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農民の世界歴史(連載最終回)

2017-07-18 | 〆農民の世界歴史

第12章 グローバル化と農民

(4)農業の工業化

 農業の商業化を物質的な土台として支えているのが、農業の工業化と言うべき現象である。これは、遺伝子組み換えのような生命工学技術を駆使した品種操作に始まり、近年は工場栽培といったまさしく工業化にまで進展している。
 考えてみれば、農業の歴史とは、より強靭な品種の開発とハウス栽培のように季節にかかわりなく量産できる栽培技術の進歩の歴史でもあり、人類の農業には元来、工業的な性質が備わっていたとも言える。しかし、その主役はあくまでも農民であった。
 しかし、近年の工業化の主役は農民よりも、モンサント社に代表されるような生命工学資本となりつつある。モンサントは20世紀初頭、アメリカで設立された化学工業会社を前身とし、殺虫剤や除草剤の開発で成長した後、1990年代以降、遺伝子組換え作物の開発・販売で多国籍企業に成長していった。
 モンサントは契約農家に自社開発の遺伝子組み換え作物を栽培させ、次期作では自家採種したものを利用させないとの制限をつけて、種子の特許権を独占するという悪名高いやり方で企業収益を確保している。これにより、とりわけ途上国農家は遺伝子組み換え作物のモノカルチャーに陥りやすくなる。
 このような生命工学資本主導による農業の工業化は、遺伝子組み換え作物の危険性の論議とともに、農業食糧資本とも結びついた―モンサント社は実際、カーギル社の種子部門を買収している―米国系多国籍資本主導の新植民地支配という構造問題を抱えている。
 一方、工場栽培は、ともに1970年代、高緯度で日照時間が短いため、野外栽培に限界を抱える北欧と、都市化による農地の減少に直面しつつあった日本で同時に研究開発が始まった。工場栽培は太陽光や人工補光を利用するなどの方法で植物を栽培する技術であり、成功すれば、気候変動に影響されず、かつ都市部でも栽培可能な新技術である。
 ただし、これが遺伝仕組み換え技術と結合する形で普及していけば、未来の農業の大半は大資本主導による工場栽培方式となるかもしれない。栽培工場で作物栽培に当たるのは、もはや農民ではなく、工員労働者そのものである。
 そうした工場栽培方式がグローバルに普及すれば、「農民」という社会的カテゴリーは消滅し、「農民の世界歴史」も終焉することになるかもしれない。果たして、そのような「歴史の終焉」が人類にとって理にかなうことなのかどうかは、本連載の論外である。(連載終了)

 

※以下のリンクから、別ブログに再掲された本連載全記事を個別リンクで一覧できる目次をご案内しています。

http://blog.livedoor.jp/kobasym/archives/11500684.html


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