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比較:影の警察国家(連載第41回)

2021-06-04 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

1‐1‐1:国家警察の二元構造

 フランスの二重的集権警察制度における一本目の柱となるのは都市域を管轄する文民警察としての国家警察であるが、複雑なことに、内務省が所管するこの国家警察そのものが二元構造を成している。
 すなわち、内務省内の警察管理部局である国家警察本部(Direction générale de la Police national:DGPN)と首都パリを管轄するパリ警視庁(Préfecture de Police de Paris)である。パリ警視庁は 内務省内にありながら、DGPNとは別立てで、独自の管理組織を持つ外局的な位置づけとなる。
 このように、パリを別格として、その他の都市域では原則としてDGPNの各内部部局がそれぞれ地域分局を擁するという縦割り型の極めて官僚的な組織構制を採ることを特徴とする。
 DGPNの内部部局は、刑事警察や地域警察、機動警察、国境警察などの機能別に中央指令部(Direction centrale)が設置される基本構制で多岐に分かれているが、特殊部門として対テロ作戦に従事する重武装の探索・支援・介入・抑止隊(Recherche, Assistance, Intervention, Dissuasion:RAID)も擁する。
 RAIDは21世紀の「テロとの戦い」テーゼが焦点となる以前の1985年に当時のミッテラン社会党政権下で新設されたものであり、文民警察の重武装化の先駆けを成す組織である。
 武装文民警察としてより歴史が古いのは1944年創設の共和国保安機動隊(Compagnie républicaine de sécurité:CRS)であるが、CRSの主要任務は暴動鎮圧や街頭デモの規制であり、しばしばその抑圧的な過剰警備行動が批判されてきた。
 これら内部部局/部隊がそれぞれ地域分局/分駐隊を擁して各地域に展開する構制は非効率にも思えるが、ある意味では、集権警察内部で集権性を緩和する機能別の限定的な分権化がなされているとも言えるところである。
 ところで、DGPNの縦割り構制には例外があり、南仏最大都市マルセイユを含むブーシュ‐デュ‐ローヌ県だけは、統合的なブーシュ‐デュ‐ローヌ警察本部(Préfecture de police des Bouches-du-Rhône)が設置されている。ただし、パリ警視庁とは根本的に異なり、独自の地位を持たず、あくまでもDGPN管轄下の地域分局の位置づけである。
 このブーシュ‐デュ‐ローヌ県警察本部が設置されたのは2012年と比較的新しいが、このようにマルセイユとその周辺域にのみ縦割りを廃した統合警察本部が置かれたのは、麻薬関連事犯の多発など、治安が芳しくないマルセイユとその周辺地域の警察的統制を強めるためとされている。
 現時点で、こうした統合的警察本部は一庁にとどまるが、警察業務の効率性を重視して、同様の統合化が今後なされる可能性はあり、そうなると、上述のとおり機能的に分権化された集権警察の集権性が高まり、影の警察国家を助長する可能性もあるだろう。
 また、近時はテロ等の治安有事に際しては、パリ警視庁の介入部隊とも併せて統合運用する国家警察介入隊(Force d'intervention de la Police nationale)の下に統合されてきており、国家警察の二元構造を緩和し、統一する動きも見られる。


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