熊本熊的日常

日常生活についての雑記

ありがとう 2013年

2013年12月31日 | Weblog

今年読んだ本
1 馬場正尊/林厚見/吉里裕也『だから、僕らはこの働き方を選んだ』 ダイヤモンド社
2 東京R不動産『団地に住もう!』 日経BP社
3 酒見賢一『ピュタゴラスの旅』 集英社文庫
4 酒見賢一『墨攻』 新潮文庫
5 ニール・マクレガー(訳:東郷えりか)「100のモノが語る世界の歴史 3」 筑摩書房
6 『舟越保武全随筆集 巨岩と花びら ほか』 求龍堂
7 灰野昭郎『日本の意匠 蒔絵を愉しむ』 岩波新書
8 筒井紘一『新島八重の茶事記』 小学館
9 辻井喬『叙情と闘争』 中央公論社
10 久木綾子『見残しの塔 周防国五重塔縁起』 新宿書房
11 久木綾子『禊の塔 羽黒山五重塔仄聞』 新宿書房
12 淡交社編集局『茶道具ハンドブック』 淡交社
13 神奈川県立近代美術館編『小さな箱 鎌倉近代美術館の50年』 求龍堂
14 夏目漱石『硝子戸の中』 青空文庫
15 夏目漱石『草枕』 青空文庫
16 夏目漱石『坊ちゃん』 青空文庫
17 夏目漱石『吾輩は猫である』 青空文庫
18 小村雪岱『日本橋檜物町』 中公文庫
19 夏目漱石『行人』 青空文庫
20 夏目漱石『倫敦消息』 青空文庫
21 柳家喬太郎『落語こてんコテン』 筑摩書房
22 川北稔『砂糖の世界史』 岩波ジュニア新書
23 辛島昇『インド・カレー紀行』 岩波ジュニア新書
24 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』 岩波ジュニア新書
25 朝吹真理子『きことは』 新潮文庫
26 朝吹真理子『流跡』 新潮社
27 多々納弘光『出西窯 民藝の師父たちに導かれて六十五年』 ダイヤモンド社
28 柳家喬太郎『落語こてんパン』 ポプラ社
29 河井寛次郎『火の誓い』 講談社文芸文庫
30 河井寛次郎『蝶が飛ぶ葉っぱが飛ぶ』 講談社文芸文庫
31 内田樹『日本辺境論』 新潮新書
32 藤森照信・山口晃『日本建築集中講義』 淡交社
33 小熊英二『社会を変えるには』 講談社現代新書
34 内田樹・観世清和『能はこんなに面白い!』 小学館
35 田中長徳『LEICA, My Life』 出版社

今年観た映画
1 『風立ちぬ』 T・ジョイ新潟万代
2 『A Hard Day’s Night』 DVD

今年聴いた落語会・演劇・ライブなど
1 柳家喬太郎 新春独演会 新潟市民芸術文化会館 能楽堂
2 柳家さん喬 独演会 パルテノン多摩 小ホール
3 柳家小三治 独演会 入間市市民会館
4 柳家小三治 一門会 北とぴあ さくらホール
5 春風亭一之輔 独演会 新潟市民プラザ
6 立川談笑 独演会 国立演芸場
7 柳家花緑 独演会 なかのZEROホール
8 柳家三三 独演会 小金井市民交流センター
9 鈴本演芸場 11月上席昼の部
10 小三治と華の芸 府中の森芸術劇場

