報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「栃木へ向かう」

2017-09-27 19:23:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月14日07:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「随分お早いご出発で」
 稲生:「行きのバスが朝なもんでね。早目に行くよ。『3時の魔道師』に会いにね」
 エレーナ:「3時に現れるんだったら……」
 稲生:「いや、特別な時計があるらしい。それを探しに行く必要がある。だから、早い方がいいんだ」
 エレーナ:「色々大変だねぇ……」

 稲生は宿泊料金を払った。

 エレーナ:「それじゃ、気をつけて」
 稲生:「ああ。世話になったよ」

 稲生とマリアはホテルをあとにした。
 呼んでおいたタクシーに乗り込む。

 稲生:「東京駅八重洲南口までお願いします」
 運転手:「はい」

 タクシーが走り出し、新大橋通りに出た。

 マリア:「直接私達には関係の無い話だろうに、どうして行くになったんだ?」
 稲生:「いくら上野高校そのものではないにせよ、東京中央学園の施設を使う後輩達が犠牲になるのは頂けません」
 マリア:「犠牲者が出ているのか?」
 稲生:「直接は聞いてませんが、ただ、話を知る後輩達によれば、『3時の魔道師』に会った人達は皆死んでいるという噂なんですよ」
 マリア:「んん?」

 マリアは怪訝な顔をした。

 マリア:「どういうことだ?」
 稲生:「『3時の魔道師』と会ったという人が、今は健在していないんだそうです。それで、そういう噂が付いたんじゃないかと」
 マリア:「ふーん……。それだけだと、ただの噂っぽいな」
 稲生:「ですから、それを確認しに行きたいんですよ」
 マリア:「まあ、どうせ師匠も帰ってこないし、ヒマだからいいけど」

 その時、タクシーのラジオからニュースが流れて来た。

〔「速報です。今朝6時頃、東京都台東区の学校法人東京中央学園上野高校の校舎内で、男子生徒が血だらけで死んでいるのが見つかりました」〕

 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「なにっ!?」
 運転手:「どうしました、お客様?」
 稲生:「ちょっと、ラジオのボリュームを上げてもらえますか?」
 運転手:「はい」

〔「男子生徒はこの学校に通う1年生の荒田譲治さんと見られ、警察では遺体の状況から殺人事件と見て捜査を開始しました。これを受けて東京中央学園では、今日の授業を全て取り止め……」〕

 マリア:「知り合いか?」
 稲生:「僕に、『3時の魔道師』について詳細な情報を提供してくれた後輩です」
 マリア:「チッ、やっぱり本物の魔道師か。秘密を知られたんで殺したか」
 稲生:「何でそんな血だらけにするような惨い殺し方を?」
 マリア:「そうすればマスコミが騒ぐ。だからこうして、私達はラジオでいち早く知ったわけだろう?……『3時の魔道師の秘密を知った者には死を!』とでも言いたいんだろう」
 稲生:「やっぱり犠牲者が出たか」
 マリア:「どうする?本物の魔道師と分かった以上、一旦やめるか?私達の手に負えない相手かもしれないぞ?」
 稲生:「いや、行きますよ。僕の後輩が殺された以上、OBとして僕も黙っているわけにはいきません」
 マリア:「分かった。それなら私も行く」

[同日07:45.天候:曇 東京駅八重洲南口高速バス乗り場]

 
(写真拝借:バスターミナルなブログ様)

〔「お待たせ致しました。5番乗り場には7時50分発、東北急行バス、東武日光駅経由鬼怒川温泉駅行きが入線致します。お手元の乗車券を準備して、お待ちください。……」〕

 バスタ新宿同様、斜めに入線するタイプのバスターミナル。
 そこに最新型のバスがやってきた。

 マリア:「最近ユウタもバスを使うことが多くなったな?」
 稲生:「そうですか。まあ、こっちの方が便利なんで」
 マリア:「帰りもバス?」
 稲生:「いや、帰りはどのタイミングになるか分からないので、何も予約していません」
 マリア:「そうか」

 乗車券を運転手に渡す。
 チラッと乗客名簿兼座席表を見た稲生は目を丸くした。
 そして、実際に乗り込んでみて更に目を丸くした。

 稲生:「中距離なのに、独立3列シートとは……」

 スーパーハイデッカータイプのせいか、トイレは進行方向右側の真ん中に付いている。

 稲生:「えーと……3Aと3Bって、これ」
 マリア:「そういうことになるな」

 独立3列シートは乗客同士のプライバシーをより重視する設計の為、真ん中席は左右の窓側席よりやや後ろにズレている。

 稲生:「アルピコ交通のイメージがあるだけに、これは意外だ」

 中距離便ならではの狭い座席でマリアと密着することを期待していただけに、これは残念だった。

 稲生:(帰り、電車にしよ……)

