報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」

2017-09-11 19:12:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日19:00.天候:晴 冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)スターオーシャン号・大食堂内]

 因みに冥界鉄道公社には自動車事業部もあって、そちらは『冥鉄バス』と呼ばれる。
 幽霊バスのことなわけだから、稲生達が乗り込んだ船は幽霊船ということになる。
 しかし……。

 稲生:「全然幽霊という感じがしないなぁ……」

 稲生達はパーティー会場となっている大食堂へ足を運んだ。

 稲生:「何だか、今でも思い出しますよ。この食堂の片隅にあるあの洗面台で、聖水を補給したこととか……」
 イリーナ:「お〜、そうだったの。じゃ、アタシもマネしようかねぇ」

 イリーナはローブの中から聖水を入れる瓶を取り出すと、それに水を入れた。

 稲生:「僕はスーツだからいいですが、先生も……イブニングドレスとかに着替えなくていいんですか?」
 イリーナ:「なーにを言ってるのー?アタシ達、魔道師にとってはこれが礼装なんだよ」
 稲生:「そうなんですか?」

 マリアも白のブラウスの上はクリーム色のベストを着ていたのだが、今は緑色のブレザーを着ている。

 アデランス:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今より、アルカディア王国首相にして、魔界共和党党首であります安倍春明総裁のバースデー・パーティーを開催致します。このパーティーの開催に当たりましては、冥界鉄道公社の全面協力の元、会場と致しまして、公社の誇るクルーズ船“スターオーシャン”号の貸切運行を持ちまして……」
 稲生:「げっ!あ、あれはケンショー・ブラック!?」
 マリア:「何故に!?」
 イリーナ:「党員の欠員が出たからって、横田理事が総務として縁故採用させたそうよ」
 稲生:「しまった。横田理事もまだ現役だったんだ。……ま、マリアさん、落ち着いて。ね?」
 マリア:「ああ。大丈夫だ……!」

 だが、マリアの体からは明らかに憤怒のオーラが出ていた。

 アデランス:「それではまず始めに、魔界共和党理事の横田より御挨拶をさせて頂きます」
 横田:「先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。……」
 稲生:「出た!お決まりのセリフ」
 イリーナ:「ほーんと、軸はブレない人だよねぇ……」
 マリア:「…………」

 横田の挨拶に、立ち寝する参加者が発生する。
 因みにこのパーティーは立食タイプである。

 アデランス:「……はっ!こ、これは失礼致しました。えー、横田の挨拶でした。それでは気を取り直しまして、党首・安倍春明総裁に……」
 イリーナ:「うんうん、眠くなるよねぇ……」

 拍手と共に出て来たのは、燕尾服を着た安倍春明。

 安倍:「えー、皆さん。この度は御多忙の中、私の誕生日パーティーにご参加頂きまして、真にありがとうございます。……」

 安倍が壇上で挨拶を行う。
 さすがは一国の総理大臣として、先ほどの横田と違って眠くなるような演説ではない。

 アデランス:「ありがとうございました。あ、申し遅れました。私、本日の司会進行を務めさせて頂きます、魔界共和党総務の八島と申します。人間界における業務は、横田とほぼ同じです。それでは皆様、乾杯の後は存分にお楽しみください」

 乾杯の後でパーティーが始まった。
 立食形式ではあるものの、ちゃんと椅子やテーブルもある。

 イリーナ:「あたしゃここでいいよ。ユウタ君、料理持って来て」
 稲生:「分かりました。何がいいですか?」
 イリーナ:「うーん……。あそこに乗っかっている料理、端から端まで全部」
 稲生:「はあ!?」
 マリア:(このオバハンは……)

 稲生とマリアで師匠の料理を皿に盛っていると、安倍がやってきた。

 安倍:「やあ、こんばんは」
 稲生:「総理!」
 マリア:「Good evening.」
 安倍:「久しぶりだね。この前会ったのは……ああ!“魔の者”に冥鉄汽船が乗っ取られた時だったかな?」
 稲生:「すいません、あの時は……」
 安倍:「いや、いいんだよ。さすがに後でレナにはブッ飛ばされたけどね」
 稲生:「レナ?……ああ」

