報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「5月17日」 2

2019-06-16 19:21:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月17日10:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生:「『魔界の穴』を使うのが有料とは……。エレーナの奴め」
 威吹:「まあ、人んちに邪魔して使わせてもらうわけだから、当たり前と言えば当たり前だがね」

 一体エレーナはいくら請求したのか、【お察しください】。
 エレベーターで地下階に下り、その奥に魔法陣が常設されている。

 稲生:「それじゃ威吹、また来てね」
 威吹:「ああ。ユタも是非また来なよ」
 稲生:「うん。それじゃ」

 最後に2人は握手を交わした。
 威吹が魔法陣の中に入ると、魔法陣の下から白い光が現れ、それが威吹を包み込んだ。
 そして、次の瞬間には威吹の姿は無くなっていた。

 稲生:「ま、これを維持するのが大変だというのは分かるが……」

 稲生は再びエレベーターまで戻ると、それで1階に戻った。

 エレーナ:「おっ、稲生氏。随分早い別れだったな」
 稲生:「宿泊しているわけでもないのに、長居はマズいだろ」
 エレーナ:「いっそのこと泊まってくれたら、いくらでもいていいぜ?」
 稲生:「そのつもりが無いからそう言ってるんだよ」
 エレーナ:「私の部屋には入らなかっただろうね?」
 稲生:「当たり前だよ。鈴木君じゃあるまいし」
 エレーナ:「今、リリィが寝てるから。あいつの寝起きは悪いから、機嫌を損ねたら、まあ【お察しください】だな」
 稲生:「分かってるって。それより、マリアさんとルーシーは?」
 エレーナ:「東京駅に行くって言ってたな。多分、これからどこかに行くんじゃないか?」
 稲生:「そうなの!?」

 稲生は自分のスマホを取り出した。

 エレーナ:「おっと。今、妖狐のヤツと『男の友情』を育んで来た所だろ?」
 稲生:「変な言い方するなよ……」
 エレーナ:「それと同時に、マリアンナとルーシーも『女の友情』で今行動中だ。そこに男が絡んじゃダメだぜ」
 稲生:「そうなのか。じゃあ、僕はどうしたらいいんだ?」
 エレーナ:「ワンスターホテルの『御休憩』サービスが……」
 稲生:「さて、正証寺に行って唱題でもしてくるか」

 エレーナの商売根性に付き合いきれなくなった稲生は、さっさとホテルをあとにした。

 稲生:「全く。油断も隙も無いんだから……」

 取りあえずは再び森下駅に向かうことにした。

[同日10:53.天候:晴 東京都文京区本郷 都営地下鉄本郷三丁目駅→東京メトロ本郷三丁目駅]

〔かすが〜、春日〜。都営三田線、丸ノ内線、南北線はお乗り換えです〕

 稲生は大江戸線に乗ると、今度は春日駅に向かった。
 正証寺のある池袋まで行くのに丸ノ内線に乗り換える為である。
 それなら同駅名の本郷三丁目駅の方が良いと思われるだろうが、実はそちらは地下通路で繋がっていない。
 地上に出て乗り換える必要がある。
 その為、駅名は違えど(東京メトロは『後楽園』駅)、春日駅の方がまだ地下道で繋がっているので、こちらで乗り換えた方が多少は便利なのである。
 但し、互いの駅名が違うだけに、多少歩かされることにはなるが。
 電車を降りた稲生は連絡改札口に向かい、そこから今度は東京メトロ後楽園駅の方に入った。
 と、そこへ……。

 稲生:「あっ」

 稲生のスマホが震えた。
 画面を見ると、マリアからだった。
 多分水晶球を介して通話するのだろう。
 逆に稲生の方が水晶球を使わない。

 稲生:「はい、もしもし?」
 マリア:「ああ、私。今どこ?」
 稲生:「地下鉄の春日駅から後楽園駅という所に移動した所です。あの、後楽園ゆうえんちとか東京ドームとかある所です」
 マリア:「イブキとそこへ?」
 稲生:「いえ、威吹を送った後、正証寺に行こうと思いまして。その途中です」
 マリア:「忙しいならいいけど……」
 稲生:「何かあったんですか?」
 マリア:「東京駅の地下街でイベントがあったんだけど、ルーシーがそこで一発当てたんだ。その商品をどうしようか相談したくて……」
 稲生:「エレーナなら真っ先に換金するか、どこかへ転売しそうなものですけどね」
 マリア:「私もそれを一瞬考えたんだけど、何故かイラッと来たんで、他の方法を探したい。多分、勇太ならいい方法が浮かぶと思う」
 稲生:「現金ならこの旅行で使っちゃえばいいと思いますけどね」
 マリア:「それが違うから困ってるんだ」
 稲生:「一体、何なんです?大型冷蔵庫でも当たりました?」
 マリア:「だったらルーシーの家に空輸でもするよ。そうじゃないんだ。日本でしか使えないから困ってるんだ」
 稲生:「ちょっと行きますよ。今、ちょうど丸ノ内線に乗る所ですから」
 マリア:「ありがとう。私達は今、東京駅の八重洲地下街にいる。上のバスターミナルに上がった方がいいか?」
 稲生:「その方が分かりやすいかもしれませんね。ちょっと待っててください。今行きますから」

