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近代革命の社会力学(連載第426回)

2022-05-11 | 〆近代革命の社会力学

六十 メキシコ・サパティスタ革命

(5)革命の反響と展望
 サパティスタ革命はメキシコの一部地域限定の地方革命として収斂し、メキシコ全土に拡大されることはなかったため、その影響も限定的であり、革命の直接的な余波と言えるような事象はこれまでのところ存在していない。
 しかし、この革命は折しも汎用インターネットの急速な普及の時期と重なっており、EZLNも情宣活動を巧みに展開したことにより、反グローバリゼーション運動の潮流の中で、国内的及び国際的にも注目を集め、反響を呼び起こしたことは確かである。
 中でも、理念上の指導者であるガレア―ノ副司令官は匿名かつ覆面のまま活発な執筆活動や宣伝活動を内外で展開し、ある種の革命マスコットとして注目を集めてきたことは従来の革命に見られないメディア的宣伝効果を持ち、メキシコ政府をして柔軟対応に向かわせる要因ともなった。
 国内的には、首都でもサパティスタに共鳴する支援組織の結成や連帯デモ行動も呼び起こしたほか、前回も触れたとおり、革命当時のPRI長期支配体制が2000年の大統領選挙で敗北し終焉したことにも、サパティスタ革命が影を落としている。
 ただし、この政権交代はPRI体制末期以来の新自由主義グローバリゼーションをより一層強化する国民行動党の勝利であり、これは反グローバリゼーションを掲げるサパティスタ革命とは真逆の力学作用であった。このような連邦レベルでの新自由主義改革とサパティスタ地方革命の同居というねじれ現象も興味深いところである。
 その後も、メキシコの歴代連邦政権はサパティスタ自治を黙認する方針を継承しているが、これは公式の憲法上の自治の承認ではないため、政権交代等に伴う方針変更により再び武力掃討作戦に転ずる可能性も残されている点で、なお流動的な要素が存在する。
 また、国際的な反響として、20世紀末に相次いだ反WTO、反IMF抗議活動など、グローバル資本主義の指令機関に対する大規模な反対運動にもサパティスタ革命が理念的な触発の効果を持っていたと考えられるが、これらの運動は革命的なものではなく、グローバル資本主義が動かし難い「現実」として認識されるにつれ、退潮していったことも否めない。
 サパティスタ自体も、自治が定着するにつれ、以前ほどの注目は引かなくなっており、それどころか、かれらが資本主義的な賃金制度や貨幣交換を廃止していないことや、プラスチックの使用、牧畜用の森林伐採など環境保全に後ろ向きの行動を続けていることなどに批判も向けられるようになっている。
 こうしたことは理念追求と現実適応の狭間で格闘するすべての革命的体制が共通して直面する難題であるが、現時点でのサパティスタ自治域と後に取り上げるシリアのクルド自治域は、地球上で最も革新的な政治経済の小さな実験場となっている。


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