電車内で引っ叩くのはこれで2回目。
 スカイツリーを見て泣くマリアの横で寝落ちしていた無神経の稲生に激しいツッコミを行った。

 稲生:「うわっ、なに!?またマリアさん泣いたの!?」
 マリア:「違うよ……。今度こそ着いたってこと」
 稲生:「おっ!?」

 稲生が車窓を見ると、電車が下り本線ホームに入ったところだった。
 大宮駅では高崎線が上下線共に本線を使用する。
 これは歴史上、高崎線の方が宇都宮線より先に開通したからである。
 鉄道の世界では、とにかく先に開通した方が高い利権を得られるということだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。お忘れ物に、ご注意ください。8番線の電車は高崎線、快速“アーバン”号、高崎行きです。……」〕

 稲生はマリアの手を取って電車を降りた。
 この駅も乗降客は多いのだが、乗車客の方が多いように思えた。
 改札口に行くエスカレーターから車内を見ると、座席が全て埋まり、ドア付近には何人かの立ち客がいるほどだ。
 高崎線は宇都宮線より混んでいるのである。

 稲生:「少し急げばバスに間に合いますよ」
 マリア:「そうしよう。ちゃんとしたベッドで寝たい」
 稲生:「全くですね」

 改札口を出ると、稲生は自宅までの最寄りまで向かうバスの停留所に足を進めた。
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