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スウェーデン憲法読解(連載第9回)

2015-01-04 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

第二三条

1 表現の自由及び情報の自由は、国の安全、物資の全国的な供給、公共の秩序及び安全、個人の名誉、私生活の不可侵又は犯罪の予防及び訴追の観点から、制限することができる。さらに、商取引活動における表現の自由を制限することができる。その他、表現の自由及び情報の自由の制限は、特別かつ重要な理由により制限する場合にのみ、実施することができる。

2 第一項の規定に基づいていかなる制限を実施することができるかについての判断に際して、政治的、宗教的、職業的、学術的及び文化的事項に関して、表現の自由及び情報の自由を最大限保障することの重要性について注意を払わなければならない。

3 表現の内容にかかわらず、表現を伝播し、受け取る方法を詳細に規制する規定を定めることは、表現の自由及び情報の自由の制限とはみなされない。

 本条はスウェーデン憲法が最も重視する表現の自由及び情報の自由の制限について、特に取り出し、その制限の範囲を限定する規定である。第二〇条及び二一条の一般的な人権制限にさらに縛りをかける周到な規定である。
 ただ、第三項で表現の伝播、受領の方法を規制することを表現の自由及び情報の自由への制限とみなさないとするのは、そうした手段的な規制を通じて表現・情報発信行為を制約できる可能性を考えると、やや危惧も認められる。

第二四条

1 集会の自由及び示威運動の自由は、集会若しくは示威運動の際の秩序及び安全又は交通の観点から制限することができる。その他、これらの自由は、国の安全又は伝染病の予防のためにのみ制限することができる。

2 結社の自由は、その活動が軍事的なもの若しくは類似の性格を有するものである結社又は民族的出自、皮膚の色若しくは他の類似の条件を理由とした民族集団の迫害を目的とする結社に関する場合には、これを制限することができる。

 本条第一項は、表現の自由の延長である集会・デモの自由について、前条と同様に特に取り出して、その制限に絞りをかける規定である。
 それに対して、第二項は結社の自由に関し、軍事的ないし準軍事的結社、人種・民族差別的な結社については、これを制限し、取り締まれるようにする規定である。テロや武装反乱の防止及びスウェーデン憲法が重視する反差別の観点からの結社規制である。
 なお、第二項によれば、武装革命を目的とするプロレタリア結社も規制することが可能となる。これは、スウェーデンがプロレタリア革命を否定する社民主義的な志向性を持つことの反映である。

第二五条

1 スウェーデン市民以外の者に対しては、国内において、法律により、次の各号に掲げる自由及び権利について、特別に制限することができる。

一 表現の自由、情報の自由、集会の自由、示威運動の自由、結社の自由及び宗教の自由(第一条第一項)

二 意見を明らかにすることを強制されることに対する保護(第二条第一文)

三 第四条及び第五条に規定するものとは別の場合における身体への侵害、身体検査、家宅捜索及び類似の侵入、内密の送付物及び通信への侵害並びに個人の私的事情の監視及び調査を含む侵害に対する保護(第六条)

四 自由の剥奪に対する保護(第八条第一文)

五 犯罪又は犯罪の疑いとは別の理由による自由の剥奪について裁判所の審理を受ける権利(第九条第二項及び第三項)

六 裁判所の審理の公開(第一一条第二項第二文)

七 著作家、芸術家及び写真家の自らの作品に対する権利(第一六条)

八 商取引を行う権利又は職業活動を遂行する権利(第一七条)

九 研究の自由(第一八条第二項)

一〇 意見を理由とする権利制限(第二一条第三文)

2 第一項に規定する特別な制限に関する規定については、第二二条第一項、第二項第一文及び第三項の規定を適用しなければならない。

 本条は外国人の人権に対する制限を定めているが、計10項目の人権に絞って制限の対象とし、その制限法の議会手続きは国民の人権制限の場合に準じる。
 とはいえ、表現の自由をはじめかなり広範囲な人権が制限されることになり、ここには「国民の家」という理念の下に福祉国家体制を維持してきたスウェーデンの国民優先政策が現れている。


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