報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 3

2017-09-13 19:22:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日21:30.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号メインホール→カジノ]

 メインホールは展望台までの吹き抜けである。
 その吹き抜けの高さほどもある大きな天文時計が時を刻んでいるのだが、大きな振り子がコーンコーンとホール内に響いているのが印象的だ。
 普通、振り子時計というものは船の揺れによって正確に時を刻めない為、船に設置されることはまずない。
 にも関わらず設置されているということは、それだけ船の揺れが小さいという自信からだろう。
 尚、稲生は天文時計を見てもさっぱり分からなかった。

 マリア:「このメインホールの設計者と魔王城のメインホールの設計者は、同一人物なんだそうだ」
 稲生:「あ、通りで。よく似てると思いましたよ」
 マリア:「魔道師として、天文時計は読めるようにしておかないとダメだぞ」
 稲生:「あ、はい」
 マリア:「もっとも、うちの屋敷には1個しか置いてないんだけどね」
 稲生:「おおかた、マリアさんの部屋辺りにあったりします?」
 マリア:「いや。師匠の昼寝部屋だ」
 稲生:「通りで見たこと無いわけだ。あそこ、辿り着くのに即死トラップ3ヶ所あるんですよ」
 マリア:「あー、それは残念。正解は4つ。照明を点けると爆発するボム・バルブが1個仕掛けられてる」
 稲生:「……マジですか?」
 マリア:「ユウタは屋敷の住人だから、スイッチを入れても点かないだけだけどね」
 稲生:「良かった。誰も電球交換しないから、そのうち僕がやる所でしたよ」
 マリア:「ミミックの亜種だから、無断で交換しようとしても爆発するよ」
 稲生:「通りで先生、『その電球、交換しといて』って言わなかったんですね」
 マリア:「その通りだ」
 稲生:「怖い屋敷」
 マリア:「まあ、ユウタの住んでる東側は大したトラップも無いから。多分」
 稲生:「多分って何ですか、多分って……」
 マリア:「1個くらい即死トラップがあるかもな」
 稲生:「それ、見つけ次第取り外しておきますからねっ!」
 マリア:「あはははは、冗談冗談」

 と、カジノに向かう2人を出迎える者がいた。

 サンモンド:「おー、この前よりも打ち解けてるねぇ。まるで恋人同士だ」
 稲生:「サンモンド船長!」
 サンモンド:「やあ、ようこそ。私の船、スターオーシャン号へ。どうだい?クイーン・アッツァーよりも良い乗り心地だろう?」
 稲生:「この船には悪霊も化け物もいませんしね」
 サンモンド:「はっはっはっ!何しろ今回は魔界共和党様の貸切運航だ。三途の川を渡る定期船とは違うからね」
 稲生:「定期船だと、アッツァーみたいな感じですか?」
 サンモンド:「近いけど、さすがにもう少し秩序はあるよ。例えばここのメインホールは、単なるカジノやプロナード、レストラン(大食堂)などへの中継点だけではないんだ。ダンスホールとしての役割もあってね。幽霊達がここで舞踏会を開いていることもあるよ」
 稲生:「怖っ!」
 サンモンド:「それよりキミ達、カジノに行くのだろう?良かったら私が案内しよう」
 稲生:「船長自らですか?」
 サンモンド:「ああ。実は私もカジノは大好きでね。船を降りたら、必ずその町のカジノに行ってたものさ。うちのカジノはこっちだ。ついて来なさい」

 カジノは船の1階にあった。
 ちょうど大時計の真裏である。
 カジノの賑わい方は、まるでこれが幽霊船とは思えないほどのものだった。
 クイーン・アッツァーの時などは、客が稲生1人だったから寂しいというものあったのだが……。

 稲生:「船長の得意なのは何ですか?」
 サンモンド:「主にカード系かな。ポーカーとブラックジャックだ」
 稲生:「ほおほお」
 支配人:「いらっしゃいませ。……おっ、これは船長!」
 サンモンド:「やあ。今日はVIPのお客様をお連れした。よろしく頼むよ」
 稲生:「VIPだなんて、そんな……」
 マリア:「ていうか貸切運航なんだから、客全員がVIPみたいなものでしょうが……」
 サンモンド:「通常の元手に、このお二方にこれを」

