[5月19日17:51.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 地下鉄仙台駅→JR仙台駅]
電車が市街地に向かう度、車内は混んでくる。
やはり2つの地下鉄が交差する駅での乗り降りは多い。
〔仙台、仙台。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください。日蓮正宗仏眼寺へは南北線へお乗り換えになり、愛宕橋でお降りください〕
稲生:「ここで降りますよ」
マリア:「ほら、ルーシー。もうちょっとだから頑張って」
ルーシー:「うん……」
ドアチャイムが4回鳴ってドアが開いた。
〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
マリア:「勇太、帰りのルートなんだけど、この地下鉄以外のルートって無い?」
稲生:「あるにはありますよ」
電車を降りながらマリアが稲生に聞いた。
稲生:「仙石線回りで帰るルートです。ただ、路線バスには乗れないので、最寄り駅からタクシーに乗ることになると思います」
マリア:「それは問題無い」
稲生:「ただ、その仙石線も市街地付近は地下を走ってるんですよ」
マリア:「マジか……」
稲生:「もちろん途中から地上には出ますけどね」
それは地下鉄も同じこと。
東京メトロでさえ郊外に出ると、地上に出る事が多々ある。
荒井駅と打って変わって仙台駅の東西線ホームは地下深くにある為、地上に出るまでが大変だ。
稲生:「やっと地上だ」
マリア:「地下鉄から新幹線へのアクセスはあまり良くない?」
稲生:「鉄道会社が違いますからねぇ……」
地下鉄の駅を出ると、今度はJRの駅構内に入る。
新幹線ホームは高架上にあるので、またもやエスカレーターを昇って行くことになる。
稲生:「え、ホームまで行くんですか?」
マリア:「ルーシーが新幹線見たいんだってさ」
ルーシー:「せ、先生を直にお迎えする為よ。あなた達はしないの?」
稲生:「うちの先生は神出鬼没なものですからねぇ……」
ルーシー:「どこの組も、1期生達は皆そうだから」
ダンテの直弟子達のことを便宜上、1期生と呼ぶ。
もちろん全員が同期というわけではなく、その中でも入った時期や年齢によって先輩後輩の差はある。
齢1000年以上を生きるイリーナだが、それでも1期生達の中ではヒヨっ子なのだそうだ。
ベイカーの方がイリーナより先に入門しているし、実年齢も上なのでイリーナも一歩引いている。
ましてやまだ一度も体を交換したことの無いこの3人は、いかに下っ端であるかということ。
稲生:「じゃあ、入場券買って来ます」
マリア:「Suicaでは入れない?」
稲生:「ICカードは入場券の代わりにはなれないんです」
マリア:「そうなのか」
ルーシー:「私もここでSuica、記念に買おうかな」
稲生:「もしもルーシーさんがまた来日してくれるなら、その時の方がいいかもしれませんよ?」
ルーシー:「どうして?」
稲生は新幹線改札口のある3階に移動すると、そこの“みどりの窓口”に寄ってみた。
稲生:「今年の9月から、訪日外国人向けに『Welcome Suica』って売るみたいです」
デポジットを取らない為、記念に持ち替える際、その払い戻しをする必要が無い。
但し、チャージした分の払い戻しは不可。
ルーシー:「分かったわ。今度来た時にはそれを買う。今は勇太やマリアンナの持っているヤツが欲しい」
稲生:「マジですか」
ルーシー:「マリアンナはその『Welcome Suica』は買わないの?」
マリア:「いや、私はルーシーみたいな観光ビザ入国じゃなく、永住者だから」
マリアは自分のパスポートに貼られた永住者のシールを見せた。
多分これはイリーナが裏から手を回したものであろうが、因みにイリーナに関しては稲生はパスポートを見たことがない。
持っているとしたら当然ロシアのパスポートになるだろうが、そもそも齢1000年も生きている彼女に国籍が必要なのかというのはある。
頼めば教えてくれるだろうが、いつも忘れてしまっている。
マリアを永住者にさせたのは、イリーナとしては“魔の者”との戦いが長期化することを既に予知していたことに他ならない。
普通の観光ビザや就労ビザの間に対処できるものではないということだろう。
そしてそれは当たっている。
マリア:「今更必要無いよ。白馬村じゃそもそも使えないし」
ルーシー:「……そうか」
稲生:「首都圏に行けば向こうの私鉄が出しているPasmoとかあるけどね」
因みに稲生はそれも持っている。
学生時代は自宅から大宮駅まで地元の路線バスに乗っており、それ用に購入したものだ(一時期、通学定期でバスに乗っていた)。
