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外交を中心とした古代史研究の現状がわかる:鈴木靖民監修『古代日本対外交流史事典』

2022年03月21日 | 論文・研究書紹介
 前回の記事では、最近の古代史研究の状況を概説した本、それも2月に出たばかりの本を紹介しました。同様に、最近の研究状況を読みやすい事典の形にした本が、昨年の11月に出ています。

鈴木靖民監修、高久健二・田中史生・浜田久美子編『古代日本対外交流史事典』
(八木書店、2021年)

です。本文が392頁、索引が充実しており、特にすごいのは日本とアジア諸国の詳細な地図であって、非常に充実した内容です。

 「対外交流史」となっていますが、特殊な分野ではありません。古代にあっては、韓国や中国からの人や技術や書物などをすさまじい勢いで受け入れ、それぞれの時代の社会を作っていってますので、「古代日本対外交流史」は、実質的には「日本古代史」とほとんど同じことになるのです。

 「Ⅰ 弥生時代」、「Ⅱ 古墳時代」、「Ⅲ 飛鳥時代」、「Ⅳ 律令国家の形成と展開」、「Ⅴ 交易と交流の拡大」に分け、「1 稲作農耕と東アジア」から「40 国風文化」に至るまでの項目をさらに分け、キーワードを概説しており、まさに最近流行の「読む事典」となっています。

 このブログと関わる「飛鳥時代」は、「10 仏教伝来」「11 日本と朝鮮の石刻資料」「12 東アジアの木簡」「13 飛鳥宮跡とその周辺」「14 壁画古墳」となっており、それぞれの項目を専門の学者が担当しており、多くの図や写真を用い、キーワードの説明をしてくれてますので、研究状況を容易に把握できます。

 「Ⅳ 律令国家の形成と展開」でも、「15 隋唐帝国の成立と国際関」をはじめとして、その前の時代に簡単に触れてから説明している項目が多く、聖徳太子研究にとっても有益です。、河上麻由子さん担当の「16 隋との外交」では、聖徳太子虚構説について「流行したが、これは正しくない」(148頁下)と切り捨てており、小気味よいですね。

 鄭東俊氏の「26 東アジアの官(冠)位制」では、唐・朝鮮三国・渤海の官位制と倭国の制度を簡単に比較しています。冠位十二階については、諸説をあげたうえで、馬子主導説を説いた中田興吉氏の論文を簡単に紹介していますが、中田説についてはこのブログで推測が多いとして批判的にとりあげたことがあります(こちら)。

 軍楽である鼓吹が隋から導入されたことについては、渡辺信一郎氏の研究を以前紹介しましたが(こちら)、豊永聡美氏の「31 外来楽の伝来と楽制」では、早い時期における新羅・百済・高句麗の楽の導入などについて概説しており、日本古代史を研究するにはアジア諸国との交流を検討する必要があることが痛感されます。

 本書の最後の項目である皆川雅樹氏の「40 国風文化」では、国風文化なるものの曖昧さが指摘されています。教科書では天平文化とか平安文化とか北山文化といった言葉が多く見えるものの、時代を限定したそれらの語と違い、国風文化という語は異質だとして検討しており、1901年の文学史の教科書で、遣唐使の廃止によって美術や文学が「国風に純化」したとする見方が提示され、「国風文化」という語自体の初出は1933年と見られるとして、その経緯について論じています。

 古代史について研究する際は、こうした後代に生まれた概念を元とし、その起源を探るといったことをしがちなので、このような研究は反省の材料として重要でしょう。
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