報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東方遊行抄」

2019-06-25 20:00:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日14:16.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 仙台市地下鉄仙台駅・東西線ホーム]

〔3番線に、荒井行き電車が到着します〕

 東北新幹線から仙台市地下鉄東西線に乗り換える稲生、マリア、ルーシー。
 どういうわけだか地下空間が苦手なルーシーは、脂汗を拭いながらそれでも地下深いホームまでやってきた。

 マリア:「ルーシー、本当に大丈夫?」
 ルーシー:「大丈夫……。こんなことで負けない……!」

 トラウマに立ち向かう根性はあるようだ。

 稲生:(地下鉄サリン事件で生き残った被害者のPTSDに似ている……)

 電車が轟音と風を伴ってトンネルの向こうからやってくる。
 1両16メートルの、それもたったの4両編成しか無い小さな地下鉄である。
 ホームに停車すると、ホームドアから開いていった。

〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 ターミナル駅なので乗降客はそれなりに多い。
 先頭車に乗り込むと、3人は反対側のドアの前に立った。

 
(車内に掲げられた路線図。十字型の路線であるが、場合によってはこのようにX型に表示されることもある)

〔3番線から、荒井行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 短い発車サイン音が流れる。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 車内自動放送でドア閉め注意喚起放送が流れると、車両のドアとホームドアが閉まった。
 車両のドアは2点チャイムが4回も鳴る仕様である。
 駆け込み乗車による再開閉は無く、電車はすぐに走り出した。

〔次は宮城野通、宮城野通、ユアテック本社前でございます〕
〔The next stop is Miyagino-Dori station.〕

 稲生:「ルーシーさんは昔、日本に来たことありますか?」
 ルーシー:「いや、無い。今回が初めて。どうして?」
 稲生:「いえ、それならいいんです」
 マリア:「ルーシーがどうして地下鉄にトラウマがあるのか、気になるんでしょ?」
 稲生:「日本でも1995年にカルト教団による地下鉄テロがありました。どういうわけだか、日蓮正宗ではそいつらを折伏したという話は聞きません。“慧妙”のアポ無し折伏隊でさえ、彼らを避けている有り様です」
 マリア:「気に入らないとすぐテロする団体に、並みの人間が容易に近づくものじゃない。エレーナがマフィアと戦って勝てたのは魔道士だからで、普通なら惨殺死体でゴミ捨て場に捨てられるのがオチだよ」
 ルーシー:「後で話す。今は許して」
 稲生:「無理しなくていいですよ。話せる時に話してもらえたら」

[同日14:29.天候:晴 仙台市若林区荒井 地下鉄荒井駅]

 電車が郊外に向かう度に、車内は空いていった。
 最初は立っていた稲生達も、途中から座ったほどである。

〔「本日も仙台市地下鉄東西線をご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、荒井、荒井です。お出口は、右側です。この電車は荒井駅到着後、回送電車となり、車庫へ引き上げます。引き続いてのご乗車はできませんので、ご注意ください」〕

 ワンマン運転なので運転士がマイクで放送している。
 ATO運転で常にハンドルを握っている必要は無いので、そういう余裕もあるのだろう。
 そして電車は、到着専用ホームに入線した。

〔荒井、荒井、大成ハウジング本店前。終点です。お出口は、右側です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意願います。本日も仙台市地下鉄をご利用頂きまして、ありがとうございました〕

 因みに仙台市地下鉄の車内自動放送を行っている声優は、東京メトロのそれと同一人物である。
 東京メトロよりもゆっくりとした喋り方をしているのは、やはり首都と地方都市の違いだろうか。

 稲生:「お疲れさまでした。電車を降りますよ」
 マリア:「ほら、頑張って」

 マリアがルーシーの手を取って、席を立たせる。
 閉扉と同じく、ドアチャイムを4回鳴らしながらドアが開いた。

〔荒井、荒井、終点です。1番線の電車は、回送電車です。ご乗車にならないよう、お願い致します〕

 

 電車を降りた乗客数は、僅かなものであった。
 それでも駅前は開発途上にあるから、開発が進めば乗客も増えるであろうと予想されているが……。

 稲生:「ここでバスに乗り換えますから、あとはもう地上です」
 マリア:「そういうことらしい。頑張って」
 ルーシー:「うん……」

 この駅はホームが地下1階という浅い所にある為、エスカレーターを上がればもう地上である。
 今日は天気が良いので、昼下がりの日差しがコンコース無いに降り注いでいた。
 ホームは地下だが、コンコースなどは全て地上にある。

 

 改札口を出る。

 稲生:「少し休みます?」
 マリア:「そうしよう。ルーシー、トイレに行っとく?」
 ルーシー:「そうする」

 バスに乗り換える前に、魔女2人は改札外のトイレに行くことにした。
 新しい駅で、利用者も少ない駅だからトイレも比較的きれいなはずである。

 稲生:(人間時代に、どういうトラウマを受けたかで全然違うなぁ。エレーナとリリィなんか、地下室に住んでるくらいだし)

[同日14:44.天候:晴 仙台市営バス15系統車内]

 仙台市営バスに乗り換えた3人。
 工場団地や産業道路を行くバスであるが、日曜日にそのような重要は少ないのか、乗客は稲生達以外に3人ほど乗っただけである。
 元々が利用者の少ない駅で、路線バスの利用者はもっと少ないだろう。
 タクシー乗り場のタクシーなど、運転手が談笑しているくらいであった。

〔「お待たせ致しました。14時44分発、鶴巻循環、発車致します」〕

 乗客がそれ以上増えることはなく、バスは時間になると中扉の引き戸を閉めて発車した。
 ルーシーがキャリーバッグを持っている為、車内真ん中の1人席に座っている。
 そこなら座席の横に置ける為。
 車椅子の旅客が来たら折り畳まれる席だ。
 大きなキャリーバッグを持っていると、ノンステップバスの方が乗り降りが楽である。

〔毎度、市営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは若林体育館前、宮城運輸支局前経由、鶴巻循環でございます。次は荒井六丁目、荒井六丁目でございます。……〕

 マリア:「あの悪魔も随分遠い所を指定したものだな」
 稲生:「ええ。よく見つけて来ましたね。でも、きっと誰かからの横流し品ですよ」
 ルーシー:「下級悪魔が、まともな物送り付けるわけないしね」
 稲生:「ルーシーさん、気分の方はどうですか?」
 ルーシー:「地上に出れば大丈夫。……このバス、地下トンネルを通ったりはしないよね?」
 稲生:「ああ、それは大丈夫です。普通のトンネルすら通りません」
 ルーシー:「それならいいけど……」

 バスは元々は田園地帯だった所を進む。
 今はマンション建設工事現場が並んでいる所である。
 完成すれば、もっと賑やかになるだろうか。
 
コメント
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