[4月18日10:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 フォーシーズンズ・ビルヂング]
四季エンタープライズの本社ビルに、敷島孝夫が訪れている。
役員室エリアの廊下を一緒に歩くのは、敷島の叔父で四季エンタープライズ社長の敷島俊介である。
伯父の峰雄はホールディングスの会長。
俊介:「いやー、ビックリしたよ。まさか、お前んとこの秘書に乗って登場するなんてねぇ……」
孝夫:「まさか、自分が本社の入社式に呼ばれていたとは思いもよらなかったので……」
敷島孝夫とエミリーが突っ込んだ大会議室の大きな窓ガラスは、修理が完了していた。
俊介:「しばらくはお前の本社役員報酬、ナシだな」
孝夫:「サーセン……」
俊介:「いくらここの社名がエンタープライズだからって、本当にエンターテイメントすることは無いだろう」
孝夫:「いや、すいません、ほんと。遅刻1分前だったもんで」
俊介:「そういう時は、車が事故ったということにでもしておけばいいんだ。全く。何を慌ててるんだか……」
常務執行役員、代表取締役に説教を食らうの図。
尚、孝夫は執行役員に任命はされたが、会社法における取締役ではないので、株主総会での承認は必要は無い。
それが為、会社法における取締役よりもずっと権限が低く抑えられていることもあり、それで敷島が『余計な仕事が増えるだけ』と嫌がったのである。
もちろん、ちゃんと報酬はあるのだが。
シンディ:「姉がとんでもないことをして、申し訳ありませんでした」
今回、孝夫はシンディを連れている。
エミリーが定期点検に入ったからである。
シンディ:「姉は猪突猛進な所がございまして、妹としてお詫び申し上げます」
孝夫:「エミリーは直球勝負だけども、シンディは変化球をよく投げるんですよ」
俊介:「どっちでもいいから、今度本社に来る時はちゃんとした乗り物で来るように」
孝夫:「はい……」
[同日11:00.天候:晴 地下鉄池袋駅有楽町線ホーム]
敷島:「ゴールデンウィークの北海道ボカロフェスについて報告しに行っただけなのに、結局説教食らっちゃったか……」
シンディ:「お説教だけで済んで良かったじゃないですか」
敷島:「まあな」
〔まもなく3番線に、新木場行きが到着します。乗車位置で、お待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかったりするのはおやめください〕
シンディ:「私だったら、機械室のダクトから侵入しますけどね」
敷島:「スーツが汚れるから、それも却下だなぁ……。てか、そんな侵入ルートがあるのか。うちのビルも気をつけないとなぁ……」
東京メトロ10000系電車が入線してくる。
これは有楽町線や副都心線で運行されている東京メトロ所有の電車で、その路線では新型車両である。
副都心線では8両編成もあるが、有楽町線では全て10両編成で運転される。
HIDランプを光らせて、ホームに進入してきた。
〔池袋、池袋です。丸ノ内線、副都心線、西武池袋線、東武東上線、JR線はお乗り換えです。3番線の電車は、新木場行きです〕
シンディ:「リンとレンの方は、テレビの収録が終わったそうです」
敷島:「おっ、そうか。ミクも含めて、あの3人はテレビによく出るようになったな」
敷島は空いている座席に座り、シンディはその脇に立った。
〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は有楽町線、飯田橋、永田町、有楽町、新富町方面、新木場行きです。終点の新木場まで、各駅に停車致します。まもなく発車致します」〕
短い発車メロディがホームに鳴り響く。
各駅ごとにその曲は異なり、しかもそれぞれに曲名が付いているという。
〔「3番線、新木場行き、ドアが閉まります」〕
JRの通勤電車のようなチャイムが3回鳴りながらドアが閉まる。
閉まった後で発車までのブランクがあるのは、ホームドアが閉まってから車掌が発車合図を出すからだろう。
