報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「朝の東海道を往く」

2019-06-04 18:55:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日06:00.天候:晴 静岡県三島市 JR三島駅]

 稲生達は無事に三島駅に着くことができた。

 藤谷:「ここでいいかい?」
 稲生:「はい、班長。ありがとうございます!」
 藤谷:「何だか大変みたいだけども、命は大事にするんだよ?」
 稲生:「もちろんです」
 藤谷:「今度の御講は6月9日だ。参加の方よろしく」
 稲生:「前向きに努力します」

 因みに稲生のセリフを政治家が言うと、『行けたら行く』という意味とほぼ同義になる。

 稲生:「まずは東京駅までの新幹線のキップを買わないと……。マリアさん、体の方は大丈夫ですか?」
 マリア:「少し寝たから、何とか……」
 稲生:「無理はしないでくださいね」
 マリア:「うん……」

 平日朝夕のラッシュ時に運転される“こだま”号は、基本的にはグリーン車以外全部自由席である。
 そこはJR東日本の新幹線と同じか。
 北口の改札からコンコースに入り、新幹線ホームに向かう。

 稲生:「なるべく後ろの車両がいいな」
 鈴木:「前の車両じゃなく?」
 稲生:「うん。東京駅は八重洲南口から出たい」
 鈴木:「はあ……。あ、先輩。駅弁買って行きましょう。お腹が空きしまたよ。何しろ夜通しでしたからね」
 稲生:「た、確かに」

 緊張感からか、あまり眠気は無い稲生達。
 確かにペンダントを見つけられたことは1つの勝利であるが、とにかくイリーナと合流するまでは油断ならないことを考えると眠気が来ることは無かった。

 新幹線ホームの中央部分の売店は、朝早くから空いている。

 鈴木:「俺はうな重〜♪」
 稲生:「朝から!?……マリアさんは何にします?」
 マリア:「肉……肉系がいい」
 稲生:「分かりました。僕は普通の幕の内でいいや」
 店員:「ハイ、清流うなぎ弁当、2900円になります」
 鈴木:「はい」
 稲生:(高っ!)Σ( ̄ロ ̄lll)

 そんな高い駅弁にホイホイ金を出す鈴木。
 少なくとも、金銭面に関する功徳は鈴木には要らないようである。

 稲生:「この『富嶽 あしたか牛すき弁当』と『御弁当(幕の内)』ください」
 店員:「ハイ、1870円になります」

 稲生も自分とマリアの分の駅弁を買うと、あとは自販機でお茶を買った。

〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく6番線に、6時26分発、“こだま”800号、東京行きが到着致します。黄色い線の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に停車致します。電車は前から16号車、15号車、14号車の順で、1番後ろが1号車です。……〕

 後ろの車両の方へ歩いていると、ホームに接近放送が鳴り響いた。
 よく見ると確かに三島駅には転落防止柵は付いているものの、乗降ドアが来る位置にホームドアは無い。
 これは通過列車が外側の通過線を通過していく為、ホームドアは設置されないのだろう。
 東京駅、品川駅、新横浜駅には設置されているが、これは乗降客が多いからか。

〔「6番線、お下がりください。6時26分発、“こだま”800号、東京行きの到着です。8号車から10号車のグリーン車を除きまして、全車両自由席です。終点東京まで、各駅に停車致します」〕

 風を切って入線してくるN700系電車。
 今度はAdvanceではなく、普通のN700系だった。
 当駅始発の為か、既に進行方向向きに座席がセットされている。
 つまり、三島の車両基地で整備を受けて来たというわけだ。
 それでも停車してすぐにドアが開くわけではない。
 ホームで待機していた車掌が1号車の乗務員室に乗り込んで、それから開扉となる。
 そこは駅員(輸送助役?)の放送で。
 ドアが開くと、稲生達は3号車に乗り込んだ。

