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近代革命の社会力学(連載第425回)

2022-05-10 | 〆近代革命の社会力学

六十 メキシコ・サパティスタ革命

(4)サパティスタ自治域の樹立

〈4‐1〉樹立までの経緯
 武装革命組織の活動に対しては大量人権侵害も辞さない徹底した武力掃討作戦で臨むことを「伝統」としてきたラテンアメリカにあって、1996年にメキシコ連邦政府とEZLNの間で締結されたサンアンドレス合意は異例のものであった。
 このような妥結を可能としたのは、EZLNがチアパス州を超えたメキシコ全土での革命という野心を持たなかったこと、他方、時のPRI支配体制自体も長い内乱を伴う20世紀の革命の結果成立した経緯があり、長期の内戦につながりかねない鎮圧作戦はあえて放棄するという両者の歩み寄りであった。
 その結果、合意には、先住民族の多様性の尊重や先住民族地域の天然資源の保全といった連邦の原則的な施策にとどまらず、EZLNに対し拠点となる地域において国家の枠組み内での自治を暫定的に認めるという異例の内容をも含んでいた。
 とはいえ、事実上の自治国家の樹立に等しい内容を含む合意内容は容易に履行されず、州政府に庇護された地元自警団による攻撃が合意後も続いていたところ、2000年の大統領選挙で野党・国民行動党のヴィセンテ・フォックスが当選、PRIが71年ぶりに政権を失ったことが新たな転機となった。
 フォックス新政権自体は新自由主義グローバリゼーションを強力に推進する立場でありながら、反グローバリゼーションを掲げるEZLNに対しては柔軟な対応を取り、チアパス州内の軍事基地の閉鎖やサパティスタ政治犯の釈放に応じるとともに、先住民法を制定し、各州に対して先住民自治を認めるかどうかの選択権を与えた。
 これはEZLNの自治を連邦政府として公式に承認する趣旨ではないが、黙認するに等しいものであった。これ以降、EZLNはチアパス州内の拠点地域で自治域を樹立することが可能となった。
 その結果、チアパス州の東部に、一部飛び地を含む「サパティスタ反乱自治体群(Municipios Autónomos Rebeldes Zapatistas:MAREZ)」と通称される地域が成立した。

〈4‐2〉自治の構造
 MAREZはあくまでもチアパス州に属する基礎自治体(先住民集落)の集合地域という建前ではあるが、連邦及び州の実効支配がほぼ及ばず、独自の制度によって統治される事実上の自治国家の体を成し、メキシコ領内の「サパティスタ自治国家」と呼んでも差し支えない状況にある。
 とはいえ、アナーキズムを理念とするため、「自治国家」ではなく、ここでは「自治域」と呼ぶこととする。この自治域がカバーする人口は推定で36万人前後と見られる。
 サパティスタ自治と言っても、本質的に武装組織であるEZLNは統治に直接関与せず、領域内は「カタツムリ(caracoles)」と呼ばれる小さな地区単位に分けられ、12歳以上の住民であれば誰でも参加できる直接民主主義的な民衆会議が議決機関として設置される。カタツムリは連合して、より広域の自治体を形成する。
 基本的にアナーキズムの理念によっているため、元首はもちろん、諸国に見られる自治体首長に相当する公職者も存在せず、日々の行政事務を担当する役場と森林管理や隣接自治体との紛争処理を担当する土地管理評議会、警察があるのみである。
 経済的な面では、個人所有物を除き私有財産(資本制)は廃止され、土地共有制が施行されつつ、農業を基盤とする自給自足経済が営まれている。ただし、農作物を国際市場に出荷し、金銭収入を得ており、国際的な次元での市場経済には適応している。
 経済組織としては、労働者協同組合と家族農場、地域商店を基本とし、日常社会生活は低金利融資や無償の教育・医療、ラジオ放送などのサービスを提供する「良き統治評議会」を通じて保障されている。
 また、前回見たように、元来、EZLNに女性メンバーが多いことを反映し、革命運動や革命統治における女性の対等な参加の権利を謳った10項目から成るフェミニズムのマニフェストとして「女性に関する革命法」が存在し、先進的なフェミニズムが実践されていることも特徴的である。


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