今年観た美術展など
1 聖徳記念絵画館
2 「茶道具と円山派の絵画」 三井記念美術館
3 「OVER THE RAINBOW」 府中市美術館
4 「日本の民家1955年」 パナソニック汐留ミュージアム
5 「日本の漆 南部・秀衡・浄法寺を中心に」 日本民藝館
6 「生誕100年 高山辰雄・奥田元宋」 山種美術館」
7 新潟市歴史博物館
8 「巨匠たちの英国水彩画展」 新潟県立万代美術館
9 「時代の美 第3部 桃山・江戸編」 五島美術館
10 「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」 埼玉県立近代美術館
11 鉄道博物館
12 燕喜館
13 北方文化博物館
14 安吾 風の館
15 砂丘館
16 「絶対風景」 フジフイルム スクエア
17 「日本の美 伊勢神宮」 フジフイルム スクエア 写真歴史博物館
18 「歌舞伎 江戸の芝居小屋」 サントリー美術館
19 「デザインあ展」 21_21 DESIGN SIGHT
20 「書聖 王羲之」 東京国立博物館
21 「オリエントの美術」 出光美術館
22 「遠州・不昧の美意識」 根津美術館
23 常設展 東京国立近代美術館
24 「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」 東京国立近代美術館
25 「花咲く工芸」 東京国立近代美術館工芸館
26 「ラファエロ」 国立西洋美術館
27 「エル・グレコ展」 東京都美術館
28 「八重の桜」 江戸東京博物館
29 「近代日本画の精華」 新潟県立近代美術館
30 「合田誠展:天才でごめんなさい」 森美術館
31 「日本の木のイス展」 横須賀美術館
32 「アイヌ工芸 祈りの文様」 日本民藝館
33 「幸之助と伝統工芸」 パナソニック汐留ミュージアム
34 「貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
35 「アントニオ・ロペス展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
36 「大神社展」 東京国立博物館
37 「日本人が描くパリ」 ブリヂストン美術館
38 「木村荘八展」 東京ステーションギャラリー
39 「源氏絵と伊勢絵」 出光美術館
40 「オディロン・ルドン 夢の起源」 損保ジャパン東郷青児美術館
41 「奇跡のクラーク・コレクション」 三菱一号館美術館
42 日本民藝館
43 「古径と再興院展の巨匠展」 敦井美術館
44 「ミュシャ展」 新潟県立万代島美術館
45 「新潟県美術展覧会 県展」 朱鷺メッセウェーブマーケット
46 「夏目漱石の美術世界展」 東京藝術大学大学美術館
47 「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」 上野の森美術館
48 「エミール・クラウスとベルギーの印象派」 東京ステーションギャラリー
49 武者小路実篤記念館
50 「川合玉堂 日本のふるさと・日本のこころ」 山種美術館
51 「浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション 第1期 浮世絵の黄金期 江戸のグラビア」 三菱一号館美術館
52 「つきしま かるかや 素朴表現の絵巻と説話画」 日本民藝館
53 「藍澤ミミ子 絵本原画展 はしれ・きかんしゃ・ちからあし」 ギャラリー十三代目長兵衛
54 樹下美術館
55 「山口晃展」 新潟市美術館
56 「會津八一の旅と出会い」 會津八一記念館
57 東京都障害者総合美術展
58 深大寺
59 「アートがあれば 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」 東京オペラシティ アートギャラリー
60 「アンドレアス・グルスキー展」 国立新美術館
61 「アメリカン・ポップ・アート展」 国立新美術館
62 「Tetsuo Iida Mutation」 The Artcomplex Center of Tokyo
63 The British Museum
64 The National Gallery, London
65 St Paul’s Cathedral
66 TATE Modern
67 Royal Observatory
68 Kew Royal Botanic Gardens
69 Victoria and Albert Museum
70 Westminster Abbey
71 The Courtauld Gallery
72 Windsor Castle
73 Royal Academy of Arts
74 Canterbury Cathedral
75 Dover Castle
76 「若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」 福島県立美術館
77 「日本伝統工芸展」 三越日本橋本店
78 「竹内栖鳳展」 東京国立近代美術館
79 「クローズアップ工芸」 東京国立近代美術館工芸館
80 「大野麥風展」 東京ステーションギャラリー
81 「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」 千葉市美術館
82 「レオナール・フジタ展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
83 「加藤渓山青瓷展」 新宿高島屋
84 「美しき日本」 藤田美術館
85 「中国古陶磁清玩 白檮盧コレクション」他 大阪市立東洋陶磁美術館
86 「北魏 石造仏教彫刻の展開」他 大阪市立美術館
87 国立民族学博物館
88 「民藝運動の巨匠たち 濱田庄司 河井寛次郎 芹沢介」他 大阪日本民芸館
89 「ギャラリー・からむし工房 大橋三恵子展」 ギャラリー 十三代目長兵衛
90 ドナルド・キーン・センター柏崎
91 「ウィリアム・モリス 美しい暮らし」 府中市美術館
92 「システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展 天才の軌跡」 国立西洋美術館
93 「国宝「卯花墻」と桃山の名陶 志野・黄瀬戸・瀬戸黒・織部」 三井記念美術館
94 「陶・林妙子 作品展」 ギャラリーおかりや
95 「国宝 興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
96 「京都 洛中洛外図と障壁画の美」 東京国立博物館
97 「生誕100年! 植田正治のつくりかた」 東京ステーションギャラリー
98 「都市の印象派、日本初の回顧展 カイユボット展」 ブリヂストン美術館
99 「柳宗理の見てきたもの」 日本民藝館
100  「現代の茶碗」 菊池寛実記念智美術館
101  「描かれた都」 大倉集古館
102  「美しい色を求めて(萩原英雄記念室)」「闇に刻むフォルム(浜口陽三記念室)」「ボタニカルアラカルト植物画展」 武蔵野市立吉祥寺美術館
103  「泉鏡花展」 県立神奈川近代文学館
104  「光悦 桃山の古典」 五島美術館
105  「井戸茶碗」 根津美術館
106  「箱根・芦ノ湖 成川美術館所蔵 至宝の日本画展」 川口総合文化センター・リリア
107  「江戸の狩野派」 出光美術館
108  「明治のこころ モースが見た庶民のくらし」 江戸東京博物館
109  「三菱一号館美術館 名品2013 印象派と世紀末美術」 三菱一号館美術館
110  「龍子がめざしたもの 開館50周年企画展」 大田区立龍子記念館
111  「天上の舞 飛天の美 平等院鳳凰堂平成修理完成記念」 サントリー美術館
112  ミニヨン展 日動画廊東京本店
113  「自然に寄り添う和の暮らし展」 クラフトショップ俊
114  「海・まち・山 描かれた湘南」「臼井恵之輔展」 茅ヶ崎市美術館
115  「川瀬巴水展 郷愁の日本風景」 千葉市美術館