 魔王軍のレナフィール・ハリシャルマン大佐。
 安倍率いる勇者一行で、女戦士だった者である。
 現在は人間の身でありながら、魔王軍の司令官を務めている。
 安倍は大将や元帥の階級を持って迎えようとしたのだが、佐官以下でないと前線に出られないからという理由で断った。
 士官学校卒業者と同じ少尉からスタートしたのだが、瞬く間に昇進し、今では大佐である。

 安倍:「女性らしく、イブニングドレスでも着てくれれば良かったのに……」
 レナ大佐:「これが軍人の礼装ですから」

 レナは礼装用の軍服を着ていた。
 スラリと高い背丈に引き締まった肉体は、とても稲生よりずっと年上の女性には見えない。
 何故か一瞬……。

 稲生:(“バイオハザード”のジル・バレンタインに見えた)

 レナ:「護衛の部下も乗船させてますので」

 その護衛の部下達の多くが女性兵士だった。
 軍幹部が女性だと、必然的にその部下も女性が多くなるのか。

 安倍:「俺とは冒険者仲間だったんだから、別に敬語はいいのに……」
 レナ:「あなたは『勇者様』だったわけですし、ここでは首相ですよ」
 安倍:「いやはや、戦士だった頃はもっとざっくらばらんな女性だったのに、軍人になってからはこれだよ」

 安倍は苦笑した。

 稲生:「その勇者様が首相ですから、物凄い出世ですね。政治のやり方は、どうやって勉強を?」
 安倍:「未だに『遠い親戚の伯父さん』から学んでるよ。だから、日本の政治と似てる所があるかもしれないけど許してね」
 稲生:「その『遠い親戚の伯父さん』とは、こちらでも向こうでも国家機密でしょうから聞かないでおきます」
 安倍:「うん、そうしてくれると助かる。……おっと!じゃ、わたしはこれで。楽しんで行ってね」
 稲生:「はい。ありがとうございます」

 安倍は別のゲストの所へ向かった。
 稲生はそれを見送った後で、イリーナの所に戻る。

 稲生:「先生、こんなんでいかがでしょうか?」
 イリーナ:「おお〜、スッパスィーバ!」
 稲生:「じゃ、今度は僕達が食べる物、持って来ましょうか」
 マリア:「そうだな」

 稲生とマリアは、再び料理が並んでいるテーブルへと向かった。
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“大魔道師の弟子” 「魔界紀行」 東京からアルカディアシティへ

2017-09-11 15:01:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日18:01.天候:晴 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]

〔「まもなく森下、森下。お出口は、右側です。大江戸線はお乗り換えです」〕

 電車が森下駅に到着する。

 稲生:「やっと着いた……」
 マリア:「半日掛かりか。まあ、いいけど」

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。森下、森下。大江戸線は、お乗り換えです〕

 稲生:「こちらです」

 電車を降りた稲生達、地上へ向かう。

 イリーナ:「穴倉暮らししてる魔女もいるとはいえ、この階段はキツいねぇ……」
 マリア:「そりゃその人達、地上までテレポート移動しますから」
 イリーナ:「アタシもやっていい?」
 稲生:「大騒ぎになるのでやめてください」
 マリア:「リ・レミ・ツ使用の魔力と比べれば、フツーに階段登った方が楽です」
 イリーナ:「それもそうか」
 稲生:「途中にエスカレーターもありますから、それで」
 イリーナ:「そりゃ楽チンだ」

 で、そのエスカレーターで上の層へ上がる。

 稲生:「魔王城とか、全くこんなバリアフリー設備は無いでしょう?どうしてるんですか?」
 イリーナ:「いや、案外そうでもないよ」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「この前お邪魔した時なんか、階段がものの見事に勝手に上に上がってくれる仕掛けになってたよ」
 稲生:「魔法で階段がエスカレーターになるんですか」
 マリア:「便利だなぁ……」

