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比較:影の警察国家(連載第46回)

2021-08-29 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

1‐5:関税・間接税総局

 フランスの警察制度は圧倒的に国家警察及び国家治安軍の両組織に集権化されているため、両組織に属しない警察機関は少ないが、経済・財務省に属する関税・間接税総局(Direction générale des douanes et droits indirects:DGDDI)は、約1万7千人の要員を擁する比較的規模の大きな機関である。
 この組織は元来、国家警察の一部局として国境警備を担う国境警察中央指令部から分離する形で、1995年に創設された比較的新しい法執行機関であり、その任務は諸国の税関に相当すると考えてよい。
 国家警察から分離された限りでは純粋の警察組織ではなくなったが、しかし、国家警察から分離された沿革上、なお警察機関としての性格は強く、国境や空港で活動する経済警察機関としての役割を持つ。
 そのため、航空機や巡視船をも擁するうえ、法執行に当たる職員は武装し、広範な権限を与えられているが、警察官と完全に同等ではなく、原則として被疑者の身柄拘束はできない。また、警察官とは異なるものの、職員は類似の階級と制服を持つ。
 一方、DGDDIには数多くの専門部局が設けられており、経済諜報機能を果たす国家情報・税関調査局の他、関税法違反等事案の捜査に当たる国家司法税関局など、国家警察並みの複雑な組織構成を持つ。

1‐6:国家森林局

 国家森林局(Office national des forêts)は、生態遷移省及び農業食糧・漁業省が共管する機関であり、その主任務は名称どおり森林管理にあるが、森林管理に関連して各種環境法の執行を行う環境警察としての機能を持っている。
 1964年に創設されたが、1980年代から人員の削減が続き、士気の低下やストレスから職員の自殺が相次ぐなど、組織の構造的な問題が指摘されている。

1‐7:行刑看守要員団

 行刑看守要員団(Corps du personnel de surveillance de l'administration pénitentiaire)は、2006年に創設された司法省系統の法執行隊である。言わば、刑務官の軍団である。従って、その任務は刑務所の看守そのものであるが、こうした形で要員団に集団化されたのもフランス的な集権制の特徴と言える。 
 このように集団化されることによって、刑務官が刑務所内及びその周辺での警備と法執行を担うある種の特別警察官のような立場に純化され、要員団自体が一つの刑務警察機関として機能するようになっている。これは、刑務所の目的の重心が矯正より保安に遷移する警察国家化の一つの表れである。


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