 サンモンドが支配人に渡したのは引換券。

 支配人:「引換券でございますね。それでは券1枚につき、チップ20枚と交換致しましょう。それにプラスして、最初の元手としてのチップ5枚も付け加えさせて頂きましょう」
 稲生:「お、アッツァーと同じルールだ」
 支配人:「お客様はクイーン・アッツァーにも御乗船されたことが?」
 稲生:「ええ、まあ、ちょっと……」
 支配人:「そうですか。向こうの支配人は、とても男前だったでしょう?」
 稲生:「えーっと……」
 サンモンド:「はっはっはっ。向こうの幽霊は意識体化していてね、顔までは分からなかっただろう。な?稲生君」
 稲生:「そ、そうですね」
 支配人:「そうでしたか。それは失礼致しました。それではどうぞ、御存分にお楽しみください」
 稲生:「ありがとう」
 サンモンド:「そうそう、稲生君。もう既にアッツァーで知っていると思うが、ブラックジャックの参加条件はチップ100枚以上稼いでからだ。バカラは200枚以上」
 稲生:「知ってます。200枚以上稼いだら、ゴールドコインがもらえるんですよね?」
 サンモンド:「そうそう。さすがはVIPルームに入れる資格を取っただけのことはある」
 マリア:「は?……ちょっと、ユウタ」
 稲生:「はい?」
 マリア:「私が船員居住区や客室エリアでクリーチャーと死闘してる間、のんびりカジノで遊んでたのか?」
 稲生:「い、いえ、あくまでも探索の1つですよ!?あのカジノのスタッフの幽霊さん達、大勝ちする客が来ないことには成仏できないって言うもんだから……!」
 マリア:「ふーん……?」
 サンモンド:「そうそう。稲生君は稲生君でカジノで戦っていたんだよ。相手がクリーチャーかそうでないかだ」
 マリア:「……私は向こうでスロットでもやってる。ユウタはポーカーでもやってたら?」
 稲生:「え、そんな!マリアさん!」
 サンモンド:「はっはっはっ!女性ってのは難しいねぇ。まあ、いいさ。勝てば機嫌も良くなるだろう。私達はお言葉に甘えて、ポーカーでもやろうか」
 稲生:「は、はあ……。(負けたらスロットマシーンが爆発してしまうかも……)」
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“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 2

2017-09-13 11:05:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日21:00.天候:晴 冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)スターオーシャン号・大食堂]

 アデランス:「それでは、宴もたけなわではございますが、まもなく終了のお時間となります。パーティーはこれにて終了致しますが、お食事や歓談などをご希望のお客様は、このままお過ごしになられても結構です。最後に、このパーティーの主役にしてアルカディア王国首相兼魔界共和党党首、安倍春明総裁に最後の締めの挨拶を賜りたいと存じます。安倍総裁、お願い致します」

 アデランス八島は魔界共和党の総務であるので、安倍は一国の首相というよりは上司である総裁なのだろう。

 安倍:「えー、皆さん。今夜はこの私の為にお集まり頂き、ありがとうございます。このパーティーは私のみならず、皆さん全員が主役であると考えております。ただ1つ、残念なことがありました。それは、このパーティーにおける2つの約束事。『ケンカ則退場』並びに『セクハラ則退場』を守れなかった人物がいたことであります。……」
 稲生:(何だかこっちの安倍総理、向こうの安倍総理と喋り方が似て来たなぁ……。これも勉強したのかな?それとも……)
 安倍:「……そのような人物におきましては厳しく、えー、強い制裁を課すことにより、党内の綱紀粛正を図るという目的を維持して行こうと、そういうつもりであります。この思い出深い船旅をどうか皆さん、一生のお土産して頂きたいと、えー、考えております。今日は本当に、どうもありがとうございました!」

 参加者一同から拍手が起きる。

 稲生:「その人物というのは……?」
 イリーナ:「横田理事に決まってんでしょう?」
 マリア:「私のガードが固いってんで、今度はポーリン組狙いやがった」
 エレーナ:「あんにゃろめ。すれ違いざま、私のオッパイもみもみして行きやがって!『嗚呼、マリアンナ様より大きい』だってさ」
 マリア:「あ?
 稲生:(僕達より年下とか言ってるけど、絶対エレーナは僕達より年上のような気がするんだけど……)
 リリアンヌ:「ヒヒ……。わらひのスカートも捲ってお尻触って来ましたので……フヒヒヒ……ヒック!……アンテナに吊るしておきました……ヒック!」
 稲生:「リリィ、キミはまた飲んで!まだ14歳でしょ!?」
 リリアンヌ:「……大丈夫です。昨日、15歳になりました。……ヒック」
 稲生:「何だ、そうか。じゃあ、もう一杯どうぞ……って、違う!」
 リリアンヌ:「ワインなら酔いません。……ヒャッハー!」
 稲生:「いや、酔ってる酔ってる」
 エレーナ:「じゃ私、リリィを連れて部屋に戻るから」
 マリア:「監視、しっかりしておけよ。またユウタの部屋に忍び込まないように」
 エレーナ:「分かってる。それじゃ」
 リリアンヌ:「エレーナ先輩、わらひ……!あのクソオヤジにスカート捲られて、『嗚呼、花柄のガーリーなおパンティ……』とか言われたんですよ……ヒック。お尻も触られて……」
 エレーナ:「分かった分かった。後で今度はスクリューに繋いでやろうね」
 稲生:「本当に軸はブレない人だなぁ、あの理事も……」
 マリア:「全く。ところで、これからどうする?」
 稲生:「どうすると言いますと?」
 イリーナ:「師匠をこれから部屋に戻すとして、その後だよ。もう寝る?」
 稲生:「あー、えっと……」