 駅を出て都道50号線(新大橋通り)を進む。
 それから路地に入って少し行くと、ワンスターホテルがある。
 森下地区は都内にいくつかあったドヤ街の1つで、その当時のドヤ(簡易宿所)の一部は、ワンスターホテルのような安価なビジネスホテルに模様替えして営業を続けている。
 今ではバックパッカーが多く訪れるホテルとなり、彼らからもたらされる情報の集積所と化している。

 稲生:「こんにちはー」
 オーナー:「いらっしゃいませ。長旅、お疲れさまでした」
 稲生:「国内の移動ですからね、これでキツいと言ってはいけませんよ」
 イリーナ:「それもそうだね。……ナスターシャはもう先に行ったみたいだね」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「あー、本当だ」

 マリアはホテル近くのコインパーキングを指さした。
 元はドヤだったこのホテルには駐車場が無い為、車で来た客には近くのコインパーキングを紹介するシステムになっている。
 だが、そのコインパーキングをほぼ貸し切りにしている車があった。

 マリア:「アナスタシア組の車だけで満車になってる」
 稲生:「頑なに電車やバスで移動しない人達ですねぇ……。良かった。僕、イリーナ組で」
 イリーナ:「アタシの弟子になって良かったことはそれだけかい?」
 オーナー:「エレーナも先に行っています。お荷物はお預かりしますので、どうぞ」
 稲生:「泊まり掛けで行くんじゃ、預ける荷物もあまり無いような気がしますが……」
 イリーナ:「まあ、そうだね」

 宿泊客は行けないように設定されている地下1階へエレベーターで下りる。
 エレーナはここへ自分の部屋を作り、寝泊まりしている。
 通路の奥には魔法陣が描かれており、ここに聖水を振り掛ければ魔界へ行けるという寸法である。

 イリーナ:「じゃ、行くよ。準備はいい?」
 稲生:「はい」
 マリア:「OKです」

 イリーナはローブの中からクリスタル製の瓶を取り出すと、魔法陣の中に振り掛けた。
 3人が魔法陣から放たれた光に包まれる。
 こうして3人は、魔界へと旅立った。

[魔界時間9月9日18:30.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ南東部 アルカディア港]

 稲生:「着きました……って、ここどこですか?」
 マリア:「潮の匂いがする」
 イリーナ:「どこかの港みたいだね」

 稲生が取り出したスマホ。
 地図情報を出すと、一瞬東京みたいな地図が出てくる。
 アルカディア王国の国土は、東京都の形にそっくりなのである。
 で、王都アルカディアシティとは東京23区にそっくりである。
 これは安倍春明が国土を決める際に、東京を参考にしたからだという。
 但し、あくまで国土の形がというだけであり、実際の広さは東京都の数倍だ。
 王都の形までそっくりな23区でさえ、である。
 アルカディアメトロ環状線は東京の山手線みたいな路線だが、東京の方は1周1時間くらいなのに対し、こちらは2時間掛かる。

 稲生:「汐留……じゃなかった。アルカディア港ですね」
 イリーナ:「アルカディア港……?」

 イリーナは首を傾げて招待状を見た。

 イリーナ:「あ。パーティー会場、船上になってるわ」
 稲生:「マジですか?」
 マリア:「船の上とか聞いてません」
 イリーナ:「うん、ゴメン。言うの忘れてた」
 稲生:「何て名前の船ですか?」
 イリーナ:「えー……冥鉄汽船“スターオーシャン”号。……帰ろっか?」
 稲生:「帰りましょうか」
 マリア:「思いっ切り嫌な予感がしますねぇ……」
 イリーナ:「あ、でも聖水無くなっちゃった。どこかで補給しないと」
 稲生:「うへ……」
 エレーナ:「あ、そこにいたの!早く早く!イリーナ組が最後ですよ!」

 エレーナが稲生達を見つけて走って来た。

 稲生:「エレーナ!スターオーシャン号ってことは、サンモンド船長の船でしょう!?あの“クイーン・アッツァー”号と同型の姉妹船の!」
 エレーナ:「そうだよ。早く早く!出航しちゃうよ!」
 稲生:「鉄旅とバス旅は大歓迎なんだけど、船旅は嫌な予感しかしないんだよなぁ……」

