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奴隷の世界歴史(連載第1回)

2017-07-24 | 〆奴隷の世界歴史

序説

 先行連載『女の世界歴史』『農民の世界歴史』『不具者の世界歴史』に続く四部作最終連載として、『奴隷の世界歴史』をここに開始する。本連載では、すでに過去の悪制とみなされている奴隷制をめぐる世界の歴史を鳥瞰する。
 奴隷とは、人格としての権利と自由をもたず、主人の支配下で強制・無償労働を行い、また商品として売買、譲渡の対象とされる「もの言う道具」としての人間(ブリタニカ国際百科事典)と定義される。
 商品性はともかく、一般に他者を隷従させ、一定の目的のために使役するという習性を持つ生物は極めて少なく、人間以外で知られているものは、アリのような社会性昆虫類の一部のみである。人間に近い類人猿でも、奴隷慣習を持つ種は知られておらず、ヒトは進化の過程で類縁種とは全く異なる昆虫的習性を身につけたことになる。
 一方で、歴史の進歩の過程では、奴隷制度への反対と奴隷解放という人道主義的な潮流も生じ、現代では、少なくとも公式的には―あくまでも―、奴隷制は否定・禁止されている。このように、他者の苦痛・苦難を慮り、共感するという人道的感覚は人間特有のものである。
 にもかかかわらず、第一章ですぐに見るように、現代においても、法規制をかいくぐる形で、種々の奴隷慣習―現代型奴隷制―が伏在している。奴隷制と人道主義との両義的な拮抗状態は現代でも続いていて、両義関係の両項がともに「人間的」な営為となっているのである。
 本連載は、通常の歴史的叙述とは異なり、現代から奴隷制が始まった古代へと遡る手法で記述される。それは、如上のとおり、奴隷制は決して過去の遺制ではなく、現代でも姿形を変えて続いている慣習だからである。そうした同時代史的な観点を浮き彫りにするためにも、あえて逆行的記述を試みたいのである。
 いずれにしても、本連載は四部作中でも最も重たく、辛い内容となるであろう。筆者自身の体調がすぐれない中で、完結させることができるかどうか確約はできないが、何とか最終章まで漕ぎ着け、四部作を完成させたいと思う。


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