報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「5月17日」

2019-06-14 18:56:09 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月17日07:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 朝の勤行を終えた稲生勇太は、威吹を起こしに1Fの客間に向かった。
 今日、マリアはルーシーと一緒にワンスターホテルに泊まっている。
 だから今日、迎えに行く必要がある。

 勇太:「威吹〜、起きてる?」
 威吹:「うむ。……。ユタ、おはよう」

 恐らく魔界稲荷にいる時は厳格な父親であり、剣術指南なのであろう。
 だが、ここでは勇太の盟友としての顔を見せている。
 ……のだが一瞬、向こうの顔が出てしまった。
 それは威吹が既に起床して、客間の外の裏庭で木刀の素振りをしているからだろう。

 勇太:「勤行終わった」
 威吹:「それでは朝餉に預かろうか」

 威吹は汗を拭いて、再び家に上がった。

 佳子:「こうして威吹君と朝食を囲むのも久しぶりねぇ」
 威吹:「懐かしゅうございます」
 宗一郎:「さすが威吹君も家庭持ち、弟子持ちになると凛々しくなるねぇ。勇太にも見習ってもらわないと」
 勇太:「僕は僕の考え方があるから……」
 威吹:「それでは、頂きます」

 勇太と威吹とはついに使い魔の契約を交わした。
 報酬は人間界の食糧と水で良いとのことだが、アルカディアでは年々インフレが起こるなどの経済問題が発生しているらしい。
 まだまだ物価の安い魔界であるのだが、先進国に近づくと物価も上がるのは経済の常か。
 水に関しては豊富な地下水が、魔界高速電鉄の強引な地下鉄工事のせいで枯渇しつつあるという。
 地下鉄工事だけでそんなことになるのか首を傾げた勇太だったが、とにかくそういうことになっているらしい。
 魔界王国アルカディアはファンタジーの世界ながら電化されており、その発電には水力発電と地熱発電が主となっている。
 地下水が枯渇すると水力発電に影響があるような気がするのだが、電鉄側は何も考えていないのだろうか。

 宗一郎:「どれ、テレビを……」

 勇太の父親の宗一郎はリモコンを手にテレビを点けた。
 如何に電化されていようと、さすがにまだテレビは魔界には無い。
 ラジオはあるので、恐らく文明的には大正時代くらいなのではないか。

〔「……昨夜8時頃、東京都江東区○×のファミリーレストランで、店内の客席に乗用車が突っ込むという事故がありました。また、それをたまたま映していた報道のヘリコプターが同じ場所に墜落し、弾みでヘリコプターの燃料やガスボンベに引火し、爆発するという大惨事になりました。この事故で死者は……」〕

 宗一郎:「老人がプリウス運転しちゃイカンよ」
 勇太:「死亡フラグだもんね」
 威吹:「何かしら恣意的なものを感じるのだが……」
 勇太:「江東区に知り合いが何人か住んでるから、確かに嫌な予感はするね」

 さすがは勇太と威吹。
 長年、妖怪と戦っていた過去を持つだけのことはある。

〔「……プリウスを運転していた男性は『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』と証言しており、ヘリコプターのパイロットは『事故を目撃したので高度を下げたら突然操縦不能に陥った』と証言しており、偶然が重なった不幸な事故と思われます」〕

 宗一郎:「こりゃ、おちおち外食もできんなー」
 佳子:「勇太も気をつけるのよ?」
 勇太:「僕は毎日勤行して、大聖人様の御加護を頂いているから……」
 威吹:「それに、昨日より某(それがし)……もとい、ボクが契約を結びましたから、ボクもユタを守りますよ」
 宗一郎:「それは頼もしい。私からもよろしく頼むよ。そうだ。また新しい金時計を進呈しよう」
 威吹:「かたじけない。しかし、既に頂いた銀時計と金時計は大事に保管してございます」
 宗一郎:「誰が懐中時計だと言った?」
 威吹:「と、申しますると?」
 宗一郎:「今度は置時計としての金時計を進呈だ」
 威吹:「高価な贈答、真にかたじけない限りでございます」
 勇太:「確かに高い物だから、向こうでお金に困ったら売ればいいさ。向こうでも価値があるんだろ?」
 威吹:「この前、古物商の者が件の金時計を売れ売れうるさかったので、坂吹に追い返させた」
 勇太:「魔界にも『押し買い』っているんだねぇ……」

[同日09:05.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 勇太と威吹は朝食を終えると、自宅の最寄りのバス停から開業したばかりの路線バスに乗って大宮駅に向かった。

〔お待たせ致しました。次は終点、大宮駅西口、大宮駅西口でございます。どなた様もお忘れ物のございませんよう、ご注意ください。毎度、丸建自動車をご利用頂きまして、ありがとうございました〕

