「うつろ庵」の庭に、立派な珊瑚が育った。
珊瑚の高級品は、「血赤珊瑚」と呼ばれて宝飾品として珍重され、お値段も物によっては際限がない。その昔、虚庵居士も見栄を張って、虚庵夫人に血赤珊瑚の指輪をプレゼントしたが、お値段を見て腰を抜かした。その際、虚庵氏のカフス釦もかなり上等の珊瑚で誂えたが、お値段は何と十分の一にも満たなかった。
薄いピンク色の珊瑚で、「ボケ珊瑚(エンゼルスキン)」と呼ばれる種類もあるが、手に入らないので宝飾商は「幻の珊瑚」と呼んで、垂涎の的になっている。
「うつろ庵」の庭の「珊瑚」は、その上を行く見事なものだが、「珊瑚葉牡丹」であることが残念だ。これが本物の海の「ピンク珊瑚」なら、虚庵居士は大金持ちになれるのだが・・・。
いと細き珊瑚の枝か葉牡丹の
陽ざしにゆらめく「水底か」ここは
海深く生ふる珊瑚も斯くあるや
水面の光に煌めく葉先は
幻の「エンゼルスキン」の珊瑚をば
庵の狭き庭に観るかも