 稲生は電話を切ると、丸ノ内線の池袋行きではなく、反対側のホームへと向かった。

 稲生:(ルーシーって地下とか苦手だと聞いたんだけど、地下街は大丈夫なのかな?)

 稲生は首を傾げて地上に向かった。
 後楽園駅では丸ノ内線だけが地上を走っているからだ。

〔まもなく1番線に、荻窪行きが参ります。乗車位置でお待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれ掛ったりするのはおやめください〕

 地下鉄らしからぬ地上のホームに上がると、ちょうど電車が来たところだった。
 しかしやってきたのは、旧型の02系。
 なかなか新型の2000系には当たらない。
 銀座線の1000系が開業当初の銀座線の1000形をモチーフにしているのに対し、こちらの2000系は開業当初の丸ノ内線車両をモチーフにしているとのこと。

〔足元にご注意ください。後楽園、後楽園。荻窪行きです。南北線、都営三田線、都営大江戸線はお乗り換えです〕

 稲生は電車に乗り込んだ。
 この時間、池袋行きは混んでいたが、東京方面は空いていた。
 発車メロディが鳴ってドアが閉まる。
 ホームドアが閉まる分、発車まで数秒のブランクがある。
 もっとも、丸ノ内線はワンマン運転を行っているので、車掌の発車合図のブザーが鳴るまでのブランクだと思えばいいかも。

〔次は本郷三丁目、本郷三丁目です。都営大江戸線は、お乗り換えです〕
〔The next station is Hongo-Sanchome.Please change here for the Toei Oedo line.〕

 で、電車が走り出して再び地下に入る頃、稲生は気付く。

 稲生:(今日って金曜日だよな?こんなド平日にイベントで福引?……八重洲地下街ならやってるのかな???)

 と、首を傾げた。
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“大魔道師の弟子” 「都営地下鉄を往く」

2019-06-16 15:32:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月17日09:10.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅→都営地下鉄上野御徒町駅]

〔おかちまち〜、御徒町〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 稲生と威吹を乗せた京浜東北線電車が御徒町駅に到着する。
 そこから降りて来た乗客達に混じって、威吹と稲生も降りた。

 稲生:「あとは都営大江戸線に乗り換えるだけだ」
 威吹:「来た道を戻るといった感じだね。だが、それがいい」

 威吹が含むような答えをしたのは、来た道ではなく、別の道を通ったが為に痛い目を見た人間の末路をいくつも知っているからだ。
 怪談話や民話にも似たような話があり、威吹も江戸時代はそんな末路を辿らせる側の妖怪だったからだろう。
 中には稲生のように分かっている人間を惑わせて別の道を通らせ、罠に掛ける悪質な妖怪もいた。
 だが、威吹はそれを笑えない。
 自分が正にそういう存在だったからだ。
 もちろん今はそんなことはしないが。

 稲生:「都営大江戸線。威吹のような者にはピッタリじゃないか?」
 威吹:「この町がまだ『江戸』と呼ばれていた頃から生きていた、という意味ではね。ボクは青梅街道沿いにいただけで、あまり江戸の町には行ってないよ」

 威吹が人喰い妖狐として暗躍していた場所は、青梅街道の今で言う柳沢辺り。
 青梅街道に沿って進む西武新宿線の西武柳沢とか、東伏見辺りだ。
 今、その東伏見には伏見稲荷の分祀が建立されているが、威吹の時代にはまだ無かった。
 多分、威吹が妖狐だからそこに建ったわけではなく、ただの偶然であろうが、稲生としては何らかの因縁を感じてしまう。

 威吹:「それに、別に江戸の町だけ走っているわけではないし」

 隣接する上野御徒町駅に移動し、そこに掲げられている大江戸線の路線図を威吹は指さした。
 そりゃそうだろう。
 終点の光が丘駅なんて、威吹は存在すら知らなかったのだから。