 エレーナに連れられて客船ターミナルまで行くと、確かにそこには大型の豪華客船が停泊していた。
 本来、豪華客船なんてものは誰でも乗れるものではない。
 それに乗船できる機会を得たとあらば普通は気分が高揚するものだが、イリーナ組は全員ローテンションだった。

 稲生:(“クイーン・アッツァー”号の時の記憶が……)

 スターオーシャン号自体で何かが起きたわけではない。
 だが、“魔の者”との戦いの舞台になった船とは同型の姉妹船ということで、どうしてもその記憶が蘇ってしまうのだった。

 エレーナ:「タラップを登ったら、招待状の確認があるからね」
 稲生:「僕達は顔パスでいいんじゃないのかい?」
 エレーナ:「魔法使いに顔パスなんかできるわけないじゃない」
 イリーナ:「うん。それもそうだね」

 まさかの船上の人となった稲生達。
 稲生達が乗り込むのを確認したかのように、彼らが乗り込むとすぐにタラップが片付けられ、船尾にある鐘を鳴らしながらスターオーシャン号は出航していった。
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“大魔道師の弟子” 「魔界紀行」 東京都内

2017-09-11 12:24:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日17:29.天候:晴 JR新宿駅→都営地下鉄新宿駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、新宿、新宿に到着致します。10番線に入ります。お出口は、左側です。【中略】甲府駅におきまして、ケガ人の救護を行いました関係で、この電車、約5分ほど遅れまして新宿駅に到着致します。本日は電車遅れまして、大変ご迷惑をお掛け致しました。……」〕

 稲生:「それでも5分遅れで済んだとは……。回復運転はしただろうけど」
 マリア:「応急手当して、後は降ろすだけだったからな」
 イリーナ:「ううーん……!」

 イリーナは大きく伸びをした。

 イリーナ:「余計な魔力を使うと、疲れるよ」
 稲生:「先生、お疲れさまです」
 マリア:「車内販売係がこちらに来るのを妨害していた酔っ払い2人は、トイレでコケて便器に頭ぶつけたり、洗面台でコケて頭ぶつけたということにした……と」
 稲生:(本当は人形達にボッコボコにされていたんだけど……)
 イリーナ:「関係者の記憶をいじくり回すの、本当大変だったんだから。この時いつも、システムプログラマーのシステムプログラミングの難しさに対応する苦労が分かるってものさね」
 マリア:「便利な人だなぁ……」
 稲生:(てか、魔法使いがシステムプログラミングって……)

 電車が更に速度を落とし、ポイント通過で大きく揺れたりすると、もう新宿駅である。

 稲生:「ここの乗り換えに苦労するんですよ。1度迷子になったら、まず都営地下鉄の駅に行けないものと思ってください」
 イリーナ:「ああ。確かにここのダンジョンは、魔王城でさえ序盤のステージ扱いになっちゃうものね」
 マリア:「そうなのか?」
 稲生:「カントクが『どうしても新線新宿駅に到着できない( ;∀;)』ってんで、わざわざ笹塚駅まで行って乗り換えたらしいですから」

 昔の話である。
 あの時はやたら工事していたので、通常ルートが取れなかったのである。
 というか、こんな新宿駅で迷子になる思いをするなら、実際に乗り換えがそんなに複雑ではない京王線に乗って笹塚駅で乗り換えた方が楽なような気がするのは私だけか?
 いや、もちろん遠回りした分の運賃を余計に払わなければならないという短所はあるが。
 埼京線→バスタ新宿の乗り換えルートは完璧なのだが……。

 マリア:「それ、魔界ではバッドエンドコースになるぞ。ダンジョン攻略を放棄した、という意味で
 稲生:「ですよねぇ……」

 ドアが開いて乗客達が一斉に降り出した。

 稲生:「じゃ、行きましょう。僕なら分かりますから」
 マリア:「ああ、分かった」
 イリーナ:「頼もしいねぇ……」

 尚、今ならもっと乗り換えが楽な都営大江戸線があるので、諦め笹塚ルートを採る必要は無くなっている。
 こちらもこちらで遠回りにはなるのだが、同じ都営地下鉄線ということで、余計な運賃を取られる心配は無い。