加速力に優れた電車が池袋駅を出発する。
〔東京メトロ有楽町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は飯田橋、有楽町方面、新木場行きです。次は東池袋、東池袋です〕
シンディなどのロイドが搭載しているGPSは、地下空間では切れる恐れがあるので、そういう時は予めルートを送信しておく。
幸い日本の鉄道は基本、ダイヤ通りに走行できるので、予め送信した予定ルートと電車のダイヤと照らし合わせておけば、だいたい位置情報が合っている。
敷島:「シンディ。今、井辺君に送信できるか?」
シンディ:「はい。電波は大丈夫です」
敷島:「取りあえず、本社の承認は完全に取り付けたから、あとは何も心配無いと送信しておいて」
シンディ:「かしこまりました」
敷島:「俺は『もう1つの仕事』という別目的がある為、今回の北海道イベントは井辺君が主体ということになっているからな」
シンディ:「はい」
[同日11:28.天候:晴 東京メトロ有楽町線・豊洲駅→豊洲駅前交差点]
〔この先、揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください〕
豊洲は2面4線のホームだが、本線は外側線である。
で、何故かそちらが副線のようになっており、ポイント通過で減速する。
その為、多くの東京メトロの駅では、接近放送が鳴ったらすぐ電車がやってくるような状態なのに、豊洲駅にあっては放送が鳴った後で電車がやってくるまでの間、ブランクがある。
〔まもなく豊洲、豊洲です。足元と、ホームドアにご注意ください。出口は、右側です〕
敷島:「午後から来客があるんだっけ?」
シンディ:「都議会議員の勝又先生ですよ」
敷島:「おっ、そうか。勝っちゃんが来るんだっけ」
若手議員の勝又と敷島は同級生。
〔豊洲、豊洲です。ゆりかもめはお乗り換えです。1番線の電車は、新木場行きです〕
敷島達は電車を降りた。
目の前の階段を登る。
今では普通の人間と遜色無く登り下りできるシンディだが、ロイドなどの2足歩行ロボットが苦労するのは階段の登り降りである。
敷島:「昼、何食おうかな……」
シンディ:「私、何か作りましょうか?」
敷島:「今さらなんだけど、叔父さん達はお昼に何食べてるんだろう?」
シンディ:「出前でもお取りになってるんでしょうか」
敷島:「出前ねぇ……。まあ、いいや。今日は吉牛の持ち帰りにしよう。駅前にあるだろ?」
シンディ:「そうですね」
2人は地上に出た。
シンディ:「私が買って来ますから、社長は待っててください」
敷島:「おっ、分かった。『アタマの大盛り』と味噌汁でよろしく」
シンディ:「かしこまりました」
シンディが店の中に入ると、敷島はスマホを取り出した。
敷島:「勝っちゃん、お疲れ!午後から俺んとこ来るんだったよね?また『クールトウキョウ』の話?」
勝又:「その通り。日本の首都として、政府のクールジャパンに先駆けて、東京でも何かやろうってこと。そこへボーカロイドは良いコンテンツだと思うんだ」
敷島:「うちのボカロにミュージカルでもやらせる気か?」
勝又:「あっ、それ近い。『悪ノ娘と召使』が大好評だったものだから、あれをもう少しアレンジしようと思ったんだ」
敷島:「何か考えたの?」
勝又:「さすがに従来通りのシナリオでは飽きが来てしまう。そこで、主人公の初音ミクを魔女っ娘に……」
ピッ!と問答無用で電話を切る敷島。
敷島:「さて、『北海道ボカロフェス』に向けて準備をしないとな……」
しばらくしてシンディが戻って来た。
シンディ:「お待たせしました」
敷島:「ありがとう。じゃ、帰るとするか」
シンディ:「どこかへお電話されていたようですが?」
敷島:「気のせいだ」
シンディ:「は?いや、でもさっき……」
敷島:「気のせいだ」
シンディ:「は?はあ……。(私のカメラに映っていたんだけど……)」
ロイドの目はカメラと同じ。
人間の記憶は記録媒体化できないが、ロイドにはちゃんとメモリーチップがある。
