報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 6

2015-04-29 15:47:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月22日10:30.天候:雨 北海道某所・ヤノフ城跡 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&大師匠ダンテ・アリギエーリ]

「あー、こりゃまた随分ハデにやったねぇ……」
 黒いローブにフードを深く被ったダンテが苦笑いした。
「ワザとじゃないですよ」
 イリーナは言い訳するように言った。
「それで、どうなの?これは私達の勝利ってことでいいのかしら?」
「そうだねぇ……」
 城の裏手にある断崖絶壁。
 2人の大魔道師は無重力空間のように、下に舞い降りた。
「あー、こりゃ見事に逃げられた感じだ……」
「マジで!?」
 ダンテは川底から魔法の杖で、白骨死体を引き上げた。
「これが、あのヤノフ?」
「……に、取り憑かれたマリアンナ君のお祖父さん、セイカー氏だ。もっとも、取り憑かれて数年で死亡したようなものだから、結局キミ達が会った時点で、完全にヤノフ侯爵に取り込まれていただろうね」
「崖から死体が落ちる瞬間に抜け出して逃げた?」
「はい、正解。そしてまた新たな拠り所を探している」
「ユウタ君……!」
「といっても、相当消耗したと見える。しばらくは襲ってこないと思うね」
「余裕で抜けたのなら、死体すら残さないものね」
「そういうことだ」
「眷属達はどうなったのかしら?」
「この瓦礫の下敷きか、生き霊として引っ張ってこられただけなのなら、消えただけかのどっちかだね」
「なーんか、してやられたって感じだねぇ……」
「まあ、マリアンナ君を諦めさせたんだから、そこは良しとしようじゃないか。……子宮が使えないことがバレたのは、ちょっと痛かったがね」
「生け贄として使えなくなってるだけで、普通に産めるはずだよー」
「だからさ……」
「ユウタ君も狙われないように、早くマリアと一緒になって、貞操を手放してもらって……」
 イリーナが焦るように言ったものだから、ダンテは呆れたような顔になってツッコんだ。
「別に、男の童貞は悪魔も狙って来ないと思うよ?」

[同日同時刻 旭川市内ビジネスホテル 稲生ユウタ]