 1人旅の乗客なら、嬉しい座席配置なのだろうが。
 平日だから空いているだろうと思ったが、意外と乗客は多かった。
 窓側席が全部埋まるくらいである。
 やはり1人旅が多いように見えた。

〔「5番乗り場から7時50分発、東北急行バス、東武日光駅経由鬼怒川温泉行き、まもなく発車致します」〕

 稲生:「まあ、しょうがないか」

 設備はほとんど夜行と一緒。

 マリア:「師匠なら終点まで寝てる勢いだな」
 稲生:「本来はそういう夜行用のバスですからねぇ……」

 
(稲生達を乗せたバスは、定刻通りに東京駅八重洲南口を発車した。 写真拝借:バスターミナルなブログ様)

〔「皆様、おはようございます。本日も東北急行バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは7時50分発、鬼怒川温泉駅行きです。これから先、下今市駅、東武日光駅、東武ワールドスクウェア、終点の鬼怒川温泉駅の順に止まります。途中、羽生パーキングエリアで10分から15分ほどの休憩がございます。……」〕

 稲生達が降りるのは東武日光駅。
 10時45分着とのことだ。
 昼前に着いて、『3時の魔道師』について調べれば夕方には帰れるだろうとの算段である。
 それに、当の本人が稲生達の探りに気づいてやってきてくれればもっと早いと考えた。

 稲生:「この曇り空が、何だか縁起悪いですね」
 マリア:「雨にならないといいんだけどな」

 バスは八重洲南口を出ると、そのまま八重洲通りに出た。
 他の東北急行バスの路線が出る専用バス停の前を通り過ぎる。
 宝町出入口から首都高に入るらしい。

 マリア:「いくら何でも、このバスを襲うことはないさ。もし『3時の魔道師』が秘密主義者だったら、そんな大騒ぎになるようなことはしない」
 稲生:「はい。でも、学校の事件は……?」
 マリア:「あれは自分に探りを入れようとする者に対しての警告さ。普通の人間には効くかもしれないが、私達だって魔道師だ」
 稲生:「なるほど」

 バスは他の高速バスに混じって、首都高速に入った。
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“大魔道師の弟子” 「二日酔い」

2017-09-27 10:14:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月13日10:00.天候:曇 東京都江東区森下 都道50号線(新大橋通り)沿いのコンビニ]

 店員:「ありがとうございましたー」

 バスのチケットを手にコンビニから出る稲生。

 稲生:「最近は便利になったもんだ」

 稲生はそこでイリーナに電話を掛けた。

 イリーナ:「あー、ユウタ君?ゴメンねー!ちょっと魔界でトラブルに巻き込まれちゃってー」
 稲生:「何かあったんですか?」
 イリーナ:「リシーちゃんが横田理事を『洞窟に埋めた』って言うからぁ、さすがにそのままにしとくわけにも行かないでしょ?捜索隊に参加してるわけよ」
 稲生:「リシーちゃんって、先生のファミリアのドラゴンでしたっけ?」
 イリーナ:「そうそう。リリィのデス・ヴァシィ・ルゥ・ラで飛ばされた先がリシーちゃんの背中の上で、そこから落ちて尻尾踏んづけちゃったみたいなの」
 稲生:「あららー……。だったら、何とかリシーツァを宥めて洞窟から掘り出すというのは?」
 イリーナ:「その洞窟の地下水脈に沈めたって言うんだけど、その水脈がまた流れが速くってねぇ……」