 威吹:「まだこっちの方が江戸の町だ」

 乗り換え案内に出ている東京メトロ銀座線のオレンジ色の線を指さす。
 浅草を出発して終点が渋谷。
 渋谷は江戸の町から外れているが、まあだいたい確かに通ってはいるだろう。

 稲生:「だろうね」

 階段や通路を歩く度に威吹の草履のカッカッという足音が響く。
 その爪先には透明のカバーが付いていて、これは以前、威吹が稲生に連れられて大石寺まで行った時、そこの御僧侶が履いていた草履を見てとても気に入ったものである。
 その為、稲生は休憩坊の御住職にわざわざ購入先を尋ねて、威吹も手に入れたという感じである。
 尚、江戸時代は草鞋を履いていた。
 草鞋は遠出の旅をする時に使用するものであるが、ここ最近は特にこの世界では履いていない。
 何故ならこの世界では交通手段が発達している為、徒歩で遠出をすることが無いからだ。

 威吹:「この世界でSuicaを使うのは今日で最後かな?」

 改札口にSuicaを当てながら威吹が言う。

 稲生:「そんなこと言わないで、また来なよ。今度はキミの家族を連れてさ」
 威吹:「さくらはこの世界を見たら仰天するよ。坂吹も最初はこの世界で修行させようとしたらしいんだけど、ダメだったらしいね」
 稲生:「そんなに?」
 威吹:「魔界高速電鉄の電車だけで驚くくらいだから。新幹線なんて見たら、そりゃもう【お察しください】」
 稲生:「坂吹君は?」
 威吹:「東京駅に連れて行こうものなら、絶対に抜刀するだろう」
 稲生:「南端村駅は長閑だからねぇ……」

 地下深いホームかと思いきや、実はそこまででもない。
 改札口からコンコースに入ってホームまでまた階段を下りるのだが、そんなに深くまで下りるわけではない。

〔まもなく2番線に、両国、大門経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れてお待ちください〕

 ホームまで下りると、接近放送が鳴り響いた。

 稲生:「こっちの地下鉄は平和なもんだよ。魔界の地下鉄じゃ、路線や駅によっては、普通にエンカウントするからね」
 威吹:「えんかうんと?……ああ、『敵に遭遇する』という意味か。王都もけして治安が良いとは限らないからね。その中でも南端村は良好だ」
 稲生:「むしろ城外に出た方が治安がいいかもね」
 威吹:「それは言えてる」

 電車が轟音を立ててホームに進入してきた。
 尚、威吹の住む南端村は城壁の外側に形成された村である。

〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕

 ここで降りる乗客は多い。
 稲生達は電車に乗り込んだ。
 明らかにJRの電車よりは車両が小さい。
 短い発車メロディが鳴って、先に車両側のドアから動き、その後でホームドアが動く。
 このパターンは関東の鉄道では当たり前だ。
 関西では逆にホームドア側から閉まるとのことだが、まだ実際には見たことが無い。

 威吹:「ボクを見送ってくれた後、何か予定はあるのかい?」
 稲生:「マリアさん達次第だね」

 電車が走り出してから威吹がそう聞いてきた。

 稲生:「今、マリアさんの同期の先輩が同じホテルに泊まってるから」
 威吹:「そうか」

〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi(E10).Please change here for the Tukuba Express line.〕

 威吹:「ユタは魔道士になってしまったし、ボクも魔界で家庭持ちだ。キミと最初に会った頃は、全く予想もしなかったな」
 稲生:「だから面白いんじゃないか?」
 威吹:「そうか。最近はそれを見出した者が出始めている」
 稲生:「ん?」

 威吹は何故か後ろの車両に続く連結器のドアを見てそう言った。

[同日10:16.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔まもなく森下、森下。桜鍋の“みの家”へお越しの方は、こちらでお降りください〕

 威吹:「桜鍋か。ここ最近、食ってなかったなぁ」
 稲生:「今度来た時、御馳走するよ」
 威吹:「それはかたじけない」

 電車がホームに滑り込む。

 稲生:「向こうには桜鍋は無いの?」
 威吹:「あるけど、魔界の馬肉は食う気がしない」
 稲生:「そうなの?」

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 電車を降りてから尚も話を続ける。

 威吹:「2足歩行の馬の妖怪の肉など、食べたいと思うかい?(馬頭鬼とか)」
 稲生:「普通の4足歩行の動物の馬のことを言ってるんだよ」

 このコンビ、実は威吹の方がボケで稲生の方がツッコミである。
コメント (2)
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