ルーシー:「私はここで買うわ」
稲生:「了解です」
尚、仙台駅から鈍行乗り継いで首都圏エリアに行き、そこでSuicaで改札口を出ることはできないので注意。
みどりの窓口に行き、ルーシーは有人窓口でSuicaを購入した。
稲生はその間、3人分の入場券を買って来る。
因みにPasmoには興味を示さなかったもよう。
新幹線以外の鉄道には興味が無い上、地下鉄にはトラウマがあるからだろう。
ルーシー:「私もチャージした方がいい?」
稲生:「そりゃもう。先生達と合流した後、JRに乗りますから」
マリア:「師匠達はそんなもの持ってないから、師匠達の分のキップも買っといた方がいいと思うよ?」
稲生:「それもそうですね。まあ、それはあおば通駅で買います」
マリア:「?」
稲生:「いや、僕が予約した店、駅の向こう側にあるんですよ」
マリア:「いい店かもしれないけど、あんまり年寄り達を歩かせちゃダメだぞ」
稲生:「分かってます」
[同日18:17.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム]
〔12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが10両編成で到着致します。この電車は途中、盛岡、二戸、八戸、終点新青森の順に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車です。尚、全車両指定席です。まもなく12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが参ります。黄色いブロックまで、お下がりください〕
東海道新幹線と違い、東北新幹線は自動放送で英語放送も流れる。
やはりここも、イギリス人達の耳にはアメリカ英語に聞こえるという。
もっとも、意味はちゃんと通じている。
そこは同じ英語圏。
稲生:(先生方はやっぱりグリーン車か。すると、帰りもそうなるかな)
しばらくして東京方向から、真っ白なヘッドライトを輝かせてE5系“はやぶさ”が下り本線ホームに入線してきた。
〔仙台、仙台です。ご乗車、ありがとうございました。……〕
ここで降りる乗客は多く、ぞろぞろと降りて来る。
そしてその中にイリーナとベイカーの姿があった。
ローブを羽織って、手に魔法の杖を持っているのですぐに分かる。
こういう目立つ格好で過激な教会に見つかったりはしないかと冷や冷やするが、2人とも表の世界でも顔が知られているだけに、あえて隠す必要は無いのだろう。
イリーナ:「出迎えご苦労さん」
稲生:「お疲れさまです、先生!」
本来、目上の者には片膝をつく挨拶をすることになっているのだが、稲生はやっぱり日本人式の最敬礼の御辞儀をしてしまっている。
もっとも、イリーナはそれを注意しない。
右手を軽く挙げるだけだ。
イリーナ:「早速、御馳走に預かろうかねぃ。私もベイカーさんもお腹が空いたわ」
稲生:「はい!向こうの繁華街の方に一席設けてありますので、そこで」
イリーナ:「さすがね。ベイカーさん、うちには日本人の弟子が1人いるから、日本国内は彼に任せておけば大丈夫よ」
ベイカー:「それは助かるねぇ」
イリーナが魔法で30代くらいの見た目を維持しているのに対し、ベイカーは50歳前後の姿になっていた。
普段はどのくらいの年齢の姿を保つのか、その為にはどのくらい魔力を消費するのか、使用している体や本人の考えによりけりなので、そこは全く統一されていない。
魔界に拠点を置き、エレーナやリリアンヌの師匠を務めるポーリンは普段、実年齢通りの老婆の姿をしているくらいだ。
『弟子が若い娘なら、師匠は年寄りで当たり前。何を年齢詐称する必要がある?』という考えによるもの。
稲生:「それでは参りましょう」
イリーナ:「あ、ちょっと待った」
稲生:「はい?」
イリーナ:「明日にはまた勇太君のお家にお邪魔させて頂くことになるから、今のうちに帰りの新幹線も予約しておきましょう。明日、この町で少し遊んでから帰るでしょ?夜の新幹線にしといて」
稲生:「はい」
イリーナ:「夜の新幹線なら何時でも、どんな列車でもいいから」
稲生:「分かりました」
イリーナ:「あ、でも私とベイカーさんはファーストクラス……」
ベイカー:「さっきグランクラスと言ってたわよ?」
イリーナ:「……は、予約しなくていいから」
稲生:「かしこまりました」
最上級の席は総師範たるダンテの席とされ、いかに大魔道師と言えども、弟子の身分でそのような席に座るわけにはいかないという考えだ。
但し、そのダンテに付き人として乗る場合は例外である。