 稲生:「だいたい東京駅では、八重洲南改札口はこの辺りのはずだ」
 鈴木:「それでも先頭車か最後尾に乗り込むのが鉄根性では?」
 稲生:「僕1人やキミとだけだったら、そうするよ。だけど今はマリアさんがいる。マリアさんの体の具合を優先しなきゃ」
 鈴木:「さすがです。この辺は俺も見習わないと……」
 マリア:「エレーナは頑丈だから、あんたの方が面倒看られるようにしておいた方がいい」

 マリアは3人席の窓側に座りながらそう言った。

 鈴木:「な、なるほど……」

 マリアは前の席のテーブルを出すと、そこに弁当とお茶を置き、さっさと食べ始めた。
 しかも、結構がっついている。

 稲生:「マリアさん、もしかしてお腹空いてました?」
 マリア:「そうかもしれない。魔法を使い過ぎると眠気と空腹が同時に来ること、すっかり忘れてた」
 稲生:「もう1つ何か買って来ましょうか?」
 マリア:「……いや、いいや。きっと食べたら今度は眠くなる」
 稲生:「あ、なるほど」

 マリアはブラウスのリボンを外し、代わりに件のペンダントを着けていた。
 JKらしさは失われたが、代わりに少し大人っぽく見えるようになった。
 魔女が着ける魔法具は、ド派手か地味かの両極端だ。
 こちらは後者。
 赤銅色一色の楕円形のもので、特に何か目立つ装飾がされているわけではない。
 イリーナが着けている派手な魔法具と比べれば本当に地味だ。
 イリーナの表向きの顔は占い師である為、それでわざと目立つ魔法具を身に着けているということも考えられる。
 先に食べ終わったマリアをよそに、稲生と鈴木はゆっくり食べていた。

[同日06:26.天候:晴 JR東海道新幹線800A列車3号車内]

 発車の時刻になり、ホームに発車ベルが鳴り響く。

〔6番線、“こだま”800号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、黄色い線の内側までお下がりください〕
〔「6番線から“こだま”800号、東京行きが発車致します。ITVよーし!乗降よし!……6番線、ドアが閉まります」〕

 ブー!という客終合図のブザーが鳴って、ドアが閉まった。
 ホームドアは無いので、“乙女の祈り”が聞こえて来ることはない。
 そして、スーッと列車が走り出した。
 東京駅と同様、副線から本線へのポイント渡りがある為、すぐには高速度まで加速しない。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“こだま”号、東京行きです。終点、東京までの各駅に停車致します。次は、熱海です。……〕

 マリアは食べ終わると、ローブのフードを被り、座席を倒して仮眠モードに入った。
 東京駅までは1時間足らずだが、徹夜であり、マリアが1番疲労した為、少しでも寝れる時に寝ておいた方が良いということだ。
 朝日が車内に差し込む中、東京行きの一番列車は本線に出るとグングンと加速した。
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“大魔道師の弟子” 「愛鷹パーキングエリア」

2019-06-04 13:30:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日04:00.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・三門前]

 ミカエラ:「あーの空の彼方へー♪飛んで行ける日を夢見て♪あーの空の彼方のー♪月へー♪」
 クラリス:「月へー♪」

 稲生達が三門前に駆け付けると、マリアの使役する人形達の歌声が聞こえて来た。

 ミカエラ:「月の見える夜はー♪連れ立ち空を見上げー♪」

 富士山をバックに輝く満月に向かってミカエラとクラリスが人形形態で歌っている。
 マリアは杖を支えに立っているのがやっとだった。

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「勇太……これを……」

 マリアの手にはずぶ濡れのペンダントが握られていた。

 ベルフェゴール:「潤井川の川底に落ちていたよ。いやあ、この“怠惰の悪魔”も数年分は働いた気分だ」

 マリアと契約している悪魔、ベルフェゴールは得意げに語っていた。

 ベルフェゴール:「ホトケの後押しがあったから良かったものの、他の悪魔の妨害が大変だったよ。後で対価は追徴させて頂こう」
 稲生:「御苦労様。それについての話はまた後日。今は契約書が無い」
 ベルフェゴール:「了解。だが、なるべく早くして欲しいね」

