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比較:影の警察国家(連載第42回)

2021-06-05 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

1‐1‐2:パリ警視庁の特殊性

 パリ警視庁はフランス革命中の1800年に設置された独自の歴史を持つ首都警察機関であり、内務省が設置され、国家警察の中央集権化が図られても独自の地位を維持したが、集権国家を強化した第五共和政期の1966年の制度改正で国家警察の一翼に編入された。
 それにもかかわらず、パリ警視庁は国家警察本部(DGPN)の管理下には属さず、独自の管理機構を擁する内務省の外局的な地位を保持している。その点で、首都の治安維持という点では同様の役割を果たすロンドンの首都警察や東京の警視庁が基本的には地方警察であるのとは異なる構制である。
 パリ警視庁の伝統的な管轄区域はパリ市であるが、2009年からはパリ市の郊外域を形成する三つの県にも拡大されるなど、管轄区域を広げ、グランパリと呼ばれるパリ首都圏を包括する警察としての性格を強めている。
 パリ警視庁は上述の通り、独自の管理機構を備えており、DGPNと並行的に、司法警察や地域警察、警備・交通警察など機能別の指令部(Direction)が置かれている。
 DGPNと異なる点として、パリ警視庁には公安警察部局として、パリ警視庁諜報指令部(Direction du Renseignement de la préfecture de police de Paris:DR-PP)が置かれていることである。対して、DGPNの旧公安警察部局は、他機関との合併により、後に見る国内保安本部に再編されている。
 また、パリ警視庁は、パレスチナ武装組織がミュンヘン五輪選手村を襲撃し、イスラエルの選手多数を殺害した1972年のミュンヘン五輪テロ事件を契機に、独自の対テロ特殊部隊として、奇襲対応団(Brigade anticommando)を導入するなど、早くから武装化を進めてきた。
 今日では、前回見たように、DGPNの国家警察介入隊の下に、DGPNの対テロ特殊部隊RAIDとの統合運用が行われるなど、治安有事に際しての武装警察部隊の運用を通じたDGPNとの統合化が進んでいるところである。


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