日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

チキンカツの後は映画「魔笛」

2007-08-11 17:00:07 | 音楽・美術
金曜日(8月10日)の朝、妻が一緒に出かける予定にしていた友人の都合が悪くなったとかで、「映画に行こう」と私にお声かかった。「魔笛」だという。午後1時からの上映に間に合わせるべく家を出た。先ずは朝日会館のシネ・リーブル神戸に行き、整理番号つきのチケットを1000円で購入、証明書を出さなくても堂々とシニアで通るのが恥ずかし嬉しである。

映画の前に昼食を市役所の西側にある「グリル 十字屋」でとることにした。昔からある洋食屋さんで、創業は私の生まれより1年早いらしいが、お付き合いが始まったのは昭和40年代である。以前は天井が高く、天井からぶら下がった羽根の大きな扇風機がゆったりと回っているような、なんとなくエキゾチックな雰囲気の店だったが、数年前に新装開店した。ビストロ風のあか抜けたお店で、終日禁煙なのが嬉しい。チキンカツを注文した。1150円也でご飯が付くと1300円になる。暑さのせいであまり外出することがないので、ランチを外でとるのも久しぶりである。骨を一本だけ残して美味しく頂いた。



映画館は半分ぐらいの入りだった。映画が始まりお馴染み「魔笛」の序曲が流れ出した。何だか変、ヨーロッパの大平原がスクリーンに映し出されたが、戦争が始まりそうである。兵士たちが延々と張り巡らされた地割れのような塹壕に身を潜めている。長距離砲に戦車までが控えている。どうも第一次大戦での決戦間近のような雰囲気である。そしてドンパチが始まった。空には複葉機が舞う。総攻撃である。兵士がバタバタと倒れる。その一人がどうもタミーノらしい、そして歌い始める。そこにやってきたのは三人の侍女の筈だがどうみてもナイチンゲールの扮装、戦場で負傷した兵士を救助に来た看護婦なのである。

いわゆる現代風の演出で、作る方もあれやこれやの趣向を凝らして楽しんでいるようだ。しかし歌や台詞は原作の流れからそれほど大きくは外れていないように感じたから、こちらはこちらで気楽に歌に背景を楽しませて貰う気になった。

説明のパンフレットも見あたらなかったので演出、指揮者、出演者の素性も分からないままであったが、歌はなかなか聴き応えがあった。夜の女王がなんとも迫力のあるダイナミックな歌い方をするのに驚いた。カメラがどういうつもりかアリア「地獄の復讐に燃え立つ」の時に、歌手の大きく開けた口の真正面から喉ちんこにいたるまで、画面に大写しをするのでついつい凝視してしまった。これほどまじまじと眺めたのは初めての経験で、綺麗な歯並がよかった。

パミーナがまるで少女のように歌う。そのように演技しているのだろうか、そうだとしたらなかなかの技巧派である。それにザラストロのバスが豊に響いてとても快かった。全体がお馴染みのメロディーで綴られていくから、目を瞑れば何の違和感がない、と云いたいところだが、目を閉じても言葉がわかるるのには理由があった。言葉が全て英語なのである。タミーノが最初から"Help me! Protect me!"とか叫んでいた。

「魔笛」はSingspiel、つまりドイツで流行った民衆的な台詞入りの歌劇の代表でもあるから、ドイツ語と深く結びついているのであろうが、もう2、30年前にウイーンのオペラ座で始めて「魔笛」観たときに、独・英対訳の小冊子を買っていたことを思い出して帰宅後取りだしてみた。G.Schirmer's Collection of Opera Librettosと表紙にあった。この英語の台本が使われたのだろうか。この映画のデータをまた調べてみるのも面白いと思った。



出だしは度肝を抜かれたが難しいことを考えなければ「魔笛」そのもの、夏の午後の一時を楽しく過ごすことが出来た。映画館の名前を確かめようと思って朝刊を見たところ、「魔笛」の文字がもう消えていた。昨日が最終日だったようである。