 稲生とベルフェゴールの会話を……。

 藤谷:「おい、稲生君は誰と話をしているんだ?」
 鈴木:「見えない何か、でしょうね」

 ただの人間である藤谷と鈴木には、悪魔の姿は見えない。

 ベルフェゴール:「妨害してきた下級悪魔は取りあえず全部、川に沈めておいたから。その分も対価も頂こう」
 稲生:「……一応、請求書だけ作って持って来て。話はそれからだ」
 ベルフェゴール:「了解」
 藤谷:「取りあえず、車回してくる。鈴木君はここで待っててくれ」
 鈴木:「分かりました」

[同日04:45.天候:晴 静岡県沼津市 愛鷹(あしたか)パーキングエリア]

 

 藤谷のサービスで始発の“こだま”が出発する三島駅まで乗せてもらえることになった稲生達。
 しかしさすがに到着が早過ぎるので、東名高速の富士インターから沼津インターの間にある愛鷹パーキングエリアで時間調整することにした。
 マリアはフラフラの状態で、車に乗り込むとすぐに昏睡した。
 稲生に寄り掛かって眠る姿は、それほどまでに稲生のことが信頼できる相手ということの表れか。

 藤谷:「よし。取りあえずここで時間調整だ」
 鈴木:「ちょうどトイレ行きたかったので助かります」

 藤谷のベンツは左ハンドルなので、助手席に座る鈴木は進行方向右側に座ることになる。
 鈴木が時々乗り回す実家のベンツVクラスは右ハンドルなので、同じベンツでも感覚が違うという。
 かつてはケンショーレンジャーの輸送に(半強制的に)使われた。

 藤谷:「ここから三島駅までは15分くらいだ。だからだいたい1時間くらいの調整だな」
 稲生:「三島市なのに最寄りのインターは沼津なんですね」
 藤谷:「そういうことだな。マリアさんは?」
 稲生:「まだ寝ています。三島駅まで起きなかったらどうしよう……」
 藤谷:「起こすしかないな。本当だったら東京まで乗せてあげたいところなんだが、今夜も工事があるからな……。さすがに昼間は俺も寝ておきたい」
 稲生:「いえ、いいんですよ。三島駅まで乗せてもらえるだけでもありがたいです」

 稲生は手持ちのスマホでイリーナに連絡した。
 見た目はただのペンダントなのだが、確かに何かの魔力が付与されているようには感じた。
 しかし、これが解呪の魔法具だったとは……。
 イリーナはとにかくルーシーが入院している病院まで、それを持って来るように指示した。
 こうしている間にも、ルーシーの容態は刻々と悪くなっているのだという。
 何しろ強力な悪魔の呪いだ。
 “魔の者”がイリーナに自慢したように、そもそも病気ではないのだから、病院に行った所で治るわけがない。

 藤谷:「俺は一服してくるよ。小さいパーキングでも喫煙所くらいはあるからな」
 稲生:「はい」

 鈴木はトイレへ、藤谷は喫煙所へ向かった。
 車内には藤谷が掛けているジャズが流れている。
 質実剛健な藤谷の聴く音楽はジャズであるらしい。
 以前、正証寺の愛唱歌を作ろうとした時、好きなジャズに歌詞をつけたものにしたら、ものの見事に総スカンを食らっていた。

 マリア:「う……」
 稲生:「マリアさん?大丈夫ですか?」
 マリア:「疲れた……」
 稲生:「あれだけ大量のMPを消費しましたからね。どうか、無理はしないで……」
 マリア:「ここどこ……?」
 稲生:「東名高速道路の愛鷹パーキングエリアという所です。今、大石寺から藤谷班長の車で三島駅に向かっている最中です。時間調整の為、ここで休憩してるんですよ」
 マリア:「そう……」