 稲生は手持ちのスマホを取り出した。
 まだ21時を過ぎたばっかりである。
 さすがにもう子供は寝る時間であるが、実年齢20代の2人が寝るにはまだ早い。
 実年齢というのは、魔道師の場合、見た目の年齢と実年齢が合わないことの方が多いからだ。
 イリーナは30代半ばの女性の姿をしているが、実際は齢1000年以上である。
 マリアも18歳で魔道師になったことで、そこから肉体年齢がほぼ停滞している(が、最近の体付きを見るに、少しは肉体年齢が進んだのではないだろうか)。

 稲生:「じゃあ、“クイーン・アッツァー”の思い出を辿ってみますか」

 “魔の者”が狙いを稲生に向け、乗っ取った冥鉄汽船“クイーン・アッツァー”号の事件。
 今乗船しているスターオーシャン号は、既に事件後に沈没したアッツァーと同型の姉妹船なのである。

[同日21:30.天候:晴 スターオーシャン号・客室フロア]

 稲生:「そういえば部屋に入るの、これからが初めてでしたね」
 マリア:「そういえばそうだ」

 出航直前の乗船であり、また、すぐパーティー会場に向かわなければならなかった為、荷物などは船内スタッフに預けていた。
 スタッフによれば、そのまま稲生達の部屋に荷物を入れておいてくれるとのことだったが……。

 稲生:「あ、ここですね」

 稲生はカードキーを取り出した。

 稲生:「アッツァーは普通の鍵だったり、或いは変なパズルを解いて開錠するパターンだったのに、こっちはカードキーとは……」
 イリーナ:「“魔の者”に乗っ取られた正真正銘のゴースト・シップか、一応はちゃんと営業している豪華客船の違いさね」
 稲生:「一応はって……」

 まあ、この船も冥鉄汽船所属という点と、魔界の海を航行しているという点で幽霊船であることに変わりは無いのだが。

 マリア:「ミスター・サンモンドがここの船長という点が、1番信用できないらしい」
 稲生:「そっかぁ……。後でサンモンド船長に御挨拶に行こうかなぁ」
 マリア:「キャプテンが夜勤やるとは思えないから、もう寝てるんじゃないか」
 稲生:「あ、そうか」

 部屋の中はさすが豪華客船ということもあって、とても広かった。
 まずはツインベッドが並んでいて、そのうちの1つにイリーナを寝かせた。

 マリア:「飲み過ぎですよ、師匠。ウォッカ一瓶空けるなんて!」
 イリーナ:「ゴメンゴメン……」

 部屋の中にはもう1つ寝室があって、何とそこは和室。
 “クイーン・アッツァー”号はツインルームやスイートルームしか無かったのだが、こちらはリニューアルされたのか、和洋室もあるようだ。
 基本的な船の構造はアッツァーとは変わらないが、今も変わらず運航を続けている客船はリニューアルも施されているようである。

 マリア:「それじゃ私達、もう少し船内を歩いてきますから」
 イリーナ:「ああ。行っといで」

 稲生とマリアは部屋を出た。

 稲生:「あんまり客室フロアは歩かなかったかな……」
 マリア:「そうか?私の時はやたらクリーチャーが襲って来たが」
 稲生:「主に戦いの場は、船底とかでしたもんね」
 マリア:「でもそれって、一般客立入禁止だろう」
 稲生:「まあ、確かに。あ、それじゃ……カジノなんてどうでしょう?」
 マリア:「カジノか。それもいいかもな」
 稲生:「じゃあ、ちょっと行ってみましょう。……ケンショーブルーがいたりして」
 マリア:「その時は海の底へ叩き落す」

[同日同時刻 天候:晴 スターオーシャン号・展望台上 通信アンテナ]

 横田:「…………」

 クルクルと回るプロペラに括り付けられている横田。

 横田:「嗚呼……人魚達の群れ……。あのコ……オッパイ大きい……」

 アンテナに括り付けられながらも、スターオーシャン号と並走する人魚達のビキニブラの中身を詮索する根性逞しい理事であった。
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