報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「日曜日の午後」

2018-06-15 15:15:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日14:33.天候:晴 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 さいたま新都心駅を出ると、稲生は前の席で眠るイリーナを起こすことにした。

 稲生:「先生、先生。もうすぐ到着ですよ」
 イリーナ:「んにゃ……。さすが、日本の鉄道は時刻表通りだねぃ……」

 イリーナは素直に欠伸をしながら起きた。
 電車がホームに接近する前、ポイント通過の為に大きく電車が揺れる。
 宇都宮線の上下線が高崎線の上下線を挟み込むような形になっているが、大宮までは歴史上、高崎線の方が先に開通した為、宇都宮線は副線扱いのような線路構造になっている。

 稲生:「ゴミはここに……」

 グリーン車のデッキにはゴミ箱がある。
 ミク人形とハク人形は、ここにカップアイスの空き容器を捨てた。
 人形形態のコミカルな動きは、人間形態の時のメイドや、戦いの時に銃火器を使用する女性兵士になるとはとても思えない。
 かつては剣やスピアを装備していたが、今ではライフルやショットガン、マシンガンを所持している。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線の電車は宇都宮線普通列車、小金井行きです。次は、土呂に止まります」〕

 グリーン車の停車位置から、すぐにコンコースに上がる為の階段は近い。

 イリーナ:「勇太君、ちょっと腰を押してくれるかねぇ?」
 稲生:「えっ、腰ですか?」
 イリーナ:「うんにゃ、年寄りには階段がキツくてねぇ……」
 稲生:「あっ、すいません!それではエレベーターの場所を……」
 イリーナ:「腰を押してくれれば大丈夫だよぉ」
 稲生:「そ、そうですか?」

 稲生はローブの上からイリーナの腰と思われる部分を押した。

 イリーナ:「勇太君、そこはアタシのお尻だお
 稲生:「あっ、すいません!」

 イリーナの身長は稲生より10cmは高い。
 その為、勇太は目測を誤ったようだ。

 イリーナ:「今度は間違えないように押しとくれ」
 稲生:「は、はい」

 ドンッ!

 イリーナ:「お゛ぅお゛っ?!」
 マリア:「師匠、勇太じゃなくて、私が押してあげますよ〜

 マリアが怒り笑いをしながら、イリーナの腰を自分の魔法の杖で思いっ切りグイグイ押していた。

 イリーナ:「ま、マリア!?年寄りにはもっと優しく……いでででっ!?」
 マリア:「何が年寄りですか!『ダンテ先生からの“愛”も頂戴したので、しばらくはもっと若返られている』って昨日言ってましたよね!?」
 イリーナ:「昨日と今日では状況が……!」
 マリア:「いいから、さっさと登る!」

 マリアは師匠たるイリーナの腰を魔法の杖で押しながら、コンコースへの階段を駆け足で登った。

 稲生:(ひえー……)

 その様子をただガクブル状態で見ていた稲生だった。

[同日15:30.天候:晴 JR大宮駅東口]

 マリアのスパルタ下剋上により、イリーナが腰を痛めた為、痛みが引くまで駅構内のカフェで休むことにした次第。

 マリア:「いくらお金があるからって、楽し過ぎですよ。せっかく若返りの魔法で肉体を若返らせているんですから、少しは歩いて運動してください」
 イリーナ:「あの、アタシが先生……」
 マリア:「ダメです!勇太に介護させる気ですか!そんなのは魔道師の修行に入ってないですよ!」
 イリーナ:「はい……」

 マリアは駅から稲生の家まで歩いて帰ることを提案したが、確実に途中でリタイアすることが目に見えていたので、折衷案としてバスに乗ることにした。

 稲生:「うちの近くのバス停から歩くくらいなら大丈夫ですよね?」
 イリーナ:「ちょっと待ってね。占いでは……」
 マリア:「バス停からくらい歩きましょうよ、師匠!」
 イリーナ:「はい……」

 もはやいい加減、師弟漫才と化している魔女師弟。
 バスがやってくる。
 中型のノンステップバスだった。

 稲生:「ここは僕が持ちますから」
 イリーナ:「そうかい。悪いねぇ。ここはカードは使えないのかい?」
 稲生:「現金かICカードですね」

 稲生は中扉から乗り込むと、読取機に自分のSuicaを当てた。
 マリアも自分のSuicaを当てた。

 稲生:「マリアさん?」
 マリア:「いや、私はいいよ。そもそも師匠の怠け癖のせいだし」
 稲生:「マリアさん……」

 稲生は背筋が寒くてしょうがなかった。

 マリア:「師匠、後ろの席の方が広いですよ」
 イリーナ:「うんにゃ、年寄りは年寄りらしく、優先席に……」
 マリア:「背中、押してあげましょうか」
 イリーナ:「こういう段差を上がるのも、運動になるかねぇ」
 稲生:「そ、そうですね」

 イリーナはマリアから逃げるように、後ろの席への段差を上がった。
 乗客は稲生達だけだった。
 バスは稲生達を乗せると、すぐに発車した。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 最近のバスの中扉の閉扉アラームは、ブザーではなく、電車のドアチャイムみたいなものに変わっている。
 そして、AT車が増えたようだ。
 バスは東口のロータリーを一周して、大宮中央通りに出た。

〔大変お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。このバスは住宅前、中並木、上小町経由、大宮駅西口行きです。次は仲町、仲町。……〕

 イリーナ:「いいかい、勇太君?甘ったれたことを言ってると、マリアが尻に敷いてくるよ?」
 稲生:「は、はい。むしろ敷かれたいです」
 マリア:「っ……!」

(BGM:東方非想天則より、“the Grimoire of Alice” https://www.youtube.com/watch?v=zLEQZ89xlGE)

 バシッ!

 稲生:「いでっ!?」

 マリアに無言で魔道書で叩かれた稲生。
 もはや既にマウンティングはされているようである。

 バスはスクランブル交差点を右折し、休日の混雑する旧中山道を南下した。

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