報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「3日目の夕方」

2017-09-02 19:58:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月13日17:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 久しぶりに記念館で臨時の『マルチタイプの演奏会』が行われた。
 元々エミリーはここに“常設展示”されていて、毎日17時にはホールにあるグランドピアノで何曲かを弾いていた。
 前期型のエミリーが代わりに常設展示され(但し、一部の部品が後期型、つまり現行機に流用されている為、電源が入らないようになっている)、現行機のエミリーが敷島のオーナー(仮)になっている。
 17時にピアノを弾くのは、南里研究所時代からの名残りだ。
 今では敷島エージェンシーの中にある電子ピアノを弾いている。

 仙台市科学館のイベントのようにシンディはフルートを弾いたのだが、ここでサプライズ。
 ロイがバイオリンを引っ張り出してきて、それを奏でた。

 シンディ:「あんた、それ……!?」
 ロイ:「流用データの中に入っていたんです」
 エミリー:「キールみたい……」
 ロイ:「なるほど。先輩執事のデータだったのですね。光栄です」
 敷島:「いいんですか、村上教授?」
 村上:「バイオリン演奏のデータなら良いじゃろう?」
 敷島:「まあ、それはそうですが……」

 途中からは着替えの終わったボーカロイドも混ざる。
 思いの外、『マルチタイプの演奏会 with 敷島エージェンシー オールスターズ』となった。

 ロイ:「エミリー様、シンディ様、協奏させて頂き、ありがとうございました」

 ロイが恭しく右手を差した。

 エミリー:「なかなか良い演奏だった。まるで、キールみたい……」
 シンディ:「ちょっと!馴れ馴れしく姉さんに触らないでっ!!」

 シンディはエミリーと握手をしようとしたロイの手を叩く代わりに、自分が握手した。

 ロイ:「あなたのようなお美しい人と握手できるとは、大変光栄です」
 シンディ:「ふ、フン!……って、いつまで握ってんの!?これ以上は金取るよっ!」
 敷島:「オマエはアリスか!」
 村上:「うーむ……。ロボットは持ち主に似るとは言うが、マルチタイプもそこは変わらんかったか」

[同日18:19.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム]

〔13番線に18時21分発、“はやぶさ”108号、東京行きが17両編成で参ります。この電車は途中、大宮、上野に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車です。この電車は全車指定席です。自由席はありません。まもなく13番線に、“はやぶさ”108号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 鏡音リン:「社長は一緒に帰らないの?」
 敷島:「ああ。俺達人間は、これから打ち上げだ。終電で帰るよ」
 リン:「打ち上げ!?花火やるの!?」
 シンディ:「バカねぇ。イベントが無事終了できたってことで、宴会やるって話よ」
 リン:「何だ、そうか」
 KAITO:「人間は色々と大変だからね。特に社長は」

〔「13番線、ご注意ください。18時21分発、“はやて”108号、東京行きが参ります。……」〕

 HIDの青白いランプを光らせて、E5系車両が入線してきた。
 カラーリングが初音ミクそっくりということもあって、公募では“はつね”という名前が2位に食い込んだという。
 結局、“はやぶさ”になったが。
 後ろに連結しているのは秋田新幹線のE6系。
 真っ赤なカラーリングがMEIKOそっくりだ。

 敷島:「それじゃ井辺君、皆をよろしく頼むよ」
 井辺:「はい、お任せください」
 MEIKO:「別にプロデューサーが一緒じゃなくても、私達で帰れるのに……」
 敷島:「いや、お前達は大事な会社の商品だ。やはり管理者が付いているべきだろう」

 井辺達が並んでいる所は9号車である。
 そこに乗降ドアがピッタリ止まった。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、お降りください。13番線の電車は……」〕

 売れっ子アイドルとなった敷島エージェンシーのボーカロイド達は、9号車のグリーン車に乗り込んだ。

〔「……自由席はございません。自由席特急券ではご乗車になれませんので、ご注意ください。次の停車駅は大宮、大宮です」〕

 初音ミク:「あの、社長」
 敷島:「ん?」
 ミク:「今回も大きなステージで歌わせてくれて、ありがとうございました」
 敷島:「何言ってるんだ。お前とはもう10年くらいの付き合いだろう。俺の力だけじゃなく、お前の性能の良さもあるんだぞ」

 停車時間は僅か2分。
 あっという間に発車の時間が迫り、ホームに壮大な発車メロディが鳴り響いた。
 “青葉城恋唄”をアレンジしたものである。
 因みに、本当にブラスバンド演奏したものを録音したという。

 尚、在来線ホームは“すずめ踊り”で、確かにこちらも仙台ならではなのだが……評判は【お察しください】。
 まだ旋律のはっきりした“山形花笠音頭”の方が上出来と言えよう。

〔「13番線、ドアが閉まります。無理なご乗車はおやめください。発車致します」〕

 甲高い客終合図のブザーが鳴り響くと、ドアが閉まった。
 大きなエアー音がした直後に、VVVFインバータの音を響かせて“はつね”……もとい、“はやぶさ”は発車していった。
 尚、このインバータに旋律を付けて歌わせた京急電車がいるが、特に電気信号を発していないせいか、ボカロなどが反応することはない。

 敷島:「よしっ、見送り完了。平賀先生達に合流するぞ!」
 エミリー:「無理言って国分町にしてもらったんですって」
 シンディ:「ほお……?ただの宴会ならいいですけど、いかがわしいお店に足を向けた時点で、マスターに即刻通報するシステムは構築されてますからね」
 敷島:「わ、分かってるよ。それより早く行かないと、新幹線の終電に間に合わなくなる。タクシー乗り場に向かうぞ」
 エミリー:「こちらです」
 シンディ:「げ……!」

 その時、シンディが何か通信を受け取って嫌そうな顔をした。

 エミリー:「シンディ、どうした?」
 シンディ:「飛び込みで、村上博士も打ち上げに参加するって」(・д・)
 エミリー:「それがどうした?」
 シンディ:「ロイのバカもいるってことじゃない!」
 エミリー:「別にいいだろう」
 シンディ:「姉さん!キールで懲りてないのね!」
 エミリー:「キールはともかく、ロイに下心は無いだろう」
 シンディ:「甘い!姉さんは甘い!今のうち、鞭で引っ叩いてやって……!」
 エミリー:「シンディ……」
 敷島:「何やってんだ、お前ら!早く来い!」
 シンディ:「はいはい!」
 エミリー:「ただいま!」

〔「本日もJR仙台駅をご利用くださいまして、ありがとうございます。当駅では……」〕
コメント
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