四季エンタープライズの本社ビルに、敷島孝夫が訪れている。
役員室エリアの廊下を一緒に歩くのは、敷島の叔父で四季エンタープライズ社長の敷島俊介である。
伯父の峰雄はホールディングスの会長。
俊介:「いやー、ビックリしたよ。まさか、お前んとこの秘書に乗って登場するなんてねぇ……」
孝夫:「まさか、自分が本社の入社式に呼ばれていたとは思いもよらなかったので……」
敷島孝夫とエミリーが突っ込んだ大会議室の大きな窓ガラスは、修理が完了していた。
俊介:「しばらくはお前の本社役員報酬、ナシだな」
孝夫:「サーセン……」
俊介:「いくらここの社名がエンタープライズだからって、本当にエンターテイメントすることは無いだろう」
孝夫:「いや、すいません、ほんと。遅刻1分前だったもんで」
俊介:「そういう時は、車が事故ったということにでもしておけばいいんだ。全く。何を慌ててるんだか……」
常務執行役員、代表取締役に説教を食らうの図。
尚、孝夫は執行役員に任命はされたが、会社法における取締役ではないので、株主総会での承認は必要は無い。
それが為、会社法における取締役よりもずっと権限が低く抑えられていることもあり、それで敷島が『余計な仕事が増えるだけ』と嫌がったのである。
もちろん、ちゃんと報酬はあるのだが。
シンディ:「姉がとんでもないことをして、申し訳ありませんでした」
今回、孝夫はシンディを連れている。
エミリーが定期点検に入ったからである。
シンディ:「姉は猪突猛進な所がございまして、妹としてお詫び申し上げます」
孝夫:「エミリーは直球勝負だけども、シンディは変化球をよく投げるんですよ」
俊介:「どっちでもいいから、今度本社に来る時はちゃんとした乗り物で来るように」
孝夫:「はい……」
[同日11:00.天候:晴 地下鉄池袋駅有楽町線ホーム]
敷島:「ゴールデンウィークの北海道ボカロフェスについて報告しに行っただけなのに、結局説教食らっちゃったか……」
シンディ:「お説教だけで済んで良かったじゃないですか」
敷島:「まあな」
〔まもなく3番線に、新木場行きが到着します。乗車位置で、お待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかったりするのはおやめください〕
シンディ:「私だったら、機械室のダクトから侵入しますけどね」
敷島:「スーツが汚れるから、それも却下だなぁ……。てか、そんな侵入ルートがあるのか。うちのビルも気をつけないとなぁ……」
東京メトロ10000系電車が入線してくる。
これは有楽町線や副都心線で運行されている東京メトロ所有の電車で、その路線では新型車両である。
副都心線では8両編成もあるが、有楽町線では全て10両編成で運転される。
HIDランプを光らせて、ホームに進入してきた。
〔池袋、池袋です。丸ノ内線、副都心線、西武池袋線、東武東上線、JR線はお乗り換えです。3番線の電車は、新木場行きです〕
シンディ:「リンとレンの方は、テレビの収録が終わったそうです」
敷島:「おっ、そうか。ミクも含めて、あの3人はテレビによく出るようになったな」
敷島は空いている座席に座り、シンディはその脇に立った。
〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は有楽町線、飯田橋、永田町、有楽町、新富町方面、新木場行きです。終点の新木場まで、各駅に停車致します。まもなく発車致します」〕
短い発車メロディがホームに鳴り響く。
各駅ごとにその曲は異なり、しかもそれぞれに曲名が付いているという。
〔「3番線、新木場行き、ドアが閉まります」〕
JRの通勤電車のようなチャイムが3回鳴りながらドアが閉まる。
閉まった後で発車までのブランクがあるのは、ホームドアが閉まってから車掌が発車合図を出すからだろう。
加速力に優れた電車が池袋駅を出発する。