今年聴講した講演、各種見学、参加したワークショップなど(敬称略)
1 「新館長と語り合う会」 深澤直人(日本民藝館館長、プロダクトデザイナー) 日本民藝館
2 「漆のはなし、不思議な塗料」 佐藤阡朗(漆工) 日本民藝館
3 「茶道史に輝く逸品 五島美術館茶道具コレクションの特質」 竹内順一(永青文庫館長) 五島美術館
4 「何処にでもある何処にもない世界 マダガスカル」 深澤秀夫(東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 教授)/ 飯田卓(国立民族学博物館 民族社会研究部 准教授) 国立民族学博物館友の会 第105回東京講演会(JICA市ヶ谷ビル)
5 「アイヌ工芸にみる文様の変遷」 長田佳宏(平取町立二風谷アイヌ文化博物館学芸員)日本民藝館
6 「アイヌ文化体験講座 ポンニマ茶托の制作 伝統的アイヌ文様を彫ってみよう」 高野繁廣(アイヌ伝統工芸木彫り師)日本民藝館
7 「トゥバ人たちの住むところ」小長谷有紀(国立民族学博物館 民族社会研究部教授) 国立民族学博物館友の会 第106回東京講演会(モンベル渋谷店)
8 「鏡花を読むよろこび」 朝吹真理子(作家)松村友視(慶応義塾大学大学院教授)対談 神奈川県立近代文学館
9 「光悦と漆芸 その技法と造形美」 内田篤呉(MOA美術館副館長) 五島美術館
10 「婚礼に映しだされるインドのいま」 三尾稔(国立民族学博物館准教授)国立民族学博物館友の会 第107回東京講演会(モンベル品川店)