 威吹:「ユタの家に行く時はタクシーだったが、いつの間にかこういうバスが走るようになったんだな……」
 勇太:「まあ、便利にはなったよね」

 コミュニティバスではよく使用されている小型のバス。
 その小回りの良さを生かし、大宮アルシェの横の一方通行の道に入る。
 まだ閑散とした路線で、乗客も稲生達の他に2人しかいなかったが、コミュニティバスが混雑するというのもまた変な話のように思えてしまう。
 停車して前扉が開くと、勇太は回数券を2枚出した。

 勇太:「大人2人です」
 運転手:「はい、ありがとうございました」

 バスを降りると少し強めの風が吹いて来た。
 それで威吹の銀色の髪が揺れる。
 結婚前は腰まで伸ばして束ねていた髪も、今では肩の所で切っている。

 勇太:「報酬はキミの家の所に届くようにしてあるから」
 威吹:「かたじけない。報酬をもらった以上は全力で働くからね。イザとなったら、坂吹も連れて来よう」
 勇太:「うん」

 因みに威吹を呼ぶ手段として、呼子笛を使うことにした。
 これを吹けば威吹が現れる。

 勇太:「取りあえずワンスターホテルに行こう。そこから魔界に戻れる。送って行くよ」
 威吹:「ユタと一緒に電車に乗るのも久しぶりだな」
 勇太:「昨日、ホテルから家まで来るのにも一緒に乗っただろう?」
 威吹:「逆方向って意味だよ」
 勇太:「上りは京浜東北線でゆっくり行くか」
 威吹:「了解」
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“魔女エレーナの日常” 「“魔の者”の正体に気づいたエレーナ」

2019-06-14 16:09:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月16日20:00.天候:曇 東京都江東区内 とあるファミレス]

 鈴木:「……と、いうわけで、邪宗教があらゆる不幸の根源となって……」
 エレーナ:「リリィ、紅茶お代わり持って来て」
 リリィ:「はい……」
 鈴木:「聞いてる?」
 エレーナ:「え?何の話?」

 何気にエレーナを折伏していた鈴木。

 鈴木:「もう……。最初から話すよ。僕達がやっている仏法というのは……」
 エレーナ:「これ以上その話をすると、少し不幸が起こるぜ?」
 鈴木:「そ、そんなことは……!」

 その時、鈴木のスマホから緊急地震速報のアラームが鳴った。
 鈴木のスマホではない。
 店内にいる者のスマホ全員からアラームが鳴った。

 鈴木:「地震か!?」

 グラグラグラと揺れる店内。
 少し大きい。

 リリィ:「・・・・・・!・・・・・!!」

 動揺したリリアンヌはフランス語で何か叫んでいた。

 鈴木:「……!いや、大丈夫だ。俺の御題目で……」

 やっと揺れが収まったが、特に被害は無いようだ。

 エレーナ:「さすが日本人は地震慣れしてるぜ。リリィなんか、テーブルの下に潜り込んでるぞ」
 鈴木:「フランスはそんなに地震無い?」
 エレーナ:「知らない」
 鈴木:「エレーナは慣れてるんだね」
 エレーナ:「私も日本に住んでからだいぶ経つからな。……で、震度いくつだって?」
 鈴木:「東京都江東区は3だ。縦揺れが強かったから、強い地震に思えたのかな。……何の話してたんだっけ?」
 エレーナ:「言っただろ?魔道士に宗教の話をするとロクなことが無いってさ」
 鈴木:「折伏の最中に地震が来るなんて、障魔の来襲もいい所だな」
 エレーナ:「ショーマ?」
 鈴木:「略して魔だな。要は仏道修行を妨げる、様々な困難を振り掛けて来る存在と言うべきか……」
 エレーナ:「ふーん……」
 鈴木:「どこかの講中に、『障魔よ来たれ 敵来たれ』なんて物騒な歌詞の入っている愛唱歌を歌っている所があるが、俺は勘弁してもらいたいもんだね。おちおち折伏もできやしない」
 エレーナ:「過激派でもいるのか?」
 鈴木:「作者は昔、『武闘派』と呼んでいた所だな」
 エレーナ:「仏教にも悪魔みたいな存在がいるわけか……」
 鈴木:「いるいる」
 エレーナ:「こっちの悪魔と違って、契約持ち掛けりゃホイホイやってくるようなヤツらじゃなさそうだ」
 鈴木:「そりゃそうだろ」
 エレーナ:「人間に憑依したりするのか?」
 鈴木:「分からんが、心を操るくらいのことはするだろうな」
 エレーナ:「どういうことだ?」
 鈴木:「これは顕正会でも体験したことなんだが、折伏をすると人って分からないものなんだ。いつもニコニコしている人が、仏法の話をすると突然人が変わって怒鳴りつけて来たりとか……。あれは、俺としては『その人の本性』というよりは、『魔が対象者の心に入り込んで妨害している』という認識なんだがな」
 エレーナ:「魔が人の心に入り込んで操っている……」
 鈴木:「俺はそういう認識という話さ」
 エレーナ:(もしかして、“魔の者”というのは、鈴木達の宗教でいう魔と同一じゃないのか?)