 はっきり言って、フツーに死んでいるレベルである。

 イリーナ:「まあとにかく、リシーちゃんの御主人様の私が知らんぷりできないから、取りあえず死体が見つかるまでいなきゃいけないことになったの」
 稲生:「そうなんですか」
 イリーナ:「だからまあ、私を待つことは無いから。先に帰ってていいよ」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「そっちはどうなの?」
 稲生:「マリアさんが二日酔いでダウンしてます」
 イリーナ:「またか……。ほんとにあのコはぁ〜……!」
 稲生:「明日、マリアさんと出歩いて来ますよ」
 イリーナ:「うん、分かった。私が渡したカードあるでしょ?それ使っていいから」
 稲生:「はい」
 イリーナ:「ああ、どこに出歩いてもいいけど、日本国内から出ちゃダメよ」
 稲生:「はい、それはもう……」
 イリーナ:「サハリン(樺太)に行って『元々は日本の領土だ!』とかはダメよ」
 稲生:「分かってますよ」
 イリーナ:「北方四島に行って、『ここも日本の領土だ!』とかもダメよ。あそこはダンテ一門の……おっとっと!」
 稲生:「えっ、何ですか?……竹島や尖閣諸島に行って、『日本の領土だ!』というのは?」
 イリーナ:「1人で東アジア魔道団とケンカする度胸があったら、やっていいよ」
 稲生:「日本海に船を出して、『東海(トンヘ)じゃねぇ!日本海だ!』というのは?」
 イリーナ:「それならOK!」
 稲生:「……そんな遠くまで行きませんよ」
 イリーナ:「うん。アタシの予知でも、あなた達が関東地方から出ないことは分かってるから」
 稲生:「その通りです」
 イリーナ:「とにかく、なるべく早く帰るけど、別に私を待つ必要は無いから」
 稲生:「分かりました。それでは失礼します」

 稲生は電話を切った。

[同日11:00.天候:曇 同地区 ワンスターホテル]

 エレーナ:「どうした、稲生氏?まだマリアンナならダウンしてるよ」
 稲生:「どうせ今日1日は無理だろう」
 エレーナ:「私も夜勤明けだし、そろそろ寝かせてもらうよ」
 稲生:「ねぇ、エレーナ」
 エレーナ:「なに?」
 稲生:「北方四島って、ダンテ一門が何か関わっているのかい?」
 エレーナ:「まあ、この門流は魔道師のコミュニティで1番デカい所だからね。色々と政治力はあったりするわけさ。でもよく知ってるね?」
 稲生:「う、うん。ちょっとね……」
 エレーナ:「うちの門内のロシア人達が何か企んでるみたいだけどねぇ……」
 稲生:「エレーナは知らないのかい?」
 エレーナ:「私はウクライナだって。ウクライナ人と日本人には警戒して教えてくれないよ」
 稲生:「そうか……。イギリス人のポーリン先生も?」
 エレーナ:「先生は知ってるみたいだけど、やっぱり私には教えてくれないんだ」
 稲生:「元弟子のキャサリンさんなら知ってるかな?」
 エレーナ:「知ってるとは思うけど、あまりベラベラ喋れることじゃないみたいだからね。ところで、あなた達の先生はまだ戻って来ないの?」
 稲生:「先生の使い魔が横田理事を滅したみたいで、その後始末に追われてるみたい」
 エレーナ:「雌ドラゴンにまでセクハラをしてるようじゃ、変態度極まれりって感じだね」
 稲生:「人間に変身していたのかなぁ……?ほら、ドラゴンって魔法も使うって話でしょ?」
 エレーナ:「そうだね。あ、なるほど。たまたま人間に変化していた時に、横田理事にセクハラされたか。それなら納得」
 稲生:「ま、そのことは先生に任せておこう」
 エレーナ:「その方がいいよ。じゃ、私はこれで。稲生氏の部屋はまだ使うと思って、タオル交換だけにしてあるよ」
 稲生:「ああ。ありがとう」

 エレーナは先に地下1階へ行くエレベーターに乗り込んだ。
 その後で、1階に戻ってきたエレベーターに乗り込む。
 今、地下1階のボタンを押してもランプは点灯しない。
 ボタンの横には『関係者専用 STAFF ONLY』という表示がされている。

 ピンポーン♪
〔5階でございます〕

 エレベーターを降りた稲生。
 自分の部屋に向かう前に、隣のマリアの部屋に行ってみることにした。
 一応、ドアノブには『起こさないでください』の札が掛かっている。

 稲生:「マリアさん、ちょっといいですかー?」

 部屋をノックする。
 意外にもすぐマリアが出て来た。

 マリア:「なに……?」

 具合が悪そうに、しかしまだ酒が残っているのか、その匂いを漂わせながら出て来た。
 ホテル備え付けのワンピース型寝間着を着ている。

 稲生:「明日、例の合宿所に行ってみようと思います。これ、そのバスのキップ」
 マリア:「ああ……」
 稲生:「あとこれ、二日酔いの薬。まあ、コンビニで買ったヤツだから気休めかもしれませんけど……」
 マリア:「ありがとう……」
 稲生:「それじゃ、ゆっくり休んでください。さすがに明日は大丈夫ですよね?」
 マリア:「うん、多分……」
 稲生:「僕は隣の部屋にいますから」

 稲生はマリアの部屋をあとにすると、自分の部屋に戻った。
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