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近代革命の社会力学(連載第186回)

2021-01-04 | 〆近代革命の社会力学

二十七 コスタリカ常備軍廃止革命

(1)概観
 今日、中米のコスタリカ共和国は常備軍を保有しない国家としてしばしば非武装平和主義の文脈で引き合いに出されるが、同国における常備軍の廃止は決して「平和的」になされたわけではなく、1948年の革命と内戦を通じてのことであった。
 その点、同時期の日本でも、敗戦に伴う連合国占領下で軍の解体が断行され、常備軍の不保持を謳う現行憲法が制定されたが、こちらは、戦前の軍国主義・疑似ファシズムの源泉であり民主化の潜在的障害とみなされた軍部を解体したい連合国軍の占領政策と、その下での平和思想の高揚が相乗する形で実現された非武装化であった。
 コスタリカの場合は、外圧なしに、内発的な革命と、ほぼ同時に発生した短期の内戦を経て、革命政権が制定した新憲法を通じて実現された非武装化である点に独自性がある。さらに、日本では冷静構造の中で事実上の常備軍の復活に等しい自衛隊の創設へと転回していくのに対し、コスタリカは今日に至るまで、名実ともに常備軍の廃止を維持している。―もっとも、1996年の制度改正により、治安警備隊や国境警備隊など、従来複数に分かれていた武装警察組織を統合して、有事には国防任務を負う公共武装隊(Fuerza Pública)が創設されたが、これも基本的な性格は「警察」であって、軍ではない。
 一般的に、多くの革命事象では、革命後も体制防衛のため常備軍が維持される。その際、旧体制の軍が解体され、革命軍が新たな正規軍に移行する例のほか、より消極的に、旧体制の軍が改編されるにとどまる例も見られ、常備軍が完全に廃止されることは稀である。そうした点でも、1948年コスタリカ革命にはユニークな点がある。
 1948年コスタリカ革命はグアテマラ民主化革命が進行中の中で発生しており、当時のグアテマラ革新民政の大統領アレヴァロも、カリブ地域の民主化革命を軍事的に支援する国際組織・カリブ軍団を通じてコスタリカの革命を支援しており、コスタリカ革命はカリブ軍団が関与した国際革命の成功例でもあった。
 しかし、革命の成否はグアテマラとコスタリカでは明暗が大きく分かれ、前者は前章で見たように、冷戦初期の国際力学に巻き込まれ、アメリカが糸を引くクーデターにより挫折したが、コスタリカは革命以降、常備軍を保有しない共和国として再編され、軍事クーデターが頻発する中米にあって、例外的に安定した民政が根付いた。
 このように明暗が分かれた理由として、コスタリカの比較的に均衡のとれた社会経済構造に加え、1948年革命が穏健な福祉国家的理念のもと迅速に収束し、以後も、歴代政権は冷戦時代を通じて親米の立場を維持し、アメリカと良好な関係性を築いたことが挙げられる。
 こうした点で、1948年コスタリカ革命は中米における革命の成功した範例と言えるが、もう一つの成功例である1959年キューバ革命がマルクス‐レーニン主義を奉じる共産党の一党支配体制に収斂し、長くアメリカと敵対関係に立つこととも対照的である。


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