[同日17:43.天候:晴 都営地下鉄新宿駅・新宿線ホーム]

 稲生:「急行には乗り遅れちゃいましたね。ま、次の電車はここ始発ですから」
 マリア:「師匠の足で『せかせか』は無理だよ」
 イリーナ:「この体では『ふつう』も難しいものだよ」

 何の話をしているのかというと……。

 イリーナ:「最近は魔法でルート検索ができるものねぇ……。詠唱術式も、ただ単に『ナビタイム』と唱えるだけでいいなんて……」
 マリア:「いや、それ魔法じゃないです」
 稲生:「このくらいなら、ナビタイムは要りません」
 イリーナ:「このヘルメット被った紳士が、ファミリア(使い魔)なのね」
 稲生:「だから違いますって」

 イリーナはホームの広告のナビタイムのオジさんを見て頷いていた。

 イリーナ:「これは失礼。この紳士自身が検索魔法『ナビタイム』を開発した魔道師とは……。どこの門流の人かしら?」
 稲生:「いや、ですから……」
 マリア:「いいよ、ユウタ。1人で『ナビタイム』やらせとけって」
 稲生:「はあ……」

 そこへ電車が轟音を立ててやってくる。

 稲生:「都営新宿線には、まだホームドアがありませんからね。気をつけてくださいよ」

 2019年度には設置が完了する見込みとのこと。

 イリーナ:「そうよ。地下鉄の風は侮れないからね。マリアの短いスカートだと、すぐ捲れるよ」
 マリア:「!!!」
 稲生:「大丈夫ですって。ここ、先頭車ですからそんなに風が来ませんから」
 マリア:「そうか」

〔「4番線もご注意ください。京王新線直通、快速、橋本行きの到着です」〕

 ゴォォォォォォォォォォォ!!
 ブワッ!

 マリア:「!!!……見た?」
 稲生:「いえっ、見てません!」
 イリーナ:「んー、ここが先頭ということは、逆方向からすれば1番後ろになるもんねー」

〔「5番線に到着の電車は当駅始発、各駅停車の本八幡行きです」〕

 ドアが開いて電車に乗り込む。

 稲生:「たまにはあっちの京王9000系に乗ってみたいな」
 マリア:「色合いが違う」
 稲生:「向こうの橋本行きは、乗り入れて来た京王電鉄の車両です。乗り入れて来て、帰るところですね」
 マリア:「ほおほお」
 稲生:「でも、時々思うんですよ」
 マリア:「何が?」
 稲生:「こういう相互乗り入れをしている路線で、何か事故が起きたりすると、相互乗り入れを中止することがあるんです」
 マリア:「それで?」
 稲生:「相互乗り入れが中止になった路線で、乗り入れて来た電車が元の会社線に帰れず、他社線内をうろうろしている様に悲壮感を感じるのは僕だけでしょうか?」
 マリア:「うん、ユウタだけだと思う」

 尚、埼京線とりんかい線においては、通常ダイヤであっても線内折り返しが行われているので、大した悲壮感は無いという。

〔「5番線、各駅停車、本八幡行き、ドアが閉まります」〕

 JRの電車みたいなドアチャイムが鳴ってドアが閉まる。
 先頭車や最後尾にいると聞こえてくる、発車合図のブザーで持って電車が走り出した。

〔毎度、都営地下鉄をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕

 稲生:「先生、20分ちょっとで着きますから、あまり寝落ちはされない方が良いかと」
 イリーナ:「そうね。本当は地下鉄で寝落ちとかしちゃいけないんだけど……」
 稲生:「他の国では治安が悪いからですか?」
 イリーナ:「うん。昔、ベルリンの地下鉄で寝落ちした時、見事に水晶球を盗まれて、捕まえるのに魔法使って、電車1台オシャカにしちゃったw」
 稲生:「日本の地下鉄では絶対に寝ないでくださいね!」

 世界で唯一、寝落ちしても大丈夫な地下鉄が東京だと言う。
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