 エレーナがそう感づいた時だった。

 エレーナ:「鈴木!リリィ!逃げろ!」
 鈴木:「ええっ!?」

 鈴木達が席を離れた時だった。
 この3人は通りに面したテーブル席に座っていた。
 離れた直後、1台のプリウスがそこへガラスを突き破って突っ込んで来た。
 運転していたのは80歳くらいの老人。
 頭から血を流しつつも、ヨボヨボと車から降りて来る。

 老人:「ああ、すみませぬ、すみませぬ……。ブレーキとアクセルを踏み間違えただよ……」
 鈴木:「年寄りがプリウス運転すんな!死亡フラグ以外の何物でもないだろ!!」
 エレーナ:「“魔の者”!てめぇ、いい加減にしろ!!」
 リリィ:「フヒッ!?先輩、店の外に早く!!」

 今度はリリアンヌが何か気づいたらしい。

 エレーナ:「鈴木!死にたくなかったら、早く外に出ろ!!」
 鈴木:「会計は!?」
 エレーナ:「どうせタダになる!」
 鈴木:「ええっ!?」

 3人は店の外に出た。
 すると!

 鈴木:「ああっ!?」

 上空からヘリコプターが急降下してきて……。

 鈴木:「でぇぇぇぇぇぇっ!?」

 ファミレスに墜落した。

 エレーナ:「間違い無い!“魔の者”の眷属は、鈴木達の言う障魔のことだっ!」
 鈴木:「しゃ、折伏の妨害でここまでやるなんて……!」
 エレーナ:「私が魔道士だからだよ!魔道士が宗教始めたら大変なことになるから!」
 鈴木:「どういうことだ!?」
 エレーナ:「いいから早く逃げろ!爆発するぞ!」

 今度はヘリコプターの燃料や店にあったガスボンベが爆発した。

 鈴木:「ひぃぃぃぃっ!!」
 エレーナ:「分かったら2度と私に宗教の勧誘すんな!」
 鈴木:「勧誘じゃない!折伏だ!」
 エレーナ:「似たようなもんだろ!」
 鈴木:「も、もしかして稲生先輩がマリアさんに折伏をしない理由って……」
 エレーナ:「“魔の者”は今のところ日本にいる魔道士に直接手出しはできない。だけど、『眷属』を送って攻撃することはできる。もしかしたら、オマエ達の言う障魔も“魔の者”の手先、或いは“魔の者”そのもの……」
 リリィ:「フヒッ!?今度は意識不明になった運転手の大型バスがーっ!!」
 鈴木:「あからさま過ぎるだろ!」

 鈴木達は這う這うの体で、ワンスターホテルに逃げ帰ったのであった。

[同日21:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 オーナー:「おいおい、大丈夫かい?何かピンポイントでレストランだけやられたみたいだけど……」
 エレーナ:「こいつが犯人です!」
 鈴木:「俺は折伏しただけだ!」
 リリィ:「先輩に宗教の勧誘しやがったクソ野郎……」
 オーナー:「何だって?鈴木君、そりゃマズいよ」
 鈴木:「どうしてですか!?」
 オーナー:「彼女達は魔力を持っているんだ。何かの信仰を始めれば、当然魔力は上がる。それを快く思っていない者がいるんだよ。その代表格が“魔の者”だ」
 鈴木:「だけど、稲生先輩は信心してますよ?」
 エレーナ:「稲生氏は信心が先だったから。そもそも信心を始める前から、稲生氏も“魔の者”に攻撃されていたそうじゃないか。うん、そう考えると辻褄は合う」
 鈴木:「どういうことだよ?」
 エレーナ:「稲生氏はヒドいイジメられっ子で、何度も自殺を考えたそうじゃないか。手首にはリストカットの痕があったってな」
 鈴木:「それは俺も知ってる」
 エレーナ:「そしてマリアンナも、魔道士になる前はヒドい目に遭っていた。あいつの人間時代のことは私も詳しくは知らないが、もしかしたら、オマエ達の宗教に触れた機会があったのかもしれないぞ?」
 鈴木:「日蓮正宗は海外弘通もやってるからな。創価学会も海外に進出してるから、もしかしたら仏法の話を見聞きする機会はあったのかもしれない」
 エレーナ:「私の探究心がそそられるぜ。せっかく掴んだ“魔の者”の尻尾。絶対に本体まで引きずり出してやるぜ」

 エレーナはそう言うと、固く拳を握った。
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