熊本熊的日常

日常生活についての雑記

「インド夜想曲」

2008年10月05日 | Weblog
アントニオ・ダブッキの作品である。サスペンスのようなタッチなのだが、そういう話ではない。なんとなく謎めいたエピソードの連なりに引かれて最終章に辿り着くと、そこで作品全体の構成が明らかになる。そういうことだったのかと納得してしまう。誤解を承知の上で敢えて言うなら、中身のある小説ではない。鳥籠のような、建築途上で骨組みだけの建物のような話だが、その籠の針金や骨組みの柱が知恵の輪のように妙な形になっている、とでも表現したらよいのだろうか。おもしろそうだと思って中に入ると、いつのまにか外に出ている、そんな構造物のイメージだ。

狐につままれたような気分にもなるが、「はじめに」の妙な文章が意味するところが最後になって利いてくるということだ。「旅の本」「道案内」そして「《影》の探求」とちゃんと書いてある。要するにプロの文章に無駄がないという当り前のことを再認識させられるのである。話の内容よりも展開の妙を、小説というものへの自分の思い込みを覆す新たな作品のありようを、楽しむ作品と言える。

しかし、これは舞台がインドであるから可能なのであって、他の国では無理だろう。インドを旅したことがあればよくわかるのだが、知らないことを尋ねられても素直に「知らない」では済ませない人が多い、ように思う。物事に動じるということがなく、自信ありげに見えるので、下手にものを尋ねるとややこしいことになる。私のインド旅行記はこのブログの1985年のところに収めてあるので、興味があればそちらも参照して頂きたい。

娘へのメール 先週のまとめ

2008年10月05日 | Weblog

元気ですか? 十月祭は無事終わりましたか?

君からもらった東北土産のペンケースは早速活躍しています。きんつばは東京にいる間に食べてしまいました。おいしかったです。どうもありがとう。

自分の中学生時代を振り返ると、やはり体育祭、文化祭、合唱コンクール、文集作成などがありました。文化祭がどのようなものだったか記憶が無いのですが、文化祭とは別に校内でクラス対抗の合唱コンクールがあり、中学の3年間、毎年私は指揮者を務めました。規定曲と自由曲の2曲を歌い、校内の先生方が審査するものなので、その評価はいい加減なものです。1年の時は無冠でしたが、2年と3年で優秀賞を連覇した記憶があります。何年の時にどの曲という記憶はありませんが、「翼をください」「とびうおの歌」「大地讃頌」はいずれかの年のいずれかの曲に入っていたと思います。

文集は学年末の発行へ向けて年末から年始にかけて原稿を集めて編集作業をするのですが、これも3年連続で編集委員に名を連ね、2年の時に編集長を務めました。この時は編集長特権で担任教師を糾弾する文章を載せて物議を醸しました。もし、このときの文集が実家の物置にでもあれば、今度見せます。ちなみに、1年の時には自由詩を書き、3年の時にはつまらないものを書きました。

さて、私は予定通り9月30日にロンドンへ戻りました。こちらはもう東京の冬のような気候です。地図を見ればわかるように、ロンドンは東京よりもずっと北に位置しています。それでも大西洋のメキシコ湾流のために温暖なのですが、そうは言っても北海道よりも北ですから、空気はそれなりです。まだ日中の気温は10度を超えていますが、そろそろ通勤の時に手袋をしようかどうしようか考え始めています。そのくらい空気が冷たく感じられるようになりました。

東京にいる間から今日までのあいだに読んだ本は以下の通りです。

ヨシフ・ブロツキー「ヴェネツィア」
ナタリア・ギンスブルク「ある家族の会話」
筒井康隆「家族八景」
川端康成「雪国」
アントニオ・タブッキ「インド夜想曲」

筒井康隆は友人が最近読んだと言って熱く語っていたので、「どれどれ」と思って読んでみました。これが発表された1972年においてはそれなりの衝撃がある内容だったのかもしれませんが、今読んでも陳腐なだけで、娯楽小説としては気楽に読めて楽しめますが、それほど深い内容があるとも思えませんでした。

「雪国」は1937年に発表された作品ですが、心理描写や風景描写が巧みで、今の時代の作品としても十二分に通用するだけの内容もあります。時間の淘汰を経て残る作品には、残るだけの理由があるものです。今、君が読んでも面白くないでしょうが、いつか必ず読んで欲しい作品の一つです。

東京にいる間とロンドンへの飛行機のなかで、以下の映画を観ました。

「おくりびと」
「アキレスと亀」
「グーグーだって猫である」
「コドモのコドモ」
「トウキョウソナタ」
「続 三丁目の夕日」
「陰日向に咲く」

どれもそれぞれに面白い作品でしたが、君の感想を聞いてみたいのは「コドモのコドモ」です。まだ公開されたばかりですので、今は映画館でしか観ることができませんが、そのうちDVDが出るでしょうから、そうしたら借りて観てください。

「おくりびと」は今年のモントリオール映画祭でグランプリを獲得した所為もあり、人気のある作品ですが、私はいろいろな面で違和感を禁じ得ませんでした。なによりも話がきれいにまとまりすぎているのが不自然に思われます。

「アキレスと亀」は好きな作品です。監督が北野武ですから、人によっては不愉快に感じる表現も少なくないのですが、人はどうしたら強く生きることができるのか、ということが上手く表現されていると私は思います。私は映画監督としての北野武が好きで、その作品をいろいろ観ていますが、そうした過去の実績に基づいた期待を裏切らない作品でした。

「トウキョウソナタ」はカンヌ映画祭で「ある視点賞」という賞を獲得した作品です。家族が崩壊していく作品なのですが、見方を少し変えると、崩壊した瓦礫のなかから新たな希望が生まれる作品でもあります。イギリス映画で「リトル・ダンサー」という作品があるのですが、これに似ていると思いました。「リトル・ダンサー」は良い作品ですので、機会があったら是非DVDを借りて観てください。

もうすぐ中間試験ですね。しっかり勉強してください。今、君に取り敢えず必要なのは一見するとどうでもよいような知識です。それ自体はこれから先も殆ど役に立たないかもしれませんが、未知のことを学習するという行為や既知の知識で未知の問題を解決するという訓練は必要なことです。わからないことはわからないままにせず、わかるまで先生に質問してください。わからないことがわかるということも大切ですし、先生という自分とは違った種類の人間と会話をするということもとても大切な経験です。

では、また来週。気候の変わり目で体調を崩しやすいので気をつけてください。