「色々買って来ちゃったなー……」
 ユタはビニール袋を手にホテルに戻り、マリアの部屋に向かった。
 他の客室は清掃作業が行われていたが、マリア達の部屋は『起こさないでください』表示でやっぱりスルーされている。
 ユタは部屋をノックした。
「せめて、ドアくらい開けてくれないかなー……」
 と思っていたのだが、ドアを開けてくれた。
 ジッとユタを見据えるミク人形(人間形態)。
「あっ、あーっと……。これ、マリアさんに……渡してくれる?」
 すると、ミク人形はドアを大きく開けた。
「だ、大丈夫。僕は入らないから……あっ!?」
 だが、意外にもミカエラに腕を掴まれて引っ張られ、後ろからミカエラに背中を押される形で部屋に強制入室させられた。
「えっえっえっ?いいの?」
 そして両脇を抱えられ(人間形態の人形達は概ねユタより身長が高い)、マリアの前に引き立てられた。
 マリアは上半身を起こした。
「あ、あの……具合、大丈夫ですか?」
「ああ……少し、熱っぽいだけ」
 その割には、随分と顔が赤い。
「これ、冷却シートです。濡らしたタオルより、使い勝手がいいと思います」
 ユタは箱から冷却シートを1枚出すと、
「じゃあ、ちょっと貼りますんで」
 そう言って、マリアのおでこにシートを貼った。
「……うん、冷たい」
「あと、これが薬です。何か、食べられますか?」
「……その果物がいい」
「あ、はい」
 ユタが袋から取り出すと、
「あっ?」
 ヒョイとミカエラがリンゴを取った。
 そして、手持ちの(……!?)果物ナイフで器用に皮を剝いた。
「ユウタ……」
「はい?」
「その……ありがとう」
「えっ?」
「城で捕まった時、助けに来てくれたでしょ?」
「あ、ああ……何か、最初に着いたの、僕でしたねぇ……。でも、殆ど攻撃できた感が無いんですけど……」
「いや、そんなことない。きっと、“魔の者”も思い知ったはずだ」
「そう……ですかね」
「うん。師匠から概要は聞いたけど、ここは旭川市のホテルなんだな?」
「そうです。ヤノフ城が崩れる直前に、藤谷地区長がヘリで迎えに来てくれて、それで脱出しました。ここの市内にヘリポートがあって、そこに着陸した後、藤谷組の事務所で休ませてもらって、このホテルに入ったわけです」
「なるほど……」
「明後日の飛行機で帰りますから、それまでゆっくりできます」
「また羽田経由?」
「いえ。もう松本空港が再開されたんで、そのまま松本空港行きの飛行機です」
「そうなんだ」
 クラリスが切ったリンゴを差し出した。
「これを食べて、その後で薬を飲んでください」
「ああ。聖水を飲んだから、もう少しで魔力が回復すると思う。そしたら、すぐに治るはずだ」
「無理はしないでくださいね」
「ああ」
「あっ、そうだ。ちょっと待っててください」
「?」
 ユタは何か思い出したように、一旦マリアの部屋を出た。
 そして自分の部屋に取って返すと、何かを持ってまたマリアの部屋に戻った。
「なに?」
「もうだいぶ過ぎてしまいましたけど、これ、誕生日プレゼントです」
 マリアは目を見開いた。
「大したものじゃありませんけど……」
「な……」
 マリアが受け取った紙袋を開けると、中に入っていたのはカチューシャだった。
「マリアさん、よく着けてるので、これでいいのかなぁと……」
 マゼンタ色で頭に装着すると、自分から向かって左上辺りに小さなリボンがあしらわれている。
「! そういえば、いつの間にか、いつものカチューシャが無くなりましたね」
「どうやら、あの戦いで無くしてしまったらしい。だから……ちょうど良かった。ありがとう……」
 マリアはユタからもらったカチューシャを抱きしめた。
「早速、明日から着けさせてもらうね」
「明日?」
「見ての通り、ずっと寝てたせいか髪がボサボサで……。シャンプーもしてないし……」
「あー……そうですよね」
「ゴメン」
「いえ、いいんですよ」
「師匠とは会った?」
「何か今日と明日は、お客さんと会うからって……」
「……ああ、そうか」
「じゃあ、僕はこれで……。あ、もちろん、ホテルに基本いますけどね。何かあったら、呼んでください」
 ユタは椅子から立ち上がった。
「あの……ユウタ君」
「はい?」
「おかげで、元気が出てきそう。明日には治すから……」
「ムリはしないでくださいね」
「ありがとう……」

[同日18:00.旭川市内の某レストラン ユタ、イリーナ、ダンテ]

「マリアねぇ、泣いて喜んでたよー。『初めて男の人からプレゼントもらった』って」
「ほぉ……。稲生君も隅に置けないようだねぇ……」
 2人の大魔道師、イリーナはニヤニヤ笑って言い、ダンテはほっこりした顔で反応した。
「い、いえっ、僕はその……!」
「いいんだよ。これからもこの調子で、仲良くやりなさい。『仲良きことは美しき哉』、ダンテ一門の訓辞だよ」
 さすがに食事時はフードを取るダンテ。
 その下の顔は、50代前半くらいの白人男性といった感じだった。
 これとて変身中の顔で、素顔ではないという。
「これで、しばらく“魔の者”が姿を現すことはないだろう。今のうちに長野に戻り、奴らが手出しできないくらいに修行を積みなさい」
「はい」
「頑張りますわ」
「……イリーナは、魔の者に後ろを取られた説教を後でしようか」
「ええっ!?だからぁ、あれは想定外だって……!」
「弟子連れというわけでもあるまいに、のんきに飛行機で帰ろうとするからだよ」
(1人前になっても、師匠からのお説教ってまだあるんだなぁ……)
 ユタは2人の大魔道師のやり取りを見ながら苦笑いをした。

