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農民の世界歴史(連載第51回)

2017-07-04 | 〆農民の世界歴史

第12章 グローバル化と農民

(2)農業食糧資本の攻勢

 近代帝国主義的なモノカルチャーには、植民地支配という近世の遺制という側面があった。それが第二次大戦後、ほぼ清算された後には、より洗練された経済的帝国主義の形態、すなわち食糧資本による農業支配が現れる。
 穀物メジャーとして知られる穀物流通商社はそれを象徴する先駆けである。こうした第一次産業を専門とする資本には米国系が多いが、これは19世紀以来、コストのかかる植民地主義よりは間接的な経済支配の形態の帝国主義を追求していた米国において、食糧資本が有効なマシンとして発達を見たからである。
 先に取り上げたユナイテッド・フルーツ社(現チキータ・ブランド)などはその先駆けたる国策企業であったし、穀物メジャーの一つで沿革的にはより古いカーギル社も米国系食糧資本の代表格である。
 しかし、穀物メジャーに代表される食糧資本が市場支配力を発揮し始めるのは1970年代以降であった。この頃から自由貿易主義が農業分野にも波及し、農産物貿易が盛んになる。特に72年の世界的凶作は米国からソ連圏への戦略的穀物輸出が活発化する契機となった。
 かくして、70年代は食糧資本の成長期であり、いわゆる五大穀物メジャーと称される寡占資本群が形成されるのもこの頃である。五大のうち二つは純米国系、二つは欧州系資本の米国法人と、米国の主導性が濃厚であった。
 こうした食糧資本は80年代の農業不況によってつまずき、業界再編を余儀なくされるが、90年代以降、自由貿易の拡大という新状況下で再編され、食肉、食品加工などを含めた総合的食糧資本へと成長している。
 これらの資本は、もはや在庫販売を主とした単純な商社ではなく、農家と直接契約して買い付ける仲買業社化し、自社の販売戦略に沿った品種及び栽培方法による栽培収穫を指示、時に融資まで行なう債権者的存在となっている。自社農場を所有し、農民を労働者として雇用する完全資本化形態は普及していないが、途上国ではいずれそれが常態化する可能性は高いだろう。
 そもそも20世紀後半以降は全般に、農業そのものの資本主義的商業化が進み、アグリビジネスの隆盛を招来し、一昔前の穀物商社からより広汎な農業食糧資本の成長を促進しているが、これに関しては稿を改めて論じる。


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