だから航空機でも、彼女らは絶対にファーストクラスには乗らない。
ビジネスクラスに乗るのである。
電車が市街地に向かう度、車内は混んでくる。
やはり2つの地下鉄が交差する駅での乗り降りは多い。
〔仙台、仙台。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください。日蓮正宗仏眼寺へは南北線へお乗り換えになり、愛宕橋でお降りください〕
稲生:「ここで降りますよ」
マリア:「ほら、ルーシー。もうちょっとだから頑張って」
ルーシー:「うん……」
ドアチャイムが4回鳴ってドアが開いた。
〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
マリア:「勇太、帰りのルートなんだけど、この地下鉄以外のルートって無い?」
稲生:「あるにはありますよ」
電車を降りながらマリアが稲生に聞いた。
稲生:「仙石線回りで帰るルートです。ただ、路線バスには乗れないので、最寄り駅からタクシーに乗ることになると思います」
マリア:「それは問題無い」
稲生:「ただ、その仙石線も市街地付近は地下を走ってるんですよ」
マリア:「マジか……」
稲生:「もちろん途中から地上には出ますけどね」
それは地下鉄も同じこと。
東京メトロでさえ郊外に出ると、地上に出る事が多々ある。
荒井駅と打って変わって仙台駅の東西線ホームは地下深くにある為、地上に出るまでが大変だ。
稲生:「やっと地上だ」
マリア:「地下鉄から新幹線へのアクセスはあまり良くない?」
稲生:「鉄道会社が違いますからねぇ……」
地下鉄の駅を出ると、今度はJRの駅構内に入る。
新幹線ホームは高架上にあるので、またもやエスカレーターを昇って行くことになる。
稲生:「え、ホームまで行くんですか?」
マリア:「ルーシーが新幹線見たいんだってさ」
ルーシー:「せ、先生を直にお迎えする為よ。あなた達はしないの?」
稲生:「うちの先生は神出鬼没なものですからねぇ……」
ルーシー:「どこの組も、1期生達は皆そうだから」
ダンテの直弟子達のことを便宜上、1期生と呼ぶ。
もちろん全員が同期というわけではなく、その中でも入った時期や年齢によって先輩後輩の差はある。
齢1000年以上を生きるイリーナだが、それでも1期生達の中ではヒヨっ子なのだそうだ。
ベイカーの方がイリーナより先に入門しているし、実年齢も上なのでイリーナも一歩引いている。
ましてやまだ一度も体を交換したことの無いこの3人は、いかに下っ端であるかということ。
稲生:「じゃあ、入場券買って来ます」
マリア:「Suicaでは入れない?」
稲生:「ICカードは入場券の代わりにはなれないんです」
マリア:「そうなのか」
ルーシー:「私もここでSuica、記念に買おうかな」
稲生:「もしもルーシーさんがまた来日してくれるなら、その時の方がいいかもしれませんよ?」
ルーシー:「どうして?」
稲生は新幹線改札口のある3階に移動すると、そこの“みどりの窓口”に寄ってみた。
稲生:「今年の9月から、訪日外国人向けに『Welcome Suica』って売るみたいです」
デポジットを取らない為、記念に持ち替える際、その払い戻しをする必要が無い。
但し、チャージした分の払い戻しは不可。
ルーシー:「分かったわ。今度来た時にはそれを買う。今は勇太やマリアンナの持っているヤツが欲しい」
稲生:「マジですか」
ルーシー:「マリアンナはその『Welcome Suica』は買わないの?」
マリア:「いや、私はルーシーみたいな観光ビザ入国じゃなく、永住者だから」
マリアは自分のパスポートに貼られた永住者のシールを見せた。
多分これはイリーナが裏から手を回したものであろうが、因みにイリーナに関しては稲生はパスポートを見たことがない。
持っているとしたら当然ロシアのパスポートになるだろうが、そもそも齢1000年も生きている彼女に国籍が必要なのかというのはある。
頼めば教えてくれるだろうが、いつも忘れてしまっている。
マリアを永住者にさせたのは、イリーナとしては“魔の者”との戦いが長期化することを既に予知していたことに他ならない。
普通の観光ビザや就労ビザの間に対処できるものではないということだろう。
そしてそれは当たっている。
マリア:「今更必要無いよ。白馬村じゃそもそも使えないし」
ルーシー:「……そうか」
稲生:「首都圏に行けば向こうの私鉄が出しているPasmoとかあるけどね」
因みに稲生はそれも持っている。
学生時代は自宅から大宮駅まで地元の路線バスに乗っており、それ用に購入したものだ(一時期、通学定期でバスに乗っていた)。
ルーシー:「私はここで買うわ」
稲生:「了解です」
