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共通世界語エスペランテート(連載第9回)

2019-06-27 | 〆共通世界語エスペランテート

第1部 エスペランテート総論

(8)エスペラント語の検証①

エスペラント語の「中立性」
  
序文でものべたとおり、筆者の創案にかかる共通世界語エスペランテートは、先行の計画言語エスペラント語を母体とする派生言語として提示される。
 実際のところ、筆者はかねてよりエスペラント語を暫定的な世界公用語に指定することを提起しており、現時点でもそのかんがえにかわりないが、その後の再考の結果、前回までみてきたような世界語たるべき条件にてらしたとき、エスペラント語も完全とはいいがたいとの結論に達したところである。
 そこで、今回からはエスペラント語が世界語たりうる条件にてらして、はたしてどのような問題を内包しているかをみていくことにしたい。まずは世界語たりうる絶対条件としての言語学的中立性である。
 その点、比較言語学上語族の決定要因の一つとなる音韻体系からみると、23個の子音体系は全般的にインド‐ヨーロッパ語族に準じているようにみえるが、そのどれとも同一ではなく、母音は現代日本語やスワヒリ語と同様5個に簡素化されている点からして、どの語族にも分類できないか、または多種の語族が合成されているといってよいかもしれない。
 統語に関してはおおむね英語等と同様のSVO文型を基本とするが、実際のところ、エスぺラント語の語順は厳格にきまっておらず、自由にいれかえが可能という融通性からすると、これも特定語族からは中立といえる。
 文字体系については、エスペラント語の正書法はローマ字アルファベットであるが、特有の特殊文字を含めて英語より2文字多い28文字であり、一応ローマ字体系の範囲内で中立的なものといえるであろう。ただし、各民族言語の文字体系での表記をみとめない点では問題がのこる。
 エスペラント語の中立性をめぐってもっとも問題をもつのは、中立性要件の中核をなす語彙である。エスペラント語の語彙は基本的にすべて独自の新造語とされるが、語源に関しては100パーセントちかくがインド‐ヨーロッパ語族系であり、なかでも75パーセントをイタリア語・スペイン語・フランス語などのロマンス諸語系がしめるとされる。 
 そもそも「エスペラント」という名称自体、スペイン語で希望を意味する「エスペランサ(Esperanza)」―イタリア語ではスペランツァ(speranza)、フランス語ではエスポワール(espoir)―に由来するし、特に基本語彙のおおくはロマンス語系である。
 そのため、エスペラント語は習得上ロマンス諸語を母語とするひとにやや有利とみられている。この点でエスペラント語は中立性をかくのではないかとみる余地がある。よりおおきくみれば「ヨーロッパ中心主義」との疑念はまぬがれないかもしれない。

 ただし、ポーランド人のエスペラント語創始者ザメンホフがなぜ語彙の語源のおおくをロマンス諸語にもとめたかをかんがえると、発音しやすさという実際的な理由にいきあたる。とりわけイタリア語やスペイン語の発音の簡明さは習得を容易にする有効な要素である。
 反面、ザメンホフがアジア、アフリカの言語への関心にかけた―みずからの民族的ルーツにかかわるヘブライ語をのぞく―のは、かれがいきた19世紀の西欧という時代という場所柄やむをえないことであったろう。かれはさしあたり、基本的にヨーロッパ内での共通語の開発をめざしたこともある。
 そうなると、エスペランティストからは異論もあろうが、エスペラント語はヨーロッパをこえた全世界共通の世界語としての絶対条件にはかならずしも適合しない要素をのこしているといえるようにおもわれるのである。


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