どれも素晴らしいものでした。関係者の皆様に感謝申し上げます。

 


過去の過ち

2013年12月21日 | Weblog

インドの婚礼についての講演会を聴講した。婚礼という儀式を綿密に観察することによって、それぞれの文化において「自己」を規定するものがかなり違いがあることを知り、驚いた。もちろん、人間の発想には文化や民族を超えた普遍的な部分もあるのだが、自分と同じように誰もが考えることというのは思いの外限定されているのではないだろうか。

講演のテーマはインド西部のラージャスターン地方の婚礼だ。インドに限らず南アジアの婚礼は盛大なことで知られている。「婚礼」はいつから始まっていつ終るのか、という定義をせずに日本や欧米と同じように考えることはできない。というのは、婚約の儀式から婚礼の儀式まで10年以上かけることも珍しいことではなく、しかもそれほど時間をかけても当人同士は婚礼の儀式のときが初対面ということも当たり前にあるのだという。

日本国憲法の第24条には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とある。この前提として個人というものが「合意」の主体として存在していなければ、ここで言われている「婚礼」が意味を成さない。第13条には「すべて国民は、個人として尊重される。」とあり、いわゆる「基本的人権」というものが当然に保障されるべき存在として規定されている。しかし、その「個人」すなわち「私」というものが果たして誰にとっても同じものとして認識されているのか、ということはそもそも問われていない。よく「自己の確立」とか「自意識」とか「自我」という言葉は見聞きするが、そこを深く追求した議論というものは聞いたことがない。そもそも確たるものがあるわけではないので議論のしようが無いのだが、なんとなく「自己」とか「自我」ということで納得されてしまっているのではないだろうか。哲学や精神分析といった領域が教養の領域から抜け出すことができず、いつまでたっても医学や薬学のような科学や実学にならないのは、探求すべき根本を「自己」だの「自我」だのというあやふやなままにしているからではないだろうか。

それでインドの婚礼だが、個人や家族の行事ではなく、その人たちが属する社会全体の活動の一部となっているようだ。当事者どうしは婚礼当日まで互いを知らず、そのことを疑問にもされない、ということだけを取り上げても、婚姻が個人的なものではないことを見て取ることができる。家庭を構成することが個人的なものでないとしたら、「家庭」とは何なのか、「私」とは何者なのか。おそらく「私」は私的活動の主体ではなく、社会を構成する関係の表象でしかない、ということなのだろう。そう言ってしまえば身も蓋もないが、なんとなく腑に落ちない感が残るのは、「私」というものの認識が疑問の対象にもならないくらいに集団意識の奥深いところで成されていて、「私」以外の「私」の認識を容易に受け容れることができないからではないか。婚礼というような社会のなかで広く執り行われる儀式には、儀礼という形式の背後にある歴史や文化を注意深く探求することで明らかになることがいくらでもあるということなのだろう。

ところで、このブログの1985年2月26日に登場するバンガロールの医学生とは、その後しばらく文通が続き、数年後にそのうちのひとりから結婚式の招待状が届いた。バンガロールとかデリーとかだったら、出かけようと思って出かけられないこともなかったかもしれないが、インパールだったということもあり、それほど長い休暇を取ることができる身分でもなかったということもあり、出席はお断りしてしまった。しかし、今日の講演を聴いてみると、婚礼に出席するということは当事者とその家族、彼らが属するカーストや社会との付き合いにおいて重要な意味を持つということを知った。あのとき、無理をしてでも出席するべきだったと今頃になって申し訳ない気分と後悔の念とに苛まれている。