尚、仙台駅から鈍行乗り継いで首都圏エリアに行き、そこでSuicaで改札口を出ることはできないので注意。
みどりの窓口に行き、ルーシーは有人窓口でSuicaを購入した。
稲生はその間、3人分の入場券を買って来る。
因みにPasmoには興味を示さなかったもよう。
新幹線以外の鉄道には興味が無い上、地下鉄にはトラウマがあるからだろう。
ルーシー:「私もチャージした方がいい?」
稲生:「そりゃもう。先生達と合流した後、JRに乗りますから」
マリア:「師匠達はそんなもの持ってないから、師匠達の分のキップも買っといた方がいいと思うよ?」
稲生:「それもそうですね。まあ、それはあおば通駅で買います」
マリア:「?」
稲生:「いや、僕が予約した店、駅の向こう側にあるんですよ」
マリア:「いい店かもしれないけど、あんまり年寄り達を歩かせちゃダメだぞ」
稲生:「分かってます」
[同日18:17.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム]
〔12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが10両編成で到着致します。この電車は途中、盛岡、二戸、八戸、終点新青森の順に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車です。尚、全車両指定席です。まもなく12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが参ります。黄色いブロックまで、お下がりください〕
東海道新幹線と違い、東北新幹線は自動放送で英語放送も流れる。
やはりここも、イギリス人達の耳にはアメリカ英語に聞こえるという。
もっとも、意味はちゃんと通じている。
そこは同じ英語圏。
稲生:(先生方はやっぱりグリーン車か。すると、帰りもそうなるかな)
しばらくして東京方向から、真っ白なヘッドライトを輝かせてE5系“はやぶさ”が下り本線ホームに入線してきた。
〔仙台、仙台です。ご乗車、ありがとうございました。……〕
ここで降りる乗客は多く、ぞろぞろと降りて来る。
そしてその中にイリーナとベイカーの姿があった。
ローブを羽織って、手に魔法の杖を持っているのですぐに分かる。
こういう目立つ格好で過激な教会に見つかったりはしないかと冷や冷やするが、2人とも表の世界でも顔が知られているだけに、あえて隠す必要は無いのだろう。
イリーナ:「出迎えご苦労さん」
稲生:「お疲れさまです、先生!」
本来、目上の者には片膝をつく挨拶をすることになっているのだが、稲生はやっぱり日本人式の最敬礼の御辞儀をしてしまっている。
もっとも、イリーナはそれを注意しない。
右手を軽く挙げるだけだ。
イリーナ:「早速、御馳走に預かろうかねぃ。私もベイカーさんもお腹が空いたわ」
稲生:「はい!向こうの繁華街の方に一席設けてありますので、そこで」
イリーナ:「さすがね。ベイカーさん、うちには日本人の弟子が1人いるから、日本国内は彼に任せておけば大丈夫よ」
ベイカー:「それは助かるねぇ」
イリーナが魔法で30代くらいの見た目を維持しているのに対し、ベイカーは50歳前後の姿になっていた。
普段はどのくらいの年齢の姿を保つのか、その為にはどのくらい魔力を消費するのか、使用している体や本人の考えによりけりなので、そこは全く統一されていない。
魔界に拠点を置き、エレーナやリリアンヌの師匠を務めるポーリンは普段、実年齢通りの老婆の姿をしているくらいだ。
『弟子が若い娘なら、師匠は年寄りで当たり前。何を年齢詐称する必要がある?』という考えによるもの。
稲生:「それでは参りましょう」
イリーナ:「あ、ちょっと待った」
稲生:「はい?」
イリーナ:「明日にはまた勇太君のお家にお邪魔させて頂くことになるから、今のうちに帰りの新幹線も予約しておきましょう。明日、この町で少し遊んでから帰るでしょ?夜の新幹線にしといて」
稲生:「はい」
イリーナ:「夜の新幹線なら何時でも、どんな列車でもいいから」
稲生:「分かりました」
イリーナ:「あ、でも私とベイカーさんはファーストクラス……」
ベイカー:「さっきグランクラスと言ってたわよ?」
イリーナ:「……は、予約しなくていいから」
稲生:「かしこまりました」
最上級の席は総師範たるダンテの席とされ、いかに大魔道師と言えども、弟子の身分でそのような席に座るわけにはいかないという考えだ。
但し、そのダンテに付き人として乗る場合は例外である。
だから航空機でも、彼女らは絶対にファーストクラスには乗らない。
ビジネスクラスに乗るのである。