〔東京メトロ有楽町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は飯田橋、有楽町方面、新木場行きです。次は東池袋、東池袋です〕
シンディなどのロイドが搭載しているGPSは、地下空間では切れる恐れがあるので、そういう時は予めルートを送信しておく。
幸い日本の鉄道は基本、ダイヤ通りに走行できるので、予め送信した予定ルートと電車のダイヤと照らし合わせておけば、だいたい位置情報が合っている。
敷島:「シンディ。今、井辺君に送信できるか?」
シンディ:「はい。電波は大丈夫です」
敷島:「取りあえず、本社の承認は完全に取り付けたから、あとは何も心配無いと送信しておいて」
シンディ:「かしこまりました」
敷島:「俺は『もう1つの仕事』という別目的がある為、今回の北海道イベントは井辺君が主体ということになっているからな」
シンディ:「はい」
[同日11:28.天候:晴 東京メトロ有楽町線・豊洲駅→豊洲駅前交差点]
〔この先、揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください〕
豊洲は2面4線のホームだが、本線は外側線である。
で、何故かそちらが副線のようになっており、ポイント通過で減速する。
その為、多くの東京メトロの駅では、接近放送が鳴ったらすぐ電車がやってくるような状態なのに、豊洲駅にあっては放送が鳴った後で電車がやってくるまでの間、ブランクがある。
〔まもなく豊洲、豊洲です。足元と、ホームドアにご注意ください。出口は、右側です〕
敷島:「午後から来客があるんだっけ?」
シンディ:「都議会議員の勝又先生ですよ」
敷島:「おっ、そうか。勝っちゃんが来るんだっけ」
若手議員の勝又と敷島は同級生。
〔豊洲、豊洲です。ゆりかもめはお乗り換えです。1番線の電車は、新木場行きです〕
敷島達は電車を降りた。
目の前の階段を登る。
今では普通の人間と遜色無く登り下りできるシンディだが、ロイドなどの2足歩行ロボットが苦労するのは階段の登り降りである。
敷島:「昼、何食おうかな……」
シンディ:「私、何か作りましょうか?」
敷島:「今さらなんだけど、叔父さん達はお昼に何食べてるんだろう?」
シンディ:「出前でもお取りになってるんでしょうか」
敷島:「出前ねぇ……。まあ、いいや。今日は吉牛の持ち帰りにしよう。駅前にあるだろ?」
シンディ:「そうですね」
2人は地上に出た。
シンディ:「私が買って来ますから、社長は待っててください」
敷島:「おっ、分かった。『アタマの大盛り』と味噌汁でよろしく」
シンディ:「かしこまりました」
シンディが店の中に入ると、敷島はスマホを取り出した。
敷島:「勝っちゃん、お疲れ!午後から俺んとこ来るんだったよね?また『クールトウキョウ』の話?」
勝又:「その通り。日本の首都として、政府のクールジャパンに先駆けて、東京でも何かやろうってこと。そこへボーカロイドは良いコンテンツだと思うんだ」
敷島:「うちのボカロにミュージカルでもやらせる気か?」
勝又:「あっ、それ近い。『悪ノ娘と召使』が大好評だったものだから、あれをもう少しアレンジしようと思ったんだ」
敷島:「何か考えたの?」
勝又:「さすがに従来通りのシナリオでは飽きが来てしまう。そこで、主人公の初音ミクを魔女っ娘に……」
ピッ!と問答無用で電話を切る敷島。
敷島:「さて、『北海道ボカロフェス』に向けて準備をしないとな……」
しばらくしてシンディが戻って来た。
シンディ:「お待たせしました」
敷島:「ありがとう。じゃ、帰るとするか」
シンディ:「どこかへお電話されていたようですが?」
敷島:「気のせいだ」
シンディ:「は?いや、でもさっき……」
敷島:「気のせいだ」
シンディ:「は?はあ……。(私のカメラに映っていたんだけど……)」
ロイドの目はカメラと同じ。
人間の記憶は記録媒体化できないが、ロイドにはちゃんとメモリーチップがある。
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