おむすび考

2013年12月20日 | Weblog

職場に弁当を持参するようになって一ヶ月になる。妻が弁当持参で出勤しているので、私の夕食の分も作ってもらうことにした。早めの昼食を済ませてから昼頃に出勤して夜9時頃まで勤務するので、夕食に弁当を持っていく。時々、仕事の都合や前後のシフトの人の休暇の関係で、早めの出勤になることもあり、そういうときは昼夜とも職場で食べる。その場合は、弁当と握り飯を持って行く。2011年9月25日のこのブログで紹介した井川メンパの弁当箱に妻の手作りの料理が盛られる。普段はそれだけなのだが、これに握り飯が付くこともあるということだ。弁当は当たり前に旨いのだが、握り飯の旨さというのは不思議だ。ただ飯を握っただけなのである。頂き物の米や、近所の米屋で購入した米を「木炭釜」と称する内釜を備えた三菱電機の炊飯器で炊いたご飯である。今時、どこのメーカーの炊飯器もそれぞれに工夫を凝らしているはずなので、炊飯器の所為だけで米が特に旨くなるわけでもあるまい。しかし、握り飯は特別旨い気がするのである。そのことを妻に話すと「ワタシが握っているから」と言うが、私が握ってもやっぱり旨い。

家での食事は、妻が作った料理が私が作った器に盛られている。妻は出来合いの惣菜類が嫌いで、料理も菓子類も全て自分で作る。結婚祝に妻の友人からパン焼き器をいただいたので、パンも自家製だ。先日は、私の仕事上の知り合いから教えてもらった灰干サンマというものを取り寄せてみた。干物ではあるが鮮度が良いのでそのままでも食べることができるというものだ。焼いてみるとたいへん旨いので、付け合わせの大根おろしも旨いものにしないともったいないと思い、木屋でおろし金を買って来た。おろし金を変えると同じ大根でもおろしたときの甘味が増して旨くなる。毎日飲むコーヒーは顔見知りの珈琲豆屋で買う。口に入るものは、なるべく顔が見える相手から調達する。そのほうがなんとなく安心できるからだ。

雇用は不安定で、生活は楽ではない。昭和40年代に建てられた団地に住み、共稼ぎでなんとか日々の生活を送っている。エレベーターというようなものがないので、大きな家具や重い家電は、後々のことを思うと買う気になれない。マスメディアは信用できないので、テレビは持たず、新聞も読まない。それでもつましい食卓を妻と囲み、自分たちで作ったもので日々を楽しく暮らしていられるのは、本当にありがたいことだと思う。昔、ある為政者が権力を保持する秘訣として民衆を飢えさせないことが何より大事だと語ったそうだが、なるほどその通りかもしれない。


一期一会

2013年12月07日 | Weblog

噺を聴きたいから切符を予約してまで買うわけで、当然、そこには噺あるいは噺家に対する期待というものがある。期待に違わなければ、そこそこに良い心持ちで会場を後にできるし、そうでなければ、特に自分にとって足の便が悪い会場だったりすると、もう遠いところの切符は取らないようにしようなどと考えるものである。今日はそのいずれでもなく、満足を超越した喜びがあった。噺というのは、噺家の技量のようなものに左右されるのは当然だろうが、落語会というのは生身の観客のあることなので、観客の側の力量のようなものも問われることになると思う。あまり落語オタクのような奴ばかりでも気持悪いだろうし、「落語=滑稽話」という固定観念しかないような奴ばかりだと、そういう観客のなかのひとりに見られる自分が恥ずかしかったりする。うまく説明できないのだが、今日は舞台と客席の両方の取り合わせが良かったように感じた。出演した4人ともに熱演している雰囲気があったし、客席もそれに応える雰囲気があり、シンクロしている感があった。舞台から10列目くらいの壁際のほうで、隣の席の奴にいちいち噺の解説をしながら聴いている野暮天爺がいたが、そんな野郎も気にならないほどのいい空気が漂っていた。嬉しいことである。

本日の演目
 「辰巳の辻占」 柳亭こみち
 「三井の大黒」 入船亭扇遊
 (仲入り)
 「掛取」 古今亭志ん輔
 「転宅」 柳家小三治

開演:18時00分頃  終演:20時30分頃

会場:府中の森芸術劇場 ふるさとホール