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3 コメント

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つぶやき (作者)
2015-04-29 22:11:56
 前回の記事の方で山門入り口さんがコメント下さり、私も返信させて頂いたが、多摩準急先生も似たようなことを仰っていた。
 即ち、
「雲羽君、新幹線止めるとは凄い通力だな」
 である。
「御本尊もキミが強行手段に出るのは本気だと思って、慌てたんだろう」
 とのことだ。
「外に向かってのテロは犯罪以外の何物でも無いのでヒヨるところですが、内に向かってのテロでしたら、もう何も怖いものはありませんので」
「そしたら今度、大石寺にクレームでも付けに行くのか?」
「え?」
「月イチで参詣してんのに全然功徳無ェぞ、ゴルァッ!って」
「あー……そうですね……。ま、一応現段階ではストライキということで」
「ヒヨッてんじゃんw」
 こんな話、到底できないから、やっぱり世法の人に相談した方がいいんだね。
 そこは顕正会も法華講も同じで、どうせ相談したところで、行き着く結論は似たようなものだから。
返信する
Unknown (ポテンヒット)
2015-04-29 22:24:28
今日は埼玉ブロンコスのブースター感謝デーに行って来たが、メチャ楽しかったぜ。おまいはバスケには興味ねえと思うが、いちおう体験を発表しよう。俺は本当に楽しい思いをしたからこそ、興味ねえ奴でもいいなと思えるような体験発表が書けるぞw

所沢のとある体育館、14時。開場すると、なんと選手が花道を作って俺たちブスを迎えてくれていた。ハイタッチで入場。いきなりテンション最高だぜw

会場は選手との距離感ゼロ。選手やチアとの雑談を楽しみながらの全体記念写真撮影が終わると、とりあえずいつものチアダンス。ここは選手も踊ってほしかったかなw

次は選手ブス混合チーム対決のミニゲーム。俺はバスケ経験ないし恥ずかしいから避けていたが、チアに招かれて強制参加になってしまったw

しかしやってみるとこれが超オモロ。大塚選手からのパスを貰った俺は下手クソなドリブルで切り込んで行き、とりあえず打っちゃえシュート。ゼンゼン決まんね~が、チアやDJが公式戦さながらのノリでブーストしてくれて選手気分を味わえたぜw

そしてフリーパーティ。ビール飲み放題、寿司やローストビーフ食い放題。それだけでも参加料2160円の元はじゅうぶん取れるのだが、選手がビールを注いでくれるわ、チアがオードブルを取り分けてくれるわ、俺みたいな底辺オヤジがこんなVIPでスンマセ~ンw

もちろんサイン、写真、握手はゼンゼンOK牧場なんだが、俺は限られた時間内で選手との会話を楽しみたかったから、そこは遠慮した。なんで、もっと外人選手との会話を楽しめるように通訳を付けてほしかったなあw

あとはオークションや社長挨拶などがあって、選手に見送られて退場したわけだが、ブス達の感動は冷めやらない。俺は時間なくて帰ったけど、見知らぬブス同士が結束して、お祭り騒ぎで2次会へと向かって行ったぜw

ああ、マジサイコーだったぜ。だから、プロバスケの楽しさを知ってほしいと同時に、メジャーになると選手との距離が遠くなってビミョ~だったりするw
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ポテンヒットさんへ (作者)
2015-04-29 23:26:05
 こんばんは。

 いや、読んでいて面白い体験発表でしたよ。
 ポテンヒットさんがバスケやったり、VIP気分の所が想像できて、思わず【お察しください】。

>メジャーになると選手との距離が遠くなってビミョ~だったりするw

 何か、アイドルとよく似てますね。
 AKBだって地下アイドル時代は、恐らく件の体験発表みたいなことをしていたと思われますが、テレビや雑誌などで見ない日は無いくらいメジャーになったりすると、やっぱり触れ合いイベントみたいなことができなくなるという……。
 何とか握手会ができるくらいでしょうか。
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