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比較:影の警察国家(連載第58回)

2022-04-17 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐0:国の集中的警察機構

 日本の警察機構は、国に集中していることが特徴である。その点ではフランスの警察制度に近似しているが、フランスのような純粋の国家警察は存在せず、警察庁を統括実務機関とする分散的な都道府県警察制度がその中核にある。
 こうした警察庁‐都道府県警察の系統とは別途、警察庁の附属機関として、天皇及び皇后、皇太子その他の皇族の護衛、皇居及び御所の警衛に当たる特別警察として皇宮警察本部が設置され、一種の近衛警察となっている。
 さらに、法務省系の警察機関として、国内保安機関として政治警察機能を持つ法務省外局の公安調査庁、近年内部部局から独立して準警察機能を高める出入国在留管理庁があるほか、刑務所その他刑事拘禁施設内での警察権を持つ刑務官を統括する法務省矯正局も限定的に警察機関の性格を持っている。
  また、防衛省系の警察機関として、防衛機密の保持を任務とする自衛隊情報保全隊は防諜組織ながら市民活動の監視にも及ぶ限りで機能的な公安警察機能を持つ。なお、自衛隊内の警察活動に専従する陸海空各自衛隊の警務隊は軍隊の憲兵隊に相応するが、自衛隊が軍隊ではないとされる限りにおいて国の警察機関の一つに数えることもできる。
 さらに、国土交通省系の警察機関として海上保安庁がある。海上保安庁は海の警察機関であるとともに、接続水域や排他的経済水域でも活動することから、陸の国境線を持たない日本では、海上保安庁が非軍事的な国境警備隊の役割を担っている。
 また、厚生労働省系の特別警察機関として、麻薬取締部がある。これは名称通り、麻薬捜査を主任務とする捜査機関であり、中央組織を持たず、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生局または地方厚生支局に設置される形で、分散的に配置されている。
  同じく厚生労働省系の特別警察機関として、労働基準監督署は労働関係法令違反の捜査を行う労働警察の役割を持っている。この場合、労働基準監督官が司法警察職員として活動する。
 以上の他にも、農林水産省系の警察機関として、水産庁には違法操業などの漁業取締りに当たる漁業監督官が所属し、林野庁には違法伐採等の森林関係犯罪の取締りに当たる森林官を擁する限りで、両庁は警察機関としての機能を有する。
 また経済産業省系の警察機関として、鉱山保安監督に当たる鉱務監督官を擁する限りで、同省地方支分部局である鉱山保安監督部も警察機関として機能する。
 如上の国レベルの警察諸機関は体系的というより、日本の行政の特徴である縦割り構造に組み込まれる形で所管官庁ごとに組織されているが、基本的に警察庁、法務省、防衛省、国土交通省の各系統が主要なものである。


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