熊本熊的日常

日常生活についての雑記

私の夫を

2008年02月21日 | Weblog
時々、職場に老婦人の声で電話がかかる。電話機に相手の番号が表示されるので、彼女からの電話の時には勤務先の社名を名乗ることにしている。殆どの場合、電話は無言のままそこで切れる。たまに「あなたは誰?」と尋ねられる時もある。今日は、夫を出してくれと言われた。その名前を聞いても、聞き覚えがあるはずもなく、そのような人はここにはいない、としか言いようが無い。すると、電話番号を尋ねられた。こちらの番号を言うと、それは違うと言う。それはその通りだろう。紛れも無い間違い電話なのだから。

年齢を重ねれば、身体のいたるところが老化する。身体も硬くなるが、思考も柔軟性を失っていく。彼女は、私の席の電話を何度か鳴らした後で、ようやく電話が間違っているのではなく、自分が間違った番号にかけていることに気付き、めでたく自分の夫と話ができるのかもしれない。あるいは、彼女の夫はもうこの世にはいないのかもしれない。声だけでは判断がつきかねるが、かなりの年配のようである。その夫たる人物は土木会社に勤務しているらしいのだが、勤め人であるとすれば、役員でもない限り、かなり以前に引退していてもおかしくないだろう。勤めを引退し、人生をも引退しているということもありうる。そんな現実とは没交渉に、ふと、夫を思い出し、電話に手を伸ばしているのかもしれない。

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