 マリアは車窓を見た。
 まだ外は薄暗い。

 マリア:「師匠には連絡した……?」
 稲生:「僕からしておきました。例のペンダントを持って来るようにとのことです」
 マリア:「ルーシーが危ない。急がないと、呪い殺される……」
 稲生:「ええ。だから班長が車で三島駅まで送ってくれるんです。そこから始発の新幹線に乗れば、また1時間足らずで東京へ帰れますよ」
 マリア:「師匠は何か言ってた?」
 稲生:「いえ、何も。ただ、急いでくれというだけで」
 マリア:「そう……。それなら……勇太のルートで大丈夫……だと思う……」
 稲生:「まだ時間がありますから、ゆっくり休んでてください」
 マリア:「うん……。トイレ行きたい……」
 稲生:「あ、ハイハイ」

 稲生は先に降りた。

 稲生:「車高の高い車だから気をつけて……」

 いつどこでまた“魔の者”が狙っているか分からない。
 ペンダントは肌身離さず持っておく必要がある。
 とにかく、イリーナと合流するまでは油断がならない。
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“大魔道師の弟子” 「深夜の大石寺」

2019-06-04 10:13:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日00:50.天候:雷雨 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺三門前]

 確かに三島駅の時点では曇だった。
 そして隣の沼津駅に移動した時、雨が降り出して来てしまった。
 それにしても、だ。

 稲生:「何これ?」

 大石寺へ向かう国道を走るタクシーを雷雨が襲っていた。

 鈴木:「た、確かに天気予報、雨マークは付いていたんですが……雷注意報なんて出てなかったですよ?」

 タクシーのフロントガラスを大きな雨粒が叩き、ワイパーが規則正しく動いてそれを拭き取っている。

 マリア:「おおかた、“魔の者”の妨害だろう。よっぽどあのペンダントを見つけられては困ると見える」

 今の“魔の者”はどういうわけだか、直接日本に乗り込むことはできない。
 従って、気象などを遠隔操作するしかないか、或いは眷属を使う他は無いのだという。
 しかし、気象を遠隔操作できるほどの力を持ちながら、直接日本に乗り込むことはできないとはこれ如何に?

 稲生:「“魔の者”の正体は諸天善神の一種なんだろうか……?」

 稲生が呟くと、『それ以上言うな!!』とばかりに、国道沿いの樹木に雷が落ちた。
 その樹木は煙を上げながら倒木した。
 実際に火が出たのか、それが道路を塞いだのかは分からない。
 とにかく、この森林地帯を抜けなければ危険だということは分かっていたので、止まるわけにはいかなかった。

 稲生:「大石寺だ!」

 車窓の向こうにプレハブの建物に包まれた三門が見えた。

 鈴木:「すいません、あの三門前で止めてください」
 運転手:「あのプレハブの建物の前ですか?分かりました」

 稲生は魔道士のローブを着込んだ。
 これがレインコート代わりである。
 マリアは既に着込んでいる。

 稲生:「鈴木君。キミは危険だから、第2ターミナルの待合室の中にいた方がいい」
 鈴木:「あ、はい。そうさせてもらいます。料金は俺が払っておきますんで」
 稲生:「ありがとう」

 タクシーが三門前に止まり、激しい雷雨の中、稲生とマリアはそこで降りた。
 2人を降ろすとタクシーが走り出し、それは第2ターミナルへと向かった。
 それを確認すると……。

 稲生:「どうやって探すんです!?警察でも見つけられなかったヤツですよ?」
 マリア:「魔法で探すしかない!」

 マリアはローブの中から折り畳んだ紙を出した。
 それはすぐに雨で濡れてしまう。

 マリア:「風で飛ばされないようにしっかり押さえてて!」
 稲生:「その辺の石を探してきます!」

 そう。何故か雷だけでなく、風も吹いて来た。
 明らかに“魔の者”の遠隔操作である。
 確変を遠隔操作するのは違法だと知っていながら、天候までも操作するこの“魔の者”の行動は異常である。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我と契約し悪魔、ベルフェゴールに命ずる。汝の持てる力を使い、ロザリー・ローレンスの遺品たるペンダントを探し出せ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

