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共産論(連載第61回)

2019-07-22 | 〆共産論[増訂版]

第10章 世界共同体へ

(3)国際連合を脱構築する(続)

 ◇非官僚制的運営  
 第五に、外交官主体の運営を廃すること。  
 現在、国連で各国代表を務めるのは加盟国から派遣された外交官たる国連大使たちであるが、結果として、国連は外交官主体の運営となり、それ自体も官僚制的な事務局と相まって国連官僚主義を形成している。  
 これに対して、世界共同体の最高議決機関たる総会は民衆会議のトランスナショナル組織でもある世界民衆会議それ自体であって―従って、正式名称は「世界共同体総会‐世界民衆会議」となる―、世界民衆会議代議員は、原則として各領域圏民衆会議が各々一名ずつ選出する。これによって、間接的ながら各領域圏の民意が代議員の任命に反映される。(※)
 他方で、世界共同体と正式にオブザーバー協約を結んだ民際団体(医療、福祉、学術などの幅広い団体を含む)は世界共同体総会及び理事会にオブザーバを派遣し、討議に参加・発言する権限を認める。
 あわせて、官僚制的な事務局機能も打破されなければならない。前述したように、五汎域圏代表者会議を世界共同体の常設責任機関として位置づけることはその一環である。事務局の任務は総会や代表者会議の実務的補佐及びその他諸機関の間の調整に限局され、事務局自体は主要機関ではなく、事務局長も政治的な発言力は持たない。

※同時に、共同体としての円滑な討議と議決を促進するため、小規模な領域圏は周辺領域圏との合同化を促進し(合同領域圏)、合同領域圏からは原則として輪番で一人の合同代議員のみが参加できるものとする。詳細は、拙稿参照。

◇経済統合の促進  
 第六に、経済統合を高めること。  
 現行の国連経済社会理事会は主要機関でありながら経済問題に関してほとんど有効に機能しておらず、むしろ専門機関である国際通貨基金(IMF)や世界銀行が国際資本主義の司令塔として支配力を持っている。
 他方で、国連自身が喫緊の課題とする地球環境問題に関しては、独立した主要機関を擁しておらず、総会補助機関としての国連環境計画(UNEP)が存在するだけである。 
 これに対し、世界共同体は環境的持続可能性の観点から、環境政策と経済政策を融合して所管する独立の主要機関となる持続可能性理事会を立て、その専門機関として、先に見た世界経済計画機関をはじめとする経済諸機関を置き、地球共産化へ向けた経済の世界統合を促進する。他方、保健や教育を所管する社会文化理事会は経済理事会とは切り離され、別個の主要機関となる。

◇人権保障部門の強化  
 第七に、人権保障部門を大幅に強化すること。  
 国連は2006年に国連総会の新たな下部機関として人権理事会を設置して人権保障部門の一定の充実を図ったが、独立した人権審査機関は設置されておらず、国際人権規約をはじめとする人権諸条約の執行体制が不備なままである。拘束力を欠いた国連の一般的な勧告は多くの場合、人権侵害の当事国によって公然と無視される。  
 これに対し、世界共同体は独立の主要機関として人権査察院を創設し、各種人権条約に基づく拘束力を伴った個別事案に対する人権査察を通じた人権保障体制の強化を図る。
 さらに、人権査察院に告発された人権侵害行為が反人道的な犯罪行為に該当する場合、人権査察院は審決に基づき改めて特別人道法廷を設置し、当該反人道犯罪の全容解明と関与者の処分を行なう。

◇地球観測体制の整備  
 第八に、科学的な地球観測体制を整備すること。  
 近年、国連は気候変動問題に精力的に取り組んでいるが、独自の常設的な観測機関を持たないために、その環境科学的な公式見解の威信になお揺らぎが見受けられる。それに対して、世界共同体は常に威信ある環境科学的知見を全世界に提供することができるように、世界中の地球科学者を常任または顧問のスタッフとして擁する「地球環境観測所」を主要地点に開設し、地球環境の恒常的な定点観測を実施する。

◇地球規模での戦争放棄  
 第九に、地球規模で戦争を放棄すること、その物的な担保として全世界で軍備及び常備軍を廃止すること。それとも関連して、非軍事的な航空宇宙探査を世界共同で行うための仕組みを導入すること。
 このうち、前者の本題については問題の大きさからして改めて次節で論じるとして、ここでは後者の関連問題に触れておく。  
 従来、宇宙探査は軍事的な思惑を伴いつつ、東西冷戦時代から米ソ両国間で競争的に繰り広げられ、冷戦終結後の今日でも技術先進国による「宇宙開発」競争が国益と経済的思惑を絡めて展開されている。  
 しかし、共産主義の下では他の天体を含む宇宙空間は、地球上の土地や天然資源にも増して誰の所有にも属しない。大気圏を離れた宇宙は地球人の共有物であるとさえ言い得ないし、まして戦場であるべきではない。
 ただ、宇宙探査自体は地球人の学術的共同利益に関わる事柄であるから、世界共同体は、平和的な宇宙探査を担う機関として、目下各国ごとに分かれている宇宙研究機関を統合した「世界共同体宇宙機関」を創設する。


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