[同日02:00.天候:雷雨 大石寺第2ターミナル]

 鈴木:「いくら何でも雷雨がこんなに長く続くなんて異常だ!やはり先輩達の言うように悪魔は実在するようです!」

 第2ターミナルに1台の車がやってきた。
 それは黒塗りのベンツGクラス。
 藤谷春人の車だった。
 ここに到着してから鈴木が状況を藤谷に説明していたのだ。

 藤谷:「そりゃそうだ。俺だって北海道で巻き込まれたんだからよ!一応、親父にヘリの出動頼んでおいたぜ!」
 鈴木:「ヘリ!?」
 藤谷:「あの悪魔と北海道で戦った時、最後にはヘリで脱出したもんだ。親父が幸い、操縦免許持ってたからな」
 鈴木:「そ、そんなに!?」
 藤谷:「で?今、稲生君とマリアさんはどうしてる?」
 鈴木:「あそこで時々、緑色に光るのが見えるんです。多分あれが魔法ですよね?1時間以上やって、ずっとあれなんです」
 藤谷:「成果は出てないってことか。それより、あれだ。せっかく来たんだから行くぞ」
 鈴木:「どこに!?」

[同日02:30.天候:雷雨 大石寺・客殿]

 大石寺の堂宇の1つである客殿。
 ここでは毎日欠かさず午前2時半から勤行が行われる。
 形態は各末寺で行われる朝の勤行と基本同じであるが、行われる時間帯から丑寅勤行と呼ばれる。
 総本山で行われるだけに、ここでは御当代法主上人が導師を務める。
 信徒の参加も、もちろん可能。
 入口で靴を脱ぐ前に、所属支部だの居住地だの指名だのを記帳する必要があるが。
 最初、稲生は藤谷と鈴木に誘われた時、拒否した。
 いくら丑寅勤行の功徳が大きいとはいえ、マリアを1人にしては行けないという理由だった。
 しかし、藤谷からある言葉を聞いた時、賭けに出ようと思ったのだった。

 藤谷:「丑寅勤行とは仏様が悟りを開くと謂われる丑寅の時刻に、猊下様が一切衆生を成仏へと導く為に行われる勤行のことだ。その勤行に参加するということは、猊下様の御衣にすがる思いで一緒に成仏させて頂くという意義があるんだ。こんなありがたい勤行での御祈念までも、あの悪魔が妨害できるはずがない!」

 という藤谷の主張に同調した。
 雨音や雷鳴が客殿の中にまで聞こえて来る。

 藤谷:「分かるか?あの大悪魔が地団太踏んでやがるぜ。ざまぁみろってんだ」
 稲生:「はい!」
 鈴木:「外で悔しそうに喚いているのが分かりますよ」
 藤谷:「よし。皆で御祈念するぞ。マリアさんの探し物が見つかりますようにってな」
 稲生:「はい!」
 鈴木:「はい!」

[同日03:50.天候:晴 大石寺・客殿]

 鈴木:「今日は少し唱題が長かったですね」
 藤谷:「フム。猊下様も何か思う所があったのだろう」
 稲生:「あれ!?晴れてる!?」

 丑寅勤行が終わって客殿の外に出ると、あれだけの雷雨が嘘みたいにピタッと雨が止んでいた。
 それどころか空を見上げると、雲が殆ど無くなり、富士山の方には満月が見えていた。

 藤谷:「満月ってあれか?西洋じゃ、魔力が高まるって話か?」
 稲生:「そうですね。威吹も鬼族のキノも、妖力を持て余してテンションあげあげでした。逆に新月の時は【お察しください】」
 鈴木:「それよりマリアさんを心配しましょうよ。一体、どうなったのか?」
 稲生:「それもそうだ!」

 3人は急ぎ足で三門へと向かった。
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